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退職後に「パワハラされていた」も有効に!法改正で内部通報制度が変わる

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こんにちは、弁護士法人ALG&Associate大阪法律事務所の長田弘樹です。

2022年6月から公益通報者保護法が改正され、事業者に対して新たな義務が課されるなど、公益通報者の保護がいっそう強化されました。同改正を把握せずに従前どおりの運用を続けていると、刑事罰を課されるおそれもあります。

今回は、公益通報者保護法の改正点や対応策について詳しく解説します。

公益通報者保護法とは?

パワハラをはじめとしたハラスメントや、企業の不正リスクを発見できる「公益通報制度(内部通報制度)」は、コンプライアンス経営の実現には欠かせません。

公益通報者保護法とは、公益通報したことを理由として公益通報者を解雇することや、不利益な取り扱いを禁止することにより、公益通報者の保護を目的とした法律です。同法は2004年に制定され、2006年に施行されました。改正前の法では事業者の義務も不明確な部分が多く、公益通報者の保護が不十分であったため、公益通報制度は十分に機能せず、事業者による不祥事は跡を絶ちませんでした。

労務提供先で不正行為があった際の通報意向と通報しない理由 - 消費者庁

(出典)平成28年度 労働者における公益通報者保護制度に関する意識等のインターネット調査 報告書 – 消費者庁(p.11、p27)

このような背景もあり、2022年6月施行の改正では、公益通報者や通報対象事実の範囲が拡大されたほか、公益通報に対する保護体制の整備が義務化され、事業者の内部通報担当者に守秘義務が課されるなど、内部通報者の保護が強化されました。

改正のポイント

(1)公益通報対応体制整備義務と公益通報対応業務従事者指定義務の創設

公益通報を受けた事業者は、公益通報にかかる通報対象事実を調査し、是正に必要な措置を取る業務に従事する者(以下、公益通報対応業務従事者)を定める規定が新設されました(11条1項)。

また、公益通報に対応するために必要な体制の整備と、その他の必要な措置を取らなければならないとされています(同条2項)。

つまり、公益通報に対して適切に対応することが事業者に義務付けられたことになります。なお、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、これらは努力義務にとどまるとされています(同条3項)。

事業者がとるべき措置(内部公益通報対応体制整備義務)

(出典)改正公益通報者保護法に関する民間事業者向け説明会説明資料 – 消費者庁(p.7)

(2) 公益通報対応業務従事者に対する守秘義務の創設

公益対応業務従事者、または過去に公益対応業務従事者であった者に正当な理由がある場合を除いて、公益通報対応業務で知りえた事項について、公益通報者を特定させる情報の守秘義務が課されました(12条)。

この守秘義務に背くと30万円以下の罰金が課されるため、公益通報者の保護がよりいっそう強化されました。

改正 公益通報者保護法

(出典)改正公益通報者保護法の広報用チラシ – 消費者庁

(3) 行政機関公益通報、外部公益通報の保護要件の緩和

少し複雑なので、下図により解説します。

通報先
現行の要件
改正後の要件
通報対象事実について処分等の権限を有する行政機関
通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合
左の要件または通報対象事実が生じ、もしくはまさに生じようとしていると思料し、公益通報者の氏名などを記載した書面を提出する場合
報道機関など
規定なし
公益通報者が特定される情報が漏洩するおそれが高い場合が追加
個人の生命または身体に対する危害が発生、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
左の要件に、個人の財産に対する損害が追加

(通報先別の改正後の要件 – 弁護士法人ALG&Associate大阪法律事務所が作成)

(4) 公益通報者として保護される者の拡大

従前は、公益通報者として保護される者が現職の労働者に限定されていました。2022年6月の改正により、現職の労働者のみならず、(派遣)労働の退職者(退職後1年以内)や役員が追加され、保護される者の範囲が拡大されました。

つまり、退職後1年以内の元・従業員から「在籍中にパワハラを受けた」と通報された際は、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ法)が適用されます。

公益通報者の範囲

(出典)改正公益通報者保護法に関する民間事業者向け説明会説明資料 – 消費者庁(p.15)

パワハラによる退職を防止するためには、日ごろから従業員の声を集めることが欠かせません。以下の資料で離職率を抑えるためのヒントをまとめましたので、ぜひご活用ください。

急な離職を防ぎ、 離職率を抑える 従業員の本音の集め方

(5)公益通報として保護される通報対象事実の拡大

改正前は、公益通報として保護される通報対象事実が、特定の刑事犯罪行為の事実に限定されていました。2022年6月の改正により、これらに加えて行政罰を受ける行為にかかる事実が通報対象事実として追加されました(2条3項)。

通報対象事実の範囲

(出典)改正公益通報者保護法に関する民間事業者向け説明会説明資料 – 消費者庁(p.17)

(6)公益通報者としての保護内容の拡大

従前は、公益通報によって事業者が損害を受けた場合、公益通報者に対して当該損害の賠償請求を制限する規定がなく、公益通報者は常に賠償のリスクを抱えていました。

そのため、このような賠償のリスクをなくし、公益通報のしやすい環境を整えるため、公益通報により損害を受けたとする事業者から、公益通報者への損害賠償請求を認めない規定が新設されました(7条)

損害賠償責任の免責

(出典)改正公益通報者保護法に関する民間事業者向け説明会説明資料 – 消費者庁(p.18)

今後の対応について

300名以下の事業者について、公益通報対応体制の整備や公益通報対応業務従事者の指定の努力義務が新設されました。

これらは法律上の義務ではありませんが、健全な企業経営の観点からも、内部公益通報受付窓口の設置や、公益通報を理由とする不利益な取り扱いの防止に関する措置については、最低限対応しておくべきでしょう。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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