心地よく働き、暮らすために。仕事とわたしのちょうどいい関係を探して【WORK and FES 2021】

2022.02.04 ライター: SmartHR Mag. 編集部

「Relationship(関係性)」をテーマに、12月11日に開催された『WORK and FES 2021』。多数のセッションを通して、働くことをとりまくさまざまな関係性を見直しました。

この記事では、文化人類学者・磯野真穂さんと、精神医療を軸足に活躍する星野概念さんを迎えて行われたトークセッション「心地よく働き、暮らすために。仕事とわたしのちょうどいい関係を探して」の内容をご紹介。

さまざまな変化のなかでも、自分なりのリズムや方法を見つけ、仕事と“ちょうどいい”関係を築いていくためのヒントを伺いました。

聞き手は、株式会社SmartHR 執行役員・VP of Product 安達 隆がつとめます。

■磯野 真穂

文化人類学者。専門は文化人類学・医療人類学。博士(文学)。早稲田大学文化構想学部助教、国際医療福祉大学大学院准教授を経て2020年より独立。身体と社会の繋がりを考えるメディア「からだのシューレ」にてワークショップ、読書会、新しい学びの可能性を探るメディア「FILTR」にて人類学のオンライン講座を開講。

(オフィシャルサイト:www.mahoisono.com / Blog: http://blog.mahoisono.com)

■星野 概念

精神科医として病院に勤務するかたわら、執筆や音楽活動も行う。雑誌やWebでの連載のほか、寄稿も多数。音楽活動はさまざま。著書に、いとうせいこう氏との共著 『ラブという薬』(2018年)、『自由というサプリ』(2019年、ともにリトル・モア)、単著『ないようである、かもしれない〜発酵ラブな精神科医の妄言』(2021年、ミシマ社)がある。

■安達 隆 株式会社SmartHR 執行役員・VP of Product

チームラボにて受託開発やプロダクト開発に従事したのち、起業。EC領域でSaaS事業を立ち上げ、KDDIグループに売却。メルカリにてカスタマーサポート部門の業務システム開発を担当し、2019年にSmartHRへ入社、2020年7月より現職。日本CPO協会理事。

急激な働き方の変化により、仕事の余白が少なくなっている

安達:さっそくですが、ここ10年での社会の変化、働くことへの価値観の変化をどのように捉えていらっしゃいますか?

磯野さん:おそらく90年代前半ぐらいまでは、わかりやすい成功イメージがあったと思います。具体的には、大きな会社に入って、結婚をして家を建てて、60歳ぐらいで退職をし、年金をもらって……というイメージです。

しかし、現在はそのような一般的に思い描かれるようなイメージが機能しなくなり、個人に成功イメージが委ねられるようになってきたのかなと思います。

安達:新型コロナウィルスの影響を受けたここ1〜2年の変化と、働き方の関係についてはどのように考えていらっしゃいますか?

磯野さん:テレワークが導入され、オンラインでなんでも進められるようになり、大きく変化しました。ただ、これらの変化は、5年、10年と長いスパンで見た時に起こると想定されていた変化だと思います。新型コロナウィルスが大きく影響したことで、想定より早く進んだといえます。

安達:星野さんはいかがでしょうか?

星野さん:2020年からのことを考えると、今、磯野さんもおっしゃったように、テレワークが急激に進みました。ただ、その一方で、その変化に適応することの難しさも感じています。実際、「テレワークになってから、うまくいかなくなった」と相談に来る人は多いんですよね。

磯野さん:私自身は、オンラインで講座をすることも多く、変化に馴染めている方だとは思っているのですが、働き方がますます「タスク化」したなと日々感じていますね。ミーティングが終わったらバサッと切れてしまいますし、Aという仕事を埋めるために動いているような毎日です。

安達:それ、すごくわかりますね。僕自身、ミーティングの予定がカレンダーにぎちぎちに埋まっていることが多いのですが、オンラインになってからは30秒遅れるだけで連絡が来るんです。「安達さん、ミーティングですよ」って。

対面でミーティングしていたころは、2〜3分遅れても「あの人、今、移動中なのかな。待とうか」というような感じだったのですが……。

磯野さん:そうなんですよね。授業を受ける人たちも、オンライン授業になってから授業開始の30秒前に入室する人が大半になりました。余分なものをどんどん排除し、働き方、人間そのものが、ITのモジュールみたいな形になっているなと感じます。

安達:人間が本来生物として持っているスケールみたいなものが、今の変化と合ってないんじゃないかという感覚があるのですが、そういう理由で星野さんのお話でも出たように悩みを抱えている方がいらっしゃるんでしょうか。

星野さん:そうですね。余白みたいなものが作りにくくなり、味気なさを感じてしまいますね。人間らしい仕事の進め方が失われているような印象です。

オンライン化によって失われた連続性が、孤立を生む

安達:磯野さんにお伺いしたいのですが、人類学の観点から今、われわれの社会はどのようになっているとお考えでしょうか?

磯野さん:身体の煩わしさみたいなものに自覚的になってしまった時代だと感じます。オンライン化されて楽になった一方、やはり伝統的な民族の暮らし方と同様、体は疲れるものであり、そこは変わりません。

安達:めんどくさいから楽なほうに流れてしまうものの、結果それでしんどくなるということでしょうか?

磯野さん:そうですね。めんどくささが、逆に生きることの味わいに転化することってあると思うんです。たとえば、「Zoomで13時から会議です」と言われた場合、12時50分から静かな画面を見ていても、つまらないですよね。一方、教室や会議室へ移動すると、景色が変わったり、誰かがそこに来たりというような偶発的な出会いが発生します。

このような「味わい」がなくなっているなと。ただ、私の場合、そういった味わいよりも、めんどくささのほうが勝っちゃうのも事実なので、難しいですよね。

安達:星野さんはいかがですか?

星野さん:今お話を聞いて思ったのですが、家を出て、その場に行って、話す前のちょっとした時間があって……というような連続性が失われましたよね。そういう連続性が作りづらいので、孤立につながっている気がするんです。たとえば家に1人でいて、画面をオンにして話をして、終わったらブチっと切る。そうすると、また1人になるみたいな。それって結構つながりを感じにくいなって。

磯野さん:逆に、今の学生たちはつながる方法を知っていますよね。バラバラの場所で宿題をしながらも、ずっとオンラインでつないでおき、いつでも話しかけられるようにしているそうです。これから人間は身体を捨てていくほうに向かい、「オンラインでいかに余白を作れるか」という形に進むのかもしれないな、と思いましたね。

ただ、星野さんがおっしゃっているように孤立を生む部分は、私たちに体があるかぎりいやが応なく生まれるものなのかなと。

安達:磯野さんは、「今後、人間は身体性が薄れていく」とお考えなのでしょうか。

磯野さん:そうですね。そのうち、オンラインの関係ですらめんどくさくなっていくのではないか、そこまでいくとどうなるんだろうと想像するときがあります。

平気だったものもめんどくさくなり、ゆくゆくは体を出すのもめんどくさい、アバターでいいんじゃないか、という変化が起こるかもしれない。そんな働き方になっていくと、「この人アバターしか見たことない」ということも起こるでしょうね。

仕事=苦行? 仕事と私のいい関係とは

安達:次に「仕事といい関係を築くには」というところを考えていきたいと思います。働き方が変わり、オンライン化が進むことで、辛いこと・良かったことをどのように考えていらっしゃいますか?

星野さん:オンライン化が進んで良かったと感じている人はいるでしょうね。僕自身もそうなのですが。今までは、とにかく集まっていましたし、人とよりつながった人が勝者みたいな感じがあったと思うんです。

だから、対面での直接的なコミュニケーションが得意な人を見て、劣等感を抱くこともありました。でも、そういう機会が少し減り、外に出なくても力を発揮できる選択肢ができたのはいいですよね。だから、オンラインもリアルも、その人にフィットするバランスで使い分けることが大切になると思います。

磯野さん:オンラインとリアルに限らずなのですが、仕事といい関係を築くことに関して、「そもそも仕事って何なんだろうな」と思うことがよくあるんです。ワークライフバランスといいますが、ワークとライフは別なのか? と。

安達:なるほど。

磯野さん:お金を得ているときはワークで、それ以外はライフなんだと思いますが、「ワークって、そんな狭いものなのかな」と感じるんです。今これが仕事なのか、ライフなのか境界線が曖昧になるときが結構ありますね。

星野さん:たしかに僕も何が仕事かわからないですね。自分の興味に従って仕事しているので、キツいわけではないですし。もちろん、朝から夜までずっと人と会い続ける外来の日は、身体的にはキツいんでしょうけど、それがやりたくないかというと、そうでもないし。話していて思ったのは、いままでは仕事=苦行みたいな認識があったかも……。

磯野さん:そうですよね、仕事=苦行という認識があるから、「ワークライフバランス」とか、「ちょうどいい関係」という言葉が出てくるのかもしれません。逆に、仕事をしていないときの方が辛いこともあるよね、と思うと、「ちょうどいいっていうのは、どういう状態になったらちょうどいいのか」の前に、仕事=苦行になること自体を変えたほうがいいのかなと思います。

安達:仕事へ依存していることに課題を感じている人はいると思います。ワークライフバランスという言葉もそうですが、人生における仕事のシェアが大きくなりすぎていることで、「仕事がうまくいかない=人生が辛い」と認識してしまうのかもしれません。

そうなることを避けるために何ができるでしょうか?

磯野さん:「頑張りどころを間違えないこと」と「手放すポイントを間違えないこと」かと思います。仕事でも仕事以外だったとしても、踏ん張るところともうやめておこうというところのポイントを履き違えると、私は結構辛くなるタイプなんです。

星野さん:僕の場合は、力を入れたいところ、抜きたいところが明確にわかりすぎると組織にいづらくなると思うんですよね。だから、白黒つけ過ぎないことが、ちょうどいい関係なのかなと思います。ただ、自分自身の体の声を聞くのは、大事かもしれないですね。

磯野さん:めちゃくちゃ大事ですね。

目の前を見つめて、一歩一歩地道に進めていくこと

安達:質問が届いています。「プライベートでもやもやし、仕事に手が付かないときの対処方法はありますか」とのことです。星野さん、どうでしょうか。

星野さん:オススメしているのは、自分の取扱説明書的な感じで、自分が喜ぶことをメモしておくことですね。たとえば「朝何時に散歩して、あの公園に行ってみる」とかでいいので、メモすることです。

安達:なるほど。自分が何で喜ぶのかを知り、ポジティブな時間を意図的に作るとよさそうですね。次の質問にいきたいと思います。「働き方の価値観において上司とギャップがある場合、どうしたらよいでしょうか」という質問です。磯野さんはいかがでしょうか?

磯野さん:仲間をつくって、話し合える環境を作れるといいですね。1人で上司に対抗すると失敗しがちですが、3人いると政治になるので。組織のなかで心地よさを求めるためには、「考えないようにするか、あるいは交渉してみるか」のどちらかしかないと思うんです。

星野さん:話し合いのポイントとして、持ち時間を話す側と聞く側にはっきり分けるのもオススメです。これは上司が気遣いするとよいことですが、持ち時間を言いたいことを言う5分と、相手の話を聞く5分として、フリースタイルラップのように小節数を決めて話すことで、1対1でも意見の交換がしやすくなると思います。

安達:私たちは週に1回、開発チームで振り返りをしているのですが、付箋に「今週どうだった」っていうのを書いてペタペタ貼っていって、みんなでそれを眺める場を作っています。習慣的に毎週やることで、意見や本音を言いやすい雰囲気が作れていると思います。

では、最後の質問です。「これからあと何十年も働かないといけないと思うと、何だか暗い気持ちになります。息切れせず自分らしく働き続けるには、どうしたら良さそうでしょうか」。

星野さん:先のこと考えちゃうときこそ、地道さに立ち返ることが大切だと思います。今目の前でやるべきことが、何かしらあると思うんですよ。もし何もなかったらひたすら掃除するとか。

そうすることで、ちょっとスッキリし、思考が整っていくと思います。まずは今を見て、地道に、一歩、一歩進めていくこと。そんなに簡単にはいかないかもしれませんが、大切かなと思います。

安達:ありがとうございました。以上で、こちらのセッションを終わりにしたいと思います。

【執筆:於ありさ】

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