加速する労働人口の不足。「選ばれる会社」になるための人的資本経営
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この記事でわかること
日本の人口減少と高齢化による労働力不足という課題に対して、企業が人的資本経営に取り組むことの重要性。従業員から選ばれる企業になるために、福利厚生や賃金の公正性、従業員のエンゲージメントなどに注力し、人と会社の関係性を見直す必要性を解説しています。
目次
日本の人口の3分の1が65歳以上になるといわれる2030年。人手不足も深刻になり、さまざまな問題につながる可能性が指摘され、企業経営にも影響を大きく与えるでしょう。
日本の総人口減少に伴い、人手不足の声が大きくなるなか、会社の持続的成長のために求められることは何か、各データをもとに考察します。
2023年度以降、上場企業は有価証券報告書において人的資本の情報開示が義務づけられました。
加速する労働力人口の減少
内閣府のデータによると、15~59歳の人口は年々減少し、2040年には2020年の6,664万人から5,180万人と約1,500万人もの人口が減少する推計です。2030年には日本の人口の3人に1人が65歳以上になると想定されていますが、人口減少のスピードは想定より早く進んでいます。
労働力人口不足が社会にもたらす影響
労働力人口の不足により、経済成長が鈍化することが考えられます。労働需要に対して供給が不足し、これまで成り立っていた経済活動が安定せず、物流・医療といった社会のインフラとなる業界もサービスを維持できなくなるかもしれません。
リクルートワークス研究所による2023年の調査では、2040年には1,100万人の供給が不足すると予想しています。
労働力人口の不足は、これらの経済活動への鈍化により経済規模の縮小、GDPの低下にもつながると考えられます。予測されている労働人口の減少を急激に回復させることは難しいでしょう。
選ばれる会社になるための人的資本経営
このように、今後働き手の確保が課題となるため、会社は今から対策をとる必要があります。会社は人を選ぶ立場から、選ばれる立場に変わっています。従業員のリテンションマネジメント、採用力の強化など、より「人」への戦略的な投資が求められるでしょう。
そして、これは今注目されている「人的資本経営」そのものだと考えられます。会社は上場有無や規模の大小に関わらず、「人的資本」に対するスタンスを明確に発信し、従業員から選ばれる会社になる必要があります。
1年以内での転職検討者が関心をもつ5つの人的資本情報
パーソル総合研究所の調査によると、1年以内に転職を検討する人が関心をもつ人的資本情報開示項目には以下が挙がりました。
- 福利厚生
- 賃金の公正性
- 精神的健康(ウェルビーイング)
- 安全
- コンプライアンス/倫理
項目だけみると、当然の結果と思われるかもしれませんが、「有給休暇がとりにくい」「人事評価が主観的」など、福利厚生や賃金の公正性が従業員の満足を得るレベルで保たれているのか、振り返ってみてもよいかもしれません。
転職を検討中の優秀人材が重視する6つの人的資本情報
つぎに、転職を検討している優秀人材が重視している人的資本情報の開示項目には以下が挙がりました。
- リーダーシップ
- サクセション(後継者プラン)
- 採用
- エンゲージメント
- 育成
- 生産性
選ばれる会社になるためには、求職者が会社に求めていることに対応しなければなりません。人的資本経営は、投資家や市場に対する回答だけでなく、求職者、従業員に対しても何を開示するのかが重要です。
人的資本の開示は、上場企業等を対象に義務化されているものですが、将来持続的に企業運営をしていくためには上場の有無に関係なく人的資本経営を進める必要があるのではないでしょうか。
“人と会社”に向き合うこと
コンビニやレストランでは、外国籍の方が働くシーンを多くみかけるようになりました。注文、支払いは端末を使ったセルフサービス式のシステムも増えています。
労働力人口不足を迎える今、人に投資する重要性がますます高まっています。しかし、単純にDXを進め、人の生産性を上げればいいという話ではないように感じています。
人には感情があり、一人ひとりの人生があります。一人ひとりの生き方の価値観と会社が目指す価値観がマッチしなければ、労働力不足に対して寄与しないこともありうるでしょう。働く人は会社にとってどのような存在か、会社は何を目指しているか、会社ごとに答えは異なります。人的資本経営は、上場企業かどうかに関わらずこれから求められるのではないでしょうか。
会社では20代から60代、もっと上の年代の方が同じ場所で働くことになります。会社という1つのコミュニティをどういう場にしたいか、会社は何を目指すのか、従業員が「ここで活躍したい」「もっと挑戦したい」と思うには何を示す必要があるのか、改めて、人と会社の関係・あり方を見つめ直すときがきているのかもしれません。