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メンバーも一緒に育つ。ファーストラインマネージャーの人材育成

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現場に最も近いポジションで組織を支えるファーストラインマネージャーはチームの成果を左右する重要な存在。いかに成長を促すのかは多くの企業が直面する課題です。

株式会社SmartHRではファーストラインマネージャーにあたるチーフ育成の取り組みを2024年ごろから本格化。メンバー層も巻き込みながら施策を試行錯誤してきました。

チーフ育成の背景や大切にしている考え方、これまでの施策成果などを担当者のお二人にお話を聞きます。

役割の曖昧さや孤独。スケールアップ期のチーフ育成課題

はじめに、SmartHR社のファーストラインマネージャーにあたる「チーフ」の役割を教えてください。

井上

SmartHR社のチーフは、一般的な係長や課長と同等のポジションにあたります。メンバーの最小単位である「ユニット」を取りまとめ、現場で直接メンバーをマネジメントしています。現在およそ200名のチーフがおり、来年には300名を超える見込みです。

会議室でインタビューに答える井上さんの様子

チーフ育成に本格的に取り組みはじめた背景は?

井上

背景には、SmartHR社の経営方針があります。

以前より、さらなる事業成長に向けて組織能力の向上は重要課題と認識されてきました。2023年の全社キックオフではマネジメント力の強化を重視する方針が発表され、同年7月には「人材育成部」も設立されました。

また、この時期は年間200〜300名の新入社員が加わり、組織規模が急速に拡大していました。社員が増えるほどユニットが増え、それらを束ねるチーフの必要性も高まっていったのです。

事業や組織の急成長のなかで必要性が増していたのですね。当時、チーフの育成についてどのような課題を感じていましたか?

井上

大きく2つの課題がありました。

1つは、チーフの役割の曖昧さです。チーフの役割は部署やユニットの現場業務によって最適化されるものです。チームの特徴によって、人材育成に注力するチーフもいれば、目標達成に全力投球するチーフもいて、それぞれがあり方を模索している状況でした。

この状況自体は悪いことではありませんが、人事としてチーフには共通して「チームの成果を最大化する」役割を担ってほしいと考えています。具体的には、メンバーの目標設定や達成支援、評価、フィードバックについて一定の基準を揃える必要があると考えました。これはチーフ自身が任命後に何を期待されているかを明確に理解するうえでも重要です。

また、チーフ同士の交流が少なく、同じ悩みが発生していた点も課題でした。たとえば「1on1でメンバーと何を話せばいいかわからない」「会話が雑談だけで終わってしまう」「適切なフィードバックができない」といった悩みは、多くのチーフに共通していました。

マネジメント「する側」と「される側」の両方にアプローチ

これまで実施してきた施策について教えてください。

井上

最初に着手したのは、チーフ任命時の育成です。チーフの新任時の研修プログラムを見直し、内容を拡充しました。

それまで実施していた人事制度の説明やフィードバック講習に加えて、チーフが必ず実施する「目標設定・1on1・フィードバック・評価・勤怠」を研修の範囲としました。また、学びを確実に定着させるため、「学習・実践・ふりかえり」のサイクルを導入しています。

具体的な内容は以下のとおりです。

講習の種類
主な内容
任命時講習
​新たな役割に向けたセットアップ + 人事制度に関するインプット
フィードバック講習
日常および、評価で行うフィードバックの基本を解説
ピープルマネジメント講座 入門編
​1on1の実施方法について解説
目標設定講習
メンバーの目標を設定するための一連の知識をつけ、実践する

新任時研修に加えて、チーフのコミュニティづくりも試験的に始めました。これは、チーフ同士の横のつながりが希薄で、同じ課題が再生産される状況を改善するための取り組みです。

具体的には、フィードバックについての意見交換会や、新任研修の受講者同士での修了時のカシュ(*)などを実施していました。

※SmartHRの福利厚生の一環。 18:30以降になるとオープンスペースでフリーアルコールを楽しむことができる。

まずは、新任チーフの育成支援に注力したのですね。

井上

その後、渡邊さんもチーフ育成に参画し、一緒に方針を策定。大きく以下の3つの項目に沿って取り組みを進めてきました。

領域
目的
スキルアップコンテンツの拡充
  • 「目標設定・1on1・フィードバック・評価・勤怠」以外に必要なスキルを学べるようにする
  • 既存チーフも研修を受けられる環境を整える
チーフコミュニティの運営本格化
  • チーフの横のつながり強化によるチーフの学習機会の提供
メンバーへのフォロワーシップ・アプローチ
  • チーフとメンバーが同じ認識のもとにコミュニケーションでき、「組織として成果をあげる」ことを全員が考えられる状態を目指す

「メンバーへのフォロワーシップ・アプローチ」は、既存の取り組みにない要素ですね。

渡邊

フォロワーシップアプローチは、小林祐児さんの『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』から取り入れました。

管理職の部下となるメンバー層へのトレーニングを充実させるアプローチです。対話の仕方やフィードバックの受け方、目標設定のやり方などをメンバー側も学ぶことで、管理職とメンバーの間に共通のコミュニケーションの土台を構築することを目指します。

このアプローチがSmartHR社に有効だと考えた理由の1つは、中途採用者が多く、メンバー層のチーフへの期待に幅があったためです。前職では、スタートアップで自律的に動くのに慣れている人もいれば、チーフのマネジメント範囲を広く捉える人もいて、この認識を合わせていく必要があると考えていました。

会議室でインタビューに答える渡邊さんの様子

井上

加えて、新任時研修を策定している頃から、チーフとメンバーのコミュニケーションをよりよくすることが重要だと考えていました。

組織の規模が大きくなるほど、コミュニケーションラインはどんどん増えていきます。チーフとメンバーに限らず、メンバー間のコミュニケーションの質が向上すれば、課題が減り、一人ひとりが業務により集中できるはず。チーフの負担も軽減される。コミュニケーションラインの整備は根底にある課題だと捉えていました。

具体的には、どういった施策に取り組んでいますか?

渡邊

中途採用の新入社員に向けて、社内の職種構成や人材育成の方針を説明するオリエンテーションを実施しています。

SmartHRの人材育成の軸や具体的な施策、根底にある社員の主体性への思いなどを伝えています。

また、目標設定講座をチーフだけでなく新入社員にも提供しています。メンバー自身が目標とゴールを明確にできるよう、まずは新入社員から支援を始めています。

井上

今後は全社員がそういった「全社で常識としたい研修」受講できるように、学習管理システムを整えることも予定しています。

チーフのコミュニティは、どのように発展しているのでしょう?

渡邊

コミュニティは活動が数か月停滞してしまったのもあり、現在、リニューアルを進めているところです。

社内コミュニティの運営に詳しいメンバーに相談し、目的と活動計画を見直しました。再始動に向けて、まずはチーフ同士が集まる楽しさや安心感を感じてもらうため「中間評価お疲れ様カシュ」を開催。あえて「チーフコミュニティ」という名称は使わず、チーフ同士が自由に交流できる場を設けました。

今後は数か月に1度程度の頻度でチーフ向けのイベントを開催する予定です。将来的には、チーフ同士が主体的に運営するコミュニティに育てていきたいと考えています。

“やらされ感”のない成長施策をどのように届けるのか?

施策を進めるなかで感じている課題はありますか?

井上

スキルアップコンテンツの拡充については、チーフの業務負担とのバランスが課題です。新任時のコンテンツが増えると、単純にチーフの業務量が増加します。チーフが納得感して取り組める内容になっているか、現場のチーフの声も聞きながら改善を重ねていきたいです。

会議室でインタビューに答える井上さんの様子

渡邊

新入社員向けの人事オリエンテーションや新任チーフ向けに作ったコンテンツを、既存の人たちまでどのように全社に広げていくのかも課題です。VPoHRの宮下さんからも全社への浸透方法もぜひ検討してほしいと意見をもらっています。

この課題に対しても、人材育成部だけで考えるのではなく、組織人事やHRBP、チーフコミュニティに来たメンバーからも幅広く意見を集めています。現場理解を深めることが、課題解決の鍵になると考えています。

ニーズや課題理解を積極的に深めているのですね。研修の効果測定はどのように実施していますか?

井上

個別の施策について、アンケートによる効果測定を行っています。一方、学びの定着度を確認するには、長期的な視点で「実践できているか」を追う必要があります。チーフの新任時研修では1か月後に振り返り研修を実施し、実践の有無や気付きを共有しています。

ただ最も難しいのは研修が事業や組織にもたらした具体的なインパクトの測定です。「この研修によってこのような成果が生まれた」というレベルの効果測定は、今後の課題として残っています。

「SmartHRから来たマネジメント人材は凄い」を目指して

1年半の取り組みの手応えはありますか?

井上

新任時研修後のアンケートでは、「今後の新任チーフにもこの研修を薦めるか」「研修内容は自分の業務に生かせるか」といった項目で高評価を維持できています。一定、課題とニーズを的確に把握できた成果ではないかと考えています。今後は単発でなく連続した研修体験も設計していきたいです。

加えて、人材育成部において組織のニーズや課題の仮説を立て、施策をとおして検証するサイクルの質は高まっているのを感じます。

1年半前くらいから他部署からフィードバックを得やすくするため、参加しやすい会議の形式を整備。プロダクト開発でいう「スプリントレビュー」の考え方を取り入れ、アジャイルコーチの豊田さんやプロダクト開発を経て人事に異動した鈴木さんの力も借りて、小さく素早く仮説検証するサイクルを回してきました。人材育成部という組織の成長においては非常に手応えを感じられています。

渡邊

手応えでいうと、チーフコミュニティで次回取り上げたいテーマを募集したところ、前回の会の参加者以外からも多数の意見が寄せられました。この反応から、チーフ同士のつながりを求める声が確実にあると実感できました。

会議室でインタビューに答える渡邊さんの様子

今後のチーフ育成の取り組みの展望を伺えますか?

井上

まずは2024年下期に取り組んだ施策の完成度を上げるために改善を続けていきます。新任時研修の見直しも検討を進めています。

渡邊

研修の拡充も検討しています。数が増えた際に、研修同士のつながりが見えづらくなるのを避けるため、各研修の目的やつながりを可視化して伝える。受講者がしっかりストーリーを描けるようにしたいです。ここまで実践しながら開発してきたので、ここからは整える段階と捉えています。

井上

最終的な目標は「チーフをやってよかったな」とやりがいを実感できる人を増やすことです。

そのためには研修機会の充実や、チーフ経験自体がキャリアの糧になるなど、報酬以外のやりがいも大切です。人事制度や報酬制度とも連動させながら「チーフになりたい」人が継続的に出てくる状況をつくっていきたいです。これは人事育成部だけでなくSmartHRの人事組織全体のテーマですね。

最後に、お二人がチーフ育成を通して実現したいことを教えてください。

井上

「あの会社から来たマネジメント人材はすごい」と言ってもらえる企業になりたいという野望があります。

HR領域、タレントマネジメント事業を展開する企業として、期待を超えるマネジメント人材を育成することは、巡り巡ってプロダクトにもポジティブな影響を与えると思います。

渡邊

「チーフコミュニティ」には横のつながりをつくる目的に加えて、チーフの心の拠り所となることも目指しています。マネジメントはメンバーに悩みを共有しづらく孤独になりやすい。そんなときに「コミュニティや人事に相談してみよう」と思える場や仕組みをつくりたいです。

また、チーフを経験した方が転職で次のステップに進む際も、ここでの経験を活かして前向きに挑戦してもらえたら嬉しいです。そうして、世の中で活躍するマネジメント人材を増やしていく足がかりになれたらと思います。

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