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人事・労務担当が知っておきたいHRニュース|2024年10月振り返りと11月のポイント

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こんにちは!社会保険労務士の岸本です。今年もいよいよ終わりに近づいてまいりました。われわれ人事・労務担当者にとっては、年末調整の対応を中心とした業務で、一年のうちでもっとも繁忙期でもあります。くれぐれも体調管理にはお気をつけください。

また、すでにご存じのとおり、今年の年末調整は定額減税における年調減税事務もあります。早めに取りかかるなど、無理のないスケジュールで進めていけるとよいですね。

お忙しい時期ではありますが、今回も人事・労務の実務目線で気になるニュースをピックアップしてみましたので、お時間のあるときにぜひご覧ください!

10月のトピックを振り返る

例年と比べても年末調整に対する注目度が高い印象を受けました。これも定額減税という今年限りの大きなテーマがあるからではないでしょうか。

一方で、直近では年末調整以外にも人事・労務の実務に影響のありそうなトピックがいくつかみられました。対応が必要となる内容については見落とさないよう、しっかりと把握しておきたいところです。

また企業によって、すぐに取りかかるべきものと中長期的に取り組むべきものなど、それぞれで対応の優先順位が異なる部分もあると思います。そうした点も意識しながらご覧ください。

トピック1:『令和6年版 過労死白書』の公表

日本における過労死等の概要と、政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況が記された『令和6年版 過労死等防止対策白書(過労死白書)』が公表されました。

これは、過労死等防止対策推進法の第6条に基づき、毎年政府が国会に提出する年次報告書で、今回が9回目の公表となるそうです。

本白書は厚生労働省のホームページにて全文が公開されています(※タイトル名は令和5年度となっていますがこちらが最新の令和6年度版となります)。約300ページのボリュームのある内容ですので、まずはこちらの概要版をご覧いただくとわかりやすいかもしれません。

過労死などは働き方に深く関連する重要な課題であり、本白書には人事・労務担当者にとって参考となる情報も多く盛り込まれています。そのなかでも実務目線でとくに気になったポイントを抜粋して以下にまとめました。

(1)労働時間は、おおむね横ばいまたは減少傾向

週労働時間60時間以上の雇用者の2つの割合グラフ。1.平成15年から令和10年の目標までの折れ線グラフ、10年の目標値の5%まで減少傾向。 2.業種別令和3年から令和5年までの棒グラフ、運送業・郵便業の値が高く、複合サービス事業の値が低い。

(出典)厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書 〔 概要版 〕」P2 一部抜粋

(2)勤務間インターバル制度については、制度を知らない企業割合が増加した一方、制度の導入企業割合は継続的に増加

勤務間インターバル制度についての2つの折れ線グラフ。 1.「制度を知らない」と回答する企業割合の推移のグラフ、令和2年に10%まで下がったが、5年には19%に増加。令和10年の目標値は5%。 2.制度の導入企業割合の推移のグラフ、こちらは10年の目標値15%に向かって増加。令和5年で6%。

(出典)厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書 〔 概要版 〕」P3 一部抜粋

(3)年次有給休暇の取得率は、8年連続で増加

年次有給休暇の取得率の推移折れ線グラフ。令和10年の目標値70%に向かい増加傾向。令和4年では62.1%。

(出典)厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書 〔 概要版 〕」P3 一部抜粋

(4)メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、60%前後の水準で推移しつつ増加傾向

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合の折れ線グラフ。令和9年の目標値80%に向かい増加傾向。令和5年では63.8%。

(出典)厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書 〔 概要版 〕」P4 一部抜粋

(5)仕事や職業生活に関することで強い不安、悩みまたはストレスがあるとする労働者の割合は80%を超えて増加傾向

仕事や職業生活に関することで強い不安、悩みまたはストレスがあるとする労働者の折れ線グラフ。割合は令和4年から80%を超えて増加傾向。令和9年の目標値は50%。

(出典)厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書 〔 概要版 〕」P4 一部抜粋

(6)過労死等事案による労災請求・支給決定件数は増加傾向にあり、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策の重要性がいっそう増している

各労働者の脳・心臓疾患の支給決定(認定)と精神障害の支給決定(認定)保証状況の6つの棒グラフ。 1.民間労働者の労災補償の状況 2.国家公務員の公務災害の補償状況 3.地方公務員のこうむ災害の補償状況 脳・心臓疾患の認定件数はばらつきがあるが、精神障害の認定件数は国家公務員以外は増加傾向。

(出典)厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書 〔 概要版 〕」P6 一部抜粋

毎年11月は「過労死等防止啓発月間」です。この機会にそれぞれの企業にとって有効な施策の検討も進めていけるとよいでしょう。

(参考)厚生労働省「『令和6年版 過労死等防止対策白書』を公表します」
(参考)厚生労働省「11月は過労死等防止啓発月間です」

トピック2:12月2日以降の健康保険証の発行終了に伴う届出様式の変更

8月のHRニュースでも取り上げましたが、健康保険証のマイナ保険証への移行に伴い、今年の12月2日以降は健康保険証が新規発行されなくなります。

それと同時に協会けんぽにおける「被保険者資格取得届」および「被扶養者(異動)届」には、『資格確認書発行要否』欄が新たに設けられました。

今後、新たに被保険者や被扶養者になる方が資格確認書を必要とする場合には、届出書にチェックを入れるかたちなります。

資格確認書が必要な場合で、12月2日以降にこれらの届出をされる際には新様式での届出となりますので、あらかじめお間違いのないようご注意ください。

(参考)日本年金機構HP「被保険者資格取得届等の変更後様式」

トピック3:高齢者活躍に取り組む企業事例の公表

平均寿命の伸長や労働力人口の減少などを背景に、企業における高齢者活躍の重要性はますます高まっています。

一方で、定年制度の延長や廃止を含む具体的な施策について、どのように進めていけばよいのか、多くの企業が頭を悩ませているのではないでしょうか。

そうした企業にとってのひとつの目安となるように、厚生労働省が高齢者の人事・給与制度等の工夫に取り組む14社の企業にヒアリングを実施して、その参考事例を公表しました。厚生労働省のホームページで確認できます。

抜粋4社の「定年年齢」「継続雇用年齢の上限」「役職定年廃止の有無」「取り組み事例のポイント」が記載。

(出典)厚生労働省「高齢者の活躍に取り組む企業の事例集の展開」P2一部抜粋

一覧としてわかりやすくまとめられている資料も一緒に公表されていますので、ぜひご覧ください。

11月は年末調整以外の対応業務も忘れずに!

トピック1:企業型DCの拠出限度額の見直し(2024年12月1日施行)

従来型の退職金制度については時代の流れにあわせて、見直しや廃止を進めている企業も多いかと思います。これに伴い、企業型DCやiDeCoの活用も年々注目度が高まっています。

国としてもこうした動きを促進していくため、企業および加入者が制度をもっと利用しやすくなるよう、ルールの緩和や整備など定期的に実施しています。

そして、今年の12月1日から施行される「確定拠出年金の拠出限度額の見直し」では、企業型DCの拠出限度額の算定に当たって、加入者がそれぞれ加入しているDBなどの他制度ごとの掛金相当額の実態を反映することで公平を図るもの、となっています。

具体的な見直し内容については以下の表のとおりです。簡単に要約すると「企業型DCの加入者によって、トータルの掛金・拠出限度額になるべく差が出ないよう整備するための変更」といえるでしょう。

1.企業型DCのみに加入する場合 2.企業型DCとDB等の他制度に加入する場合 の現行金額(DCのみ月額5.5万円、DCとDB等の他制度月額2.75万円)と見直し内容の金額。(月額5.5万円からDB等の他制度掛金相当額を控除した額)

(出典)厚生労働省「企業型DC、iDeCoの拠出限度額にDB等の他制度ごとの掛金相当額を反映(2024年12月1日施行)」

なお、すでに企業型DCを導入している企業でこちらの新制度を適用する場合には、「企業型年金規約の変更」と「企業型記録関連運営管理機関(企業型RK)への通知」が必要となりますので、その点についてもあらかじめご注意ください。

その他、既存の規約に基づいた従前の掛金拠出を可能とする経過措置も設けられています。以下の図も参考にし、ご確認ください。

現行の企業型DCの拠出限度額の解説と改正後の解説。現行ではDBの給付水準に関わらず拠出限度額は一律2.75万円。改正後ではDB等の他制度掛金相当額が低い場合はDCで拠出できる額は大きくなり、高い場合は小さくなる。また施行の際の企業型DC規約に基づいた従前の掛金拠出を可能とする。新規の場合や既存規約のDC・DBの設計をも直した場合は新制度を適用。

(出典)厚生労働省「企業型DC、iDeCoの拠出限度額にDB等の他制度ごとの掛金相当額を反映(2024年12月1日施行)」

さらに、「iDeCo加入時等の事業主証明書の廃止等」も同じく12月1日から変わります。こちらはすべての人事・労務担当者にとっても業務負担が減る注目トピックスです。

企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金の合算管理の仕組みとあわせてDB等の他制度掛金相当額も管理することで、iDeCoの実施主体である国民年金基金連合会は、毎月、企業年金の加入状況を確認できるようになります。そのため、現在、事業主が行う、
1.従業員のiDeCo加入時・転職時における企業年金の加入状況に関する事業主証明書の発行
2.年1回の現況確認
は2024年12月から廃止します。

本件のみならず、企業型DCやiDeCoなどに関する整備は定期的に実施されています。人事・労務担当者としては引き続き最新情報を把握しておきましょう。

トピック2:直近で確認しておきたいポイントまとめ

そのほか、直近で確認しておきたいポイントについても、以下にまとめました。ぜひご確認ください。

(1)11月からフリーランスが労災保険の特別加入の対象になります

特別加入制度の説明。 1.特別加入制度とは 2.特別加入のメリット 3.給付内容 4.対象

(出典)厚生労働省「令和6年11月から『フリーランス』が労災保険の『特別加入』の対象となります」p1 一部抜粋

(2)11月施行のフリーランス保護新法について

令和6年11月1日よりフリーランス保護新法が施行されました。以下の記事で、「フリーランス保護新法」の概要や実務のポイントをまとめておりますので、ご確認ください。

(3)年末調整について

年末調整については、実務上で影響のある昨年からの主な変更点を以下にまとめておきます。

  • 定額減税(年調減税事務)の追加対応
  • 保険料控除申告書の記載の簡略化(続柄の省略)
  • 扶養控除申告書の提出の簡略化

さらに詳しい内容に関しては、以下の記事もご参照ください。

国税庁から「令和6年分 年末調整のしかた」が公開されていますので、こちらもぜひ早めに目を通しておくとよいでしょう。

「効率化」で人事・労務業務の範囲拡大に対応しよう

冒頭でも少し触れたとおり、年調減税事務の対応が追加された今年の年末調整は、人事・労務担当者の実務にも大きな影響を与えていることは間違いありません。

このように、人事・労務業務の対応範囲がますます拡大し、ボリュームも増加していくなかで、それらを適切に対処するための重要なポイントのひとつは「効率化」だと思います。

たとえば年末調整の対応であれば、従来型の紙ベースの運用からシステムを利用した効率的な業務フローに変えていくなど、業務の効率化を図り、必要な時間をどれだけ確保できるかが問われています。

それぞれの企業に合う最適なツールも活用し、従業員・担当者・企業すべてにとってよりよい成果が得られるよう、仕組みの見直しや改善を意識しながら意識し、日々の業務に取り組んでいけるとよいですね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

それでは、次回もぜひご覧ください!

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