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マイナンバーカードの健康保険証利用とは?リスクとメリットを解説

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こんにちは、株式会社Flucle代表取締役 社会保険労務士の三田です。

日本は、国民すべてが国民健康保険や勤務先の社会保険などいずれかの公的医療保険に加入する「国民皆保険制度」の国です。どの健康保険に加入していても、医療機関を自由に選択し、健康保険証を使って必要な医療が平等に受けられるよう保障されています。

健康保険証は、健康保険に加入し、保険診療を受ける資格があることの証明書です。

そして2021年10月20日よりマイナンバーカードの健康保険証利用の本格運用がスタートし、注目を集めています。

今回は、マイナンバーカードの健康保険証利用とはどのようなものなのか、現状とともに解説いたします。企業の労務担当の方は、従業員から質問があった場合に回答できるよう、ぜひ参考にしてみてください。

マイナンバーカードの健康保険証利用の状況

マイナポイントなどの特典をはじめとする国の施策により、マイナンバーカードの普及が進んでいるのは周知のことでしょう。

厚生労働省が公表したデータによると、2021年11月21日時点のマイナンバーカード交付枚数は約5,016万枚となっており、すでに人口の約39.6%がカードを持っていることになります。

しかしマイナンバーカードの健康保険証利用登録件数は約598万(2021年11月21日時点)に留まっています。これはカード交付枚数比11.9%で、マイナンバーカードを実際に健康保険証として利用できる人はまだまだ多くはありません。

マイナンバーカードが利用できる医療機関・薬局登録状況はどうでしょうか。これも2021年11月21日時点のデータですが、以下のようになっています。

・医療機関や薬局の顔認証付きカードリーダー導入申込数:129,410件(施設比56.5%)

・マイナンバーカードの健康保険証利用可能施設数:17,394件(施設比7.6%)

マイナンバーカードが利用できる医療機関数はまだ十分な数とはいえません。国は2019年9月のデジタル・ガバメント閣僚会議で、2023年3月末でおおむねすべての医療機関等での導入を目指すとしています。

(参考) 第147回社会保障審議会医療保険部会『オンライン資格確認等システムについて(令和3年12月1日 )』P1 – 厚生労働省

(参考)デジタル・ガバメント閣僚会議(第5回) 議事次第 – 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室

医療機関や薬局でのマイナンバーカードの利用イメージ

今後活用が進んだときの利用イメージを解説しておきましょう。

通院している医療機関や薬局がマイナンバーカードの健康保険証利用に対応しているカードリーダーを導入している場合、マイナンバーカードを健康保険証として利用できます。

受付時に、医師への薬剤情報および特定健診情報の閲覧、限度額適用認定に係る同意を実施し、利用します。

マイナンバーカードに対応しているカードリーダーは主に、顔認証付きカードリーダーと汎用カードリーダーの2種類があります。

1.顔認証付きカードリーダー

顔認証付きカードリーダーでの受付は、カードリーダーへマイナンバーカードをかざし、顔認証もしくは4桁の暗証番号を入力することで、本人確認と保険資格の確認が一度に実施できます。

顔認証つきカードリーダーについて

(出典)厚生労働省『マイナンバーカードの健康保険証利用について』P5

2.汎用カードリーダー

汎用カードリーダーでの受付では、カードリーダーへマイナンバーカードをかざし、4桁の暗証番号入力と、窓口職員による目視で本人確認と保険資格の確認を実施します。

従来どおり健康保険証での受診も可能です。健康保険証の利用登録をしたマイナンバーカードを自宅に忘れたときや、カードリーダーが導入されていない医療機関や薬局では、引き続き窓口で健康保険証の提示が必要です。

マイナンバーカードの健康保険証が利用できる目印

マイナンバーカードが健康保険証として利用できる医療機関や薬局には、目印として以下のステッカーやポスターが掲示されています。

ポスター例

(出典)『マイナンバーカードの健康保険証利用対応の医療機関・薬局についてのお知らせ』 – 厚生労働省

対応している医療機関リストは以下のサイトにてご覧ください。徐々に拡大が予定されています。

(参考)『マイナンバーカードの健康保険証利用対応の医療機関リスト(都道府県別)』- 厚生労働省

マイナンバーカードの健康保険証利用における6つのメリット

マイナンバーカードを健康保険証として利用することの主なメリットを、6つあげてみましょう。

1.対人受付での健康保険証の提示が不要に

対人受付での健康保険証の提示が不要になります。医療機関や薬局によっては、一部の業務が対面で行われることもありますが、自動受付となれば人との接触も最小限になり、スムーズに受付できます。

窓口への提示が不要になる証類は以下のとおりです。

【マイナンバーカード提示で持参が不要になる証類】

  • 保険者証類(健康保険被保険者証 / 国民健康保険被保険者証 / 高齢受給者証等)
  • 被保険者資格証明書
  • 限度額適用認定証 / 限度額適用・標準負担減額認定証
  • 特定疾病療養受療証 等

2.今までの特定健診情報や薬剤情報データを医師と共有できるように

はじめての医療機関でも、本人の同意があれば、今までの特定検診情報や薬剤情報などのデータを医師と共有できるようになります。口頭で説明する必要がなく、正確な情報が伝わるため、適切な医療を受けられます。

特定健診情報と薬剤情報について

(出典)『マイナンバーカードの健康保険証利用について』P9 – 厚生労働省

3.マイナポータルで自身の特定健診情報や薬剤情報が確認可能に

マイナポータルで自身の特定健診情報や薬剤情報が確認できます。マイナポータルの薬剤情報は、電子版のお薬手帳にも連携が可能です。自身の体にかかわる情報をいつでも確認できることで、健康や医療への意識が高まります。

4.マイナポータルとe-Taxの連携で、確定申告が簡単に

マイナポータルとe-Taxの連携により、確定申告の医療費控除が自動入力でき、確定申告が簡単になります。大変だった過去1年分の医療費の領収書管理が、これによりラクになります。

閲覧・取得の対象となるのは、2021年9月以降に受診した医療保険の医療費通知情報からです。毎月11日に前々月診療分の医療費通知情報が更新されます。2021年分所得税の確定申告における情報の一括取得は、2022年2月上旬となる予定です。

(参考)『確定申告×マイナポータル』 – 国税庁

5.就職・転職・退職による健康保険証発行の切り替えがスムーズに

就職・転職・退職による健康保険証の変更があっても、マイナンバーカードの健康保険証登録をしておくと、新しい医療保険者への加入届が手続き済みであれば、切り替えによる健康保険証の発行を待たずに使えるようになります。

6.高額療養費制度の手続きがカンタンに

急な入院などで多額の支出が発生した際、高額療養費制度が利用できますが、あらかじめ限度額適用認定証の申請手続きが必要です。そのため、手続きが間に合わなければ一時的に支払う必要がありました。

マイナンバーカードを利用できる医療機関窓口であれば、限度額以上の一時支払いの手続きが不要になり、限度額適用認定証がなくても、高額療養費制度における限度額を超える支払が免除されます。

マイナンバーカードだけでなく、労務の基礎知識を身につけておくと役立つことがたくさんあります。以下の資料は、働く上で知っておきたい基礎知識をQ&A形式で紹介します。ぜひお役立てください。

「働く」に役立つ基礎知識Q&A23選_あなたを支える人事・労務

マイナンバーカードの安全性

マイナンバーカードの安全性について不安をもたれる方もいらっしゃると思います。

マイナンバーカードの健康保険証利用ではICチップを使うため、マイナンバー(12桁の数字)を使うことはありません。また、ICチップはアクセスキー(電子証明書)であり、税や年金、医療情報などプライバシー性の高い個人情報は記録されません。

【マイナンバーカードのさまざまなセキュリティ対策】

  • 紛失・盗難の場合は、24時間365日体制で一時利用停止可能
  • アプリごとに暗証番号を設定し、一定回数以上間違えると機能がロックされる
  • 不正に情報を読み出そうとすると、ICチップが壊れる仕組みになっている

(参考)『持ち歩いても大丈夫!マイナンバーカードの安全性』 – 内閣府・総務省

利用申込について

マイナンバーカードを健康保険証として利用するためには、本人による申込みが必要です。利用登録には、マイナンバーカードとあらかじめ市区町村窓口で設定している4桁の暗証番号を準備して、パソコン(ICカードリーダーが必要)やスマートフォンでマイナポータルにログインすれば簡単にできます。また、セブン銀行のATMでも申込ができます。

マイナンバーカードの健康保険利用の申込方法の手順については、サイトにて詳細に記載されているほか、内閣府の公式YouTube動画チャンネルでも丁寧に解説されています。

マイナンバーカードを健康保険証として利用していても、健康保険証は通常どおり発行されます。転職や退職によって健康保険証が変更となったときでも、マイナンバーカードの再度の利用申し込みは必要ありません。

(参考)マイナンバーカードの健康保険証利用について – 厚生労働省

企業の労務担当が知っておくべきこと

上記について、労務担当の方は理解していても、従業員にとってはわからないことも多いかと思います。質問されたときに的確に答えられるよう、事前に準備をしておくことをオススメします。

従業員向けのチラシや、説明用のテンプレートなどを用意しておく

マイナンバーカードの健康保険証の手続きは本人が実施しますが、「マイナンバーカードを健康保険証として使いたいのでお願いします」などと従業員から依頼されるケースがあります。そのとき、「自分自身で手続きが必要なこと」「扶養の家族がいる場合は、被扶養者の分も一緒に手続きした方がいいこと」などを説明できるよう、準備をしておきましょう。

社会保険の資格取得手続きをすみやかに実施する

新入社員などから「病院に行ったが、マイナンバーカードを保険証として使えなかった」といわれることがあります。社会保険の資格取得手続きが完了していないと、マイナンバーカードを健康保険証として利用できないことがあるため、注意が必要です。

高額療養費を利用するときの流れを知っておく

従業員から「急な入院で医療費が高くなりそうなので、限度額適用認定証の手続きをしてほしい」といわれたとき、確認すべきことは2つです。まずその病院がマイナンバーカードを健康保険証として利用可能な医療機関かどうか、また本人がマイナンバーカードを健康保険証として利用登録しているかの2点を確認し、両方満たしていれば限度額適用認定証の手続きは不要です。満たしていないときは、通常の手続きが必要となります。

まとめ

健康保険証利用が可能な医療機関・薬局数は、今のところ1割に満たないですが、厚生労働省は、登録医療機関を徐々に拡大し、2023年3月末にはすべての医療機関等での導入を目指しています。

また、今後は、医師と共有できる医療情報として手術の情報などの項目が対象となったり、電子処方箋の仕組みも構築されていったりするなど、医療保険領域の新たな機能拡大も順次検討されています。

企業としては、今までどおり、社会保険の加入や喪失、異動届の手続きを実施し、健康保険証の到着後は速やかに従業員へお渡しいただくことに変更はありません。

しかしながら、企業がマイナンバーカードの健康保険証利用に関心をもつことは、従業員の健康管理への意識向上にも繋がります。人生100年時代に多くの従業員が長く元気に活躍できる環境の提供は、企業の大切な役目ではないでしょうか。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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