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人事・労務担当が知っておきたいHRニュース|2024年8月振り返りと9月のポイント

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こんにちは!社会保険労務士の岸本です。
9月は、ようやく暑い夏も終わりが近づき、いよいよ年末調整などの年末へ向けた繁忙期も見据えて、さまざまな準備を始める時期でもあります。

今年の夏も体調を維持することが難しい気候ではありますが、リフレッシュの時間もしっかりと確保しつつ、無理のないスケジュールでやるべき業務を進めていけるとよいですね。

今回も、皆さまと同様に人事・労務の実務に日々携わっている立場から、人事・労務担当者が把握しておきたいニュースをピックアップしてみましたので、是非ご覧ください!

8月のトピックを振り返る

8月は、賃金(給与)のデジタル払いの指定資金移動業者第1号としてPayPay株式会社が指定されたニュースなど、注目すべきトピックもいくつかみられました。

新しい制度が増えるにつれて、人事・労務担当者が対応すべき範囲も広がっていると思います。スムーズに業務を進められるよう早めのキャッチアップを心がけておくとよいでしょう。

それでは、各トピックをなるべくかみ砕いてわかりやすく解説していきますので、是非最後まで目を通していただければと思います。

トピック1:賃金デジタル払いの利用可能サービス第1号は「PayPay給与受取」に!

まず、2023年4月に解禁された「賃金のデジタル払い」についてのトピックです。直近でもっとも注目すべきニュースのひとつではないかと思います。

この解禁のニュースが公表された当時はかなり話題になっていた気がするものの、その後忘れかけていた方も正直多いのではないでしょうか。

これは、賃金のデジタル払いが認められる「指定資金移動業者」が当時はまだ1社も決まっておらず、実際に企業が運用できる状態ではなかったこともあります。いよいよ2024年8月9日付でPayPay株式会社が第1号の指定資金移動事業者となった旨が公表されました。

(参考)厚生労働省HP「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」

この賃金のデジタル払いの利用は必須ではなく、各企業や従業員個人の希望に沿って任意で導入できる制度です。銀行口座開設のハードルが高い外国籍従業員を多く雇用している企業にとっては待ち望んでいたニュースかもしれません。

なお、実際に導入する場合についてですが、以下の点に気をつけながら進めていけるとよいでしょう。

必要となる手続きの確認と対応

厚生労働省パンフレット」をご参照のうえ、対応漏れのないように進めていきましょう。

給与計算システムの仕様や運用フローの確認

従来の銀行口座への振込であれば基本的にどの給与計算システムでも対応可能かと思います。事前に、デジタル払いを実際に運用するための仕様・設定の面においても課題がないかについて確認しておく必要があります。

社内関係者との事前すり合わせ

給与計算後の振込対応をされるのは経理担当者となっている企業も多いと思います。デジタル払いを導入するにあたって社内の運用面で課題がないか、あらかじめ確認しておきましょう。

また、PayPay以外にもすでにいくつか資金移動事業者の指定申請がされており、現在審査中となっているものが3件あります。今後さらに選択肢も増えていくはずですが、それぞれ企業ニーズに合ったかたちで上手く利用していけるとよいですね。

トピック2:遺族年金制度の見直しについて

7月30日、社会保障審議会年金部会にて厚生労働省から遺族年金制度等の見直し案が提示されました。

厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」

そもそもこうした年金制度に関するテーマは複雑で難しいといったイメージをもっていたり、「よくわからない…」と感じていたりする方も多いと思います。

日本の年金制度の変遷をみると、それぞれの時代背景や世間のトレンドが反映されていることがわかります。そのような視点をもちながら関係する資料を読み込んでみると、より興味がもてたり理解が深まることもあるので是非参考にしてください。

そして、今回の見直し案の主なポイントは以下のとおりです。

  • 会社員等が亡くなった場合に配偶者らに支給される「遺族厚生年金」が対象
  • 現役世代で子どもがいない人の受給期間を「性別にかかわらず5年間」に見直す
  • その他、中高齢寡婦加算の段階的な廃止案などもあり
  • 見直しの意義や目的は「女性の就業の進展、共働き世帯の増加等の社会経済状況の変化や制度上の男女差を解消していく観点を踏まえたもの」
厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」図示した画像

(参照)厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」P3 一部抜粋

上記のように、今回の見直し案の背景には、時代の変化による「共働き世帯が増えていることや、性別による格差の解消」といった意図があることもよくわかります。

こうした動きについて、人事・労務業務に直接的な影響はあまりないかもしれませんが、他の法改正などにも通ずる傾向は読み取れますので、引き続き注視しておきたいトピックです。

トピック3:メンタルヘルス対策の重要なポイントについて

直近では、下記のようなメンタルヘルスに関連する内容が書かれた興味深い調査結果や資料が公表されています。こちらも是非目を通しておきたいところです。

とくに厚生労働白書については、毎年さまざまなテーマが取り上げられています。今回は「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」といったタイトルとなっているように、メンタルヘルス対策の重要性がますます感じられる内容となっています。

労働のみならず、私生活も含めたそれぞれのライフステージで感じやすいストレスや、こころの健康の大切さについても非常に丁寧な解説がされています。日々の人事・労務の実務においても、参考となるものが多いです。

また、白書で紹介されている世界保健機関(WHO)憲章の記載の訳で「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」という部分からも、企業として従業員等が体調不良になるもっと手前の段階における対応がとても重要であることがわかります。

なお、SmartHR Mag.には、同様のテーマにフォーカスしたわかりやすくて実務目線でも興味深い記事が多くあります。是非そちらもご覧いただいたうえで、企業内での施策等を検討される際に有効活用していただければと思います。

9月は来月以降にやるべきことの整理を!

トピック1:2025年1月1日~労働安全衛生関係の一部手続きが電子申請義務化へ

すでにご存知の方も多いと思いますが、労働安全衛生関係の手続きについても電子申請義務化の流れがあり、以下の案内がされています。あらためてご確認ください。

電子申請義務化の流れを案内した画像

(参考)厚生労働省「労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます」

ちなみに、この中で「労働者死傷病報告」に記載する略図についてはどうするのか?といった声も一部みられましたが、以下の説明がされています。

従前の手書きでの作成とは異なり、イラスト等の「略図」のデータを添付してください。「略図」を手書き等で作成後、携帯電話等で写真を撮ってそのデータを添付していただいても構いません。

「労働者死傷病報告」電子申請義務化の主な改正内容を図示した画像

(出典)厚生労働省「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます」

なお、SmartHRをご利用されている方については、電子申請に対応したアップデートのお知らせもすでに公表されていますのでご確認ください。

トピック2:10月は協会けんぽの被扶養者資格再確認、地域別最低賃金額の改定なども

10月に対応すべきトピックもいくつかありますので、ピックアップして以下にまとめてみました。

協会けんぽ「令和6年度被扶養者資格再確認について」

協会けんぽは10月上旬から下旬にかけて、被扶養者状況リストが事業主宛てに送付されますので、対象となる被保険者への確認とリスト等の返送作業を提出期限(11月29日)までに完了できるように準備しておきましょう。

また、組合健保に加入されている企業もそれぞれ同様の対応が求められるケースも多いです。あらかじめ対応すべき時期等も含めて確認しておくと安心です。

厚生労働省「令和6年度 地域別最低賃金の答申」

例年どおり、地域別最低賃金が10月1日以降に各都道府県労働局長の決定を経て順次発効される予定です。現在の時給がこれから確定する最低賃金額を下回っていないかのチェックだけはお忘れなく!

なお、今年の改定によって地域別最低賃金についてはいよいよ800円台の地域がなくなりました。世間的にも賃上げの動きがより加速していくなかで、採用面での競争力も考慮しながら適正な賃金設計に対応できるよう、既存業務の効率化も並行して進めておきたいところです。

人事・労務業務に求められる
「情報収集・業務効率化・新分野への対応」

今回取り上げたトピックでもおわかりのとおり、手続き等の電子申請義務化の流れは今後もますます進んでいくと予想されます。SmartHRなどの便利なクラウドシステムを上手く使いつつ、より効率化を図っていくことがさらに重要になっていくと思います。

また、「最新の法改正・トレンド等の情報収集」「既存業務の効率化・仕組化」「新しい分野への積極的かつ柔軟な対応」をそれぞれバランスよく体現することが、これからの人事・労務業務に求められる重要なポイントともいえますので、より意識していきたいところですね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。それでは、次回も是非ご覧ください!

お役立ち資料

社労士解説つき 2024年版人事・労務向け法改正&実務対応カレンダー

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