非暴力コミュニケーション(NVC)って何?〜Smart相談室のプロコーチが行っているちょっと変わったセッション#2〜
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2023年1月24日、オンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」を提供する株式会社Smart相談室主催のオンラインセミナー「Smart相談室のプロコーチが行っているちょっと変わったセッション#2 非暴力コミュニケーション(NVC)って何?」が開催されました。本稿では、Smart相談室カウンセラーの須藤 拓 氏をお迎えして、非暴力コミュニケーション(NVC)についてお話しいただいたセミナーの様子をお届けします。
- セミナー講師須藤 拓 氏
Parole Language代表 Smart相談室カウンセラー
- 進行藤田 康男 氏
株式会社Smart相談室 CEO
NCVとは?
須藤さん
NVC(NonViolent Communication)は日本語で「非暴力的コミュニケーション」と呼ばれています。話し方などのコミュニケーションのコツを指すだけでなく、NVCには「人間の本質とは?」といった哲学的要素もあります。
今回は、NVCが持つ世界観、実際のコミュニケーションにおいて使うためのステップ、最後に実践例をご紹介する流れで進めていきます。NVCの基本的な理念や枠組みを理解して、組織内やプライベートのコミュニケーションのヒントとしてご活用ください。
NVCの4つの世界観
須藤さん
NVCは、1970年代にアメリカの臨床心理学者のマーシャル・B・ローゼンバーグによって提唱されました。NVCは、家族や友人から職場・組織、国際関係まで、支配、対立、緊張、依存の関係から、自由で思いやりにあふれ、お互いを豊かにし合う関係へと、人間関係を変える考え方や話し方の「方法」です。また、私たちに「何のために、どう生きるか」を問う、根源的な「意識」でもあると定義されています。
NVCは、家族との会話や職場での会話、さらに発展して国際関係や国際紛争の場面でも活用されています。まずはNVCの世界観を4つご紹介します。
(1)与え合うことを楽しむ
須藤さん
まず、1つ目に「人は生まれながらにして、自分以外の人を思いやり、与えたり与えられたりすることを楽しむ」とNVCでは考えます。人間は本質的に、お互いに思いやりを与え合うことが幸せだと感じる生き物であると捉えているのです。
(2)両者の正しさを認め、やりたいことをお互いに叶える
須藤さん
2つ目は「どちらが正しい? ゲーム vs 人生をより素晴らしいものにするゲーム」です。NVCを取り入れない世界では、「どちらが正しい? ゲーム」に支配されているとNVCでは考えます。
たとえばカップルが喧嘩をしているとき、「自分が正しくて相手は間違っている」と捉えて自分の正しさを証明しようとするのが「どちらが正しい? ゲーム」です。NVCでは、両者の正しさを認め、両者のやりたいことをお互いに叶えていく世界観にシフトしていくことを目指しています。
(3)感情の奥に求めていることがある
須藤さん
3つ目は「感情の奥には“求めていること(ニーズ)”がある」です。感情には原因となるニーズがあります。ニーズは私たちのなかにあり、外の世界にはないものなのです。
(4)ニーズと感情を自覚し思いやりを与え合う
須藤さん
4つ目は「自分と相手のニーズと感情に自覚的になることで、思いやりを与え合うつながりをつくる」です。感情の裏にあるニーズをお互いに理解し合うことで、両方のニーズを叶えるための関係構築が、NVCの目指すところです。
思いやりを与え合う関係を構築する4つのステップ
須藤さん
次にNVCの4つのステップを見ていきましょう。「思いやりを与え合う関係」に変えていくためには、私たちが使う言葉がとても大事になります。「観察・感情・ニーズ・リクエスト」の4ステップでコミュニケーションを取っていきます。双方のニーズの実現を目指すので、聞くときも話すときも、この4つのステップが重要になります。
ステップ(1)観察:判断や評価を切り離し、明確かつ具体的に
須藤さん
「観察」は、判断を手放して「何が起こっているか」をありのままに見ることです。例をご紹介するので、一緒に考えてみましょう。
Aさんは「彼はワーカホリックだと思う」、Bさんは「彼は今月、50時間残業した」と言っています。判断と観察を切り離して伝えられているのはどちらでしょうか。
藤田
僕はBさんだと思います。50時間と定量的に言っていることと、残業という規則の概念を出しているからです。
須藤さん
そうですね。Bさんのほうが観察できていますね。「ワーカホリックだと思う」と言うのは、Aさんが勝手に思っていることで、Bさんは定量的な事実だけを伝えています。
「観察」とは、判断や評価を切り離して、「何が起きているか」を明確かつ具体的に見ることです。これは非常にシンプルですが、やってみると難しいんですね。また、「一切の評価をしない」ことが非常に重要で、暗示的にでも評価が含まれてしまうと、相手は反発するか自己防衛する反応が出てしまいます。あからさまな評価だけでなく、暗示的な評価を含まないことに注意する必要があります。
ステップ(2)感情:自分が感じていることを表現する
須藤さん
「感情」とは、その瞬間に湧き上がっている「心の動き」を感じることです。例をもとに解説します。Aさんの「私、社会人に向いてないのかも」と、Bさんの「社会人としての自分にがっかりした」は、どちらが感情を純粋に表しているのでしょうか。
藤田
Bさんだと思います。「がっかりした」と明確に言い切っているからです。
須藤さん
がっかりした「かも」だといかがでしょう。
藤田
それも感情ですね。「向いていない」は感情ではなくて、評価なのかなと思います。
須藤さん
「向いていない」が、感情なのか評価なのかを考えていく必要があります。感情とは、自分が感じていることへの表現です。ポイントは、「自分や相手をどのように思っているか」と、実際の感情は別物であると認識することです。先ほどの「向いている・向いていない」は、心の動きではありません。解釈や評価を表現する言葉と、感情を表現する言葉をしっかりわけて考える必要があります。
感情を表す言葉は、「うれしい」「ほっとする」「ワクワクする」「イライラする」「心配だ」「寂しい」などが挙げられます。解釈を表現する言葉は、「応援してくれない」「正しく評価されていない」「裏切られた」「才能がある・ない」「正しい・間違っている」などですね。
名詞や代名詞、「~のように」などと一緒に使う言葉は、解釈を表現している可能性が高いです。「意見を尊重されていないように感じる」「君にはまだ早いのではないかと思う」などです。「君には」という代名詞を使う表現は、相手への判断になります。
また、相手や自分をどのように思っているかについての言葉も、解釈を表現していることが多いです。「君の活躍は期待どおりだ」という言葉は、よい評価ではあるものの、感情ではありません。これらを感情に直していきましょう。藤田さんなら、どのような言葉にしますか。
藤田
どうしても「寂しい」「つらい」という単語が出てしまい、表現が変わってしまいますね。
須藤さん
変わってもよいのです。「意見を尊重されていない」は判断なので、意見を尊重されていないことでどのように感じるかが重要なのです。
藤田
「意見を尊重されていないように感じて寂しい」と伝えます。
須藤さん
よいですね。「君にはまだ早いのではないか」はいかがでしょうか。
藤田
「君にはまだ早いのではないかと思い、心配している」ですね。
須藤さん
「心配している」は心の動きですね。最後の「君の活躍は期待どおりだ」は?
藤田
「君の活躍は期待どおりでうれしい」。
須藤さん
ばっちりですね。このように評価と感情をしっかり区別することが、次の段階につながっていきます。
ステップ(3)ニーズ:感情の奥にある「本当に大切なもの」を探る
須藤さん
次はニーズです。感情の奥にある「本当に大切なもの」を探る、あるいは「自分の感情に自分で責任をもつ」ことです。
AさんとBさんのセリフのうち、感情の奥にある自分のニーズを伝えているのはどちらか、一緒に考えてみましょう。Aさんの「記念日のデートは2人で楽しく過ごせると思っていたから悲しかった」と、Bさんの「記念日のデートにドタキャンされて悲しかった」では、どちらが自分のニーズを伝えているでしょうか。
藤田
「楽しく過ごしたい」が、ニーズとして入っているので、Aさんだと思います。
須藤さん
まさにそうですね。2人とも「楽しく過ごしたい」というニーズがありながら、叶わなかったために「悲しい」と感情が出てきています。「2人で楽しく過ごしたい」というニーズがなければ、そもそも悲しくなりません。
「ドタキャンされたことがあなたを悲しくさせている」ではなく、「ニーズが叶わなかったことが悲しくさせている」と認識することが重要です。ドタキャンという相手の行動は、あなたの悲しさの原因にはならず、悲しさの原因は自分にニーズがあるからなのです。
Bさんのように「記念日のデートにドタキャンされて悲しかった」と伝えると、相手はどのように感じるでしょうか。
藤田
ドタキャンしたことを責められて、攻撃されていると感じます。
須藤さん
非暴力の感じではないですよね。つまり、「あなたの行動が私を悲しくさせた」「私の感情はあなたが原因で生まれている」という言い方になっています。これは罪悪感を与える言い方、怒られているように感じさせる言い方で、ニーズまで話が深まっていきません。
ニーズは人間全員がもっていて、さまざまな行動や感情の裏にあるものです。ドタキャンされて悲しかった状況で、「悲しい裏で、私は何を求めていたんだろう」と認識することが重要です。ニーズのレベルでつながれると人は共感しやすいといわれているので、「一緒に楽しく過ごしたい」というニーズを自覚して伝えることが大事です。
相手の反応や行動によって、ニーズが叶わないこともありますが、感情を刺激することはあっても、原因にはなりません。自分の感情は自分のニーズから生まれるものなので、相手のせいにせず、自分で責任をもつ必要があります。たとえば、「あなたはチームワークができない」という批判や評価のセリフは、多くの場合に、裏のニーズが満たされていない訴えです。このセリフの裏で、この人は何を求めていると藤田さんは思いますか。
藤田
「もっと協力してほしい」「みんなで一緒にやりたい」でしょうか。
須藤さん
まさにそうですね。「良好な人間関係のなかで仕事がしたい」というニーズがあった場合、ニーズを表現できる言い方に変えると、「私は良好な人間関係のなかで仕事をしたいと思っているが、全員が揃わないミーティングが続くと、叶わない気がして心配になる」となります。これを言われたら、藤田さんはどう思いますか。
藤田
「みんなで協力しなければ」と思います。もとの言い方だと「あなたもチームワークができない」と思ってしまうかもしれません。
須藤さん
そうですよね。ニーズが表現されると、「良好な人間関係のなかで仕事がしたい」という思いに共感できるので、「考え直さないと」と思いますよね。ニーズを自覚できて伝えられると、共感が生まれ、思いやりの与え合いに近づいていきます。
ステップ(4)リクエスト:お互いの人生が豊かになる選択肢を提案
須藤さん
明らかになったニーズを叶えるために相手にしてほしいことを言葉にするのが「リクエスト」の段階です。「リクエスト」は、お互いの人生が豊かになる選択肢を提案します。
「さぼらないでくれませんか?」と言われたら、藤田さんはどのように感じますか。
藤田
「いや、さぼっていないよ」と思います。
須藤さん
そうですよね。セリフを言われた側は、自己防衛で反抗するか、謝るかの選択肢しかないので、NVCらしくない暴力的なセリフといえます。これをNVCのリクエストに変えていく2つのステップをご紹介します。
まず「行動を促す肯定形の言葉」で伝えることです。否定形ではなく肯定形に変えていきます。「さぼらないでくれませんか?」のような否定形の命令では、「何をすればいいのか」がわかりません。そのため、自分が欲しいものを手に入れられる可能性は非常に低いです。
では肯定形に変えて、「まじめにやってくれませんか?」にしてみましょう。
藤田
最初よりはよいですが、それでも「まじめにやっているよ」と思いますね。
須藤さん
まだまだ質感は変わらないですよね。「まじめにやる」というあいまいな言葉は、混乱を生むので避けます。行動を促すための具体的な特定の行動を入れてみましょう。「休憩は1時間に10分ずつにしてくれませんか?」と変えられます。
これで具体的になりましたが、まだ少しトゲがありますね。実は、ここまでにはニーズが入っていません。なぜこのように言っているのかが伝わっていないのです。ニーズを明らかにすると「チーム全体の状況を把握していたいから、進捗が見えないとそわそわしてしまうのです。休憩は1時間に10分ずつにしてくれませんか?」と変えられます。
藤田
これだと「わかりました」「そうですよね」と思いますね。
須藤さん
「さぼらないでくれませんか?」と言う上司よりも、「チーム全体を把握したい」と言ってくれる上司のほうが、共感しやすいですよね。ほかにも大事な要素があります。これまでには自分のニーズしか入っていないので、相手のニーズを考えることも大事です。たとえば、非常に怖い上司が「さぼらないでくれませんか?」と言ってきた場合に、「NO」とは言えないですよね。
藤田
怒られたり、評価に響いたりしそうですね。
須藤さん
つまり「どちらが正しい? ゲーム」になってしまい、強要していると言われてしまいます。リクエストするときは、相手の異議への共感が前提になっている必要があります。たとえば、「実は、今日は疲れていて」と異議を申し立てたときに「それなら仕方ないね。30分に10分の休憩にしよう」と着地できるかどうかがカギになります。リクエストを受けて、申し立てた意義を受け入れられる関係であれば、「リクエスト」になります。しかし「この人には反論できない」と思ってしまうと、それは「強要」になってしまいます。
「強要」にならず「リクエスト」するためには、自分の感情やニーズだけでなく、相手の感情やニーズにも意識を向けることが重要です。自分の欲しい物を手に入れるためだけには使えません。
夫婦と職場でNVCを実践してみると……
須藤さん
では、実践例をご紹介します。まずは、夫婦間の会話の例です。NVCを取り入れない会話から見ていきましょう。
NVCを取り入れていない例
「あなた毎日毎日お酒飲んでるね。体大丈夫なの?」
「まあ、心の健康は体の健康と言うからね」
「しばらく禁酒でもしたら?」
「なんでいきなりそんなこと言うんだよ。健康なんだからいいじゃないか」
「毎日お酒ばっかりで嫌なのよね」
須藤さん
「毎日毎日」に評価が入っていると思いますし、「しばらく禁酒でもしたら?」にもニーズが入っていないのでリクエストになっていません。そのため、「なんでいきなりそんなことを言うのか」と、相手からは反発が生まれてしまっています。この会話にNVCを取り入れてみましょう。
NVCを取り入れた例
「あなた今週は毎日3本ずつビール飲んでいるね」
「そうだね」
「二人で一緒に長生きしたいって思っているから、お酒の量であなたの健康が損なわれるかもしれないって心配だわ。お酒を飲むことによって、あなたのどんなニーズが満たされているか教えてくれない? それについて話し合いたいわ」
「毎日楽しく笑って過ごしたいんだけど、仕事ばかりで退屈なんだ。お酒を飲むことで楽しい気分になれるんだ」
「それなら、一緒に新しい趣味でも始めてみない?」
須藤さん
あからさまに変えてみました。まずは「毎日3本ずつ」と観察可能な事実に変化していますね。また、「一緒に長生きしたい」というニーズがあるので、「健康が損なわれるのでは」と心配になります。この方はさらに、相手のニーズも尋ねています。「毎日楽しく過ごしたい」というニーズとお酒を飲むという行動が結びついていると答えました。そうすると、長生きしたい人と、楽しく過ごしたい人がいるので、「新しい趣味を始める」という2人のニーズを叶えるところに着地しています。どちらかが妥協している質感がないのがNVCの特徴で、両方のニーズを叶えて、2人の人生が豊かになっていきます。
次の実践例です。組織内の会話です。
「私、やっぱり組織で働くのが向いてないかもしれない」
「なんでそんなことを言うの? いつも頑張っているじゃない!」
「でも、また失敗しちゃったし、ミーティングも眠くなっちゃうし」
「そんなことないよ。まだ部署異動してきたばっかりだし、これから慣れていけば余裕も出てくるよ」
「そうかもしれないけどね……」
須藤さん
励まそうとするばかりで、相手に対する共感が出てこない例ですね。この会話にNVCを取り入れてみましょう。
「私、やっぱり組織で働くのが向いてないかもしれない」
「そうなんだ。悲しそうだね」
「うん、そうだね。失敗ばかりだし、ミーティングも眠くなっちゃうし、いやだな」
「組織の一員としてもっと価値を発揮したいってことかな?」
「そうだね。そうできたらいいなあ」
須藤さん
「そんなことないよ」と言うのではなく、相手が「向いていないかも」と言った裏にある感情に意識を向けています。「悲しい」という感情の裏にあるニーズを、会話や表情から探して出してみる。言ってもらうことでニーズに気づけるので、そのニーズを叶えるためにどうしていけばよいかという方向に展開できます。
「私が間違っているのかな」ではなくて、「この人のニーズは何だろう」
須藤さん
NVCには、回りくどかったりカウンセリングっぽくなってしまったりする要素はありますが、エッセンスとしてNVCを知っていることに価値があり、日々のコミュニケーションの質が変わってくると思います。
そのための第一歩として、「対話をする前に、自分の感情やニーズを心のなかで言葉にしてみること」を心がけていていただきたいです。誰かから何かを言われて傷ついたとき、「何がいけないのだろう」となるのではなく、「私は悲しいという感情がある」「その裏にはこのニーズがあるのかも」と探って、心のなかで言葉にしてみることが重要です。
次に「自分と相手にとって、何が大切だろう?」と心のなかで問いかけてください。関係が悪くなったり、コミュニケーションがうまくいかなかったりするときに、「私は何を大事にしたいのか」「相手は何を大事にしたいのか」と思いを馳せてみましょう。「私が間違っているのかな」ではなくて、「この人のニーズは何だろう」と考えます。ニーズに気づけると、それだけで心を落ち着かせるのに役立つのです。
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