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テレワークにおけるマネジメントの課題とポイント

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現在、新型コロナウイルス感染症は、終息の見込みが全く立たない状況です。2020年4月に発出された緊急事態宣言下で一気に広がったテレワークは、その後、実施率の変化はありながらも一般化していく傾向です。今回は、このテレワーク化におけるマネジメントの課題とそのポイントについて解説していきます。

テレワーク環境での不安は上司にも部下にもある

株式会社パーソル総合研究所のテレワークに関する調査によるとテレワーカーの代表的な不安は、以下の2つです。

  • コミュニケーション不安(非対面のやりとりは相手の気持ちがわかりにくく不安)
  • 評価不安(上司から公正に評価してもらえるのか?さぼっていると思われないか?)
テレワークにおける不安感

パーソル総合研究所「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」より引用)

この2つは、20歳代で特に高い傾向にありました。まだまだ仕事のやり方や人間関係、人脈などが確立していない年代は不安に感じることが多いようです。

一方、上司側の不安はどのようなものになるでしょうか。同じように株式会社パーソル総合研究所のテレワークに関する調査を見てみましょう。

  • 管理不安(業務の進捗がわかりにくい、トラブルが起こっていないか心配、長時間労働になっていないか心配)
  • コミュニケーション不安・疑念(相手の気持ちが察しにくい、相談しにくい)
上司側の不安

パーソル総合研究所「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」より引用)

上司側は、マネジメントすることに対する不安が大きいという結果でした。目の前にメンバーがいて話しかけやすい状態から比べると、仕事の状況を把握することが難しくなっているからだと考えられます。

さらに上司・メンバーが共にコミュニケーションに対して不安を感じていることが特徴的です。特に「相手の気持ちが分かりにくい」ということに対して非常に不安を感じているようでオンラインでのコミュニケーションの仕方について改善が必要だという結果になっています。

不安が生まれる要因は「情報量の減少」と「心理的な距離」

これらの不安が生まれるのには、2つの理由があると考えられます。

(1)情報量の減少

1つ目は、「情報の量が少なくなる」ことです。テレワーク前は職場に出勤し、意図する・しないに関わらず対面でコミュニケーションできました。

このような環境下では、五感を駆使して色々な情報を収集できます。たとえば、出勤時では挨拶することで、相手の挨拶から相手の情報(顔色、表情、声の状態など)をしっかり視覚と聴覚などを使って色々な情報を収集できます。職場にいるだけで非常に多くの情報を収集していたのです。

その情報から、上司の機嫌は良いのか悪いのか、メンバーの仕事の調子はどうなのかを察知できました。また、周囲での話し声や電話対応から周囲の人たちがどのような状態なのかを把握することも可能でした。さらに嗅覚や触覚でも無意識に色々な情報を収集していたのです。

残念ながらテレワークになると、オンライン画面上での2Dのコミュニケーションになり、情報量が限られてしまいます。対面の3D情報は上記の通り視覚を中心としながらも、聴覚・嗅覚により無意識下での情報収集もできるため、情報量が格段に異なります。

さらに、テレワークでは意図して設定したミーティングで意図した話だけを聞くことが中心になりがちです。職場で無意識も含めて五感をつかって情報収集していたことと比較すると、非常に多くの情報が欠損することになってしまったのです。

これが、不安を呼び起こします。人は「情報が少なくなる」もしくは「今まで得られていた情報が欠損する」と、相手とのコミュニケーションに不安を感じてしまうのです。

(2)心理的な距離

2つ目は、「心理的な距離ができる」ことです。物理的な距離は心理的な距離と比例するといわれており、テレワークにより同じ場所で働くなったことで、心理的な距離が発生していると考えられます。

今までは、職場において皆で同じモノ・コトを見聞きし、感じることができていました。しかし、テレワークによってそれが難しくなり、感情的に相手との間合いを取りづらく、相手がどのように考えているのか不安を感じてしまうようになります。

さらに、情報量の不足により、相手の考えを不確かな情報で推察することになり、大きな不安を抱えてしまいます。テレワークの期間が長引き、会ったり会わなかったりというまだらな状態が続くことでストレスが増加し、さらに不安が広がっていくのです。たとえれば、遠距離恋愛のような状態なのです。

遠距離で良好な関係を長く続けるための秘訣は、こまめに連絡を取り合うことや定期的に会うこと、また将来について話し合ったり、相手を信じることだと言われていますので、テレワークでも同じことが必要なのかもしれません。

テレワーク下のマネジメントを成功に導く3つのポイント

ここまでテレワークのネガティブな面を見てきました。ここまでの話だと、テレワークが非常に難しいと考えてしまうかもしれません。しかしテレワークはコロナ対策に有効であることに加え、働き方の選択肢が広がるという大きなメリットがあります。

以下の3つのポイントでマネジメントを工夫することで、テレワークのメリットを享受しながらデメリットを軽減していくこと可能になります。

(1)心理的安全性の確保

心理的安全性とは、ここでは「メンバー一人ひとりが安心して自分らしさを発揮しながら、他者を信頼、尊敬してチームに参加でき、周囲に相談や手助けを求めることができる」状態と定義します。

心理的安全性が高いことと仲良しであることはイコールではありません

心理的安全性が高い状態では、批判的な意見や反対することなどが、評価を気にしないで安心して口に出すことができます。これは、多様な意見を出し合いながら高い成果を出すために何をどのように行うかを決めることにつながり、生産性を向上させます。

心理的安全性を作り出すには、上司から部下を信頼し、部下の意見を傾聴することから始めることです。部下との信頼関係構築は、上司の部下への信頼と傾聴から始まるといっても過言ではありません。

この心理的安全性が確保されていないと、気軽に相談したり、分からないことを聴いたり、問題点を一緒に話し合い解決するなどといったコミュニケーションを取りづらくなってしまいます。

(2)見える化・共有化

テレワークのデメリットは、お互いが見えにくくなることから発生します。これにより、不安感の増大だけではなく、チームの連携や仕事の効率、生産性も低下していきます。これを軽減していくためには、業務にまつわる全ての事柄を見える化・共有化していくことが必要です。経営理念やビジョン、戦略、業務の目的・納期・課題、評価基準、関係者の日々のスケジュールを見える化・共有化し、これから先の将来を一緒に作るという意識が大切です。

株式会社パーソル総合研究所の調査でも、経営理念が伝わっていると、テレワーカーは出社者よりも組織へのコミットメントが高まるという結果が出ています。さらに戦略や業務に関する項目が明確になっていれば、安心して業務を進められます。評価基準においても、全員で共有しておくことで評価に対する不安を解消できます。

(3)ICTツールの特性を活かしたコミュニケーションスタイルの確立

テレワークにおいては、ICTツールの活用度がコミュニケーションの質に直結します。

対面でのリアルコミュニケーションとICTツールを活用したオンラインコミュニケーションでは、特に伝達できる情報量に違いが出いますので、使い方、マナーなどオンラインコミュニケーションの新しいスタイルを模索する必要があります。

「別々の場所にいてもすぐにコミュニケーションが取れる」というオンラインコミュニケーションのメリットをいかにして享受できるのかを考えていきましょう。

見えない部下の状況をどう把握するか

上記3つのポイントをおさえても、見えない状態の部下と完全なコミュニケーションができるとは言い難いと思います。

テレワークにおけるマネジメントの成功のカギは、オンラインによるコミュニケーションを活性化させ、対面で職場でコミュニケーションしているのと同じくらいまでメンバー同士が話し合えるようにすることです。

続いて、テレワーク化において部下の状況を把握する方法を、仕事のプロセスに対応する形で解説していきます。

(1)仕事を受け渡すときのすり合わせ

仕事を部下に渡す時が、心理的安全性を確保し、モチベーションを向上させるために一番重要なタイミングとなります。仕事の意義や目標を理解し、成果実現への課題とその解決方法について共通認識を持てるからです。具体的な流れは、以下の通りとなります。

最初に、渡す仕事の意義や目的を共有し、次にアウトプットイメージ(出してほしい成果)を共有します。これは部下の評価基準の認識を合わせることにつながります。

その後、アウトプットイメージを実現するための不安点、懸念点などの課題を話し合い、課題の解決策を一緒に検討することで心理的安全性を確立します。

そして、本人への期待を具体的に伝え、モチベーションを高めていきます。最後に、部下自身で業務をどのように進めていくかを決めてもらいます。これにより責任感を持てるようになります。

仕事の任せ方への工夫

(2)早めにレビューをする

納期までの期間が1/3ほど進んだら、一度仕事のレビューを実施しましょう。成果物を作り始めたときにレビューを行って仕事の理解やアウトプットイメージの共有具合、課題解決の進みぐらいを明確にすることが大切です。ここで部下の仕事の進め方を把握できます。

(3)終了時の振り返り

終了したら必ず仕事を振り返り、次につながる教訓を抽出しましょう。教訓をしっかり共有することで、さらに部下のスキルや思考のレベルを把握できます。振り返りの習慣をつけることで、PDCAを実施する習慣も身に着けられます。

(4)1on1の活用

最近注目の1on1ですが、部下の状況を把握するには、非常に有効な手段です。実施のコツは、スケジュールを定期開催にする、時間は30分程度にする、部下が話したいことをアジェンダとして上司は聴くこと・質問することを心がける、といった点です。

定期的に1on1で部下の話を聴くことによって、部下の状況を細かく把握できます。ミーティングで数多くの人が集まっている中ではなかなか話ができない方もいますので、1対1のコミュニケーションも時間をとって、部下の話を傾聴してみてください。

コミュニケーションが部下の成長や納得感のある評価を生む

上記のポイントをおさえていくことで、部下の状況を把握できるだけでなく、部下の成長や納得感のある評価を担保できます。

見えない部下の日常を業務成果という視点で話し合い、定期的に確認していくことで、部下の成長や納得感のある評価を実現可能になるのです。

見えないからこそ、部下の日常に寄り添っていけるように上司から声をかけて定期的にこまめにコミュニケーションを取る機会を作って、仕事の将来を一緒に創っていきましょう。

まとめ

これまでに誰も経験したことがない長期間のテレワーク環境において、どのように見えない部下をマネジメントしていくのか、全ての管理職が知恵を絞っていく必要があります。

一方で部下の立場から見てみると部下は上司が見えません。実は両方から「お互いに見えない」という状態なのです。

だからこそ上司から部下に歩み寄ることが、「お互いに見えない」状態を解消することにつながります。部下は、上司の考えや行動が見えるようになることによって安心感を持ちます。さらに上司が部下の日常を聴いたり、見たりする努力をしている姿に信頼感を持つものです。これが、部下が上司に話をしたいと思わせるモチベーションとなります。

「マネジメントが難しいからテレワークは無理」という思考停止状態に陥ることなく、テレワークの環境下でもより良い成果を実現し、部下の成長を支援できるマネジメントは何かを考えて行動していただければ幸いです。

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