「育休取得状況公表義務化」対応リストと算出方法を解説【2023年4月~】
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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。
2023年4月から「育休取得状況の公表義務化」が労働者1,000人超の企業を対象に施行されます。2022年11月に厚労省が発表した「育児・介護休業法のあらまし」には、対象となる情報の範囲や、公表時期などを解説しています。今回は取得状況の具体的な項目や算出方法、注意点を解説します。
「育休取得状況の公表義務化」とは?
2023年4月から、大企業(基準については後述)を対象に「男性の育児休業取得状況」の年1回の公表が義務化されます。実際には、令和5年4月1日以後に開始する事業年度から対象となり、公表するのは「公表する日が属する事業年度の直前の事業年度(以下、公表前事業年度)」における取得率です。
事業年度が4月1日から3月31日の企業の場合、2023年4月以降に公表するのは、2022年4月から2023年3月31日の1年間の数値となります。
公表対象となる企業は、「常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主(大企業)」です。
常時雇用する労働者とは、雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者をいいます。正社員だけでなく、期間を定めて雇用されるパート、アルバイトなどでその雇用期間が反復更新されており、1年以上雇用されている者や1年以上雇用されることが見込まれる者も対象者となります。
1,000人を超えるとは、一時的に1,000人以下になったとしても、常態として1,000人を超える労働者を雇用している場合も含みます。また、常時雇用する労働者数が1,000人を超えた時点から公表の義務が課されますので注意が必要です。
公表するべき情報範囲
公表するべき内容は以下の3つです。
(1)取得割合
公表前事業年度における、次の①または②のいずれかです。
①男性の育児休業等の取得割合
②男性の育児休業等と育児目的休暇の取得割合
(2)割合の算定期間である公表前事業年度の期間
(3)(1)の取得割合が①または②のいずれかの方法により算出したものか
取得割合の算出のしかた
算出時の具体的な方法と算出例を紹介します。
①男性の育児休業等の取得割合
育児休業等をした男性労働者の数配偶者が出産した男性労働者の数
②育児休業等と育児目的休暇の取得割合
(育児休業等をした男性労働者の数+小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数の合計数)配偶者が出産した男性労働者の数
(出典)男性労働者の育児休業取得率等の公表が必要です – 厚生労働省 鹿児島労働局(p.1)
取得割合の算出例
公表前事業年度に配偶者が出産した男性労働者は90名、男性の育児休業等の取得者が85名の場合を例に算出する際は下記のとおりになります。
算出された割合は少数点第1位以下を切り捨てるため、94%となります。なお、分母となる「配偶者が出産した者の数」が0の場合、「ー」と表記します。
公表時期と方法
公表時期は、公表前事業年度の終了後、おおむね3か月以内とされています。たとえば、事業年度が4月1日から3月31日までの場合、2023年6月末までに公表することになります。公表の方法は、インターネットの利用やその他適切な方法で、一般の方が閲覧できるようにとされています。自社のホームページなどのほか、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」で公表できます。
算出には多くの工数が必要になるため、適切な工数を確保するためにも、このタイミングで人事・労務領域で効率化するべき業務を整理してみてはいかがでしょうか。
効率するべき業務の洗い出しのヒントは、以下の資料を参考にしてください。
算出の注意点
取得割合の算出において、いくつか注意点があります。育児休業等とは、通常の育児休業と出生時育児休業(産後パパ育休)を合算した取得者数です。分けて計算する必要はありません。
「育児目的休暇」とは、育児を目的として取得できる休暇制度のことです。法で定められた育児休業や子の看護休暇、労働基準法上の年次有給休暇を除きます。失効する年次有給休暇の育児目的での使用を認めていたり、名称は「育児目的休暇」でなくても、就業規則などで育児が目的である「配偶者出産休暇」などが該当し、取得数にカウントできます。
育児・介護休業法上、育児休業等の対象とならない者は計算から除外しますが、事業所の労使協定にもとづき、育児休業等の対象から除外されている者は計算に含めます。また、子が死亡した場合や、公表前事業年度の末日時点で育児休業等や育児を目的とした休暇制度を取得した者が退職している場合は、当該労働者は分母および分子の計算から除外します。
分割取得した場合
育児休業を2回に分割して取得した場合や、育児休業と育児目的休暇の両方を取得した場合であっても、休業や休暇が同じ子について取得したものの場合は1人として数えます。
事業年度をまたがって取得した場合
事業年度をまたがって育児休業を取得した場合には、育児休業の開始日を含む事業年度の取得とします。事業年度が4月1日から3月31日の企業の場合で例をあげます。
2023年3月から2023年4月まで育児休業を取得したときは、2022年4月から2023年3月までの事業年度と2023年4月から2024年3月までの事業年度にまたがるかたちになります。
育児休業を開始した日は2023年3月なので、2022年4月から2023年3月までの事業年度の取得としてカウントします。
また、分割して複数の事業年度において育児休業を取得した場合、最初の育児休業等の取得のみを計算の対象とします。
中小企業も対応メリットあり!
2023年4月からの公表の義務化は、常時雇用する労働者数が1,000人を超えている大企業を対象としていますが、現在は対象外の事業主であっても、1,000人を超えた時点から対象となります。今後、公表義務化の対象が中小企業に拡大される可能性もあり、近いうちに労働者数が1,000人を超えそうな事業主はもとより、中小企業もあわてないように準備しておきましょう。
モチベーションアップや定着率向上も期待できる
育児休業を取得しやすい雇用環境の整備、従業員の仕事と育児などの両立、子育てサポートの充実など、企業の両立支援への取り組みの結果として、「女性の育児休業取得率」「育児休業平均取得日数」なども公表できます。育児休業取得率の公表義務化に対応するだけでなく、企業のイメージアップを図り、労働者のモチベーションアップや定着につなげたいものです。
また、育休取得に積極的に対応すると、くるみん認定や両立支援等助成金なども受けられるので、企業にとってメリットが大きいでしょう。
くるみん認定、両立支援等助成金についての詳細は、こちらの記事も参照してください。