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「裁量労働制」の定義とは? 不適切な運用だと、労基により是正勧告を受けるケースも

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こんにちは。特定社会保険労務士の篠原宏治です。

政府は、労働時間ではなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」の制度化を進めており、労働時間制度の一つである「裁量労働制」についても法改正による対象拡大が予定されています。

今回は、裁量労働制を導入する際や運用していく上での留意点について解説します。

「裁量労働制」の定義と種類

裁量労働制とは、使用者が労働者に対して業務遂行の手段や時間配分について具体的な指示をしない代わりに、実際の労働時間数に関わらずあらかじめ労使間で定めた労働時間(みなし労働時間)だけ働いたものとみなす制度です。

裁量労働制は、すべての労働者に適用できるわけではなく、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると法令で定められている業務に限り適用することが認められています。

裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」(第38条の3)と「企画業務型裁量労働制」(第38条の4)の2つがあります。

(1)専門業務型裁量労働制

研究・開発業務、クリエイティブ職、高度な専門知識を必要とする職種など、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると法令で定められている19の業務(専門業務)に従事する労働者を対象とした裁量労働制です。

専門業務型裁量労働制を導入する場合は、使用者と労働者の過半数代表者で「労使協定」を締結し、所轄労働基準監督署長へ届け出ることが必要です。

厚生労働省「専門業務型裁量労働制」

厚生労働省「専門業務型裁量労働制」

(2)企画業務型裁量労働時間制

事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務(企画業務)において、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある場合に導入できる裁量労働時間制です。

専門業務型裁量労働制よりも導入要件が厳しく、労使半数ずつの労使委員会を設置して5分の4以上の多数による決議を行って労働基準監督署長に届け出ることに加え、対象労働者からも個別に同意を得る必要があります。

不適切な運用になっていないか要注意

裁量労働制を導入する際は、「対象労働者」と「みなし労働時間」がそれぞれ適切であるかについて特に留意が必要です。

2017年8月、渋谷区の某ゲーム開発会社が、宣伝やイベント企画などを担当していた女性社員への専門業務型裁量労働制の不適切な運用があったとして、渋谷労働基準監督署から残業代を支払うよう是正勧告を受けました。

同社員は、ゲームソフト創作業務として裁量労働制が適用されていましたが、実際には同業務に携わっておらず、時間配分等の裁量も与えられていませんでした。また、月70時間程度の残業を行っていましたが、月45時間分の残業代にあたる裁量労働手当しか支払われていませんでした。

法定上の要件が整っていたとしても、実態として裁量権がない場合やみなし労働時間が実労働時間とかけ離れている場合には、指導や遡及払いの対象にもなりますので注意してください。

裁量労働制も休日出勤や深夜労働への手当は必要

裁量労働制を導入した場合、時間外手当は実労働時間に関わらずみなし労働時間に基づいて支払うことが出来ますが、休日出勤や深夜労働(22時~翌5時)を行わせた場合には休日手当や深夜手当の支払いが必要です。

また、裁量労働制は、労働時間の管理が適切に行われずに長時間労働を招きやすい制度です。

使用者は、裁量労働制であることを理由に、長時間労働による健康障害防止措置を講じる責任を免れるわけではなく、万が一過労死等が発生した場合にはその責任を問われます。

裁量労働制であっても、出退勤時刻や入退室時刻のなどの客観的記録に基づいて「労働時間管理」を行い、長時間労働が認められる労働者については産業医面談等の措置を講じるようにしましょう。

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