社労士が解説!今月のHRニュース2020年12月編(労働者派遣法改正、年末調整、コロナ禍助成金など)
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こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。
2020年も残りあとわずかとなりました。人事労務担当者の皆様は、年末調整をはじめ、繁忙期の対応お疲れ様でした。
今回は、2021年1月から新年のスタートを切るにあたり、見落としてはならない法改正情報や、年末年始に取り組んでおきたいことなどをテーマとしてピックアップしました。
※本稿に書かれている情報は2020年12月17日時点でのものです。最新情報については厚生労働省のWebサイトなどを参考にしてください。
2020年11月のトピックの振り返り
(1)コロナ禍対応助成金等の動向
先月のHRニュースで、雇用調整助成金の緊急対応期間が延長される見通しであることに触れましたが、2021年2月末まで延長されることが正式に決定されました。
雇用保険非加入者版の雇用調整助成金に相当する「緊急雇用安定助成金」や、会社から休業手当の支給を受けられなかった労働者が本人申請する「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」も、同様に2021年2月末までの延長が決まりました。
また、出向者に対する助成金として「産業雇用安定助成金」が新たに創設される予定です。詳細はこれから固めていく段階ですが、新型コロナウイルス感染症の影響による事業縮小等により人手が余剰となった企業から、人手不足の企業へ従業員を在籍出向させた場合、出向元と出向先の双方を支援する形の助成金になるようです。
参考:厚生労働省「産業雇用安定助成金(仮称)の創設」
雇用調整助成金も、「休業」「教育訓練」だけでなく「出向」の場合も支給対象になっていますが、雇用調整助成金は2021年3月以降は段階的に縮小予定であるため、雇用調整助成金とは切り分けてワークシェアリングを促すために「産業雇用安定助成金」が別枠で新たに設定される方向性になっているようです。
休校中の子どもの世話等で、仕事を休まざるを得ない保護者向けの「小学校休業等対応助成金・支援金」も2020年2月末まで延長となりました。
社会保険料の軽減施策である、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業で著しく報酬が下がった場合における「標準報酬月額の特例改定」については、2020年12月末までが適用期限とされていますが、その後の延長は発表されていません。
(2)2021年1月1日からの法改正情報
2021年1月1日より育児介護休業法の改正が予定されています。時間単位での子の看護休暇と介護休暇を認めることが事業主に義務化された点を把握しておきましょう。そして、これに沿って育児介護休業規程の改正を忘れずにご対応ください。
また、2021年1月1日より労働者派遣法も改正があります。改正点は4つです。
- 派遣労働者に対する雇入れ時教育訓練計画の説明の義務化
- 企業間で取り交わす派遣契約書の電子化の解禁
- 派遣労働者からの苦情の処理について派遣先事業主にも義務化
- 日雇派遣労働者に対する休業手当の支払義務の明確化
以上のとおり、根本的な改正ではありませんが、派遣労働者の保護の強化や、派遣事業の運営の利便に資する改正が行われています。
(3)e-Govのアップデート
11月24日に予定通りe-Govがアップデートされました。
筆者も実際に利用をしてみましたが、操作画面が見やすくなったことや画面遷移が少なくなったことで、アップデート前に比べ、かなり利用がしやすくなった印象を受けました。GビズIDでログインをすれば、多くの手続きで電子証明書の添付も不要になります。
ただし、会社名や従業員名、入社日、生年月日など申請情報を入力するに当たっては、「紙の申告書をそのままテキストボックス化した」という入力画面の設計思想自体は、旧e-Govから変わっておらず、この点に関しては率直に申し上げて物足りなさを感じました。
人事マスタと一体化した、わかりやすくシームレスな形で電子申請を行いたい場合には、やはり、SmartHRなどのクラウド人事労務ソフトを経由したAPI方式の電子申請に、まだまだ優位性があると考えます。
2020年12月のトピック
(1)年末調整の事後処理
年末調整の計算および従業員への精算が終わっても、会社にはまだやるべきことがあります。具体的にやるべきことは3つです。
第1は、従業員への源泉徴収票の配布です。年末調整が完了したら、会社は従業員に源泉徴収票を配布しなければなりません。一人ひとりに紙で配布するのが基本ですが、クラウドソフトを導入していれば、Web経由での配布も可能となります。
第2は、各種法定調書と法定調書合計表の税務署への提出です。従業員の給与に関する法定調書だけではなく、専門家に支払った報酬や、不動産の使用料に関する法定調書なども取りまとめ、1月31日までに所轄税務署に提出する必要があります。紙での提出だけでなく、e-Taxを経由した電子申告も可能です。
第3は、市区町村への給与支払報告書と総括表の提出です。住民税の課税のために、各従業員の居住する市区町村ごとに情報を取りまとめ、給与支払報告書(源泉徴収票とほぼ同じ書式)および、総括表(提出人数等を取りまとめた表紙)を提出する形になります。紙での提出か、eLTAXを経由した電子申告も可能です。
(2)給与計算ソフト見直しのチャンス
1月は、給与計算ソフトを見直すチャンスの月としても実務上重要です。毎年の一大イベントである年末調整をスムーズに行うためには、その年の1月から12月の給与情報が給与計算ソフトに入っている必要があります。もし年の途中で給与計算ソフトを変更した場合、変更前の月の給与情報をインポートするか、年末調整時に手計算で合算する手間が生じてしまうため、区切りの良い年始が見直しタイミングとしておすすめなのです。
Excelでの給与計算をやめて給与計算ソフトの導入を検討していたり、インストール型の給与計算ソフトからクラウド型の給与計算ソフトに乗り換えたりしたい会社様は、1月支払分の給与から給与計算ソフトを変更するように心がけてください。
給与計算ソフトの選定にあたっては、給与計算ソフトの機能自体がニーズにマッチしているかの検証はもちろん必要ですが、社内で既に導入済であったり、導入を検討している他のクラウドソフトとの相性も、重要な検討テーマとなります。
たとえば、SmartHRを既に導入済であれば、人事労務freeeやMFクラウド給与などとAPI連携をしていますので、従業員情報をワンクリックで連携させたり、給与明細を取り込んだりできます。
(3)月平均所定労働日数の見直し
月給者の時間外労働等の割増賃金の単価は、「(割増単価の基礎となる賃金)÷(月平均所定労働時間数)」で算出されます。
月平均所定労働時間数は、「その年の所定労働日数×1日あたりの所定労働時間数÷12」で計算されますが、所定労働日数は、その年の年間休日数や、「うるう年」であるかどうかによっても変動しますので、毎年のカレンダーに合わせて見直しをする必要があります。
所定労働日数をカウントする起点は、必ずしも1月1日をスタートとする必要は無く、事業年度などに合わせても良いのですが、割増単価を正しく求めて正確に給与計算するためにも、起点を定めて毎年見直すようにしましょう。
実務上は、「なんとなく」、「20日」とか「21日」と設定している会社も少なくないようですが、これまで月平均所定労働日数について、あまり深く確認してこなかった場合は、この1月1日を起点に、見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
(4)年末年始無災害運動
2020年12月1日~2021年1月15日は、年末年始無災害運動期間に定められています。
今年はコロナ禍の対応で大変な思いをした事業主や人事労務担当者の方も多かったのではないかと思いますが、最後まで無災害で年末を乗り越え、無事に新年の事業開始を迎えられるようにしましょう。
年末年始無災害運動を主宰している「中央労働災害防止協会」のWebサイトからは、指差し呼称キャラクター「ヨシだ君」のイラストやPOP等もダウンロードできますので、お目通しください。
新型コロナウイルスへの感染防止が最重要ですが、ダイニングテーブルやこたつなどでの長時間作業による腰痛、孤独感からくるメンタル疾患など、テレワークに起因する労災も増えてきているようです。
テレワークを導入している会社では、1on1面談を丁寧に行ったり、社内アンケートを行ったりするなど、従業員とのコミュニケーションを大切にし、心身の健康に気を配っていただきたいです。
人事労務ホットな小話
2020年は人事労務部門の存在感が多くの会社の中で高まったのではないかと思います。
従前、人事労務を含め、バックオフィス部門は利益を生み出さない場所と見なされてることが多かったように思います。しかし、コロナ禍において、雇用調整助成金をはじめとした助成金・補助金の申請、社会保険料の特例改定による法定福利厚生費の削減など、会社のキャッシュフローを守るために人事労務担当者が奮闘した会社は少なくはなかったのではないでしょうか。
また、お金の面だけでなく、テレワークの導入や、職場における感染防止策など、従業員を守るためにも人事労務部門は多くの対応をしてきたはずです。
その成果を改めてPRする必要はありませんが、社内外の多くの人が、人事労務部門は給与計算や手続きをする事務部門ということではなく、会社や従業員を守り、活用するといった、戦略的な顔も持った部門であると認識したのではないでしょうか。
何年か後に振返ると、2020年は、給与計算や行政手続きといった作業系のタスクはHRテクノロジーに任せ、人事労務部門の担当者は、より戦略的なタスクにフォーカスすべきという、人事労務部門の位置づけの大きなターニングポイントになった年と位置付けられるかもしれません。
人事労務担当者にとって、激動の2020年、本当にお疲れ様でございました。年末年始休暇はゆっくりと心身を休め、新年の業務開始に備えてください。
今年の3月からスタートしたHRニュースですが、年末まで続けていくことができました。読者の皆様に、改めてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。