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適用迫る「同一労働・同一賃金」の法的な注意ポイントとは?弁護士が解説!

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こんにちは、弁護士法人ALG&Associatesの弁護士 長田 弘樹です。

働き方改革関連法のひとつである、「同一労働・同一賃金の原則」の適用開始が徐々に迫っています。

この改正において、人事が気をつけるべき法的注意点を弁護士が詳しく解説します。

「同一労働・同一賃金」の趣旨をおさらい

現在、日本における非正規雇用労働者は、全労働者の約4割を占めており、非正規雇用労働者の賃金水準は正規雇用労働者の65%程度といわれています。

これが原因で、非正規雇用労働者は家庭を築いたり子どもに教育を受けさせることが困難な状況が生じています。このような現状を是正すべく、働き方改革実行計画の中に、同一労働・同一賃金の立法化が盛り込まれました。

そこで、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パートタイム・有期雇用労働法」といいます。)が制定され、2020年(令和2年)4月1日(中小企業は2021年4月1日)から施行されます。

同一労働・同一賃金に関する法改正の概要

ポイントとしては、以下の3点です。

(1)不合理な待遇差の解消

正規雇用労働者と、非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差を解消するための規定の整備が必要です。

具体的には、有期雇用労働者と正規雇用労働者との間で個々の待遇ごとに、待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断することが明確化されます(パートタイム・有期雇用労働法8条)。

パートタイム労働者のみならず、有期雇用労働者についても、正規雇用労働者と

  • 職務内容
  • 職務内容・配置の変更範囲

が同一である場合の均等待遇の確保を義務化しています(パートタイム・有期雇用労働法9条)。

なお、派遣労働者についても、

  • 派遣先の労働者との均等・均衡待遇(派遣先均等・均衡方式)
  • 一定の要件を満たす労使協定による待遇(労使協定方式)

のいずれかを確保することが義務付けられています(労働者派遣法30条の3、30条の4)。さらに、これらの事項に関してガイドラインが整備されました。

(2)待遇に関する説明義務強化

パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者に対する待遇に関する説明義務を強化する必要があります(パートタイム・有期雇用労働法14条②、労働者派遣法31条の2④)。

(3)履行確保措置・ADRの整備

行政による履行確保措置および裁判外紛争解決手続(ADR)が整備されます。

同一労働・同一賃金に基づく均等・均衡待遇の考慮要素

同一労働・同一賃金を判断するための考慮要素としては、以下の3点があります。

(1)「職務内容」の同一性

職務の内容が同一であるといえるためには、パートタイム・有期雇用労働者と通常の労働者を比較して、業務の内容や業務の責任の程度が実質的に同一であることが必要です。

(2)「職務内容及び配置変更の範囲」の同一性

職務内容及び配置変更の範囲とは、人材活用の仕組みや運用等のことをいい、具体的には転勤の有無や昇進による役割の変化を意味します。

(3)その他の事情

その他の事情について、行政解釈では、職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、事業主と労働組合との間の交渉といった労使交渉の経緯などの諸事情が想定されています。

各種手当の個別項目の検討

【不合理とされるもの】

以下のような各種手当について不合理な待遇差が生じやすく注意が必要です。個別に見ていきましょう。

(1)時間外労働手当

前提条件として、通常の労働者の所定労働時間を超えて、通常の労働者と同一の時間外労働を行った場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(2)深夜労働・休日労働手当

前提条件として、通常の労働者と同一の深夜労働や休日労働を行った場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(3)通勤手当・出張手当

通常の労働者と同一に支給しなければ不合理とされます。前提条件は特に必要とされていません。

(4)役職手当

前提条件として、通常の労働者と同一の役職に就く場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(5)作業手当

前提条件として、通常の労働者と同一の危険性や作業環境の業務に就く場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(6)精皆勤手当

前提条件として、通常の労働者と同一の業務内容である場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(7)単身赴任手当

前提条件として、通常の労働者と同一の支給要件を満たす場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(8)地域手当・物価手当

前提条件として、通常の労働者と同一の特定の地域で勤務する場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(9)資格手当

前提条件として、通常の労働者と同一の資格を取得した場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(10)無事故手当

前提条件として、通常の労働者と同一に無事故運転を行った場合には、差異を設けることは不合理とされます。

(11)食事手当

前提条件として、通常の労働者と同一の勤務形態である場合には、差異を設けることは不合理とされます。

【不合理とされない可能性があるもの】

(1)基本給・賞与・退職金

基本給・賞与・退職金について差異を設けることにつき、改正前労働契約法20条の不合理な待遇に当たるか否かについての裁判所の判断は、結論として不合理な差異でないとしたものがほとんどです(メトロコマース事件(東京地判平29・3・23)、大阪医科薬科大学事件(大阪地判平30・1・24)など)。

これは、使用者の裁量を大きく認めていることからと考えられます。

ただし、基本給につき不合理と判断したものとして学校法人産業医科大学事件控訴審判決(福岡高判平30・11・29)、賞与につき不合理と判断したものとして大阪医科薬科大学事件控訴審判決(大阪高判平31・2・15)、退職金につき不合理と判断したものとしてメトロコマース事件控訴審判決 (東京高判平31・2・20)などがあるなど、事例判断として例外的に不合理とされる場合があるので、注意が必要です。

(2)住宅手当

住宅手当については、正社員にのみ転勤の可能性があり、パートタイム・有期雇用労働者には転勤が予定されていないような場合には、差異を設けることは可能です。

他方で、正社員もパートタイム・有期雇用労働者も転勤が予定されていない場合に、正社員にのみ住宅手当を支給することは不合理とされます。

(3)家族手当・扶養手当

家族手当や扶養手当については、有為な人材の獲得や定着を図る目的で正社員にのみ支給することは、不合理でないと判断されたものがあります(日本郵便(大阪)事件(大阪高判平31・1・24))。

(4)年末年始手当

年末年始手当については、有為な人材の長期的確保を図る目的で正社員にのみ支給することは、不合理でないと判断されたものがあります(日本郵便(大阪)事件(大阪高判平31・1・24))。

同一労働・同一賃金違反の効果

改正前労働契約法20条は、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となります。

しかし、当該有期契約労働者の労働条件が、無期契約労働者の労働条件と同一になるわけではありません(ハマキョウレックス事件(最判平30・6・1))。

ただし、改正前労働契約法20条に違反するとして、使用者に損害賠償を求めることはできます。

労働者に対する説明義務

使用者は、パートタイム・有期雇用労働者を雇用したときは

  • 不合理な待遇の禁止
  • 差別的取扱いの禁止
  • 賃金決定
  • 教育訓練
  • 福利厚生施設
  • 通常の労働者への転換

といった、雇用管理上の措置の内容についての説明義務を負います(パートタイム・有期雇用労働法14条1項)。

また、パートタイム・有期雇用労働者から求めがあったときは、

  • 待遇の相違の内容及び理由と労働条件に関する文書の交付等
  • 就業規則の作成手続
  • 不合理な待遇の禁止
  • 差別的取扱いの禁止
  • 賃金決定
  • 教育訓練
  • 福利厚生施設
  • 通常の労働者への転換

について説明しなければなりません。

【編集部より】働き方改革関連法 必見コラム特集

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