社労士が解説! HRニュース 2022年5月振り返りと2022年6月のポイント


6月は、労働保険の年度更新や社会保険の算定基礎届の準備、夏季賞与の支給準備など、人事労務担当者にとって忙しくなる時期です。

今月は、この時期のルーティン業務を中心に、その他のトピックも織り交ぜながら解説いたします。

2022年5月のトピックの振り返り

(1)年度更新

皆さまの会社に、労働保険の年度更新の書類は届いておりますでしょうか?

先月のニュースレターでお伝えしたとおり、毎年6月1日から7月10日が年度更新の期間で、申告書の提出はもちろんのこと、労働保険料についてもこの期間までの納付が必要です。

実務上、期限を過ぎたからといって、申告書が受理されなかったり、直ちに何らかのペナルティを受けることは基本的にはありません。しかし法的には、労働保険料の納付遅れに対して、国は延滞金(年率14.6%)を請求できるので、そのようなリスクがないよう、早めに対応しましょう。

なお、労働保険料の納付は、分納や口座振替が可能となっています。

労働保険料が40万円以上の場合、7月10日、10月31日、1月31日を納期限とし、3分割納付が可能です。もちろん、7月10日までに一括納付してしまうことも可能です。自社のキャッシュフローや決算対応を踏まえ、一括納付にするか、三分割納付にするかを決めるとよいでしょう。

また、今回の年度更新には間に合いませんが、登録をすれば、口座振替による労働保険料の納付も可能ですので、まだ口座振替を登録していなければ、業務効率化のため積極的に検討してみてはいかがでしょうか?

労働保険料等の口座振替納付について

(参考)労働保険料等の口座振替納付 – 厚生労働省

(2)4月1日付法改正項目の実務運用

4月1日付で、パワハラ防止法の中小企業への適用開始や改正育児介護休業法の施行といった、大きな法改正がありました。多くの企業では、就業規則の改正など、事務的な対応はすでに完了しているのではないかと思います。

一方で、法改正の施行から約2か月が経ちますが、実務運用における実効性はいかがでしょうか?

パワハラ防止法では、ハラスメントに関する相談窓口の設置が義務化されましたが、たとえば、女性社員の多い会社であるにもかかわらず、窓口担当が男性のみだとしたら、窓口自体はあるものの、実際には相談することが難しい場面も少なくないでしょう。

相談窓口担当者に男性・女性を1名ずつ配置する、法律事務所や専門事業者が提供する社外相談窓口を契約するなど、相談窓口の実効性を高めることが望ましい対応であるといえます。

また、育児介護休業法の改正においては、本人または配偶者が妊娠・出産した従業員に対し、育児休業などの制度説明や取得意向の個別確認が義務化されました。

個別の周知・意向確認の措置の義務化

(参考)育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 – 厚生労働省

従業員側から、妊娠・出産の報告そのものがなかったとしても、それを推察できる事実があった際には、この説明・確認を省略できません。

たとえば、男性従業員から「子供を扶養に追加したい」と申請があった場合、これは配偶者に出産があったことを会社側が認識できる間接事実ですから、今回義務化された個別説明・確認の対象となります。

従業員および、その配偶者が妊娠・出産をしたという事実を把握したならば、幅広く説明・確認の対象になるというイメージを持ってください。

なお説明・確認は、あくまでもニュートラルに行うことが必要で、「今は繁忙期だから、育休は取らない前提だよね」とか「会社としては育休取得はn日以内にしてほしいと思っている」などと、育休取得を妨げるような発言をしてはなりません。

一律に人事労務担当者が説明・確認している場合は問題ないですが、所属部門の部門長などが行う場合は、現場の判断で育休取得を妨げることがないよう、人事労務部門から社内の各部門長に対して、周知することが望ましいでしょう。

(3)有価証券報告書に労務指標の記載追加

5月23日に金融庁の金融審議会は、上場企業に義務づけられている「有価証券報告書」の記載項目に、新しく「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」などを追加する報告書案をとりまとめました。

(参考)男女間の賃金格差・男性の育休取得率など公開義務づけへ 金融庁 –  FNNプライムオンライン(2022年5月23日)

有価証券報告書は、投資判断を行うための情報を投資家に提供する重要な資料です。昨今は、ESGやコンプライアンスが重要視されていますが、人事制度のあり方が、株価にも直接的に影響を与える時代が到来したといえるのではないでしょうか。

そして、これは上場企業だけの問題ではなく、上場企業以外にも広く波及して、このような指標が注目されるようになり、新規採用や従業員満足度にも影響を与えるようになると思われます。

2022年6月のトピック

(1)算定基礎届

労働保険の年度更新と並んで、この時期のホットな話題となるのは社会保険の算定基礎届です。

算定基礎届は、4月、5月、6月に支払われた報酬額を日本年金機構に届け出て、その平均により、9月以降の標準報酬月額を決定する手続きです。

4月、5月、6月勤務分の賃金ではなく、4月、5月、6月に「実際に支払われた」賃金が対象となりますので、この点は誤りのないよう、ご注意ください。

算定基礎届の記入例 - 日本年金機構

(参考)算定基礎届の記入・提出ガイドブック 令和4年度 – 日本年金機構(p.19)

例年同様であれば、6月中に日本年金機構から茶色の封筒で、算定基礎届の案内や届出用紙が郵送されます(前年の算定基礎届で電子申請による届出を行った場合は、届出用紙が添付されていない場合がある)。

なお、健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合からも算定基礎届が届きますので、年金事務所と健康保険組合の両方に算定基礎届を提出する必要があります。

(2)高年齢者・障害者の雇用状況報告書の提出

高年齢者雇用状況報告書および障害者雇用状況報告書は、6月1日時点の高年齢者や障害者の雇用状況について、対象となる企業から、7月15日までに所轄ハローワークへの届出が必要となります。

対象となる企業は、高年齢雇用状況報告書は常用労働者が20人以上、障害者雇用状況報告書は常用労働者が43.5人以上の企業となっています。

高年齢雇用状況報告書では、定年制や継続雇用制度の運用状況、過去1年の離職者数や定年到達者数などを報告します。

高齢者の雇用に関する諸法令が遵守されているかや、高齢者が非自発的な離職を強いられている状況がないかなどの確認が目的です。

高年齢者雇用状況報告書様式(参考)高年齢者雇用状況等報告書及び記入要領等 – 厚生労働省

障害者雇用状況報告書では、障害者の雇用者数が法定雇用率を達成しているかや、その計算根拠となるデータを報告します。

障害者雇用納付金制度のように、未達に対して金銭的なペナルティが課されるものではありませんが、障害者の雇用が進んでいない場合には、行政指導や企業名公表の対象となるリスクがあります。

高齢者や障害者の雇用に対するコンプライアンスを達成するとともに、これらに対する報告書も失念することなく、期限までに正しく提出を済ませたいものです。

なお、高年齢者雇用状況報告書および障害者雇用状況報告書は、e-Govから電子申請による提出も可能です。

(3)労働者派遣事業報告書

労働者派遣事業の免許を有している企業に限られますが、6月1日から30日までの間に、労働者派遣事業報告書を都道府県労働局に提出しなければなりません。

過去1年間の労働者派遣の実績(派遣人数や派遣金額、派遣労働者への賃金支払い実績など)や、キャリアアップ教育訓練の実施状況などが報告内容になります。

労働者派遣の実績がなかった企業も含めて提出義務があり、提出がない場合は、行政指導や、派遣免許の取消などにもつながるリスクがありますので、対象となる企業は期限までにご対応ください。

人事・労務ホットな小話

昔から、「ヒト」「モノ」「カネ」は企業を形成する3大要素と言われてきましたが、現在は「ヒト」に対する比重がかつてないほど高まっています。

今回、トピックの一つとして取り上げた有価証券報告書の開示項目に労務関連の指標が追加される話も、その一端といえるでしょう。

また、筆者自身が実務家として担当する顧問先は、IT系のスタートアップが多く、立ち上げから支援させて頂くことも珍しくありません。

そのとき感じるのは、

(1)優秀で志の高い立ち上げメンバーが集まり

(2)斬新なサービスやビジネスモデルを考案し

(3)ベンチャーキャピタルなどがそのサービスやビジネスモデルに共感して出資し

(4)サービスやビジネスモデルが形になって実現していく

というように、「ヒト」が起点となって「モノ」や「カネ」につながっていく傾向を強く感じています。

そして、立ち上がったスタートアップ企業が、ミドルベンチャーやメガベンチャーに発展していけるかどうかは、企業が、優秀な「ヒト」をどれだけ引き寄せられるかにかかっているといっても過言ではないでしょう。

そのような状況のなか、会社経営における人事労務部門の役割も、かつてないほど重要になっていることに疑いはありません。人事労務の面から、どのように企業を発展させていくのかを考え、実現していくのは、とても面白く、やりがいのある仕事ではないでしょうか。

まとめ

年度更新や算定基礎届、夏季賞与支払準備などへの対応が忙しい時期ではありますが、クラウドソフトや電子申請を活用すれば、「瞬殺」とまではいかずとも、それに近い水準まで自動化できるほど、HRテクノロジーは成熟してきています。

事務処理に追われる企業と、事務処理を瞬殺して人事戦略の立案・実行にパワーをかけられる企業は、これからの時代、大きな差がついてしまいます。

今年の年度更新や算定基礎届にどのくらいの時間やマンパワーがかかったのかを一つの指標とし、今後の自社の人事労務部門のあり方を考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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