「年賀状」に潜むハラスメントの危険
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こんにちは、弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士の浅野英之です。
最近は、「セクハラ」、「パワハラ」に対する意識が高まり、敏感にならざるを得ない状況となっています。不用意な言動により、ハラスメント被害を訴えられはしないかと、内心ヒヤヒヤしている方も多いのではないでしょうか。
普段、当たり前のことと思っている言動でも、時として「ハラスメント」であると相手に受け取られ、労働問題に発展してしまうことがあります。
例えば、日本人であれば「慣習」であろうと考える「年賀状」の文化についても、ハラスメントの危険が潜んでいます。
そこで、今回は、年賀状にまつわる注意点について、詳しく解説していきます。
年賀状で問題となる「ハラスメント」は?
会社に勤めていると、取引先や同じ部署内の人に対して年賀状を送ることがあると思います。
営業マンであれば、お客様との大事なコネクションを保つために必須のツールであるという会社も多いことでしょう。
しかし、職場の人から年賀状を受け取ること、あるいは年賀状を送るために住所を聞かれることに対して抵抗のある人も少なくありません。
個人の考え方の違いに配慮せず、無理強いをするとハラスメント問題に発展してしまうことがあります。
なぜ年賀状がハラスメントになるのか?
では、なぜ年賀状がハラスメントになってしまうのでしょうか。
もちろん、職場内で年賀状を送りあうことのすべてがハラスメントとなるわけではないですが、次のような観点に注意して、ハラスメントにならないかどうか、細心の注意を払いましょう。
(1) 年賀状の文化が薄れつつある
ご年配の方や中堅の方の年代には、新年の挨拶に年賀状を送るということは当たり前のように行われていたはずです。
取引先だけではなく、部署内の同僚や上司、部下に対して年賀状を送ることも特段珍しいものではなかったでしょう。
しかし、インターネットやスマホが普及した現代では、メールやLINEで簡単にメッセージを送信できてしまうため、紙で年賀状を送る文化は、必須のものではなくなっています。現に、年賀葉書の1人あたり平均枚数は2003年をピークに漸減傾向にあるようです(*1)。
とりわけ、スマホ世代と呼ばれる若者は、友人間では、紙での年賀状のやり取りは、かえって抵抗を感じる人も多いのかもしれません。
そのため、会社の上司からであっても「極力年賀状は受け取りたくない」「面倒くさい」「嫌だ」と言う被害意識を持たれ、嫌がらせと受け取られてしまうこともあるのです。無理強いは避けたほうがよいでしょう。
(2)住所を知られたくない
年賀状でやり取りをする際に、もう1つネックになるのが、「住所を知られてしまう」ということです。
住所を知られるということは、私生活のプライベートな空間に干渉されるおそれに繋がるからです。実際、年賀状などに記載されている住所をたどったストーカー被害の相談も寄せられており、重大な問題の引き金となることもあります。
家賃や通勤時のアクセス、セキュリティの問題から、一度住み始めた場所を離れることが難しいケースも少なくありません。実家に住んでいる場合には家族にも迷惑が掛かることになり、逃げ場も無くなるため、なおさら避けたいと思う人もいます。
そのため、特に若い女性にとって、会社関係者から住所を聞かれることには強い抵抗があるのです。
ハラスメントにならないためには?
年賀状を送ったり、住所を聞いたりすることはハラスメントになるのでしょうか。
いわゆるセクハラは、法律的には「性的な言動による嫌がらせ」だと考えられているため、上記のような行為「だけで」セクハラと判断されることはまず無いでしょう。
しかし、無理強いをすれば、職場内での立場などを利用した嫌がらせ、すなわちパワハラに該当する可能性があります。
部下に年賀状を出すこと、住所を聞くこと自体は、社会人の挨拶、慣習として行うのであれば、それ自体がパワハラになることはありません。
ただし、明らかに難色を示しているのに、それでもなお無理強いをすれば、パワハラになる可能性があるので、十分に気を付けましょう。