会社が「退職予定者」の給与を減らすことは許される?
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こんにちは。浅野総合法律事務所 代表弁護士浅野英之です。
転職市場が盛り上がる昨今、転職サービス「DODA」を運営する株式会社インテリジェンスによると、29ヶ月連続で求人数が増加したそうです(*1)。しかし、賑わいを見せる転職市場とはいえ、トラブルもあとを絶ちません。
例えば、転職の場合、タイミングの都合上、ある程度期間に余裕をもつ形で入社日が決められることが多いことでしょう。
そんな中、もし転職をすることが決まった従業員から、退職日までかなりの余裕をもって退職の意向を伝えられた場合、残りの在職期間について「減給」することは許されるのでしょうか?
今回は、退職の意向を伝えられたことを理由に残りの期間の給与を減給すると、法的にどのように解釈されるかについて解説していきます。
「退職すること」を理由とする一方的な減給は原則違法
早めに退職を伝えられたことで、残りの在職期間の給料を減らした場合、従業員の不満を招くのは避けられないでしょう。
そもそも、給与の額というのは、会社と従業員との間に合意があってはじめて決定されるものです。
したがって、双方の合意がないのにもかかわらず、会社が一方的に「減給」することは、原則として違法です。
なぜなら、給与を一方的に減らすことは、労働者にとって重要な労働条件を不利益的に変更することになるからです。
当然、「退職すること」を理由とした減給も、原則として違法にあたります。
減給ができる例外的な場合
たとえ退職の予定があるケースでも、従業員の同意がなければ勝手に減給することは許されないのが原則です。
しかし、下記のような一定の場合には、減給することが可能となります。
(1)従業員の「真の同意」がある場合
退職予定の従業員の「真の同意」があれば、減給することができます。
もっとも、その同意は「真意」からのものである必要がありますので、口頭の合意のみで減給するのはハイリスクで、少なくとも書面での同意が必要となるでしょう。
(2)就業規則を変更する場合
「就業規則」は、すべての従業員に適用することのできる会社でのルールですので、「就業規則自体を変更する」という方法で労働条件を変更することができます。
もっとも、従業員に不利益に就業規則を変更する場合には、変更について「合理性」が必要です。
よって、「退職の予定があることを理由に減給する」という内容の就業規則の変更は「合理性」に甚だ疑問があるため、行わないべきです。
(3)懲戒処分による場合
退職の意向を示した従業員に、業務上の落ち度があったことが判明した場合には、懲戒処分として「減給処分」を下すことができます。
もっとも、懲戒処分としての減給は無制限にできるというわけではありません。
また、従業員の業務上の落ち度によって、会社が何らかの損害を被った場合であっても、従業員の給与から損害賠償額分を勝手に差引いたり、相殺したりすることは、労働基準法上違法となるので、絶対に避けて下さい。
(4)賃金規定で「役職を外れたこと」を理由に減給可能な場合
賃金規程で役職手当が定められている場合など、役職を外れたことを理由に減給できるという賃金制度の場合には、減給が許される場合があります。
ただし、直前に退職を控えていることを理由に役職を外すことは、人事権の濫用として違法となる危険性があります。
月途中退職の場合は「日割りの支払い」が可能
このように、退職の意向を示した従業員に対し、一方的に減給することは許されません。
ただし、退職日が月の途中である場合には、従業員の勤務日数を日割りで計算し支払うことができます。
転職が決まってからというものの上の空で、パフォーマンスや成果が目に見えるように下がっているのならまだしも、そうでもないのに「退職が決まっているから」といって減給を提示するのは、退職者からはもちろん客観的に見ても疑問の残る対応といえるでしょう。
退職していく従業員との関係を円満に終了させるためにも、違法な減給をするようなことのないように注意することが労務管理上大切です。
【参照】
*1:転職市場の活況は続き、求人数は29カ月連続の最高値。転職希望者へのチャンス広がる – 株式会社インテリジェンス