人事評価制度はどう作る?導入・見直し時に必ず知っておきたいこと
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目次
「人事評価制度の導入・見直しを指示されたけど、何から手をつけたらいいかわからない」「評価制度の作り方は?」そんな疑問をおもちの方に、評価制度の作り方を基礎から解説します。
この記事を読んで、「まずはどこから手をつけるか?」をクリアにしましょう。
人事評価制度には3つの機能がある
人事評価制度とは、社員の能力・実績などを客観的に評価し、待遇に反映させる仕組みです。人事評価制度は重要な3つの機能にわけられます。
(1)等級制度
等級制度とは、従業員を職務内容や成果などによって序列化する制度です。等級を設け、従業員それぞれがキャリアイメージをえがきやすくなります。
(2)評価制度
評価制度は、企業の指針に対する各従業員の貢献度を評価する制度です。営業職を新規契約数で評価するなど、企業がどのような行動や姿勢を評価するのかを従業員と共有することが重要です。
(3)報酬制度
等級や評価にもとづき従業員への報酬を決める制度を報酬制度といいます。等級制度、評価制度の内容がしっかりと反映される必要があります。
人事評価制度がしっかりと設計されていれば、社員が自身の待遇に納得し、公平に評価されているという実感をもてるでしょう。また、昇進するための条件などもクリアになるため、意欲をもって業務に取り組む社員が増える、という効果も期待できます。
人事評価は民間企業のみに限った印象がありますが、官公庁や地方自治体でも年に1度は実施されています。公務員の人事評価は「業績目標に対する達成度」と「職務遂行にあたって発揮した能力」という2つの観点から実施されます。組織の人材活性化に向け、従業員の成果や能力を制度に沿って定期的に評価する取り組みは、いまや一部の民間企業だけの動きではなく、社会全体に広がりつつあります。
人事評価の機能についてより詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
人事評価制度を作る8ステップ
人事評価制度を制定したり、改善したりするには、従業員の職務内容や階級、報酬などさまざまな要素の加味が必要です。制度の構築は、以下の8つのステップに沿って進めます。
- 人事評価制度を作る目的を明確にする
- 評価制度を分解する
- 人事評価の手法を確認する
- 評価基準、項目を決める
- 評価の結果が、給与などの処遇にどう関係するかを整理する
- 評価のためのシステムや、フォーマットを整備する
- 社内に周知する
- 運用を開始する
導入までにすべきことが多く、大変な作業に感じられるかもしれません。企業の規模にもよりますが、評価制度を0から導入する場合、半年〜1年半ほどかかるのが一般的です。しかし、1つずつ分解していくことで、着実にゴールへ近づけます。
そのため、焦って一気にすべてを作業しようとせず、1つずつ丁寧に現場の実態や運用を想定しながら分解していくことが、組織にとって意味のある人事評価制度を整備するポイントとなります。
また、上記のとおり、人事評価制度を導入し、運用するためには多くの工数が必要となります。適切な人事評価制度を導入するために、この機に業務工数を見直しみてはいかがでしょうか。
人事・労務領域の効率化すべき業務を以下の資料にまとめましたので、ぜひご活用ください。
さっそくそれぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
1. 人事評価制度を作る目的を明確にする
まずは、人事評価を実施する目的を設定しましょう。
企業は人事評価を「企業の方針」や「従業員の目指すべき姿」を示すために実施します。そのため、人事評価は自社の理念や目的意識に沿った設定が重要になります。目的の設定段階で、経営陣と目線を合わせるようにしましょう。
一方、従業員にとっては、企業と方針を共有するだけではなく、自身の業務を評価してもらうことも人事評価の目的です。成果や能力を認められ、報酬や役職などの待遇が良くなることで、モチベーションがアップし、さらなる成長が期待できます。
2. 評価制度を分解する
先ほどは、評価制度の目的を企業理念や方向性を踏まえて設定しました。一方、全体の目的を個々の評価項目に落とし込むためには、目的を細分化することが必要です。細分化する際は、「どういった業務の改善のために、どういう評価項目を設定したいのか」を分解して明確にしましょう。一般的な目的としては以下のパターンが挙げられます。
A.人材開発の促進のために「能力・スキル」項目を評価したい
B.事業管理の効率化ために「生産性や業績」項目を評価したい
C.人員配置の合理化ために「チーム内での役割・行動」項目を評価したい
成果や業績の評価は具体的な数値を基準に判断します。しかし一方で、「成果達成のためにチームの資料管理ルールを整備した」「新しいツールの導入にあたって率先してマニュアルを作成した」など、チーム全体の業務遂行に貢献した役割については、数値で表される成果や基準があるわけではありません。評価の手法や項目を決める前に、まずは上に挙げているA〜Cの3つのうち、どれを優先して評価するかを決めましょう。
3. 人事評価の手法を決める
上記のA〜Cのうち人事評価項目が定まったら、手法を検討しましょう。人事評価にはさまざまな手法がありますが、大きくわけると下記の3つが挙げられます。
①能力評価
能力評価とは、仕事に必要な知識と技術・技能、遂行能力への評価です。企業が求めているスキルをどの程度満たしているかという点に注目して評価し、検定資格や免許の取得状況を加味することもあります。能力評価は、評価項目となるスキルは企業側で選定できるため、広い業種や職務内容で採用できる評価方法です。
能力評価のメリットは、従業員のスキルアップに期待できる点です。「どのようなスキルを企業が期待しているか」を社内で浸透させ、従業員のレベルの底上げが期待できます。上に挙げた「A.人材開発の促進」を優先したい場合は、オススメの評価手法です。
注意点は、評価者の知識量・スキルによって評価結果が左右されやすい点です。また、自由度が高い一方、企業ごとに独自の基準を設定する必要があり、他社事例を参考にしづらいという特徴もあります。基準の設定に迷った場合は、厚生労働省が業種ごとに策定した職業能力評価基準を参照してみましょう。
②業績評価
業績評価では、従業員の成果や業績に注目して評価します。コールセンターのオペレーターや営業職、生産管理などの成果を数値化しやすい業種・職種にオススメです。
業績評価は客観的な数値による評価のため、評価者の知識や主観に左右されづらい点がメリットです。さらに、社員にとってわかりやすく、公平感がある点も魅力といえます。上に挙げた「B.事業管理の効率化」のために評価項目を設定したい場合は、導入を検討しましょう。
一方で営業支援や企画など、業務上の成果を数値化しづらい場合は、評価が複雑化し、かえって透明性が損なわれてしまう点に注意が必要です。
業績評価の代表的な手法として、「MBO(目標評価)」が挙げられます。
③行動評価
業務に対するモチベーションやチームへの貢献など、従業員の行動に着目する手法が行動評価です。対人交渉能力やタイムマネジメント、ストレス管理など、さまざまな観点から従業員の能力や適性を評価します。
行動評価のメリットは、評価基準が複数あるため、従業員の能力を総合的に測れる点です。社員が自分の得意分野を伸ばしたり、人事が適性に応じた人員配置がしやすくなり、社内の業務効率が向上も見込めます。行動評価を導入することで、上に挙げた「C.人員配置の合理化」を後押しする効果が期待できます。
デメリットとして、資格や業績など客観的な根拠があるほかの評価方法に比べて、評価者の主観によって結果が左右されがちな点が挙げられます。行動評価を導入する際は、複数人による評価にしたり、評価者への基準の周知を徹底したりと、公平性の担保が重要です。
4. 評価項目を決める
評価手法を決めたら、そのルールに沿って評価項目を設定していきます。職種に応じて評価項目を細かく調整しましょう。
たとえば営業職の場合は新規成約数、技術職であれば保有資格を評価項目に入れると、職種の実態に合った人事評価ができます。また、管理職に対しては、チームとしての成果やスケジュール管理、部下のマネジメント能力をチェックする項目を入れるなど、職階に応じた調整も効果的です。
評価項目については、下記記事にてより詳しく解説しています。項目設定に悩んだら、ぜひ参考にしてください。
5. 評価の結果が、給与などの待遇にどう関係するかを整理する
ここまでで、評価制度の枠組みが作成できました。このあとは、評価制度と待遇の関係を整理していきます。
評価結果を従業員の給与や職階などの待遇に反映させる場合は、どのように連動するか明記した規定をつくりましょう。さらに、就業規則や賃金規定の変更が必要になる場合は、労働基準監督署に届け出なければなりません。
また待遇のなかでも、とくに給与や賞与との関連性は可能な限り明確にしておくとよいでしょう。評価の向上が収入の増額につながると従業員に伝われば、モチベーションの維持・向上が期待できます。
6. 評価のためのシステムや、フォーマットを整備する
人事評価はつくって終わりではありません。むしろ枠組みができた後からが本番です。システムを整備するにあたり、少なくとも以下の3つの項目を決める必要があります。
①評価を頻度
人事評価の内容を賞与に反映する企業のなかには、半期ごとに評価を実施する企業が多くあります。そのほか、1年に1度や四半期に1度という頻度も考えられます。企業の状況に即して適切な頻度を検討しましょう。
②評価シートの配布・集計方法
かつては紙での配布が主流でしたが、現在はExcelやGoogle フォームなど電子化する企業も増えてきました。とくに、多くの従業員や部門を抱える企業は、紛失や配布漏れのリスクを低減するためにも電子化の必要性が高いといえるでしょう。
こんなとき、力強い味方になるのがSmartHRなどの人事評価システム。PCに慣れていない社員でも使いやすく、集計する人事担当者の負担も大幅削減できます。
社員が増えるほど、管理者の工数も増えていくのが人事評価制度の難しいところ。便利なツールを使って、効率化を図りたいですね。
7. 社内に周知する
運用方法まで決まると、ようやく社内に周知する段階に移ります。メールや社内での掲示、ミーティングでのアナウンスなど、さまざまな場で周知しましょう。
また、お知らせから人事評価の開始までは1か月程度かけることが理想です。周知の際は社員からの質問を受け付け、評価をスムーズに進めるための準備期間としましょう。
8. 運用を開始する
人事評価制度は一度導入したら終わりではなく、業績や従業員数など、企業の成長や変化に合わせたメンテナンスが必要です。
従業員が制度を十分に理解できているか、評価項目に納得しているかを定期的にアンケートなどで聞き、評価制度がうまく機能しているか継続してチェックしておきましょう。
SmartHRなどのシステムを導入していれば、社内アンケートを簡単に実施できるため、制度の改善に役立ちます。
人事評価制度の成功例、失敗例
「人事評価制度を作るステップはわかった!でも、失敗しそうで不安……」という方に、成功例と失敗例をご紹介します。
評価制度の導入・運用を成功に導くために、両方の事例から学んでいきましょう。
成功例1:株式会社ディー・エヌ・エー
株式会社ディー・エヌ・エーは、人事評価を年に2回実施しています。評価の結果は報酬に反映されるほか、直属のマネージャーからフィードバックを受けられます。また、評価基準の設定方法が特徴的です。
ディー・エヌ・エーの評価制度では従業員ごとの目標を、3種類の職種と7段階の等級をもとに定め、「成果」と「発揮能力」の2種類の軸で目標の達成度を評価します。成果とは、手がけたサービスの売り上げなどの成績です。一方、発揮能力は目標に対する成長度合いを指します。
直近の成績と中長期的な成長の両方を見ることで、従業員の貢献を多角的に評価できます。そのうえ、従業員に成長のステップを明確に示し、高いモチベーションを維持できるのです。
成功例2:株式会社バンダイロジパル
株式会社バンダイロジパルは、人事評価をオンラインに移行することで効率化に成功しました。
全国各地に拠点があるため、Excelや紙で人事評価を実施していたときは、開始のタイミングや進捗にバラつきが出てしまい、状況の把握や集計に非常に手間がかかっていました。SmartHRに移行後は、状況把握や集計だけではなく、過去資料をスムーズに照会できるようになり、業務が大幅に効率化しています。
またオンライン化にあたって、事前に操作マニュアルを周知したことで、被評価者である従業員からの問い合わせ件数を減らすことにも成功。本来の人事業務に工数を割けるようになりました。
株式会社バンダイロジパルの事例については、以下の記事でも取り上げられています。
失敗例1:制度の運用が現実的ではなかった
新しい人事評価制度を導入したものの、内容が企業の実態に適応できていなくて失敗してしまったケースがあります。
日本では1990年代のバブル崩壊に伴い、終身雇用や年功序列で膨れ上がった人件費を適正化するために、一部の企業が成果主義による人事評価を取り入れました。
成果主義は、従業員の仕事の成果や実力などに応じて待遇を決定する人事制度です。結果のみを評価対象にするため、年齢や性別などの属性に影響されることなく、従業員を評価できます。とくに、業務内容が明確化されている場合は効果的に機能する手法といえるでしょう。
しかし、日本の企業は従業員の職域が曖昧な場合も多くあります。そのような企業が、社員の業務範囲や勤務形態などの仕組みを整理することなく成果主義を導入しても、当然評価制度として上手く機能しません。さらには、成果をはっきりとは数字で計りにくい広報プロモーションや人材育成などの業務に携わる従業員や、成果を上げるための過程で奮闘している従業員のモチベーションを下げる結果につながってしまいました。
人事評価制度だけを新しくするのではなく、自社の状況を鑑みながら運用を続けられる制度を導入するようにしましょう。
失敗例2:人事評価の結果を従業員にフィードバックしない
人事評価は「実施して終了」ではなく、従業員に対して結果をフィードバックすることが重要です。
とくに、業績評価と行動評価を併せて評価したり、個々の評価を相対化したりと複合的に評価を決定する場合は、結果が被評価者である従業員にとって不明瞭に映る場合があります。フィードバックができていないと、自身の成長や成果による待遇の改善が感じられず、従業員のモチベーション低下や離職率の上昇につながりかねないのです。
人事評価制度を作る際、読みたい書籍
人材マネジメントの基礎を知りたい方
『図解 人材マネジメント入門』(坪谷邦生 著)
「日本の人事部 HRアワード2020 書籍部門」入賞。「人材マネジメント」「人事評価」「賃金・退職金(外的報酬)」「働きがい(内的報酬)」ほか、全10章からなる1冊です。人材マネジメントに欠かせない基礎知識を10章×10のツボ、4社の実例、図解、文章でわかりやすく解説しています。
IT企業の人事部門での勤務経験をもつ、著者の坪谷邦生氏。現在は人事コンサルタントとして、50社以上の人事制度構築・組織開発支援を担当しています。
人事評価制度を作る際の参考にしたい方
『改訂新版 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(山本浩二 著)
中小企業に向けた、人事評価制度のスタンダードを記したロングセラー書籍の改訂版です。手法や事例などが大幅に追加され、実際の人事評価制度作成時に役立つ各種テンプレートのダウンロードサービスもセットになった1冊。500社以上で導入された「ビジョン実現型人事評価制度」。理想の組織実現に役立つと評価の高い制度の作り方と実践方法を3つのステップで解説しています。
「人事評価制度を何のために実施するのか?」という基礎から解説されており、人事評価制度そのものの理解を深める一翼を担います。
『図解でわかる! 戦略的人事制度のつくりかた』(株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース 、 小林 傑、 山田 博之、 野崎 洸太郎 共著)
人事の本質である、「経営戦略を実現するために、人材の室と量を最適化する機能」を叶えるための6ステップの解説とフレームワークが紹介されています。本書のフレームワークは、大手企業からの引き合いが多い経営コンサルティングファームが提案する「人事フレーム」をもとに作成されています。図解による解説・ポイントの整理が人事制度の見える化をサポートします。人事部門に配属されたばかりの方から、長く務める方まで、幅広い人事担当者の方にお役立ていただけます。
人事評価に欠かせない等級・評価・報酬のうち、等級からはじまる本書には共感する人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
SmartHR社でも、SmartHRの「人事評価」機能を活用しています
SmartHR社では、2022年より人事評価業務においてSmartHRの「人事評価」機能を利用しています。
導入したときの流れ、導入時の工夫、導入してよかったことなどを以下の記事でご紹介しています。
【お役立ち資料】3分でわかる! SmartHRの人事評価
お役立ち資料
3分でわかる!SmartHRの人事評価
SmartHRの「人事評価」機能なら、評価シートの作成・配布・回収・集計までシステムで一括管理が可能。現在の評価制度に沿った形で評価シートやワークフローを設定できます。
従業員もパソコンやスマホから簡単に操作ができるため、ストレスなく移行することが可能です。
【こんなことがわかります】
- 人事担当者が評価業務で感じている問題点
- 人事評価業務を改善するための課題
- SmartHRの「人事評価」の特徴・できること
- SmartHRの「人事評価」の実際の画面
FAQ
Q. 人事評価制度を導入・見直すと決めたら、まずやるべきことは?
「何のために人事評価を実施するのか?」を明確にすることです。従業員への聞き取りや経営層と意見を擦り合わせて、目的をはっきりさせましょう。
Q. 人事評価制度をゼロから作る場合、どのくらいの期間がかかりますか?
企業規模にもよりますが、0から導入する場合は半年〜1年半ほどかかるケースが多いようです。また、周知期間として、従業員からの質問を受け付ける期間を1か月程度設けましょう。
Q. 人事評価制度を作るにあたって、注意すべきことは何ですか?
オンラインサービスなどを活用して効率化を図ることと、自社の状況に即した制度にすることです。