年5日有休義務化から約1年。「駆け込み有給休暇取得」への対策と注意点


こんにちは。アクシス社会保険労務士事務所の大山敏和です。

働き方改革関連法による一連の改正のうちのひとつ「年5日の年次有給休暇の取得義務(労働基準法第39条7項)」が2019年4月1日に施行され、2020年4月で1年を迎えます。

この法律では、取得義務を果たさなかった会社への罰則規定が明記されており、正規雇用・非正規雇用問わず、3月31日までに年次有給休暇を10日以上付与した労働者には5日以上の有給休暇を取得してもらう義務があります。

2019年度の場合、4月付与であれば有給休暇がなくなる2020年3月には、期限ギリギリに駆け込みで有給休暇取得をする労働者が発生することが予想されます。

そこで今回の記事では、駆け込み有給休暇取得をする労働者を少しでも減らすために、人事労務担当者が予めとっておきたい対策について解説したいと思います。

※前提として、有給休暇の付与されるタイミング、期限が切れるタイミングは各会社や各従業員によって異なる点を念頭においた上でお読みください。

有給休暇取得の義務化によって生まれた課題

有給休暇取得の義務化は、日本の国内産業全体の有休消化率が50%を下回っていたという現状を打破し、2020年中には、有給休暇取得率70%を目指す目標に向かって施行されました。

これによって、以前は会社や上司、同僚等に気を使ってなかなか取れない雰囲気であった有給休暇が、会社の義務として5日は必ず取るようになった側面は大きな進歩と呼べるものです。

一方で課題も存在しています。

【1】有休管理の煩雑さ

義務化以前は、労働者が有給休暇を取得できなかったとしても会社には罰則はありませんでした。

しかし、義務化に伴って労働者が年5日以上の有給休暇取得をできていないことで会社が罰則を受けることとなり、人事担当者は労働者に有給休暇を取得してもらうための方法をこれまで以上に真剣に考えなくてはならない状況となりました。

有給休暇が付与されるタイミングは、各労働者の雇い入れ日によって異なっており、労務担当者はそれぞれの有給休暇取得状況を個別で管理する必要があります。このため、人数の多い組織になるほど管理が煩雑になってしまう恐れがあるのです。

有給休暇はフルタイム労働の場合、原則的に雇い入れ日を初日とした6ヶ月後の「基準日」に付与されます。最近はこの管理業務をより簡素にし、労働者にとっても休暇を取得しやすくするために「第一基準日」や「第二期準備」の考え方が提案されています。

この「基準日」については、以下の記事をご参考ください。

▶ 有給休暇の「基準日」とは? 概要と有休5日取得義務における注意点を解説

【2】駆け込み有休取得の発生

本記事を読まれている人事労務担当の方は、社内で5日間の有給休暇を取得できていない労働者がどのくらいいるか把握できていますか?

把握できていないのであれば、まず管理体制を見直したほうがよいでしょう。

1月〜3月など、年度末や期末などの時点でまだまだ有給休暇が取得できていない労働者がいるのであれば、会社として早急に有給休暇取得を促す必要があります。そうしないと、3月末などに、駆け込みで有給休暇を取得しようとする労働者が、多く発生する可能性があるからです。

年度末に有給休暇取得をする人が増えると、以下のような問題点が発生します。

(問題1)同時期に休暇を取る人が発生し、業務が滞る

駆け込み有休取得によって、同じ時期に大量の労働者が業務から離脱すると、それをカバーする同僚に負荷が集中してしまいます。パフォーマンスの低下や社内の雰囲気の悪化に繋がる恐れがある上に、業務が滞り、顧客にも迷惑がかかってしまうかもしれません。

また、年度末や期末は目標達成のためにも、ラストスパートとなる重要な月です。そんなタイミングで休暇取得者が増えてしまうと、惜しくも予算未達となり、事業計画が乱れてしまいかねません。

(もっとも、年に最低5日間は有給休暇を取得することを見込んだうえで、余裕をもった計画を立てていくにこしたことはありません。)

(問題2)残業時間の増加 / 業務の持ち帰り / 有給休暇なのに出勤

有給休暇を取得したいけど、業務量的に難しいという労働者も一定数発生する可能性があります。そんな人達が、以下のような行動をとる可能性があります。

  • 有給休暇を取得するために、夜遅くまで残業して時間を捻出する
  • 有給休暇を取得中にも関わらず、PCを持ち帰って自宅で仕事をする
  • 勤務表上は有給休暇のはずなのに、出社して通常通り仕事をする

人事労務担当者は、管理監督者と共に、このような事態が発生しないように対策する必要があります。

駆け込み有休取得を防ぐための対策

年次有給休暇の取得義務を果たす対策として、短期でできる対策と、中長期で取り組みたい対策をご紹介します。

【1】短期でできる対策

1. 有給休暇管理簿の導入

労働者各自の有給休暇消化日数を人事労務担当者が把握するためには、有給休暇管理簿の導入が必須です。

まだ労働者の有給休暇管理に注力できていない企業は、すぐに有給休暇管理簿に各自の有給休暇消化状況を記録しましょう。

また、有給休暇残日数を給与明細に明示することも基本の防止策のひとつになります。

2. 半日単位でこまめに有給をとる

年次有給休暇の取得義務を果たしていない複数の労働者がいる場合、1日単位の有給休暇が集中しないよう、半日単位でこまめに有給休暇をとって回していくという方法もあります。

ただし、「1時間単位の有給休暇取得」は、合計8時間になっても取得義務1日分の消化にはならないので注意して下さい(時間単位の有給休暇は、取得義務の対象外です)。

3. 土曜日出勤をする(非推奨)

生産性を落とさず、年次有給休暇消化の義務を果たすためには、あまり推奨されることではありませんが、時間外・休日労働に関する協定(36協定)が締結されている会社であれば、その範囲内で労働者の意見を聞きながら平日に年次有給休暇を取ってもらい、土曜日(所定休日)に出勤してもらうことも考えられるかもしれません。

ただし、有給休暇取得義務の目的は、労働者が心身ともに健康に働けるようにするためなので、あくまで最後の手段として認識し、休日を削ってまで働くようなことがないように気をつけましょう。

【2】中長期で取り組みたい対策

1. 「有給休暇取得状況チェック日」の導入

今後、毎年期末や年度末ギリギリになって年次有給休暇取得義務の対策に追われることのないよう「有給休暇取得チェック日」の導入を推奨します。

有給休暇取得チェック日とは、例えば年度の中間や年度末を迎える数ヶ月前に、人事労務担当者のタスクとして、有給休暇管理簿に基づき、労働者各人の年次有給休暇取得日数を確認する日です。

こまめにチェックをすることで、駆け込み有給休暇取得が発生するリスクを下げられます。

2. 「有給休暇計画付与」の実施

有給休暇の計画的付与とは、年次有給休暇のうち5日を超える分については、労使協定を結ぶことで会社が休暇取得日を計画的に割り振れる制度のことです。

会社あるいは事業場の特性を考慮して、以下のような日を休業とすることが考えられます。

  • 会社全体を有給休暇の休業とする日
  • 事業場単位で休業とする日
  • 部・グループ単位で休業とする日
  • 個人単位で個人の記念日

計画的付与をする場合、あらかじめ労使協定を結んでおく必要がありますのでお忘れないようご注意ください。

3. 有給休暇を消化してしまう不安の払拭

労働者の多くが有給休暇を年度末まで残しておく心理のひとつとして、病気やケガになった時、有給休暇が残っていないとすると欠勤扱いになることへの不安があることが考えられます。

そこで、人事労務担当者から、会社の就業規則を改善するための提案をしてみてはいかがでしょうか。

たとえば、業務外の病気やケガによる傷病手当金の受給条件が成立するまでの連続3日間の休業日(待機期間)は、当人が有給休暇を申請したとしても、休暇日数は減らさない(ただし、有休申請なのでその間の給与は保証する)などです。

おわりに

有給休暇取得義務によって、有給休暇が取得しやすくなったというのは大きな変化です。

一方でまだまだ対策すべき課題はたくさんあるので、罰則を受けることなく、一人ひとりが快適かつ計画的に休暇を取れるようにするための仕組みづくりをしていきましょう。もちろん、人事労務担当の皆さま自身の有給休暇取得もお忘れなく。

年度末シーズンは特にドタバタしますが、円滑に休暇取得が進むように願っております。

以下の記事では、従業員の方向けに駆け込み有給休暇取得のリスクについて伝えていますので、合わせてお読みください。

▶【社労士が解説】従業員の皆さま、「駆け込み有休取得」にならぬよう早めの対策を!

【編集部より】働き方改革関連法 必見コラム特集

働き方改革関連法 必見コラム特集
働き方改革関連法
【こんなことがわかります】ついに施行された「働き方改革関連法」。“70年ぶりの大改革”とも言われるこの改正法について、人事労務担当者が知るべき、必見コラム集をお届けします。

  • 働き方改革関連法の優先対応事項
  • 「時間外労働の罰則付き上限規制」の注意事項
  • 36協定や特別条項は見直すべきか
  • 「年次有給休暇管理簿」の作成・保存義務とは?
社会保険労務士 大山 敏和

神奈川県央、厚木市に事務所を構えるアクシス社会保険労務士事務所代表。東名厚木インター至近につき他都県にも対応可能。中小および創業間もない企業の人事労務、労働・社会保険のみならず、人材育成コンサルティングに至るまでカバーし企業の成長をサポートします。助成金受給は人事面での優良企業の証として積極的に提案し、長期間にわたる社内環境の整備と受給手続きに対応します。
他の執筆記事はこちら

働き方改革法の関連記事

働き方改革法の新着記事

働き方改革特集

SmartHR スタートガイド