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「チャンスをつくるのが人事の仕事」サイバーエージェント式タレントマネジメントに迫る

公開日
目次

事業成長に伴う人員増加によって、企業が直面する問題のひとつに「従業員の顔が見えなくなる問題」があります。

300人、1,000人、5,000人……と従業員が増えても、いかに従業員がイキイキと働ける組織をつくるか。この難しいテーマと向き合っている経営者や人事担当者は多いのではないでしょうか。

本連載「従業員との信頼の築き方」では、株式会社SmartHR VPヒューマンリソース 薮田 孝仁が、大学教授や企業人事の方との対話を通じて、従業員と企業が高いエンゲージメントを築くためのヒントを探ります。

第2回は、株式会社サイバーエージェント 人材戦略本部 本部長 / キャリアエージェントの大久保 泰行さんに、サイバーエージェントが実践する適材適所のタレントマネジメントについてうかがいました。

同い年のIT企業人事による対談

薮田

SmartHRの薮田です。今日はよろしくお願いします! 実は私、何回かサイバーエージェントの社員総会に出たことあるんですよ。前々職時代に当時サイバーエージェントのグループ会社だったVOYAGE GROUP(当時ECナビ)にいたんです。社員総会に参加したのは2006年くらいだったかな。

大久保さん

そうだったんですか! となると、おそらく世代的にも近そうですね。私は79年生まれです。

薮田

おお! 同い年です(笑)。

大久保さん

すごく親近感が湧きました(笑)。よろしくお願いします!

サーベイ×アクションで「従業員の顔が見えない問題」にアプローチ

薮田

まずは、サイバーエージェント 人材戦略本部について教えていただいてもよろしいでしょうか。

大久保さん

はい。はじめに、サイバーエージェントの人事組織の全体像を説明すると、全社人事と各事業部人事であるHRBP(※)があります。全社人事は採用部門や総務、労務などの部門、そして、タレントマネジメント領域を担う人材戦略本部で構成されています。

人材戦略本部は、社内サーベイ「GEPPO」の担当が2名、GEPPOで得たデータをもとに適材適所や成果を出す為の障害排除を実施する「キャリアエージェント」が4名で構成されています。担当役員を含めると10名ほどになります。

※HRBP…HRビジネスパートナー。経営戦略に対して、人や組織の面からサポートを提供する戦略的な人事のこと。

薮田

サイバーエージェントさんの従業員数で10名の人事組織とは、かなり少人数なんですね。もともと、どういった背景でタレントマネジメントに力を入れるようになったのですか?

大久保さん

2013年ごろに、従業員数が1,000名を超えてきたあたりで、「従業員一人ひとりの顔が見えなくなった」という問題が経営会議で挙がるようになりました。それまではある程度「彼はこういうタイプだから、こうすればさらに成長できるんじゃないだろうか」といった意思疎通ができていたのですが、それが難しくなってきたと。

だからこそ、従業員の声を聞いて、アクションまでセットで打てるようにしようということで、声を聞くGEPPOと、適材適所のアクションにつなげるキャリアエージェントの仕組みがスタートしました。

サーベイ×アクションで「従業員の顔が見えない問題」にアプローチ

薮田

SmartHRも従業員が300人近くになってきて、徐々に一人ひとりが見えにくくなってきているように感じるのですが、サイバーエージェントさんは1,000人のタイミングだったのですね。

大久保さん

経営会議で話題にあがったのがこの時期だっただけで、本当はもっとずっと前からこの課題はあったのかもしれませんね。当時8人の役員が100人以上を管轄していて、各従業員の成果を出すための伸ばし方やキャリアの志向性がわかるほどの深いコミュニケーションを個別に取るのが難しいフェーズになったのだと思います。

その時期に行われた、会社の未来を提案し、決議する「あした会議」で現場の声を聞く為のGEPPOと、適材適所を役員に提案をするキャリアエージェントが立ち上がりました。

大事なのは従業員の「打てば響く感」の醸成

薮田

具体的な話に移るのですが、従業員サーベイツールであるGEPPOはどのように運用されているのでしょうか。

大久保さん

質問は3問のみで、

1.個人の成果やパフォーマンスに関する質問
2.チームの今のコンディションに関する質問
3.その他の質問(記述式)

です。そして、各質問に対して、「晴れ、曇り、雨」などの天気によってコンディションを回答してもらいます。これを毎月1回ずつ実施して、その時々の結果や回答の天候の変動をウォッチするわけです。


対象としては、グループ会社を含む約5,000人の正社員に毎月サーベイを送っていて、そのうち1,000人ほどにキャリアエージェントが何かしらのアクションをとっています。

薮田

とてもシンプルで従業員からすると回答しやすそうな質問です。そして、キャリアエージェントのアクション量、すごいですね……。面談などもキャリアエージェントが実施するのですか?

大久保さん

キャリアエージェントが直接実施することもありますし、本人とのコンセンサスの上、担当部署のHRBPに依頼をすることもあります。場合によっては、人事の執行役員が動くこともあります。これは、対象者との関係性とスピード感を考慮して判断していますね。ベースとして、キャリアエージェントは経験のある社員が多く、社内調整がしやすいメンバーで構成されています。

薮田

経験のある社員の方が顔がきいて動きやすそうですもんね。ちなみに、大久保さんがGEPPOで質問をする上で大事にしている考え方などはありますか?

大事なのは従業員の「打てば響く感」の醸成

大久保さん

「サーベイは目的ではない」ということですね。あくまでもサーベイは従業員とコミュニケーションを取るためのツール。その後のアクションにつながらなくては意味がありません。サーベイを実施してもアクションがないと、従業員も本音を言わなくなってしまいます。ですから、サーベイ結果をもとにして、きちんと改善につなげていることを理解してもらい、従業員に「打てば響く感」を持ってもらうことが大事だと考えます。

薮田

たしかに、一方的にサーベイをし続けるのではなく、そこに書いた要望や相談が何かしらの形で反映されてるとわかると、忙しい従業員もサーベイに答えることに価値を見い出せそうですよね。質問としては、キャリア系の内容が多いのですか?

大久保さん

もともとはキャリアに寄り添うためにサーベイを始めたのですが、今は「なんでも言える場所」になっていますね。例えば、「食堂のメニューを増やしてほしい」とか、「あの部屋の冷房が寒い」とか。キャリアの話ももちろんしますが、従業員とのコミュニケーションの場として機能しています。「あの部屋の冷房が寒い」と聞いたなら、オフィス環境を担当する人事部署にお願いして、改善につなげてもらいます。

すごく地味ではありますが、要望を汲み取ってコツコツと答えることで、信頼構築につながって、従業員の本音や、各チームの本質的な課題をキャッチアップしやすくなるんです。そうすることで、組織としての課題解決や、キャリアの応援にもなります。ちなみに、回答率はほぼ100%ですね。

薮田

100%はすごいですね! 3問で答えやすいとはいえ、「サーベイに答えると、いいことがある」と思ってもらえているんでしょうね。

大久保さん

そうですね。重要性を理解してもらうためにも、サーベイの社内広報や、サーベイ結果の共有とそれを受けて役員会でおこなわれた議論やその後のアクションの報告もおこなっています。

人事の仕事はチャンスをつくること

薮田

キャリアエージェントの取り組みをする上では、やはり従業員の異動による適材適所が主な打ち手になってくるのでしょうか。

大久保さん

いいえ。私たちは「キャリアエージェント」という名前はついているものの、あくまでも異動はいち選択肢に過ぎません。キャリアエージェントに限らず、人事にとって大事なのは、従業員のキャリアの志向性をわかった上で、応援するための「チャンスをつくること」だと考えています。そのために、キャリアの選択肢をいかに増やすかが今後重要になってくるのではないかなと。

薮田

選択肢とはどのようなものを指すのでしょうか。

大久保さん

たとえば、今なかなか成果が出せていない従業員がいて、その要因が業務内容が合っていないのか、それともチーム内のメンバーに馴染めていないのかなどで打ち手は変わります。

まずは、サーベイからヒントを得て従業員と対話することで、本質的な課題がなんなのかを見極める。そして、チームの編成や担当マネージャーを変える、別部署異動を検討する、育成のためのフレームワークを渡すなど、数ある選択肢の中からマッチした内容を提案するようにしています。

薮田

ふだんからこういったコミュニケーションを取っていると、いわゆる「びっくり退職」なんかも防ぎやすそうですね。

大久保さん

そうですね。退職自体は悪いことではないと思うのですが、ネガティブな辞め方ではなくて、長い目で見ていい関係値を築けるのが理想だなと。最近は、技術職向けのグループ内副業制度「Cycle」も始まったり、経営をやってみたい従業員を子会社出向させたり。他には起業する従業員への出資など、徐々に選択肢を増やそうとしています。

薮田

社内副業の件は、多様な選択肢を社内で用意できるのは企業にとっても従業員にとってもメリットは大きそうですし、エンゲージメントも高まりそうですね。

大久保さん

私自身も、もともと広告営業をずっとやっていて、会社と市場の成長によって成果が出ただけで、どこか自分自身の力ではないような感覚がありました。そこで、ゼロからキャリアを検討したいと社内外含めて選択肢を考えたタイミングで、人事担当役員の曽山と話す機会があり、今の人事の仕事をスタートしたんです。

立場が変わって、同じような悩みを持つ、挑戦したい社員を応援できるような環境をつくるのが人事にとっては大事なのではないかと考えています。一度サイバーエージェントに関わった社員と、雇用形態や社内外問わず何かしら一緒にやっていけるような関係が理想だと思っていて、様々なキャリアの選択肢を増やそうと進めているところです。

人事の仕事はチャンスをつくること

タレントマネジメントのポイントは「大事にしたい志向性を聞き続けること」

薮田

最後に、これからタレントマネジメントに注力する方に向けて、アドバイスをお願いしてもよろしいでしょうか。

大久保さん

個人的に大事だと思うのが、大事にしたい志向性を聞き続けること。「将来、事業責任者になりたい」といったキャリアに関わる志向性から、「麻雀に関わりたい」という興味関心に近い志向性など、その人が大事にしたいキーワードをログに残していくのはすごく重要ですね。サイバーエージェントは特にエンタメ領域において新しい仕事やポジションが生まれやすい環境。もし麻雀に関する新規事業ができた場合も、「麻雀×事業責任者」で興味ありそうな人をリサーチして、スピーディにアサインできます。

もちろんアサインする際は、その人をアサインすることで期待される成果につながるかどうかは注視しますが、このように、データを蓄積することで、チャンスが生まれやすくなると考えます。

薮田

成果は見つつも、あくまでもチャンスを生むことを大事にするスタンス、素敵です。いち人事として、すごく勉強になる取材でした。大久保さん、ありがとうございました!

大久保さん

ありがとうございました!

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