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退勤後の帰宅途中で自然災害発生!これって労災になるの?【社労士が解説】

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こんにちは、社会保険労務士の吉田崇です。

先日、デロイト トーマツ グループが発表した日本の上場企業を対象とした「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査」2021年版で、国内で最も優先的に対処すべきリスクは「異常気象・自然災害」と、災害リスクに対する企業の意識が引き続き高いことが明らかとなりました。

今回は、自然災害発生時の労災に認定されるケースや保険給付などについて解説します。

労災保険とは?

仕事でケガなどをしたときに利用するものが労災というのは皆さんご存知かと思います。しかし、その内容までは詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。では、まず労災保険について解説します。

労災保険は、労働者を一人でも雇用すれば事業主に加入義務が発生します。つまりアルバイトを一人雇っただけでも労災保険に加入する必要があり、保険料は全額会社負担となります。

労災の対象者は「すべての労働者」となります。正社員、パート、アルバイト、日雇い労働者など雇用形態や勤務時間に関わらず「すべての労働者」です。

一方、会社の社長や役員などは対象となりません。(ただし一定の条件のもと、任意で加入できる特別加入という制度もあります)

労災保険が適用される労働災害は、大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」の2種類です。

「業務災害」は業務が原因で発生した傷病、死亡事故などですね。通勤中に被った傷病、死亡事故などは「通勤災害」として取り扱います。

労働災害の種類 - 厚生労働省

(出典)労災保険給付の概要(p.1) – 厚生労働省

管理職の方は、メンバーからの連絡によって、労災に該当するか否かを判断するケースもあり得ます。適切に判断できるように、このタイミングで業務に役立つ労務知識を現場管理職の方に共有してみてはいかがでしょうか。

以下の資料にその内容をまとめましたので、ぜひご活用ください。

社労士監修!中間管理職が知っておきたい労務知識

次に労災保険の種類ですが、利用頻度が高いものとして、療養(補償)給付と休業(補償)給付があります。

・療養(補償)給付:給付により労働災害に起因する傷病の治療費が補償されます。

・休業(補償)給付:給付により、労働災害に起因する傷病で出勤できなかった場合の給料の一部が補償されます。(休業1日につき給付基礎日額の80%相当)

その他、

・労働災害によって障害などが残った場合に給付される障害(補償)給付。

・死亡事故が発生した場合、その遺族に給付される遺族(補償)給付や埋葬を行うための費用として給付される埋葬料(埋葬給付)。

・労働災害による傷病が重症で、発生から1年6か月を過ぎても治癒しない場合に、一定の条件のもと支給される傷病(補償)年金。

・障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者の中で、介護を受けている人に一定の条件のもと支給される介護(補償)給付。

・定期健康診断などで、業務上の理由による脳血管疾患や心臓疾患が見つかった場合に受診する二次健康診断などの給付。

以上、合計で8種類あります。

労災保険制度

(出典)労災保険制度の種類 – 厚生労働省鳥取労働局

ケース別で紹介!退勤時は労災にあたる?

では、デロイト トーマツ グループが国内で最も優先的に対処すべきリスクであるとした「異常気象・自然災害」に起因する労災事故ですが、特に今回は、イレギュラーが発生しがちな退勤時に発生した通勤災害について、具体例をもとに労災に認定されるケース、されないケースを見ていきましょう。

(1)大雨の日の帰宅中に氾濫した道路脇の水路に転落してケガ

まず1つ目のケースです。このケースは通勤災害そのものですので、問題なく労災として認定されます。

(2)真夏日の夜、帰宅途中に熱中症になってしまった

2つ目のケースはいかがでしょう。こちらも基本的には問題なく労災の対象となります。ただ気をつけなければいけないのは、通勤災害と認められるには次の条件を満たす必要がある点です。

・ 就業のための合理的な経路および方法での移動であること。

・ 住居と就業場所、就業場所から他の就業場所、単身赴任先と帰省先との間の移動であること。

・ 通勤と関係のない行為を行ったり、合理的な通勤経路を外れていないこと。

なお例外的に、日用品の購入や通院など日常生活上必要な行為で、やむを得ない理由で合理的な経路を逸脱した場合、合理的な経路に戻った「後」は再び通勤として取り扱われます。

つまり、まっすぐ帰宅している途中に熱中症になってしまった場合は労災扱いとなりますが、「いやー、こんなに暑いと一杯やりたくなるね〜!」と居酒屋に立ち寄った帰り道で熱中症になってしまった場合は認められないということです。

(3)台風で電車が運休。帰宅途中に駅のタクシー乗り場でトラブルになりケガ

さて、このケースについてはいかがでしょうか。まず先述の合理的な経路であるかという点ですが、災害や交通インフラの都合による経路や移動方法の変更は「合理的な経路」であると認められます。では次に帰宅途中の「けんか」によるケガですが、基本的には労災とは認められません。ただし、こちらに非がなく、相手からの一方的な暴力に対する正当防衛である場合は、労災と認められる可能性もあります。

(4)地震で電車がストップ。マイカーで同僚を送っている最中に交通事故

4つ目のケースです。これは労災と認められるケースと認められないケースがあります。

まず労災と認められるケースは「会社の指示」で同僚を送った場合です。この場合は「業務災害」扱いとなりますので、労災が問題なく適用されます。

一方、親切心から同僚を送った場合は、残念ながら労災は認められません。前述の合理的な経路から逸脱したとみなされるわけです。世知辛いですね。

(5)終業後、床上浸水した部下の自宅へお見舞いの途中でケガ

最後のケースです。いかがでしょう? もうだいたいお分かりですね。

そうです、このケースも「会社の指示」でお見舞いに行った場合は「業務災害」としては認められますが、自身の判断で行った場合「通勤災害」としては認められません。

労災保険給付以外に支給できる制度

ここでは、自然災害発生時など「非常の場合」に早急にお金が必要で「次の給料日まで待てない!」という従業員からの要求に対して、会社が対応しなければならない、賃金の非常時払いについて解説します。

労働基準法25条において、「使用者は、労働者が出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」とされています。このことを賃金の「非常時払い」と呼びます。

ここでいう「非常の場合」とは、労働者自身または労働者の収入によって生計を維持する者が、具体的に以下に当てはまった場合を指します。

(1) 出産した場合

(2) 疾病にかかった場合

(3) 災害を受けた場合

(4) 結婚した場合

(5) 死亡した場合

(6) やむを得ない事由により一週間以上にわたって帰郷する場合

つまり、給料日がまだ先でも、労働者やその家族などが上記に該当し、労働者から請求があった場合は、今まで働いた日数分の労働に対する賃金を繰り上げて支払う必要があるということです。

なお、労働者から請求があった場合、いつまでに支払わなければならないかについて明確な規定はありませんが、可能な限り速やかに支払う必要があります。

また、労働者から請求があったにも関わらず、使用者がこれに応じなかった場合は30万円以下の罰金刑に処せられます。

おわりに

業務中や出勤途中の労災認定基準は把握している方も多いかと思いますが、特にイレギュラーが発生しやすい帰宅途中の事故について、労災に該当するケースと、しないケースを再確認し、従業員の方が労災にあったときは的確に対処できるようにしておきましょう。

また昨今、大規模な地震や水害などが毎年のように発生しており、さまざまな災害を想定した防災対策の重要性が年々高まっています。災害時における従業員保護の方法も含めて、今一度検討されてみるのがよいでしょう。

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