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コロナ5類移行でどう変わる? 人事・労務が対策すべき職場環境【社労士が解説】

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目次

こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

政府は、2023年5月8日から新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いを2類相当から5類へ移行する決定をしました。これに伴い、マスク着用、医療費等の公費負担、入院・外来や宿泊療養等の保健・医療体制、基本的な感染対策などが変わります。今回は、企業がウィズコロナの新たな局面で対応すべき事項について解説します。

5類移行により「季節性インフルエンザ」と同分類へ

感染症法上による分類について

感染症法では、感染症の特徴、分類の考え方により「1類」から「5類」の5つに加え、「新型インフルエンザ等感染症」、「指定感染症及び新感染症類型にあてはまらない感染症」に分類されています。感染症の分類、規定されている感染症、主な措置は次の表のとおりです。

(参考)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 - e-gov 法令検索

(出典) 第69回厚生科学審議会感染症部会(令和5年1月23日開催)資料2 - 厚生労働省

図によると、たとえば「1類」にはエボラ出血熱、「2類」には結核などが指定されており、求められる措置も細かく決められています。

1類の場合は汚染された場所の消毒、建物への立ち入り制限などがなされますが、5類についてはそこまでの措置はなされません。

2023年5月8日から新型コロナウイルス感染症は「2類相当」から「5類」に変更されます。「5類」とは、季節性インフルエンザ(毎年流行するインフルエンザ)と同じ分類です。

分類
規定されている感染症
一類感染症
エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱

二類感染症
結核、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9) 等
三類感染症
コレラ、細菌性赤痢、腸チフス 等
四類感染症
狂犬病、マラリア、デング熱 等
五類感染症
インフルエンザ、性器クラミジア感染症 等
新型インフルエンザ等感染症
新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、再興型コロナウイルス感染症
指定感染症
※政令で指定
現在感染症法に位置付けられていない感染症について、1~3類、新型インフルエンザ等感染症と同等の危険性があり、措置を講ずる必要があ
るもの
新感染症
人から人に伝染する未知の感染症であって、り患した場合の症状が重篤であり、かつ、まん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与える
おそれがあるもの

5類移行により特措法の適用外へ

「2類相当」とされていた新型コロナは、2020年3月の法改正で「新型インフルエンザ等感染症」に位置され、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)により、入院の勧告・措置、行動制限、就業制限など強い措置を取っていました。

(参考)新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令 - e-gov 法令検索

「5類」になると、感染対策は必要なものの、特措法の適用外となります。感染者や濃厚接触者の外出自粛要請、行動制限、就業制限、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置など強い措置を取ることができません。

「5類」に移行すると、新型コロナウイルス感染症における医療費等の公費負担、入院・外来や宿泊療養等の保健・医療体制、基本的な感染対策などが見直しされます。政府は十分な準備期間を設けた上で、財政措置を含め、激変を緩和するための適切な経過措置を講じながら段階的に移行していくとしています。

なお、これまでの「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」と「業種別ガイドライン」は5月8日以降廃止となります。

今後、個人および事業者は自主的な感染対策に取り組むことになります。政府は、2020年に感染対策として「新しい生活様式」を示していましたが、改めて「感染防止の5つの基本」にまとめています。

▼感染防止の5つの基本

  1. 無理せず自宅療養や医療機関受診
  2. その場に応じたマスクの着用や咳エチケット
  3. 換気、密集・密接・密閉(三密)の回避
  4. 手洗い
  5. 適度な運動と食事

(出典)アドバイザリーボード2023年3月8日資料 感染防止の5つの基本 - 厚生労働省

5類変更によって、企業が対策すべきこと

マスク着用について

マスクの着用は、個人の判断に委ねられることになりました。政府は、マスクの着用の考え方について2023年3月13日から以下を適用しています。

(令和5年3月13日から)

個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断が基本となります。

感染拡大防止対策として、マスクの着用が効果的である場面などについては、マスクの着用を推奨します。

(参考)マスクの着用について - 厚生労働省

ただし、感染拡大防止対策として、マスクの着用が効果的である場面などではマスク着用を推奨し、症状がある場合などは周りに感染を広げないためマスク着用をお願いしています。

▼マスク着用の推奨時

  • 医療機関受診時
  • 医療機関や高齢者施設などへの訪問時
  • 通勤ラッシュ時など混雑した電車やバスに乗車する時
  • 重症化リスクが高い方が感染拡大時に混雑した場所に行く時

▼マスク着用の推奨者

  • 発熱や咳などの症状がある人
  • 新型コロナウイルス感染症の検査が陽性の人
  • 同居家族に陽性者がいる人

詳しくは「厚生労働省ホームページ マスクの着用について」のページからもご覧いただけます。

マスクの着用について - 厚生労働省​

(参照)マスクの着用について - 厚生労働省

なお、事業者が 感染対策上または事業上の理由などにより、利用者または従業員にマスクの着用を求めることは許容されます。自社の対応は、内閣官房ホームページの業種別ガイドラインや見直しのポイントを参考にしながら、決定してください。

オフィス勤務におけるルールの見直し

職場では「感染防止の5つの基本」に沿った対策に取り組んでください。体温計測、手指消毒、パーテーションは基本的な感染対策として有効とされているので、引き続きの設置が好ましいと考えられます。

また、厚生労働省のホームページでは、職場における感染対策実施のため取組の5つのポイントやチェックリストを紹介していますのでご参考ください。

▼抗体検査キット

厚生労働省承認のものを従業員に配布し、社内で備蓄しましょう。「新型コロナウイルス感染症の一般用抗原検査キット(OTC)の承認情報」より参照してください。

▼来客対応

企業は基本的な感染対策のうえ、従業員に対して来客対応中のマスク着用を求められます。また、先方には感染症対策への理解を求め、体調不良であればその日の打合せなどを取りやめ、別途日程調整する旨をあらかじめ申し合わせておきます。

▼テレワーク

テレワークは、感染症対策だけでなく、ワークライフバランスにも有益な働き方として、コロナ禍で浸透しました。コミュニケーションが取りづらいなどの弊害もあり、オフィス勤務に戻った企業もありますが、従業員の働き方の改善、満足度の向上などメリットもあります。企業は、オフィス勤務とテレワークのちょうどよいバランスを見つけるとよいでしょう。

テレワークは、ルールとして就業規則への規定が必要です。テレワーク実施時には助成金が活用できることがありますので、厚生労働省などの助成金情報を確認してください。

感染時の休暇制度等の見直し

企業には、従業員の健康管理に配慮し、体調不良による休暇を取得しやすい環境を整えて、自社のルールを決めておくことが求められます。

陽性で発熱、咳などの症状がある場合や、無症状であっても陽性の場合は、療養解除のルールに従い、必要な期間自宅療養にて休ませます。

通常の病欠となりますが、年次有給休暇で対処してもよいでしょう。また、企業の任意の休暇として、年次有給休暇の時効消滅する日数を積み立てて病欠の際に使える「積立保存休暇」のような制度も検討できるでしょう。

感染が疑われる場合、テレワークか、他の人に感染させないために仕事を休むことになります。本人がテレワークなどで就業できる状態であるにもかかわらず、企業が一方的に就業を禁止するときは、休業手当として労働基準法第26条に基づき平均賃金の6割以上を支払う必要があることに注意してください。

新型コロナウイルス感染症の療養解除については、「厚生労働省ホームページ 新型コロナウイルス感染症の患者に対する療養解除基準について」のページで解説しています。

新型コロナウイルス感染症の患者に対する療養解除基準について

(出典)新型コロナウイルス感染症の患者に対する療養解除基準について - 厚生労働省

・症状がある方

症状が出た日から7日経過し、かつ、症状が軽くなってから24時間以上経過している場合に、検査することなく仕事に復帰できます。

・症状がない方

検査した日から7日経過し、8日目に療養解除できます。検査した日から5日目に検査キットにより陰性だった場合は、6日目に療養解除が可能です。

また、コロナ禍で、ワクチンを接種する時間やワクチン接種後の発熱した日などを休暇とする「ワクチン休暇」を取り入れた企業もありました。ワクチン接種は今後見直しされる可能性もありますが、新たな感染症が発生したときにも対応できますので、現行のまま規定しておくとよいでしょう。

30社の人事の方に聞いてみた

めまぐるしい働き方の変化を迎えるなか、さまざまな対応に追われた担当者の方も多いのではないでしょうか?

SmartHR 人事労務研究所 所長の副島さん、SmartHRユーザーが集うコミュニティ、「PARK online」にて29名の方からアンケートにご回答いただきました。当事者である人事・労務担当の方々に、現在検討していることや考えを伺いましたのでぜひご参考ください。

懇親会などの福利厚生制度の見直し

企業主催の懇親会、社員旅行、運動会などの福利厚生制度、取引先との接待などは、個々の企業の判断となります。従業員同士の飲み会は原則制限しない方向になります。

しかし、飲食を伴う場合は感染リスクが高まるため、今後も新型コロナウイルス感染症の感染状況などを見ながら、実施の検討や自粛要請をすることになります。

プライベートでの行動は企業が制限できないため、従業員自身で「感染防止の5つの基本」にもとづいた感染対策を講じて行動するよう伝えます。感染拡大時に忘年会、新年会、帰省などで普段会わない人と接触する場面では、特に注意するように周知しておきたいところです。

各種助成制度、労災などの確認

▼雇用調整助成金

コロナ禍で休業を余儀なくされた多くの企業が活用した雇用調整助成金ですが、コロナ特例が2023年3月31日で終了します。2023年4月以降は、通常の雇用調整助成金の制度となります。コロナ特例を利用した企業は、1年間のクーリング期間(雇用調整助成金を利用できない期間)が必要となります。詳細は、厚生労働省の情報を確認してください。

なお、雇用保険被保険者でない労働者を対象とした緊急雇用安定助成金も2023年3月31日で終了となります。

(参考)雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)- 厚生労働省

(参考)厚生労働省 雇用調整助成金の特例措置(コロナ特例)の経過措置については、令和5年3月31日をもって終了します。 - 厚生労働省

▼小学校休業等対応助成金

新型コロナウイルス感染症により子どもの小学校などが休業となったため休まざるを得なかった従業員に対し、有給の休暇を付与した事業者に助成されましたが、この助成金も2023年3月31日で終了となります。

2023年4月以降は両立支援等助成金(育児休業等支援コース 新型コロナウイルス感染症対応特例)を設ける予定とのことですので、発表後に厚生労働省ホームページで詳細を確認してください。

▼新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

新型コロナウイルス感染症やまん延防止の措置の影響により休業させられたものの、休業手当が支給されない従業員を救済するために新たに設けられた給付金制度です。この制度も、2023年3月31日で終了となります。

▼労災保険料メリット制の増額免除の特別措置は終了

企業が感染防止対策をしたとしても完全に感染を防ぐことが難しいため、これまでコロナ労災分を除外して、メリット制による労災保険料の増額を免除していましたが、この特例措置が終了されます。なお、業務上、新型コロナウイルス感染症に感染した場合、労災保険から給付されることに変更はありません。

感染症の状況に合わせて柔軟に対応しましょう

今後、個人も企業も自主的な感染対策が基本となります。新型コロナウイルス感染症の感染状況によっては制限が強化される可能性もあることから、常に新しい情報にアンテナを張って感染対策を進めましょう。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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