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降格に伴う賃金引下げはナシ? 「人事権の行使」と法律上の注意点

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こんにちは。弁護士の山口 政貴です。

このところ、政府が主導する「働き方改革」は、企業にとっても労働者にとっても、重要なキーワードとして大きく注目されています。

それとともに、企業の「人事労務」に関する興味関心は高まっており、Googleトレンドにおける検索キーワード「人事労務」の人気度でみると、硬直していた推移が一転して2017年1月以降上昇の一途を辿っています。特に、直近の2017年7月23日〜29日期間は、過去5年間での最大値となっています。

(※ 人気度は、Googleトレンドにおける独自指数で、期間内における同一キーワードの相対的な推移を示す値であり、検索の絶対数を表すものではありません)

Googleトレンドにおける検索キーワード「人事労務」の人気度

Googleトレンド「人事労務」の人気度推移(2012年8月5日〜2017年7月29日)

このように企業が重要視する組織や機能として、「人事部」や「総務部」に求められる役割も大きなものとなり、更に「HR(Human Resources)」という略称とともに、より身近な存在になっていますが、一方「人事権の濫用」も見逃せない問題として存在しています。

例えば、2017年6月に、不当な人事評価による93%もの賞与減額に対し、人事権の濫用を認め、賠償命令が下された判決がありました(*1)。

このような例に限らず、人事評価と給与・賞与は密接に関わるため、流されるがまま無闇に働き方改革を進めると、意図せずとも上記の判決例同様、トラブルに繋がりかねません。

「人事権」とは?

人事権とは、一般に、採用・配置・異動などの勤務場所や担当業務の決定、昇進・昇格・降格などの労働者の地位の決定、休職・解雇などの労働者の処遇の決定について、会社が社員に対して有する権限のことをいいます。

人事権の中身としては、

・職務内容や勤務地を決定する「配転命令権
・子会社・関連会社等での業務を命じる「出向命令権
・企業秩序の違反行為に対する「懲戒権
・労働契約を解約する「解雇権

などがあります。

裁量の大きい「人事権の行使」だが公正でなければならない

人事権を行使するに際しては、会社の事業内容や事業環境、経営方針や経営状況などの様々な事情を総合的に考慮して、専門的、合目的的に判断する必要があるとされています。

そのため、人事権の行使については、会社の裁量の余地が大きいと考えられています。

もっとも、人事権の行使について、裁量の余地が大きいとはいえ、その権限の行使は公正なものでなければなりません

労働関係の基本原則である「均等待遇の原則」(労働基準法3条)などによる規制はもちろん、労働契約法では、出向や懲戒、解雇の場面で、権利の濫用と認められた場合には、無効と規定するなど、法的規制が及んでいます。

また、労働契約や就業規則などによる規制を受けることもあります。

「人事権の濫用」に該当するケースとは?

では、どのような場合に、「人事権の濫用」と判断されるのでしょうか?

これについては、下記のように、

・業務上の必要性が全く無い
・嫌がらせや見せしめといった不当な動機や目的がある
・通常社員として甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる
・特定の社員に対して著しく不合理な評価を行う

など、社会通念上許容できないと認められる場合には、権限の濫用と判断されることになり、無効となります。

なお、雇用契約上または不法行為法上は「違法」と判断され、損害賠償の対象になります。

降格が有効でも「賃金引下げ」は無効となる場合がある

人事権の行使で注意していただきたいのが、降格に伴う賃金引下げです(ここでいう降格とは「懲戒処分としての降格」ではありません)。

例えば、ある社員の役職を部長から課長に降格した場合、その降格に伴って賃金も同時に引下げることが多いのではないかと思います。

この場合、たとえ課長への降格が法的に有効であったとしても、賃金引下げが当然に有効となるわけではありません

部長から課長への降格は「人事権の行使」の問題ですが、賃金引下げは「労働条件の変更」であって、「人事権の行使」とは別の問題だからです。

つまり、賃金の引下げについては、降格と連動するという労働契約上や就業規則上の根拠が別途必要になります。

このように、降格は有効でも、賃金引下げは無効となる場合がありますので、皆様ご注意を。

【参照】
*1:賞与93%減「恣意的で不合理」 人事権乱用で賠償命令 – 朝日新聞DIGITAL

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