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社労士が解説! 今月のHRニュース 2020年7月編(夏季休暇対応、標準報酬月額の特例改定、新型コロナ休業支援金など)

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目次

こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。

東京都での新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者が1日300人を超えるなど、再び国内で猛威を振るい始めました。再度自粛モードに入るべきなのか、経済活動を優先させるべきなのか、私たちは難しい選択を迫られています。

緊急事態宣言明け後には「afterコロナ」というキーワードもよく耳にしましたが、「afterコロナ」ではなく「withコロナ」がこれからの世界の現実になりそうです。

今月はそのような世相を反映し、新型コロナウイルスに関する労務トピックと、それ以外の法改正や時事テーマを交え、解説を進めていきます。

本稿に掲載されている情報は2020年7月29日時点での情報ですので、変更されている可能性があります。

2020年7月のトピックの振り返り

(1)「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」の受付開始

勤務先から休業手当が支給されない従業員に対する直接給付制度が、7月10日よりようやく受付開始となりました。

新型コロナウィルス感染症対応休業支援金・給付金(概要)

出展:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金とは

「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」という名称で、勤務先で休業があったにもかかわらず、休業手当を事業主から受け取ることができなかった従業員が対象となります。

支給される額は休業前賃金の80%(ただし上限は33万円)です。

支給申請を行うのは原則として労働者本人ですが、事業主経由で申請をすることも可能です。ただし、いずれの場合であっても、給与明細や賃金台帳等の休業開始前後の賃金を証明できる書類の添付や、休業手当を支払わなかったことについての事業主の証明が必要となります。

そのため、事業主が申請に非協力的であった場合、申請ができなかったり、支給決定までに時間がかかってしまうことが懸念されます。

このような課題は残るものの、従業員が「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」を申請することを悪意をもって妨げるような事業主は稀でしょうから、本制度の開始によって、勤務先の資金繰りの事情等で休業手当を受けることができなかった多くの人が救われると考えられます。

(2)雇用調整助成金の「オンライン申請」は再開未定のまま

5月20日から稼働を予定していた雇用調整助成金のオンライン申請は、システムトラブルにより稼働延期となり、6月5日の再稼働時においてもトラブルが発生して、再延期になったことは前月の記事でお伝えしたとおりです。

あれから1ヶ月以上経ちますが、未だにオンライン申請再開の目途は立っていません。

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金についても、オンライン申請が予定されていますが、具体的な開始日は決まっていません。

したがって、雇用調整助成金も、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金も、当面は郵送または窓口で申請をする形になります。

(3)雇用調整助成金の「緊急対応期間」は令和2年9月30日まで延長

雇用調整助成金の支給率や支給上限のアップ、支給日数の緩和、申請書類の簡素化等の優遇措置が受けられる「緊急対応期間」は、当初は4月1日から6月30日まででした。現在、この緊急対応期間は9月30日まで延長されています

なお、緊急対応期間の延長は、6月12日(金)の令和2年度の第2次補正予算の可決に合わせて決定されたものです。

(4)労働保険の年度更新と社会保険の算定基礎届

労働保険の年度更新と社会保険の算定基礎届は、例年の提出期限は7月10日ですが、皆様の会社では対応は既にお済みでしょうか。

労働保険の年度更新については、8月31日までに提出期限が延長されているので、まだ時間的猶予はあります。

しかし、1年分の全従業員の賃金を集計して労働保険料を計算して、年度更新の申告書を完成させるには、ある程度の手間と時間はかかりますので、まだ対応が済んでいない場合は、早めに着手するのがいいでしょう。

一方、算定基礎届については、提出期限は例年同様の7月10日から変更されていません。

既に7月10日は過ぎてしまっておりますので、算定基礎届をまだ提出していない場合は、早急に対応を進めてください。ただ、実務上は提出期限を過ぎても直ちに罰則が適用されたり、会社に不利益が生じるということはありませんので、この点はご安心ください。

チェックしておきたい主なHRトピック

(1)標準報酬月額の特例改定

日本年金機構より「標準報酬月額の特例改定」の制度が発表されました。

標準報酬月額の特例改定

出典:厚生労働省「標準報酬月額の特例改定について

社会保険においては、毎年7月1日~10日までの間に提出する算定基礎届に基づき、その年の9月から翌年8月の標準報酬月額が決定され、納付すべき保険料額も決まります。

算定基礎届によって定められた標準報酬月額は原則として1年間固定なのですが、基本給や通勤手当などの「固定的賃金」が増減して、標準報酬月額に2等級以上の変動があった場合、月額変更届という書類を年金事務所に提出して、標準報酬月額の臨時の改定(これを「随時改定」という)が行われます。

随時改定の対象となるためには、「固定的賃金」が変動することが要件となっていて、残業代によって総支給額が増えたり、欠勤によって総支給額が減ったような場合は対象とはなりません。ですから、新型コロナウイルスによる休業や時短勤務も、基本給が減額されたわけではないので、通常の随時改定では対象外になってしまうということです。

このままでは、新型コロナウイルスによる休業で実際の総支給額が減っている中、割高な社会保険料を払い続けることになってしまいます。

そこで国は、随時改定の特例として、新型コロナウイルスによる休業や時短勤務により総支給額が減少した場合には、固定的賃金に変動がなくとも「標準報酬月額の特例改定」の対象にすることを決めました。

「標準報酬月額の特例改定」は、2020年4月~2020年7月までの期間に、新型コロナウイルスの影響による休業や時短勤務で総支給額が減少となった人が対象となります。

詳しい要件等については、日本年金機構のWebサイトをご覧ください。

(2)夏季休暇の対応

多くの企業で、8月には夏季休暇が設けられていると思います。

例年であれば、帰省をしたり旅行に行ったりと、従業員は思い思いに楽しい夏季休暇を過ごしていたと思います。しかし、今年の夏季休暇は、新型コロナウイルスの影響により、企業の人事労務担当者も対応に頭を悩ませそうです。

企業としては、従業員の感染リスクを避けるため、なるべく「STAY HOME」をしてほしい心境であると思います。しかし、帰省や旅行が法令で禁止されているわけではありませんので、企業も業務命令として「STAY HOME」を強制はできません。

ですから、現実的な対応としては、従業員の自主性の委ねつつ、なるべく外出を控える、外出時には人混みを避けるや、マスク・手洗い・うがい等を徹底するなどの注意喚起をする形になるでしょう。

夏季休暇に入る前に行動予定表を提出してもらう、夏季休暇後に行動実績を報告してもらうなどはプライバシーとの関係から強制は難しいものの、任意に協力を求める形であれば問題ありません。

また、夏季休暇明けに本人や家族に発熱がある場合等には、出勤を差し控えるよう命じることは、企業の安全配慮義務の観点から認められると考えます。ただし、本人が新型コロナウイルスに実際に感染したという場合を除き、企業から本人への休業手当の支払は必要となります。

万が一、従業員から感染者が発生した場合は以下の記事をご参照ください。

(2)テレワーク環境下でのメンタルケア

新型コロナウイルス対応のテレワークを、対応が早かった会社では2月頃から開始していました。すなわち、半年近くテレワークが続いている会社もあるということです。

オフィスに出勤していたのが自宅での勤務となり職務環境が変化したり、長期のテレワークで孤独感がつのったりして、メンタル疾患に陥る従業員も出てきているようです。

会社として従業員にアンケートをとって状況を把握する、Zoomなどを用いて上司と部下で個別面談を行うなど、従業員のメンタルケアが必要なフェーズにあるのではないでしょうか。

なお、孤独感によるメンタル疾患は、一人暮らしの従業員だけの問題ではなく、家族と同居をしていても発症する可能性はありますし、逆に、家で仕事をすることについて家族の理解を得られなかったり、小さな子供がいる家庭では仕事に集中できなかったりといったことが悩みになるケースも少なくないようです。

(4)雇用保険の基本手当の受給要件の緩和

続きましては、新型コロナウイルス関係のトピックを離れ、法改正情報です。

勤務先を退職した際の基本手当(=いわゆる失業手当)の支給要件を緩和する法改正が2020年8月1日より施行されます。

これまで、基本手当を受給するためには、離職の日前から2年の間に雇用保険の被保険者期間が12ヶ月間以上あることが必要でした(解雇などの場合は、離職の日前から1年の間に12ヶ月間)。

被保険者期間を「1ヶ月」とカウントするためには、単に勤務先に在籍をしているだけでは足りず、賃金支払いの基礎となる日数(出勤日数に年次有給休暇等を加えた日数)が11日間以上必要でした。

しかし、働き方の多様化が進み、変形労働時間制やフレックスタイム制など、様々な形で勤務をする労働者も増えてきてます。そこで、賃金支払いの基礎となる日数が11日未満であっても、その月の労働時間が80時間以上あれば「1ヶ月」とカウントしていいという法改正が行われたのです。

この法改正により、新たに基本手当の受給対象となる方も出てくると思われますので、企業の人事労務担当者は、離職票の作成時などに法改正を見落とさないように気を付けてください。

人事労務ホットな小話

企業の人事労務担当者の皆様は、新型コロナウイルス対応の最前線に立ち、大変な日々が続いていると思います。

テレワークの環境整備、従業員の安全対策、休業手当の支給を含んだ給与計算、そして助成金や補助金の申請業務など、人事労務部門が対応しなければならなかったことは枚挙に暇がありません。

加えて、6月~7月は年度更新や算定基礎届もありました。人事労務部門の皆さんは本当に忙しかったと思います。

どうか、ご無理をなさらず、夏季休暇などにはゆっくりと体を休めてください。

おわりに

新型コロナウイルスの感染再拡大により、冒頭で述べたように「afterコロナ」ではなく「withコロナ」を前提とした対応を企業も進めなければならないことが明確になりました。また、テレワークが長期間に及び、従業員のメンタルにも注意が必要なタイミングになってきています。

これから長く続くであろう「withコロナ」の時代において、一時しのぎではなく、長期的な視点に立って、事業を見直し、また従業員のケアをしていきたいものです。

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