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節電要請で設定温度28度がマスト?労務がやるべき熱中症対策を社労士が解説

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こんにちは。社会保険労務士の吉田です。

​​今年もいよいよ夏がやってきますね。海に、キャンプに、ビールがうまい! いくつになっても、夏が近づくとなんだかワクワクするものですね。

ただ、今年の夏は企業にとって、少々懸念すべき点があります。というのも、今夏の電力需要が全国的にひっ迫する懸念が強まり、政府は7〜9月に7年ぶりの節電要請を行うことを決定しました。

萩生田光一経済産業相は6月7日の閣議後記者会見で「室内温度を28度にしたり、不要な照明は消したりするなど、節電・省エネしていただきたい」と呼びかけました。

一方、事業所の労働安全衛生基準では室温は18〜28度の努力目標と定められているため、節電要請を守りつつ、熱中症をどのように対策するかに頭を悩ませそうです。

今回は政府要請を受けて、労務担当者が今夏施すべき熱中症対策について解説します。

2022年の気温傾向と熱中症傾向は?

日本気象協会によると、7月は、東北南部や関東甲信の内陸部から沖縄の所々で「厳重警戒」ランクに、8月には、東北南部から沖縄にかけて「厳重警戒」ランクになる所が多い見込みです。

2022年6月〜8月の熱中症傾向※5/24現在

(参考)日本気象協会発表!2022年の気温傾向と熱中症傾向 – 日本気象協会

梅雨の晴れ間や梅雨明け後は、熱中症の危険性が高くなります。また晴れの日に限らず、曇りや雨の湿度が高い日も熱中症の危険性があるので、梅雨明け前の段階から熱中症対策を検討する必要があります

政府の節電要請は?

2011年の福島第一原子力発電所事故後、原発の長期停止で電力の供給力が落ち、冷暖房利用で電力使用量が多い夏や冬は、需給バランスが崩れる恐れがあったため、政府は2015年度まで家庭や企業に対して節電要請を繰り返していました。ただ、その後は節電意識の定着や火力発電などの供給増で需給が緩和したため、節電要請を見送っていました。

今回、7年ぶりの節電要請となった背景には、老朽化した火力発電所の休廃止が相次いでいること、今年3月の福島県沖地震の影響で発電所の停止が長期化していること、ウクライナ情勢を受けて資源調達の不確実性が高まっていることなどがあります。

エアコンは設定温度を28度にすると26度と比べ6%、フィルターを2週間に一度掃除すると2.1%の節電効果があります。オフィスではブラインドなどを活用して日照をさえぎることで3.4%、学校では教室などの照明を間引きすることで8.7%の節電効果があるということです。

今回の政府による節電要請の期間は7月1日〜9月30日までとなり、特に太陽光発電の出力が減り、電力需要が厳しくなる17時〜20時頃の節電を呼びかけています

事務所衛生基準規則について

では、法律的には事業所の温度設定などはどのように規定されているのでしょうか?

努力目標とはなりますが、事務所衛生基準規則第5条第3項で「事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が18度以上28度以下及び相対湿度が40パーセント以上70パーセント以下になるように努めなければならない」と規定されています。従来最低気温は17度以上でしたが、令和4年4月1日より18度に変わりました。

温度について

(参考)ご存知ですか? 職場における労働衛生基準が変わりました – 厚生労働省

労務担当がやるべき具体的な対策は?

エアコン設定温度

さて、前述の室温の上限値である28度ですが、エアコンの設定値を28度にすればよいというわけではなく、あくまでも室温が「28度以下」である必要があります。今夏は政府の節電要請に協力しながら、この基準もクリアする必要があるので、冷房時の外気温や湿度、建物の状況、体調などを考慮しながら、冷やしすぎない室温管理が重要となります。

理化学研究所とダイキン工業株式会社の共同研究では、室温28度でも湿度を55%以下に保てば快適性が向上し、40%以下であれば疲労も軽減できることが実証されました。オフィス内の空気を循環させるために、サーキュレーターや除湿機などを活用して、室温28度以下、湿度55%以下を維持するようにしましょう。

STOP!熱中症 クールワークキャンペーン

では、具体的にどういった対策を取るべきなのでしょうか。厚生労働省が主唱している「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」で具体的な対策が示されていますので見ていきましょう。

初期症状の把握から緊急時対応までの体制整備

熱中症の防止対策に関する教育研修の実施や、必要に応じた熱中症予防管理者の選任、体調不良時の休憩場所や状態の把握、症状悪化時に搬送する病院や緊急時の対応について確認、周知を行います。

また、厚労省主催のオンライン講習などもありますので、管理者や現場責任者に受講してもらうようにしましょう

オンライン講習の詳細

(参考)令和3年オンライン講習 職場における 熱中症予防対策 – 厚生労働省

暑熱順化が不足していると考えられる者の把握

暑熱順化の不足とは、暑熱環境下での作業に、身体の体温調節や循環の機能が慣れていないことを指します。入職直後や長期休暇明けの方は、暑熱順化の不足が疑われ、熱中症の発症リスクが高くなります。暑さに慣れるまでは十分に休憩をとり、数日かけて徐々に暑さに慣らすなどしましょう。

また糖尿病や高血圧などの持病がある方も熱中症のリスクが高くなるので、健康診断結果にもとづいて事前に把握しておくことが大切です。その他、前日にお酒を飲み過ぎていないか、体調不良はないか、睡眠不足ではないか、朝食はしっかり摂ったかなど、従業員の日々の健康を管理することで、熱中症の発症リスクを下げられます。

暑さ指数(WBGT値)の実測とその結果を踏まえた対策の実施

暑さ指数(WBGT値)は、熱中症を予防することを目的とした指標です。人体の熱バランスに与える影響の大きい気温、湿度、輻射熱により以下の式で算出されます。

(屋外)WBGT(度)=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

(屋内)WBGT(度)=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

黒球温度:黒色に塗装された薄い銅板の球(中は空洞、直径約15cm)の中心に温度計を入れて観測

湿球温度:水で湿らせたガーゼを温度計の球部に巻いて観測

乾球温度:通常の温度計を用いて、そのまま気温を観測

WBGT値の測定は専用の測定器があります。JIS規格「JIS B 7922」に適合したWBGT指数計を用いて測定しましょう。

職場における熱中症予防の目安として、作業内容ごとに熱中症になるおそれのあるWBGTの基準値がまとめられています。WBGT値が基準値を超えないよう、冷房設備やミストシャワー、日よけの設置などの対策や、必要に応じて休憩を長めに取ったり、定期的に水分や塩分を摂取しましょう。

屋外ではマスク非着用を推奨

節電要請、熱中症対策に合わせて、コロナ対策も必要な三重苦の今夏です。

厚生労働省はマスク着用の考え方について、基本的感性対策としてのマスク着用の位置づけは変更しないものの、熱中症対策を視野に入れた事務連絡を下表のとおり発出しました。

マスク着用の考え方

(参考)マスクの着用について – 厚生労働省

おわりに

対策を取るためには、適切な管理者を選任したうえで実施・運営することはもちろんですが、現場ごとの責任者が確認を徹底し、個別に健康状態の確認や、巡視の頻度を増やすなどの対応が重要となります。また、職場の従業員同士で、お互いの健康状態を確認し合うことも大切です。

とくに今年の夏は、熱中症対策と節電を両立させる必要があるので、例年以上にこまめな熱中症対策の実施が求められます。

わずかな体調の変化にも注意し、少しでも異常を認めた場合には、ためらうことなく病院に搬送するようにしましょう。

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