製造業で男性育休取得率100%。Well-being実現を目指した制度とは
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働き方の多様化が進む今、「オフィスか、家か」「仕事か、プライベートか」といった二元論で考えを巡らしても、一律の答えは出てきません。タイミングに応じてどちらの選択肢も取れるようにする。そんな柔軟性のある発想が個人にも企業にも求められています。
そこで、この連載特集「働く&」では、「A or B」ではなく「A and B」を実現するための両立支援制度にフォーカス。実際にどのような取り組みをされているのかを探ります。
第3回に登場するのは、パーティション(間仕切)の専業メーカーとして国内トップシェアを誇るコマニー株式会社です。同社では、病気や怪我で働けなくなってしまった従業員をフォローする『積立特別有給休暇制度』『特別治療休暇制度』を導入しているほか、2022年から男性・女性従業員ともに1か月以上の育休取得を義務化。取得者には1か月分の賃金を支給しています。
病気や怪我、家族の介護、または出産や育児などを理由に従業員が退職してしまうケースは多々あります。仕事との両立を支援する制度を取り入れることで、企業や従業員にどのような変化があるのでしょうか。制度設計と運用に関わる人事部人事課の常田小百合さんにお話を伺いました。
病気や怪我で働けない従業員が、安心して復帰できるように
コマニーで導入されている『積立特別有給休暇制度』と『特別治療休暇制度』は、それぞれどのような制度なのでしょうか。
常田
『積立特別有給休暇制度』は、毎年失効する年次有給休暇を積み立て、病気や怪我で長期的な入院や治療が必要になった際に特別有給休暇として利用できる制度です。2022年からは使用用途を私傷病に限定せず、不妊治療を目的とする場合にも取得できるように改定しました。
一方の『特別治療休暇制度』は、がんなどの疾病で休職が必要になった方を対象にしています。もともと勤続10年以上の従業員であれば1年2か月まで休職が認められていたのですが、当時実際に長期的な治療を必要とする従業員がいたため、その期間を5年まで延ばしました。
休職が長期に及ぶと復帰へのハードルが高くなります。その不安を少しでも払拭し、会社としても予期せぬ離職はできるかぎり避けたいと考えていました。現状の利用者は1名のみですが、当人はもちろん、その配偶者からも前向きな反響をいただいています。
制度の導入にあたり、苦労された点はありますか。
常田
新しい制度を立ち上げるにあたってさまざまなプロセスを踏む必要があり、時間がかかることも少なくないのですが、これら2つの制度に関しては該当者からの声もあり、比較的スムーズに導入されました。新しい制度をイチから立ち上げるというより、既存の制度の改善で対応できたことも導入がスムーズに進んだ一因だったのではないかと思います。
当社の経営理念には「全従業員の物心両面の幸福」を追求するという言葉があり、「この会社で働いていてよかった」と従業員に感じてもらえる制度をもっと増やす必要があると考えています。これらの制度は、経営理念を実現するための1つの手段でもありますので。
『積立特別有給休暇制度』や『特別治療休暇制度』のように、コマニーで働き続けたいものの、事情があって一時的に勤務が困難になってしまった従業員を支援する制度はほかにもあるのでしょうか。
常田
家庭の事情やご本人の病気といった理由がある方に関しては、届け出をしていただくことで時差勤務や時短勤務を許可しています。また、設計管理や営業のサポートなど職種は限定されてしまうのですが、テレワークも導入しています。
実際、結婚や出産を機に群馬や福岡など遠方に引越した従業員がいるのですが、キャリアを途切らせることなく、しかもフルタイムで働けるので嬉しいという声を多数いただいています。
従業員の方に対しては、そういった制度についての情報をどのようにアナウンスされているのでしょうか。
常田
常時、社内のグループウェアの掲示板でアナウンスしています。働き方が変わりそうな従業員がいる場合は人事部へ相談が来るので、どのような制度が使えそうか、その都度個別に案内することもあります。
男性の育休取得促進を目的に、1か月分の給与を補償
コマニーは2022年の春に『育児休暇制度』を改定し、男性・女性従業員ともに1か月以上の育休取得を必須にしたそうですね。また1か月分の給与補填もされているとか。どのような意図があるのでしょうか?
常田
これまでも当社では、1歳までのお子さんがいる従業員は男女ともに育児休暇の取得が任意の期間で可能だったんです。ただ、休暇時は収入が減り、しかも休業日数が賞与に影響していたので、男性従業員の育休取得者や取得日数はごくわずかでした。
この課題を解決するためにどうすればいいかを考えた結果、給与の補償が必要だろうという結論になりました。あわせて、休業日数が賞与に影響しないように改訂しています。
それだけでなく、育休取得者から仕事の引き継ぎを受けた従業員を評価するように制度を設計しました。同じチームに育休を取得する従業員がいる場合、周囲のメンバーがその分の業務を引き継いでサポートやフォローをしていく必要があるため、業務の引き継ぎを受けた人の負担が増えることも考慮しなければいけません。
育休取得の申請書には、引き継ぐ業務内容や相手を記入する欄があるので、そこで名前が挙がった従業員に対して、半期の人事評価の際に、部門へのサポート貢献として評価点を捉えています。
制度の導入にあたり、苦労された点や社内で意見が分かれた点などはありますか。
常田
経営層も男性の育休取得の促進に関しては非常に前向きだったので、大きく意見が分かれることはありませんでした。従業員にとっていい制度に改訂できたと思います。ただ、管理が大変になりましたね(笑)。
新制度では、1週間単位で最大4分割で取得できるので、どの従業員がどの期間に育休を取り、残り日数はどのくらいかを把握するのが以前より難しいんです。なかには短期間で第二子が産まれる方もいらっしゃるので、いつどのお子さんに対して育休を取得したのかを管理するのもひと苦労で……。給与や賞与の計算は間違えてはいけないので、とても緊張感がありますね。
現在の育休制度に対する従業員からの反響はいかがですか?
常田
実を言うと、当初は「育休を取りたいけれど取れません」という不満の声のほうが大きかったんです。メンバーが数名しかいない小規模の営業所などの場合、営業担当者が育休を取ると営業できる人がいなくなる事態も起こります。それらは課題として残っているのですが、本部内で調整してもらうか、営業部門をサポートするチームでなんとかうまくフォローやサポートをしてもらっています。
一方で、実際に育休を取得した男性従業員からは「取ってよかった」という声をいただいています。ある従業員は、週末しか家にいないので子供があまり懐いてくれなかったそうなんですね。そこで第二子が産まれたタイミングで育休をはじめて取得したところ、第二子の育児はもちろん、第一子ともすごく仲良くなれたと言っていました。
また別の従業員は、パートナーが家でどのように家事や育児をしているのかをまったく知らなかったらしいのですが、育休期間中に自分も関わることではじめて実情を知ることができて、パートナーに対する感謝の気持ちがより一層強くなったという感想を挙げていました。
男性従業員の育休取得率を上げるため、工夫されていることはありますか?
常田
毎月19日を「イクキューの日」と定め、育休制度を社内イントラネットで周知するとともに、子育てに関する情報を発信するようにしています。
また、月に1度全従業員がZoomで集う「従業員総会」があるのですが、その場で直接従業員へ周知することもあります。そのなかで「お子さんの出産予定日がわかったらまずは人事課にご連絡ください」という注意書きをしているので、従業員から連絡してくれるケースが徐々に増えてきました。
連絡いただいた方には育休に関する案内をするとともに、地道に申請に関する声がけをしています。その甲斐もあってか、最近は育休取得に対する意識が従業員にも浸透してきているように思います。
新制度の導入後、育休の取得率に変化はありますか?
常田
今期は30名の男性従業員にお子さんが産まれたのですが、ほぼ100%にあたる28名が育休を取得し、残りの2名に関しても取得前提で期間を検討してもらっているところです。
もともと職種的に取得自体が難しい状態のなか、分割してなんとか取得につながっている状況かと思います。
働き手が減る未来、「この会社でよかった」と思える会社づくりが必要
コマニーでは「従業員一人一人の身体的・精神的・社会的なウェルビーイング(幸福・健康)を実現する」といった目標を掲げるなど、従業員の幸福・健康の実現や働きやすさの向上にとても積極的な印象です。そのような従業員が増えることで、企業にどのようなメリットがあると思いますか。
常田
今後、人口減少によって働き手が減る未来を考えると、雇用の確保のためには「この会社に勤めていてよかった」と思ってもらえる会社づくりを目指していかなければなりません。
そのためには、従業員はもちろん、その家族や就職を希望してくれる学生にとっても魅力的な企業だと感じてもらう必要があると思います。制度を充実させることも、1つの要素になるのではないでしょうか。
とはいえ、従業員からすればまだまだ足りない点も多いでしょうし、ほかの制度に関しても見直しの余地はあります。従業員の声を取り入れながら制度の改善を続けていきたいと考えています。
また、SmartHRの便利な機能をもっと活用したり、社内のDX化を進めたりして、全社としてスマートに業務を進められる仕組みも構築したいと考えています。
常田さんが日々働いているなかで、人事や労務の仕事にやりがいを感じるのはどのようなときですか。
常田
実はSmartHRを導入した際、従業員からとても感謝されました。以前は給与明細が従業員に届かないといったトラブルがあったのですが、SmartHR導入後はいつでも給与明細が確認でき、便利になったという声を多くいただいています。ここ最近では一番やりがいを感じた瞬間でした。
それだけでなく、従業員からの問い合わせに対して「こういったやり方があるのでは」「こういった制度が使えるのでは」といったアドバイスをして、助かった、ありがとうと感謝をしてもらえたときは嬉しくなりますね。事務的に対応するのではなく、従業員それぞれの悩みや働き方に応じた提案をこれからもしていきたいと考えています。
文:生湯葉シホ