人事労務の基礎知識 ~入退社手続き編~【飲食・小売業、人事カイカク #03】
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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。
17年間の飲食業現場経験から、【飲食・小売業、人事カイカク】というテーマの中で、「飲食業・小売業」の人事労務を改革し、バックオフィスから経営を強めていくためのヒントを探り、提供する当連載。
前回は、「働き方改革」の機運が高まっているなか、中小企業が自社の現状を分析し、実情に合わせた取り組みを一つひとつ実行していくことが大切だと述べました。
そのためには、まず、労働者を雇用するうえでのルール、労働基準法などの労働に関する法律について理解することが、必要不可欠です。その基本を踏まえた上で、どのように経営戦略に組みいれて法令を遵守するか、人事労務のタスクを実行していくかが働き方改革の核となっていきます。
それを受け、働き方改革を進めるための土台をしっかりと築くために必要な「人事労務の基礎知識」を、5回にわけてお送りしていきます。
今回は、飲食・小売業の「入退社手続き」におけるよくある質問をQ&A形式でお送りします。
【Q.1】「労働条件通知書」は書面で交付しなければならないのか?
Q. 「労働条件通知書」は、書面で交付しなければならないのでしょうか?
【A.1】書面にて労使双方が保管しましょう!
労働契約は口頭でも有効ですが、後々の労使間でのトラブルを未然に防ぐため、書面にて労使双方が保管しましょう。
法律上においても、労働基準法第15条では「労働条件の明示」を「書面で行うこと」、労働契約法第4条では「できる限り書面により確認するものとする」、パートタイム労働法 第6条(※)では「文書の交付等により明示しなければならない」とされています。
使用者はもとより、労働者が納得感をもって働くために、「労働条件通知書」、「就業規則」の該当する条文を一緒に確認しながら説明する責任があります。
※ 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
【Q.2】「労働条件通知書」の内容はどのように記載すればよいのか?
Q. 「労働条件通知書」には何を記載すれば良いのかわかりません。どのような記載内容にすれば良いのでしょうか?
【A.2】明示する必要のある事項が、法律で決められています!
労働条件通知書の内容については、法律上、「労働条件の明示が必要とされている事項」を網羅するように記載します。制度として設けている場合(退職手当、臨時に支払われる賃金等)には、その事項も明示する必要があります。
なお、就業規則に記載がある場合で、労働条件通知書に記載しきれない場合は、該当する条文番号を記載するなど、「詳細は就業規則による」ことを明記しておくことで簡略も可能です。
なお、記載内容について特に注意が必要なのは、以下の3点です。
(1)明示しなければならない事項
下記の項目を明示しなければなりません。
- 労働契約期間
- 就業の場所
- 従事すべき業務
- 始業および就業の時刻
- 所定労働時間を超える労働の有無
- 休憩時間
- 休日・休暇
- 賃金の決定、計算および支払の方法
- 賃金の締切および支払の時期
- 退職
(2)パートタイム(短時間労働者)についての注意点
「昇給の有無」「賞与の有無」「退職金の有無」「雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」を、労働条件通知書にて明示しなければなりません。
(3)有期労働契約者の「契約更新」についての注意点
有期契約労働者の契約期間が「期間の定めあり」の場合、「契約の更新の有無」「契約を更新する場合の基準」について、あらかじめ記載が必要です(労働基準法施行規則第5条)。
労働契約法第18条の「無期転換ルール」により、有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された場合、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換します。この契約更新の有無については、「無期転換ルール」の意味をきちんと理解した上で、労働条件通知書に記載する必要があります。
労働条件通知書のひな形は、労働局のホームページに掲載されています。記載が必要な項目が網羅されていますので、ダウンロードし活用できます。
【Q.3】煩雑な「労働条件通知書」の交付の悩みを解消できないか?
Q. 「労働条件通知書」の交付が煩雑で大変です。この悩みを解消する方法はありませんか?
【A.3】毎年一定の時期を契約更新の始期として、タイミングをそろえるという方法があります。
入社時期はバラバラであることが通常ですから、入社から6ヶ月、1年の契約期間とすると、毎月雇用契約を更新、見直しする作業が発生します。
その中で、労働者ごとに更新時期がきちんと把握できていれば問題ありませんが、更新漏れが発生することも考えられます。特に、チェーン展開している飲食・小売業等の会社ではかなり大変です。
それを防ぐため、毎年一定の時期を(例えば4月)契約更新の始期として、タイミングをそろえるとよいでしょう。
雇用契約は、労働者の勤務成績、勤務態度、能力などを査定して新たな労働条件を提示するタイミングです。
業務効率化ツールを活用してデータ管理するなどの場合にしても、対面での面談、労働条件通知書の交付、フェイスtoフェイスのコミュニケーションを大切にして、労働者との良好な関係を築いてほしいと思います。
【Q.4】「マイナンバー」の注意点に変化はある?
Q. マイナンバーが開始されてから2年が経過しましたが、取り扱いに関する注意点に変化はありますか?
【A.4】基本的な取り扱いについての変更はありません。しかし、特定個人情報として厳格な取り扱いが求められるため、定期的に知識をブラッシュアップしましょう。
基本的な取り扱いについて変更はありません。
平成30年3月中に開始予定だった日本年金機構と自治体とのマイナンバーの情報連携は当面延期になりましたが、今後、その他の分野においてもマイナンバーの活用が拡大していく予定になっています。
マイナンバーは、特定個人情報として厳格な取り扱いが求められています。事業主が労働者の各種手続きを行う際には、このマイナンバーを記載するため、マイナンバーの取り扱い(取得、利用、管理、破棄等)について、十分な理解が必要です。
人事労務従事者は、マイナンバー制度についての情報の確認、研修を受講するなど、定期的にマイナンバーについての知識をブラッシュアップすることをお勧めします。
【Q.5】「外国人採用・労務」における注意点は?
Q. 飲食チェーンなどをはじめ、外国人労働者に関する法律上のトラブルもよく耳にします。外国人労働者の採用や労務に関する注意点を教えてください。
【A.5】「在留資格」によって細かな注意点が分かれます。特に「入国管理法の基礎知識」は重要です!
外国人の方は「在留資格」によって、働けるかどうかが決まります。また、資格外活動により働ける場合であっても「働ける時間数」が制限されています。
その中で細かい注意点がいくつかあるため、以下に解説します。
■ 在留資格のアレコレ
□ 単純作業で働くことを目的として、在留資格が与えられるわけではない
在留資格に定められた範囲で就労が認められるものは18種類あり、本社などで「通訳、語学の指導、為替ディーラー、デザイナー等」の職務にあたる場合は「人文知識・国際業務」、中華料理・フランス料理のコック等は「技能」という在留資格となります。外国人の方は単純作業で働くことを目的として、在留資格が与えられるわけではありません。
一方、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者は就業に制限がなく、日本人と同じように働くことができます。
□ 就労が認められない在留資格は「資格外活動許可証」が必要
原則として就労が認められない在留資格5種類(文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在)においては、「資格外活動許可証」が必要です。
□ 外国人留学生が働けるのは週28時間以内
「留学」の在留資格をもって在留する外国人留学生は、週28時間以内です。その方が在籍する教育機関が夏休み等の長期休業期間中については、1日8時間まで就労することが可能となります。
□ その他の注意点
在留資格、資格外活動許可書については、入社時のみならず、有効期限を確認し、更新後にも原本確認ののちにコピーを保管するように注意が必要です。
また、外国人採用時、離職時においては、ハローワークへの届け出が必要ですから、手続き漏れがないようにしたいものです。「外国人雇用状況の届出」は、全ての事業主の義務であり、外国人の雇入れの場合はもちろん、離職の際にも必要です。届出を怠ると、30万円以下の罰金が科されます。
■ 外国人採用においては「入国管理法の基礎知識」が必要!
特に飲食業では、資格外活動許可をもって、アルバイトしたいという外国人留学生が多く来店することもあります。1人採用すると、口コミで同郷の外国人などが応募にくるため、人手不足解消のために採用したいと思う経営者もいらっしゃるでしょう。
しかし、外国人採用においては入国管理法の基礎知識が必要であり、労務書類の管理が難しいほか、日本人との労働に対する価値観の違いや日本語でのコミュニケーションが難しいなど、簡単ではありません。
外国人を採用する際には、英語などの得意な言語の労働条件通知書を作成するなど、工夫が必要だと認識しておいていただきたいと思います。
【Q.6】退職手続きにおける注意点は?
Q. 飲食業という業界的な特性上、退職者が一定数出てしまうのは致し方ないのですが、円満な退社とし、トラブルを避けたいと思います。退職手続きにおける注意点について教えてください。
【A.6】「退職届・退職願」は本人から提出してもらいましょう。また、有期雇用労働者の「無期転換ルール」にも要注意です。
退職する労働者と確認しておきたいことは「離職理由」です。これが一番トラブルとなりやすいため、退職願(退職届)は必ず本人から提出してもらってください。
離職理由が、「自己都合による退職」なのか「会社都合による退職」なのかによって、離職者本人が雇用保険の「失業の給付」を受ける場合に、大きな差があります。自己都合退職は、失業の給付において、3ヶ月の給付制限がかかるからです。
会社都合による退職だと「特定受給資格者」となり、この給付制限がかかりません。
なお、自己都合による退職であっても、「特定理由離職者」に該当する場合、所定給付日数が「特定受給資格者」と同様になることがあります。「特定理由離職者」とは、特定受給資格者以外の者であって、期間の定めのある労働契約が更新されなかったことその他やむを得ない理由により離職した者をいいます。
■ 「雇止め」はどうなる? 「有期雇用労働者の離職理由」の注意点
「有期雇用労働者の離職理由」については要注意です。
平成25年4月の労働契約法改正により、平成30年4月以降、通算5年の契約期間が経過し、有期契約労働者の方が無期転換を希望する例があります。
無期雇用に転換すると、契約社員、パート・アルバイトなどの方々を定年まで雇用する義務が生じます。この法律が適用されるケースが平成30年4月以降に発生することを受けて、5年の契約期間満了前に、有期契約労働者の雇止め、契約を更新しない動きが出てきているようです。
それに伴い、厚生労働省では、「契約の更新上限到来による離職の場合、離職票の離職理由の記載方法」について、注意を呼び掛けています。
まとめ
入退社に際し、労働者に対して労働条件を説明する、疑問点に答えるなど、真摯に対応することは、後々の労使トラブルを未然に防ぐことに繋がり、心理的安全性の高い職場環境を保つ上でとても重要なことです。
また、労働者に最高のパフォーマンスを発揮してもらうためには、納得感をもって入社し働いてもらうことが一番です。
自社の労務管理の状況等を鑑み、必要に応じて専門家にリーガルチェックを依頼するなど、適正な労務管理していきたいものです。