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改正後3年、なくならぬ「時間外労働の上限規制違反」。元労働基準監督官がみる課題は?

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こんにちは。アヴァンテ社会保険労務士事務所の小菅です。36協定の限度時間と時間外労働の上限規制を超えて働かせたとして、茨城県常総市の企業が労働基準法第32条と36条違反で書類送検されるなど、企業の改革が浸透しきれていない状況が続いています。

働き方改革関連法の施行から3年たった今も、同様のケースが後をたたないのはなぜかを、元労働基準監督官が考察します。

そもそも「時間外労働の上限規制」とは?

時間外労働の上限規制とは、働き方改革関連法の一環として2019年4月から施行されている改正労働基準法において、時間外労働を法律レベルで規制するというものです(中小企業では2020年4月から施行)。

改正前後の時間外労働の上限変更点 - 厚生労働省

(出典)時間外労働の上限規制わかりやすい解説 – 厚生労働省

時間外労働の上限規制の概要は以下のとおりです。

(1)時間外労働の上限規制の目的

従来の時間外限度基準告示を法律へ格上げし、特別条項の上限を設定して罰則の適用による強制力を持たせる。

(2)上限(原則)

月45時間、かつ年360時間。※1年単位変形労働時間制(3か月を超える期間を対象期間として定める場合に限る)の場合は、月42時間かつ年320時間

(3)臨時的な特別の事情がある場合(特別条項)

労使が合意して労使協定を結ぶ場合でも、時間外労働時間の上限は年720時間とする。この範囲内で、

  1. 休日労働を含み、2か月〜6か月平均で80時間以内
  2. 休日労働を含み、単月で100時間未満とする
  3. 原則である月45時間(休日労働を含まない※1年単位変形労働時間制の場合は42時間)の時間外労働を上回る回数は年6回まで

とする。

(4)適用除外などの取り扱い

  1. 自動車運転業務(トラック、バス、タクシー等 ※2024年4月1日から上限規制が適用。時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年960時間(休日労働を含まない)を限度に設定する必要あり
  2. 工作物の建設等の業務(建設業) ※2024年4月1日から上限規制が適用
  3. 新技術、新商品等の研究開発の業務
  4. 季節的要因などにより、事業活動もしくは業務量の変動が著しい事業・業務または公益上の必要により集中的な作業が必要とされる業務として、厚生労働省労働基準局長が指定するもの
  5. 医師 ※2024年4月1日から段階的に上限規制が施行

(出典)時間外労働の上限規制わかりやすい解説 – 厚生労働省

「時間外労働の上限規制」に違反するとどうなる?

「時間外労働の上限規制」に違反した会社に対しては、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則が科されることもあります。罰則が適用される場合、両罰規定に従い、

事業の責任者のほかに、使用者である法人または人(個人事業主の場合)が処罰対象になります。

「労働時間の状況把握」とは?

健康管理時間のようなもので、健康確保措置を適切に実施するため、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものです。

これは、労働安全衛生法第66条の8の3で明示されている事業者の義務であり、管理監督者や裁量労働制対象者も対象になります(高度プロフェッショナル制度対象者は除外)。

なぜ上限規制違反が後をたたないのか?

このように厳しい罰則が規定されているにもかかわらず、なぜ違反は後をたたないのでしょうか? それは企業文化と業務量が関係していると考えられます。

考察1:管理者のマネジメント不足

労働時間管理者は、企業のなかではいわゆる中間管理職として、自らもプレイングマネージャーとして業務に携わりつつ、使用者から一定の責任を委ねられていることがあります。役割が多いため、とくに繁忙期などではコントロールしきれずに時間外労働が増え、80時間を超える月が続くことも考えられます。

考察2:業界特有の事情

人手不足は長時間労働になる1つの要因です。たとえば、正社員が少なくアルバイトやパート、有期契約社員が多い職場では、正社員しかできない業務を残業して担当することもあり、正社員1人あたりの業務量が増えて長時間労働が常態化する可能性もあります。

考察3:長時間労働をよしとする職場環境

上限規制は知っていても、成果を出すためには時間をいとわず働く風潮がある会社では、36協定は形骸化し、長時間労働になりやすい傾向にあります。

能力や成果重視の度合いが強い会社では、時間外手当を含んだ賃金を支払い、一定の裁量を社員に与えて業務内容や遂行方法、何をいつまでにどれくらい取り組むのかを社員の自己管理を主として進めているケースもあります。

会社として価値を生んだと評価された場合には相応の収入を見込めますが、取り組んだ時間を時間外労働として換算すると、月100時間を超えていることもあり得るのです。

考察からみる対策

では、これまでに考察した内容を踏まえて、対策すべきポイントを見ていきましょう。

対策ポイント1:管理者のマネジメント力向上

管理者ごとの現状と課題を把握し、課題解決の方法を実践することが大切です。管理者の業務量が多すぎて手が回らなくなっているために、他の社員にも影響して職場全体が長時間労働になっていることもあります。このような場合は、必要に応じて業務の進め方や指揮命令系統の見直しが求められます。

また、部下が滞っている業務を管理者が一緒に担当していることで、双方の時間外労働が増えているという事情が見受けられれば、支援や社員教育の実施、適正配置などの考慮も必要になるでしょう。

対策ポイント2:現状の課題解決に重点を置く

長時間労働の原因が人手不足であれば、業務の生産性向上を図り、1人あたりの負担を減らすことや、長く働きたいと思える環境の整備が大切になります。

たとえば、業務の生産性向上のためには、業務の可視化やアウトソーシングの活用などによる業務の見直しが挙げられます。ほかにも、社内表彰制度の運用や福利厚生の充実などにより、社員のモチベーションを上げる工夫によって、生産性向上につながる可能性があります。

人手不足といわれている業種でも、ある建設業のある会社では「自分たちがこの会社で働いている理由は?」という問いに対して、「給料が高い」「長時間労働でない」「困ったときに周りが支援してくれる」などと回答されており、会社選びにあたり、賃金面や労働条件、人間関係を重要視していることが伺えます。

それぞれの会社が実情に合わせて変革に取り組めば、人を呼び込める会社にできるでしょう。

対策ポイント3:時間軸にも目を向ける

長時間労働をよしとする背景には、「生活が不規則で拘束時間が長くなりがちである」「取引先からの依頼で納期が非常に短く、長時間労働になるのは仕方がない」「極端な能力や成果重視の傾向にあり、健康管理が個人任せになりがちな働き方となっている」などがあります。

労働時間という概念が薄く、何をしたかで賃金が支払われる仕組みになっていることがあるため、いかなる時間業務に関わっているかという目を持つことが必要です。自社だけでの解決が難しい場合には、取引先から理解を得るための取り組みも必要になるでしょう。

また現在は、勤怠管理や人事評価などの便利なシステムも浸透しつつあります。クラウドシステムを活用するなど働き方を可視化することで、長時間労働への歯止めが期待できます。

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