社労士が解説! HRニュース 2022年8月振り返りと2022年9月のポイント

2022.08.31 ライター: 特定社会保険労務士 榊 裕葵

まだまだ暑いですが、秋の足音が近づいてくる時期になりました。9月も8月に引き続き、人事・労務関係の定例業務は少ない時期ですが、10月1日からの最低賃金の引き上げや、育児介護休業法の法改正などに向けた準備が必要となります。そのような時事的なトピックを中心に、今月のHRニュースをまとめましたので、ぜひご一読ください。

2022年8月のトピックの振り返り

(1)新型コロナウイルス感染再拡大

新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、全国で感染者数や死亡者数が過去最多を更新し、予断を許さない状況が続いています。一方で、コロナ禍が長期化するなかで、以前のように自粛一辺倒ではなく経済活動との両立も求められ、企業としても難しい判断を迫られています。

感染者が増えるなか、各企業においても、従業員の感染に伴う健康保険の傷病手当金や労災保険の給付申請が増えているようです。人事・労務担当者に負荷が集中するようであれば、一時的にサポートをつけるなどして、申請件数の増加によって過重労働とならぬように配慮したいものです。

また、感染者や濃厚接触者の増加により、出勤している社員に業務が集中して残業時間が増えていないかなど、社内全体をしっかりモニタリングしていく必要があります。

(2)名古屋高速バス炎上事故の教訓

8月22日にショッキングなニュースが飛び込んできました。名古屋高速を経由して名古屋空港に向かっていた大型バスが、横転し炎上するという大事故が発生し、運転手を含む2名が亡くなりました。事故原因はまだ特定されていませんが、運転手の急病である可能性も指摘されています。

業種によってリスクの内容は異なると思いますが、皆さまの会社では、このような従業員の急病によって突発的に発生するリスクへの対策はできているでしょうか?

私見としては、大きくは3つのアプローチがあると思っています。

第1は「健康管理の徹底」です。法定の健康診断を確実に行うことはもちろんですが、職務内容に応じ、上乗せで行ったほうがよい健診やチェックなどをできる限り徹底することです。そして、本人が体調の異変の予兆を感じたときには、気兼ねなく申告できる職場の雰囲気をつくっていくことも大切でしょう。本人に業務を全うしなければならないプレッシャーがあり、無理をして大事故につながったというようなことは避けなければなりません。

第2は「安全装置などのハード面での対応」です。運転手が急病により運転不能になった場合、乗客が客席からブレーキを掛けられるシステムや、自動車自体が異常運転を検知して非常停止するシステムなどはすでに実用化されています。現在はIoTなども普及し、さまざまな形でハード面からの安全対策が可能になっていますので、自社に合った安全対策をぜひ検討してみてください。

第3は「保険加入」です。人的対応、ハード面での対応を通じて事故を起こさないことは大前提ですが、不幸にも事故が発生してしまった場合、企業には賠償責任が生じます。企業として、発生させてしまった事故に対する社会的責任を果たすためには、やはり金銭賠償を確実に履行することが肝要となります。「施設賠償責任保険」「請負業者賠償責任保険」など、自社の事業内容に応じた賠償責任保険に加入することは必須といえるでしょう。

(3)社会保険適用拡大

前月のニュースレターでもお伝えしたとおり、10月1日から、週20時間以上の勤務者に対する社会保険の加入義務が「従業員数100名超の企業」に適用拡大されます。

対象となる企業には、8月中に日本年金機構から通知書が届いていると思います。該当する場合は、新たに社保加入となる短時間労働者について、10月1日付で、社会保険の資格取得届を所轄年金事務所または事務センターに提出するようにしてください。

なお従来は、週20時間以上勤務かつ「1年以上継続雇用の見込みがあること」が社保加入の要件とされていましたが、10月1日からはこの要件が廃止され、通常の社保加入者と同様、「2か月以上雇用継続の見込み」があれば加入義務の対象となりますので、この点もご注意ください。

2022年9月のトピック

(1)上半期の最終月

4月1日を事業年度の開始日としている企業は、9月は上半期の最終月となります。経営軸では、上期業績を総括したり、下半期に向けての事業計画を見直しているところではないかと思います。

人事・労務面においても、事業年度とあわせて4月1日を有給の一斉付与日としたり、36協定上の年度開始日としている企業も少なくないはずです。「有給休暇の5日取得義務の達成度合い」、「36協定の年間ベースでの上限到達や特別条項を発動できる残回数」といった、労務管理上の指標についても確認して、下半期における労務管理の目標設定に活かしていきたいものです。

(2)最低賃金引き上げ対応

毎年10月1日(一部の都道府県では10月上旬の別日)から、最低賃金が引き上げられます。今年は、過去最大の全国平均31円引き上げが予定されており、東京都であれば、現在1,041円が最低賃金であるところ、引き上げ後は1,072円となります。

コロナ禍の影響も続き経営側には厳しい環境ですが、目下の物価高などの影響を考慮して、政府は大幅な最低賃金アップに舵を切りました。

これを受けて、各企業においても、引き上げ後の最低賃金を下回る従業員がいないかのチェックが必要となります。

時給者はもちろんですが、月給者においても、月給を月平均所定労働期間で除して、時給換算した単価が最低賃金を下回ってはなりません。なお、月給者の最低賃金計算にあたっての注意点ですが、通勤手当や家族手当など一定範囲の手当は最低賃金の計算から除外となります。また、固定残業代を含め、各種割増賃金も最低賃金の計算の基礎からは除外されます。

(3)育児介護休業法改正

10月1日から、2022年2度目の育児介護休業法の改正法が施行となります。

前回の4月1日改正では、非正規雇用者への育休適用拡大や育児休業などを取得しやすい環境整備や情報提供などが改正の中心でした。

今回の10月1日改正では、男性労働者が通常の育児休業とは別枠で取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)」の新設と、これまでは配偶者の死亡など特別な事情がない限り、1児につき1回限りであった育児休業が、無条件に2分割して取得できるようになることの2点が改正のポイントとなります。

人事・労務担当者としては、改正内容を把握したうえ、育児介護休業規程のアップデートや社内への周知などを9月中に行う必要があります。

(4)キャリアアップ助成金の支給要件厳格化

勤続6か月以上の契約社員などを正社員に転換した場合、対象者1人につき57万円または72万円(大企業は42万7,500円または54万円)が支給されるキャリアアップ助成金は、長期にわたり厚生労働省系の助成金の中心的存在で、多くの企業が活用してきました。

これまでも年々支給要件は厳しくなっていましたが、2022年10月1日以降の正社員転換者については、これまでにないほど要件が厳しくなります。

具体的には、従前の要件に加えて下記の3点が求められるようになります。

  1. 正社員転換後に定期昇給制度が適用されていること
  2. 定期賞与制度または退職金制度が適用されていること
  3. 転換前に対し、明確な待遇差(労働条件の違い)があること

厚生労働省は、助成金のためだけに最初の6か月を無理矢理契約社員にするような、本来の趣旨とは異なる助成金の申請を排除し、本当の意味でのキャリアアップ制度を構築した企業だけに、助成金の支給対象を絞り込みたい意図があると思われます。

これまでキャリアアップ助成金を活用していた企業は、自社の就業規則などがそのままで新しい支給要件を満たしていれば問題ありませんでした。しかし、そうでない場合は、就業規則などの見直しをするか、キャリアアップ助成金から撤退するかの判断が必要になってくるでしょう。

(5)防災の日・防災週間

9月1日は1923年に関東大震災が発生した日であり、防災の日とされています。また、8月30日から9月5日は防災週間です。

コロナ禍により、避難訓練を中止している企業もあるかと思います。また、テレワークを導入している企業では、テレワークを前提とした防災対策や安否確認の仕組みなどは構築されているでしょうか?

コロナ禍とはいえ、いつ大規模な天災が発生するかはわかりません。リアルな避難訓練を実施できない場合であっても、資料配布やVTRなどによって「避難経路や災害時の対応の確認」や、テレワークであれば「自宅の作業スペースで本棚が倒れたりするなどの危険がないか」、「非常食・飲料水の備蓄があるかを確認する」など、それぞれの企業、それぞれの個人ができる範囲で、この機会に防災対策を行いたいものです。

人事・労務ホットな小話

10月1日からの最低賃金引き上げや、週20時間以上労働者に対する社会保険加入義務が従業員数100名超の企業にまで適用拡大されるなど、企業が負担しなければならない人件費はどんどん増加しています。

企業が負担できる人件費には限りがあるので、売り上げが増加したり、キャッシュフローが改善しなければ、昇給の抑制や賞与の不支給、人員削減など、ネガティブな方向に進まざるを得なくなってしまいます。

直接的な意味で売り上げをアップさせるのは営業部門、キャッシュフローを改善させるのは財務部門のタスクかもしれません。

しかしながら、人事・労務部門も「従業員のモチベーションアップ・離職率低下による採用コスト削減・業務効率化・利用度の低い福利厚生施設やサービス廃止」など、売り上げやキャッシュフローに対し側面支援できることは少なからずあるはずです。

人事・労務担当者も、自分の業務に対して財務的な視点を意識的にもつようにすると、見えてくるものがまた広がってくるのではないかと思います。

まとめ

今年の9月は、10月1日からの大幅な最低賃金の引き上げ対応、社会保険加入適用拡大、育児介護休業法改正など、人事・労務担当者にとっては、各種準備対応や情報収集で忙しくなりそうです。そしてそれと並行して、傷病手当金申請などのコロナ対応も重なり、人事・労務担当者はかなりタイトな状況の方が多いのではないかと思います。

無理をせず、ご自身も健康に気をつけながら、この9月を乗り切ってください。

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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