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両立支援等助成金「再雇用者評価処遇コース」とは? コース別の違いや申請方法を解説

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こんにちは。特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

近年、育児や介護に取組む社員を支援する企業に対する助成金が拡充されています。

その流れの中、平成29年度より、両立支援助成金「再雇用者評価処遇コース」が追加されました。

一体この助成金のコースはどのようなものなのか? またこのコースに期待される成果や解決される社会課題はどのようなものなのか? などについて解説・考察します。

両立支援助成金「再雇用者評価処遇コース」とは?

両立支援助成金「再雇用者評価処遇コース」とは、どのような助成金なのでしょうか?

まず、「両立支援助成金」とは、育児や介護に取組む社員に対し一定の支援を行った事業主に支給される助成金の総称です。

この両立支援助成金は、平成29年8月現在6つのコースが分かれており、そのうちの1つが平成29年4月に新設された「再雇用者評価処遇コース」です。

両立支援助成金の全体像を確認するため、「再雇用者評価処遇コース」を含めた、6つのコースの概要を以下にまとめておきます。

両立支援助成金コース概要

どのような事業主や退職者が対象なの?

本稿のテーマである、「再雇用評価者処遇コース」について、さらに掘り下げてみていきましょう。

ここで確認しておきたいのは、この助成金の対象となる事業主や退職者の範囲です。

対象となる事業主の範囲

まず、対象となる事業主ですが、以下の不支給要件に該当していなければ、原則として全ての雇用保険適用事業主がこの助成金の対象となっています。

1.支給対象となる社員を再雇用した日の前後1年間に、事業主都合の解雇(退職勧奨等を含む)を行った場合

2.支給対象となる社員を再雇用した日の前後1年間に、同日の雇用保険被保険者数の6%超かつ4人以上の特定受給資格者を発生させている場合

3.支給対象となる社員に対して、残業代を含む賃金の全額が支払われていない場合

4.その他、労働関係諸法令違反がある場合

「1」と「2」が少々分かりにくいと思いますが、要するに、「解雇や退職勧奨を1回でも行った事業主はレッドカードで、一発で助成金不支給です。

解雇や退職勧奨に至らなくても、会社都合による退職者(例:違法な長時間残業による退職)を生じさせている事業主はイエローカードで、会社都合退職者数が一定数を上回ると助成金不支給です。」という意味です。

「3」「4」については、労働基準法に違反している事業主には助成金は支給しません。特に、残業代の未払いを含む賃金関係は厳しくチェックしますよ、という意味です。

対象となる退職者の範囲

次に、対象となる退職者の範囲を確認しておきましょう。対象となる退職者は、次の要件を満たしていることが必要です。

1.退職理由が、「妊娠」「出産」「育児」「介護」のいずれかである。

2.退職時または退職後、退職理由と再雇用を希望する旨を、再雇用における採用日の前日までに書面で事業主に申し出ている。

3.退職日の前日において、雇用保険の被保険者として1年以上雇用されている。

4.退職の日の翌日から起算して、再雇用日までに1年以上経過している。

5.事業主が定めた再雇用制度に基づき、評価・処遇されて再雇用されている。

6.無期契約で再雇用されるか、再雇用が有期契約の場合は採用日から1年以内に無期契約に移行しており、1回目の支給申請においては6か月以上、2回目の支給申請においては1年以上継続雇用されている。(6か月後、1年後に半額ずつ支給)

7.退職者は、退職後から再雇用までの間、当該事業主と請負契約を結んだり、当該事業主のグループ企業等で勤務をしていなかった。

8.退職者は、代表者または取締役の3親等以内の親族ではない。

9.退職者は、妊娠・出産・育児・介護を理由として、解雇されたり退職勧奨を受けた者ではない。

様々な要件が掲げられておりますが、特に気を付けて頂きたいのは、「期間」に関する要件です。

退職前に1年以上雇用保険の被保険者として雇用されていなければならず、また、退職から再雇用までは1年以上の期間を空けなければなりません。

1日でも要件を満たさなければ助成金は支給されませんので、退職日や再雇用日を決める際には細心の注意を払って下さい。

両立支援助成金「再雇用者評価処遇コース」の申請方法

両立支援助成金「再雇用者評価処遇コース」の申請方法

本助成金の申請に限らずですが、助成金の申請で大変なのは、申請に必要な書類を取りそろえることです。

提出書類の詳細は厚生労働省のパンフレット等を参照して頂きたいのですが、助成金の申請書自体は比較的シンプルな体裁です。労務に関する専門知識が無くても、申請書への記入はさほど難しくないと思います。

本当に大変なのは添付書類

本当に大変なのは、申請書本体に添えて提出する添付書類です。

雇用契約書、賃金台帳、出勤簿などが主な提出書類ですが、内容に違法性や矛盾があってはなりません。

提出前に、雇用契約書で定められている手当が全て支払われているかとか、定額残業代を利用している会社では、定額残業代の金額や時間数が雇用契約書に明記されており、それを超える残業が発生している場合は、差額が支払われているかなどの確認が必要です。

正しい労務管理や給与計算を行うことの徹底を

万一、残業代の払い漏れなどが判明した場合は、助成金の申請前に不足額を精算し、その事実を賃金台帳に反映させたり、申立書を添付したりしなければなりません。

実務上は、残業代の支払い漏れが申請後の労働局の審査で判明しても、指摘を受けた時点で差額精算をすれば大半は救済されているようです。

しかし、支給決定が遅れることや、審査担当者の心証が悪くなって審査が厳しくなることなど、デメリットが懸念されます。最近は助成金の審査も厳しくなっていますので、仮に不支給決定をされたとしても文句は言えません。

ですから、助成金の申請前には、出勤簿や賃金台帳を整備し、法律的に正しい労務管理や給与計算を行うことを徹底しましょう。

就業規則に再雇用制度を規定するすることが定められていること

また、本助成金独自の注意点としては、就業規則に再雇用制度を規定するすることが定められており、再雇用制度の規定内容が助成金の審査内容の1つになっているということです。

本稿では詳細な説明は割愛しますが、厚生労働省が、助成金を受けるために必要な条件を定めており、その条件に完全に合致する規定になっていなければ、助成金は支給されません。

具体的に何を就業規則に定めなければならないかは、厚生労働省のパンフレットに詳細に記載されていますので、よく読み込んだ上で、再雇用制度に関する就業規則の作成や改定を行ってください。

私の実務感覚ですが、就業規則に一定の内容を定めることが支給要件になっている助成金では、その定めた内容が助成金の申請要件に合致しているか「一語一句」レベルまで審査されています。

就業規則の定め方がまずかったため、不支給になったという話も実際に耳にしたことがありますので、気を付けて下さい。

「再雇用者評価処遇」に期待できる成果や課題解決とは?

本助成金を活用して得られる成果について説明します。

もちろん会社にとっての直接的なメリットは、受給に成功すれば、助成金というキャッシュを手に入れられることです。

しかし、それだけではありません。この助成金を受けるためのプロセスとして、再雇用制度を就業規則に定めますので、社員や就職希望者に対して、働きやすい会社であることをPRするための1つの材料になります。

確かに、再雇用制度が無くても、前職の求人に応募すること自体は可能です。しかし、一度辞めた会社の門を再度叩くというのは、大きな心理的ハードルです。

ですが、会社のオフィシャルな仕組みとして「再雇用制度」が存在することで、その心理的ハードルは大幅に下がるのです。

人材活用の幅が広がり労使双方のメリットがある

逆に、会社としても、全くの新人を採用するよりは、人物面でも能力面でも、過去に自社で勤務経験がある人を再雇用するというのは安心感があります。近年は、一部上場の大手企業でも、再雇用制度を導入する会社が増えているようです。

ですから、再雇用制度は、妊娠・出産・育児・介護というやむを得ない理由で退職してしまった社員に、元の職場で戻るチャンスを広げるとともに、企業にとっても、人材活用の幅が広がるということで、労使それぞれにメリットがあります。

両立支援助成金「再雇用者評価処遇コース」の新設は、金銭的なインセンティブもきっかけにして、退職後に元の会社に戻りたいと思っている元社員と、人材の有効活用をしたいと考えている企業の橋渡しをするきっかけをつくり、ひいては、退職者の社会復帰の新たな社会的ルートの構築を目指して新設された助成金だと考えられます。

まとめ

本助成金を受給するためには、就業規則の改定を行い、再雇用制度を導入することが求められます。

しかし、必ずしも希望者全員を再雇用するような制度にしなければならないことまでは求められていませんので、過度のリスクを懸念する必要はありません。

再雇用制度は会社にとっても有益なものになるはずですので、助成金も新設されたこの機会に、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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