パフォーマンスと定着率向上「2つの視点」。チームの関係性構築方法とは|Smart相談室セミナーレポート
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この記事でわかること
- 従業員のパフォーマンス・定着率向上に関する理論や施策
- 1on1や人事データ活用など有効な施策
- 「心理的安全性の機能する環境」などマネジメントの注意点
目次
3月26日に「従業員の離職防止とパフォーマンス向上」をテーマに、「データ活用で考える従業員のパフォーマンスと定着率を向上するチームの関係性構築」と題したセミナーが開催されました。本セミナーでは、組織・人事領域でのデータ分析・コンサルティング事業を展開する株式会社ビジネスリサーチラボ・代表取締役の伊達 洋駆さんをお迎えし、リテンションマネジメントの理論と実践すべき施策についてお話しいただきました。
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。
チームを構築する「タテとヨコの関係」とは
「チームの関係性」には、「タテの関係」と「ヨコの関係」があります。「タテの関係」というのは上司との関係です。これは良好なほうがよいですよね。
一方で「ヨコの関係」は同僚など、水平的な関係のことを指します。チームの関係には、「タテの関係」と「ヨコの関係」の両方があると理解しましょう。この2つの関係構築が今回の大きなテーマとなります。
上司・部下の「タテの関係」
学術的には、タテの関係を「LMX(Leader-Member EXchange)」と呼び、上司と部下の関係性の質を指します。
LMXについて、具体的にイメージするために、以下の3つの質問から上司と部下の関係性について振り返ってみましょう。
- 上司は、私のニーズを理解している
- 上司は、自分を犠牲にしてでも、私を助ける
- 上司がいなくても、上司の判断を擁護する
上司・部下の関係性はペアによって異なりますが、部下から見て、この3つに当てはまれば、タテの関係は良好であるといえるでしょう。
また、タテの関係が良好であれば、部下が離職しようと思いにくく、仕事のパフォーマンスが高い傾向もあります。タテの関係性のよさは、部下のパフォーマンスや定着率などにも影響を与えるのです。
メンバー間の「ヨコの関係」
もう一方のヨコの関係ですが、メンバー間の関係性が良質であることを、学術的に「TMX(Team-Member Exchange)」と呼びます。
TMXについても職場の同僚を想像して、具体的にイメージしてみましょう。
- メンバーは私のニーズを理解している
- 忙しいときはメンバーを積極的に助ける
- メンバーは私の仕事を喜んで手伝う
上記の3つに当てはまる場合は、TMXは良好な状態です。ヨコの関係であるTMXも、パフォーマンスと定着率に好影響を与えることがわかっています。
TMXが高いほど、メンバーのパフォーマンスが高かったり、メンバーが離職したいと思わない傾向があります。
チームの関係性を考えたときに重要なのは、「タテの関係とヨコの関係の双方が良好である」ことです。では、タテとヨコのそれぞれの関係を高めるためには、どのような施策があるのでしょうか。
タテの関係を高める「上司がやるべき5つの施策」
タテの関係を良好にしていくためには、「部下側の要因」と「上司側の要因」の対策がそれぞれ必要になります。
部下側の要因:ポジティブな感情
LMXが高い傾向にあるときの部下側の要因は、「部下の能力が高い」「部下がポジティブな感情を示している」などがあげられます。
たとえば、部下が熱心に仕事に取り組んでいたり、あるいは楽観的に振舞っていたりと、ポジティブな感情を示しているような場合です。そして、部下がネガティブな感情を示していない状態です。部下が疲労感や不安感を示していると、タテの関係はよくなりません。
ポジティブな感情をもってもらうためには、感情のマネジメント支援が有効になるわけです。「能力開発」と「感情のマネジメント」の2つが、部下に対する対策として考えられます。
上司側の要因:リーダーシップの発揮
一方で、上司側にも要因があります。上司・部下の関係をよくするためには、上司がリーダーシップを発揮することが重要になります。たとえば、よいことをしたら褒めて、悪いことをしたら指摘するというリーダーシップですね。また、目標を掲げて部下の意欲を高めるようなリーダーシップも、LMXは高くなります。
また、上司が部下の成功を期待しているほど、LMXは高い傾向があります。つまり、「部下に成功して欲しい」と上司が思っていなければ、タテの関係はよくなりにくいわけです。
以上の研究知見を参考にすると、上司は部下に対して以下のような働きかけを行うとよいでしょう。
- 魅力的な職場目標の立案
- 部下の気づきを促すような声掛け
- 部下一人ひとりの事情への配慮
- 部下が高い成果をあげた際の賞賛
- 部下への期待の表明
このような「上司から部下への積極的なコミュニケーション」が、タテの関係を良好にするカギとなるのです。
ヨコの関係を構築する3つのポイント
ヨコの関係を良好にするカギは「理解しようと思う環境づくり」と「感情のマネジメントの促進」と研究結果から判明しています。この2つを分解しながら、関係構築に必要な3つのポイントをご紹介します。
ポイント1:中長期的でのチーム構築
当たり前のことですが、一時的よりも長期的なチームになるほど、お互いに情報を共有したり、助言したりする意味が生じます。そして、長期間続くチームのほうが、そのメリットが大きくなるのです。
そのため、長期間のチームのほうが、対人関係にメンバーが労力を投じようとする傾向があります。その結果、ヨコの関係がよくなります。つまり、一時的なチームではなく、中長期的なチームのほうが、メンバー間の関係性はよくなるのです。
ポイント2:難しい課題にチームで取り組む
また、難しい仕事に取り組むほど、ヨコの関係がよくなる傾向もあります。
たとえば、革新的な仕事や、複雑・挑戦的な仕事に複数のメンバーが携わることで、チーム内でコミュニケーションを図る必要が出てきます。コミュニケーション量が増えた結果、次第に関係性が良好になるわけです。そのため、長期的なチーム編成や、難しい課題への取り組みが重要です。
チームメンバー同士が「お互いに理解しないと駄目で、理解したい」と思える環境をいかにデザインするかがポイントになります。
ポイント3:一人ひとりの感情マネジメント
そしてもう1つが「感情」です。自分と周囲の感情を察知したり、相手の感情の変化を読み取ったりする。また、自分の感情コントロールも含めた「感情のマネジメント」がヨコの関係を高めていくうえで大事になります。
感情のマネジメントについては、研修なども有効であることがわかっています。
感情のマネジメントがタテ・ヨコの関係を向上させる
「タテの関係」と「ヨコの関係」には、「感情」という共通点があります。感情のマネジメントに成功すれば、チームの関係性はタテもヨコもよくなる傾向にあるのです。しかし、タテとヨコには、関係性を構築する要因に相違点もあります。
タテの関係は、上司と部下の1対1の積み重ねで構築されます。そのため、上司と部下がお互いに歩み寄ることを促す施策が効果的です。
その一方で、ヨコの関係は、チーム内のメンバーも含めた多様な関係性のため、複雑になります。人数が多い場合は、歩み寄るのが難しくなるわけです。そのため、お互いに理解したいと思える環境のデザインや、理解しなければならないような環境整備が求められるのです。
関係向上の第一歩は「組織サーベイによる現状把握」
今回紹介した要因や施策は、あくまで学術研究の知見であって一般傾向です。おそらく、多くの組織でも広く当てはまると思いますが、それぞれの組織で状況が異なる可能性があります。まずは自社について、組織サーベイなどで、現在のチームの関係性と、良好にするための要因を調べてみましょう。そのうえで、各種対策を講じていただければと思います。
「心理的安全性」もパフォーマンス向上に寄与
「心理的安全性」も、チームの関係性を表す概念の一つで、「対人関係のリスクを取っても問題ないと思うこと」を指します。以下の内容が当てはまれば、その組織は心理的安全性が担保されていて、チームの関係性は良好であるといえるでしょう。
- チーム内で問題提起できる
- リスクを冒しても安全であると思える
- 異なる意見を述べても拒絶されない
この心理的安全性にも、
- 心理的安全性が高いチームほど仕事のパフォーマンスが高い
- 会社に愛着をもって働ける
- 仕事や会社に対する満足度が高い
など、パフォーマンスや定着率に寄与することが判明しています。
上司への相談しやすさが「心理的安全性」を高める
心理的安全性を高めていくためには、「マネージャーの立ち振る舞い」がカギとなります。
具体的には、「困ったときに相談しやすい上司がいる」と心理的安全性が高まります。相談しやすい上司のことを「インクルーシブ・リーダーシップ」と呼びます。インクルーシブ・リーダーシップが高いほど、心理的安全性が高まるのです。
定期的なヒアリングでメンバーの心理的安全性の高める
皆さんの上司は相談しやすいタイプですか。また、部下がいる方は、部下から相談しやすいと思われていますか。「何でも相談して」と部下に言っても、部下からすれば相談しにくいケースもあるでしょう。インクルーシブ・リーダーシップを高めていくために、相談の時間を定期的に設けるとよいでしょう。
たとえば、月に1回個別面談を実施したり、ミーティングで部下の意見を聞く時間を取ってみてはいかがでしょうか。そうすると、部下は、自分から上司に提言することに慣れていくでしょう。
また、部下の意見に感謝するのも非常に重要です。感謝を伝えることで、部下は「この上司に対しては何でも言える」「相談しても大丈夫」と思えるわけです。
さらに、実際によいアイデアを取り入れ、そのことを部下に説明しましょう。このように相談しやすい環境の整備が、チームの関係性を高めていくことにつながります。
質疑応答
Q1. チームの関係性を計測する方法はどういったものがあるのでしょうか。
組織サーベイで測定できます。一例として、前述したLMXの項目が活用できるでしょう。
- 上司は、私のニーズを理解している
- 上司は、自分を犠牲にしてでも、私を助ける
- 上司がいなくても、上司の判断を擁護する
実際には、他にもさまざまな視点からの項目が必要ですが、簡易版として使えます。ヨコの関係性(TMXと心理的安全性)についても、それぞれ講演の中で示した3つの項目をご活用ください。
Q2. 社外の人を巻き込んで、チームの関係性をよくしていけるでしょうか。
もちろんできます。たとえば、感情のマネジメントについては、研修を提供している会社があると思います。
ただ、より本質的には、タテの関係もヨコの関係もコミュニケーションの頻度や量を増やすことが大切なので、社外の協力を仰ぎながらも、最終的には社内に働きかける必要があります。
とくに重要なコミュニケーションが「仕事の価値観」です。仕事を進めるうえで、大切にしている価値観に関するコミュニケーションを交わすと、お互いに関係は良好になります。
Q3. お互いに理解したい環境づくりのためには、ある程度のチームメンバー同士のコンフリクト(対立・衝突)もやむなしと考えるべきでしょうか。
これは実は難しいところなのです。心理的安全性に関して「お互いに意見をぶつけ合ったほうがよい」との議論もありますが、半分は正解で、半分は不正解と理解する必要があります。
コンフリクトが有効なのは、経営陣のような意思決定の質が重要なチームです。最終的な意思決定の質が高まるため、意見のぶつかり合いは重要になります。
裏を返すと、それ以外の多くのチームでは、コンフリクトはパフォーマンスや関係性に対しても、ネガティブな影響を及ぼします。意見のぶつかり合いは、よいように思えますが、効果的ではないケースもあるのです。そのため、まずは仲よくなるというアプローチで進めていかれるのがよいかと思います。
Q4. 承認欲求の強い方が増えているような気がします。そのような方をあまり調子に乗らせない褒め方、たしなめ方はありますか。
人は「自分の貢献を認めてもらいたい」と多かれ少なかれ感じています。それぞれの人に、自分を認めてほしいという気持ちがあるのだとすれば、私は基本的には認めるほうがよいと思います。
相手がどのように行動しているかを観察し、よかった行動を記録してフィードバックしましょう。「このときの行動がとてもよいと思った。なぜなら、こんなところにつながったから」と、具体的に褒めることが大事です。「なんとなくよかった」ではなく、具体的に「この行動がこの理由でよかった」と伝えると、その行動をまた再現しやすくなります。
Q5. 悪いプレゼンス(影響力・存在感)の上司は、タテの関係を構築できないのでしょうか。
LMXは、上司・部下の組み合わせによって結果が異なります。たとえば同じ上司であっても、部下が違うとLMXの高さも異なるのです。上司と部下で関係がよいペアもいれば、相性によっては、あまり関係性がよくない場合もあります。上司と部下の組み合わせに気を配る必要があるかと思います。
Q6. 上司の感情が不安定な場合に、部下にできることはありますか。
まず部下としてできるのは、「能力を高めること」と「ポジティブな感情の意識」です。
理想的には、上司の方に感情のマネジメントに関する知識を身につけていただきたいところです。なかなかそうも言っていられない場合には、「ナナメの関係」を意識してみてはいかがでしょうか。
たとえば、別の部署のマネージャーとの関係を構築するということです。そうした方にメンターになってもらったり、相談に乗ってもらったりする「ナナメの関係」をつくりましょう。
Smart相談室について
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お役立ち資料
休職・離職を防ぐために「組織」と「個人」両軸での対策が必要な理由
メンタルヘルスケアに関して、4割以上の企業が対策に取り組めていない現状があります。各業界で人材不足が叫ばれるなか、休職・離職につながるメンタルヘルス不調への対策は必須です。本冊子では、「休職・離職の原因」と「“組織と個人“両軸のアプローチによる防止策」、その具体的な方法を紹介します。
【こんなことがわかります】
- 休職と離職の要因と改善のポイント
- 「組織」の課題にアプローチするSmartHR従業員サーベイの概略
- 「個人」の課題にアプローチするSmart相談室の概略