多様性は、これからの可能性。しなやかで強いチームを実現するはじめの一歩【WORK and FES 2021】

2022.02.18 ライター: SmartHR Mag. 編集部

 

「Relationship(関係性)」をテーマに、12月11日に開催されたオンラインフェス『WORK and FES 2021』。多数のセッションを通して、働くことをとりまくさまざまな関係性を見直しました。企業や組織が長期的に高い成果をあげるための鍵を握ると言われる多様性の推進。知らず知らずのうちに身につけてきてしまった“強者の論理”を自覚し、そこから抜け出すことが必要です。『多様性は、これからの可能性。しなやかで強いチームを実現するはじめの一歩』では、ゲストとともに次世代型組織のつくり方を考えました。

■浜田敬子 ジャーナリスト/前Business Insider Japan統括編集長/元AERA編集長

1989年に朝日新聞社に入社。週刊朝日編集部などを経て、1999年からAERA編集部。女性の生き方や働き方、国際ニュースなどを中心に取材。副編集長を経て、2014年にAERA初の女性編集長に就任。2017年3月に朝日新聞社を退社。世界17カ国で展開するオンライン経済メディア「Business Insider」の日本版を統括編集長として立ち上げる。2020年末に退任。現在はフリージャーナリストとして、「羽鳥慎一モーニングショー」や「サンデーモーニング」などのコメンテーターや、ダイバーシティーや働き方改革についての講演なども行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)

■澤田智洋 世界ゆるスポーツ協会代表/コピーライター

1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後17歳の時に帰国。2004年広告代理店入社。映画『ダークナイト・ライジング』の「伝説が、壮絶に、終わる。」等のコピーを手掛ける。 2015年に誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。 これまで100以上の新しいスポーツを開発し、20万人以上が体験。海外からも注目を集めている。 その他、UNITED ARROWS LTD.と取り組んでいる、一人を起点に新しいファッションを開発する「041 FASHION」、オリィ研究所と共同開発している視覚障がい者アテンドロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを多数プロデュースしている。著書に『マイノリティデザイン』(ライツ社)、『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)。

【モデレーター】

■芹澤雅人 株式会社SmartHR 取締役 ・ CTO

2011年よりナビゲーションサービスを運営する会社にて、経路探索や交通費精算、動態管理といったサービスを支える大規模な WebAPI の設計と開発に従事。2016年2月にSmartHR入社、開発業務のほか VPoE としてエンジニアチームのビルディングとマネジメントを行う。2020年11月現職に就任し、現在はプロダクト開発・運用に関わるチーム全体の最適化やビジネスサイドとの要望調整を担う。

(※プロフィールや記事内容は2021年12月時点のものです)

なぜ今、D&Iが語られるのか

芹澤:モデレーターを務めさせていただきます、株式会社SmartHRにて取締役をさせていただいております、芹澤と申します。今年の9月からD&Iの推進委員を立ち上げまして、管掌役員として携わっています。とても興味のある分野ですので、お二人と話せることをとても楽しみにしておりました。どうぞよろしくお願いします。

浜田さん:私は男女雇用機会均等法と言われる法律が施行された3年後に朝日新聞社に入りました。記者や編集者、ジャーナリストとして働いたのち、AERAという雑誌の編集長に就任。朝日新聞社を退社した後はアメリカの経済メディアであるBUSINESS INSIDER 日本版の立ち上げに携わりました。

記者として働く女性の問題を長く取材してきたと同時に、自身も管理職と家庭を両立させた経験から、ダイバーシティやジェンダーのテーマに関心をもち、取材や発信をしています。今日は取材経験も含めて、お伝えできたらいいなと思っております

澤田さん:私は広告会社に勤めながら、スポーツと福祉の法人を経営しています。広告会社では企業さまと伴走して、D&Iの推進をお手伝いさせていただくことが多いです。自社の事業では、障害のある方を起点に、スポーツ開発やプロダクト作りに取り組んでいます。本日はよろしくお願いします。

芹澤:ありがとうございます。では、早速1つ目のテーマです。個性や特性の違う多様な人たちが協働し、認め合うD&Iという考え方について。ダイバーシティ&インクルージョンの略でD&Iですが、最近はイクイティ(Equity)が合わさってDEIと呼ばれたりも。これはそもそもどういうことなのかを、お話しいただけますでしょうか。

浜田さん:私はD&Iの中でも、特にジェンダーへの関心を深く持っています。なぜならば、日本におけるジェンダーギャップ指数が、世界156カ国中で121位であるという事実があるからです。先進国の中ではもちろん途上国も含めてジェンダーの部分での後進性は際立っています。

海外では、特に#MeToo運動が盛んになってからのこの数年は、ジェンダーギャップの解消に向けた動きがさらに加速しました。女性の政治家や企業経営者・管理職の比率の推移を見れば一目瞭然ですが、日本はその歩みがあまりにも遅いんです。背景には、日本に強く残る性別役割分担意識、性別による「あるべき論」があると思います。これまでの「あるべき論」によって考え方や行動が縛られ、多くの人が苦しんでいます。

澤田さん:僕は障害福祉に重点を置いてD&Iに取り組んでいます。これまで、日本社会を含む世界は、ものすごく単一性社会でした。無自覚に、男性の大人で、健常者で、異性愛者といったマジョリティをベースとした構造を作り上げてきたのです。マジョリティな僕らは、生まれた瞬間に空気があるのと同じように、この社会のありがたさに気付きません。しかしそこから外れた状況にある人は、生きづらさを抱えています。現在世界中でD&Iが語られているのは、これまで目を向けられなかったマイノリティが確実に存在しているからなのです。

企業活動においても同じことがいえます。企業がターゲットとする人は、世帯年収が比較的高く、男性で健常者といった、マジョリティなんですよね。それゆえ、マーケティング活動にも限界が来ています。これ以上何を作っていいか、分からなくなっているのです。リサーチをかけたとしても、マジョリティは不便さを感じていないので、重箱の隅をつつくような細かい課題しか出ません。小さなマイナーチェンジを繰り返すだけでは、大きなイノベーションにつながりませんよね。そういったさまざまな要因が合流して、D&Iの盛り上がりに繋がっているのかなと思います。

芹澤:なぜ今、D&Iが語られているのか。これは1つのポイントだと思っています。人類における構造は変わっていないのだから、突然マイノリティが生まれるということはないわけです。昔から存在していたのに、なぜこのタイミングでD&Iが盛り上がっているのでしょうか。おっしゃっていただいた企業活動の他に、どのようなことがあると考えられますか?

澤田さん:もちろん突然起こったわけはありません。女性運動でいうと、ウーマン・リブ運動から始まり、当事者による女性の社会参画や機会の均等の訴えが続き、昨今の#MeTooにまでつながりました。障害者の方々もバリアフリーに対する要求を訴えてきています。長い時間をかけて徐々にいろんなマイノリティたちが声を上げ始め、それが一気に合流したのがこの数年なのかなと思います。

浜田さん:澤田さんのおっしゃるとおりだと思います。プラスするならば、SDGsという概念も追い風となりました。「誰一人として取り残さない」ことを目標にしたSDGsですが、「誰」の中には女性やLBGTQなどの性的少数者、障害をお持ちの方などのマイノリティが含まれています。この考え方が特に企業の社会的責任という視点からも重要となった今、投資家たちにとっても見逃せないポイントとなっています。企業の社会課題への姿勢を重視するESG投資(環境・社会・ガバナンスを考慮した投資)なども加速しています。

日本の場合は人口減少という問題も抱えています。働き手が減る中、第2次安倍政権では女性活躍推進法が制定されました。女性の能力を活かすという理念と同時に、働き手の確保という「本音」もありました。なので、この法律制定当時、働く女性たちがこの法律を素直に喜べなかったのは事実です。

なぜマイノリティが生まれるのか

芹澤:私はまだまだ勉強中の身ですが、知れば知るほど、多様性を考慮することの大切さを理解します。しかし強く意識をしない限り、マイノリティへの理解が不足してしまうという状況になるわけです。それはなぜなのでしょうか。

浜田さん:私自身もマネジメントの立場に置かれた際、「気をつけなければ」と思った瞬間がありました。AERA編集部時代、約30人の編集部員のうち20人が女性、そのうちの10人はワーキングマザーでした。副編集長も5人のうち、4人が女性でした。

ある時、男性の副編集長と企画に関する議論になったことがあります。「なぜ、会議の時にその意見を言ってくれなかったの?」と聞いてみたら、「あんな女ばっかりのところで言えませんよ」と言われたんです。

私は男性が多い組織の中で、私だけが女性という場面も多く、常にマイノリティを自覚していました。マイノリティの視点から見た社会のさまざまな制度や慣習の理不尽さや矛盾を感じていたわけですが、その同じ属性の女性のままでもそれが多数派、しかも意思決定層に占める割合が多くなればマジョリティともなりえる。そのことにこの時気付かされたんですよね。。つまり誰もが場合によっては特権性を持つ可能性があるということを自覚するのが大切なのかなと思います。

芹澤:マジョリティとマイノリティの分け方の1つとして、少数派と多数派の区別がありますが、実は権威の有無が重要な場合があるようです。この辺りの意識について、澤田さんのご意見を伺えますか?

澤田さん:人間は同調を好む生き物です。同調圧力という言葉の逆に、同調快楽という現象もあると思っていて。人は自分と似た思考を持った人との会話で、「そうですよね」と同調されたら、快楽物質が分泌されてしまうんですよ。だから、自分と属性が違う人よりも、近い人をチームで固めたくなってしまう。

でもD&Iにおいては本能に抗うことが必要で、むしろ異論を楽しむぐらいの心持ちでいなくてはなりません。私がプロマネをさせていただく時は、なるべく同調しづらいチーム編成や、異論を“遊べる”ような関係性、空気づくりを意識しています。

浜田さん:すごく共感します。今年、流行語にジェンダー平等が入った背景には、森さんの発言(東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏による「女性がたくさんいる会議は時間がかかる」という発言)の影響が大きいと思うのですが、あの発言の時に感じたのは、ダイバーシティとは単に女性が入れば多様性が確保されるわけではなく、入った女性たちはきちんと発言する役割を負っている。にもかかわらず、まだ数だけ入っていればいい、その女性たちが発言することは想定していない意思決定層の男性たちがいかに多いのか、ということでした。男性に同調して自分の意見を言わなければ、ダイバーシティにならないわけです。ダイバーシティの本質は、異質な価値観や意見が交じること。組織構成員としての多様性に加えて、本当に発言しやすい環境をつくっていかなくてはならないのですね。

澤田さん:心理的安全性が必要ですね。バンドワゴン効果という言葉をご存知でしょうか。その場にいる2人以上が「そうだね」と意見が合致したら、他のメンバーもそれに合わせちゃうという心理性です。僕がプロマネのリーダーを務める場合は、サブリーダーとの意見の食い違いを提示するようにしています。そうすればみなさん、違う意見を言いやすくなります。

企業がD&Iを推進する意味

芹澤:ここで2つ目のテーマですが、企業活動としてD&Iを推進することによる強みとは何でしょうか。

澤田さん:大きく2つの効果がありますと。1つは、失点を防ぐこと。最近は減りましたが、ジェンダーに関する視点が欠落しているがゆえに、配慮にかけたCMを作って炎上するといったようなことが起こっていましたよね。そういう失点を防げるのは1つのメリットです。

もう1つは、D&Iの観点を入れることで、今まで思いもよらなかった課題を発見できます。例として、自動車メーカーさんの商品開発における女性視点の必要性についてお話しします。自動車メーカーさんって、めちゃくちゃ男社会なんですよね。これまで女性というマイノリティの意見を全然取り入れてこなかった故に、失点を重ねてきたんです。というのは、自動車は男性目線で作られているからです。つまりシートの構造やシートベルトの長さは、男性の体格に最適化されているんです。そのため、自動車事故における女性の重傷化率は男性よりも47%高く、死亡率では17%も高いという数字が出ています。

これはめちゃくちゃ深刻なイシューですよね。それなのに自動車メーカーは、カーボンニュートラルや電気自動車などの流行りにばかり目を向けてしまっている。ここにD&I観点を入れることで、女性の重傷化率をどう減らすかに取り組む必要性が見えてくるのです。女性が亡くなるリスクを減らせる上に、いい車内空間を提供できれば、消費者に選んでもらうきっかけともなります。

浜田さん:リスクの管理と、思いも寄らないものが生まれる可能性は、まさにその通りですね。私は、制約があることによって生まれる可能性も実感しています。AERA編集部は3分の1がワーキングマザーだったため、働く時間という点ではさまざまな制約がありました。

限られた時間の中で、それでも面白いものを作るにはどうするかということで、雑誌の作り方自体を大きく変えました。一般的な週刊誌は、毎週のニュースを追いかけ、政治経済スポーツ芸能のあらゆるジャンルを幕の内弁当のように詰め込んでいます。しかし子どものお迎えで早く帰る日があったり、夜遅い時間の取材には出られないワーキングマザーにとって、毎週毎週違うテーマを追っかけたり、突発的なニュースに対応するのは難しい。これまでの作り方のままだと他の編集部員に過剰な負担が偏ってしまうことが考えられました。するとワーキングマザーたちはそれに対して罪悪感を抱く、ということが起きていました。

そこで、より付加価値の高いコンテンツを時間をかけて作るという編集方針に切り替えたのです。これを週刊誌の世界では特集主義といいますが、3〜4人のチームで1カ月かけて特集を作ってもらうやり方です。そうすればワーキングマザーも予定が立てやすく、自分のペースで取材や執筆ができると考えました。

当時はネットニュースの台頭により、お金を払わなくても速報ニュースは読めるようになっているタイミングでした。そんな中で紙の媒体ならではの深い分析や、企画性の高い記事を出したことで、多くの反響をいただきました。私たちの弱みである部分を、発想の転換によって特徴のあるメディアにできたと思います。そこに気付けるかどうかは、現代の経営陣や意思決定層に求められることだと感じています。

芹澤:すべての人は公平に魅力を持っているのに、マイノリティであるがゆえに弱みとなってしまうことがある。だから構造としての問題や固定概念を取り除いてあげるということが、多様性において大切なのかなと思いました。

僕も多様性に関するヒアリングをしている中で、面白い話がありました。LGBTQの方々の中には、本当のことを隠しながら生活していらっしゃる方も多いそうです。そうすると、「この週末、何をした?」などの日常会話が嘘で塗り固められていく。それに対して罪悪感を感じたり、嘘を貫くことに意識を持っていかれることで、日々のパフォーマンスが落ちていくらしいんですよね。そういったところを取り除くことは、企業として価値のあることなのかなと感じています。

少人数同質化が必要なフェーズとは

芹澤:ここで話題は変わりますが、多様性を重視する企業がある一方で、同質化が強みとなる場合もあると思うんですよ。例えば僕はSmartHRがまだ3人だった頃に入社したのですが、当初は偏ったパーソナリティの人が集まっていたんですね。男性で30代で、インターネットが大好き。そこにはある種同質化による強みみたいなものが確かにあったなという気もしているんです。同質化と多様性の強みのバランスについて、どう考えられますか?

浜田さん:同質を何で測るかだと思います。インターネット好きな点など、企業が目指している価値観に同調する要素は、ベンチャーにとって必要だと思っています。

Business Insider Japanの立ち上げ時期、どういうメディアにしたいかを編集部で考えました。他の経済メディアとの差別化を図るためにも、資本主義のあり方を再考するような経済メディアを作れないかと議論しました。当時も今も、出身メディアや年代はバラバラですが、どういう価値観を大事にしたいか、は共通認識を持っていたと思います。結果、ベターキャピタリズムというキーワードを導き出したのですが、その概念に共感していない記者にとっては、編集部の環境はつらいと思うんですよ。

芹澤:特定の部分だけ同質化はしつつ、それ以外の多様化を認めていくという感じですね。

澤田さん:実際いろいろな論文で、パフォーマンスを発揮するチームはミッションやビジョンの共有度が高くありつつも、そこに向かっていくアプローチが多様であると書かれています。

あとはビジネスのフェーズにもよりますよね。成長期は一体感を高め、成熟期には盲点が生まれていないかを絶えずチェックするべきかと。

例えばGoogleのミッションは、「世界中の情報を整理してアクセシブルにする」という内容ですが、そのミッションの下に集まった人々には、まだ盲点がいっぱいあるんです。今のGoogleが提供するサービスでは、目の見えない方がひとりで走ることはできません。なぜかというと、走る時に遭遇するさまざまな障害物の情報はGoogleによって整理されていないからなのです。これは、ミッションからこぼれ落ちてしまった盲点なんですよね。

浜田さん:Business Insider Japan編集部には20代から40代の記者がいましたが、40代の記者や副編集長が面白い、これは問題だと思うテーマについて、20代のメンバーから見ると、全く別の風景が見えていたり。文章の書き方や表現においても、40代が普通に使っている言葉が伝わらなかったり、日頃使っている表現が異なっていたこともありました。クリエイティブの精度を高めていくためにも、いろんな人たちのいろんな意見を取り込んでいくことは重要ですね。

公平性を守り切るために必要な、前提条件の俯瞰

芹澤:では最後のテーマです。多様性を推進していく上で、難しいなと思うのが公平性だと思います。マイノリティに対して、どこまでサポートするのか、本当の公平を実現するためのバランスは、どのように考えられますか?

浜田さん:特にいま女性に関しては、そういった意見が出がちですよね。女性管理職数の目標を立てると、実力のない女性も上げるのか、逆差別じゃないかと言われます。でも大前提として、これまでの環境が圧倒的にマジョリティに有利だったことを認めなくてはなりません。女性のキャリアではガラスの天井という言葉が使われますが、男性は長くガラスの下駄を履いてきたんだということ。無意識のうちに男性に多くのチャンスが与えられていたことに気づかなくては、と思うのです。今は不平等の是正をする時期です。女性に限らず、障害者の方や外国人の社員など、今まで特権がなかった人たちにとっても公平な環境とは何かを考えていただきたいです。

アメリカのオーケストラでの有名な話があります。採用試験の時に、カーテンをした状態で演奏をしてもらうと女性の採用率がぐっと上がったというものです。演奏する人がわからない状態ですから、性別や人種、容姿など関係なく演奏力だけで評価できるということです。逆に言えば、「誰が」という情報が入ってしまうと、それだけ無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)にとらわれてしまうということでもあるということです。

先端的な企業ではそこに対する取り組みも始まっています。まず、管理職の候補者を挙げる時には必ず男性と女性を同じ数挙げます。そして女性への打診は、同じ人に最低3回打診するなどを決めている企業もあります。なぜならば、女性はインポスター症候群といって自分のことを過小に評価するという特徴があるからです。これまでチャンスを与えられていなかった分、たくさんの職場経験がある男性に対して引け目を感じてしまう。本心では認めてもらいたいという気持ちがあっても、「私はいま子育て中なので、できる自信がありません」と、断ってしまう人が多いんです。

澤田さん:僕も下駄を履いてきた人のひとりかも知れませんね。複雑な問題なのは、みんなが自分の積み上げによる成果だと思っていること。下駄の話を、否定したくなっちゃうという気持ちもあるわけですよね。

そこのせめぎ合いが難しいんですけれども、僕が大事だと思っているのは、マイノリティの方はずっとアウェイで戦ってきたということです。読売ジャイアンツの選手だとしたら、ずっと東京ドームで試合をしている状況で、女性や障害者、LBGTQの方にとっては、声援が来ないみたいな状況が続いていたわけですよ。これからは、アウェイで戦っている人たちを起点にホームを作っていこうよという発想が大切です。そしてそれが、マジョリティの皆さんにとってもより働きやすい環境にもなるという議論に持っていければいいと思いますね。

浜田さん:コロナによって浸透したリモートワークも、これまでは子育て中や介護をしている方だけの働き方に限定されていました。しかしリモートワークを導入した結果、従業員の満足度が上がったという調査結果が出ています。マイノリティの人に合わせることで、全体の働く環境が良くなるということがいろいろなところで起きていると思います。

澤田さん:めちゃくちゃ勉強になるな。素晴らしいセッションですね。勉強になります。

質問コーナー

芹澤:まだお話ししたいことはたくさんありますが、質問を頂いておりますので、紹介させていただければと思います。まず、「大きな組織や企業で多様性が浸透しない要因は何でしょうか?」という質問を頂いております。

浜田さん:危機感を持っていらっしゃる経営層の方はたくさんいらっしゃると思いますが、本気で取り組みたいという企業には、「制度より風土、風土より上司」というお話をさせていただいています。ほとんどを男性が占める中間管理職の意識改革がものすごく大切です。

リモートワークのように変化を余儀なくされた時、これまでのやり方に慣れていた人ほど、対応に手こずってしまう場面があったと思います。以前からリモートワークに慣れていた女性たちのほうが、圧倒的に生産性が高かったりするわけで。このように、自分がその環境に身を置いた時に、初めて彼女たちの抱えてきたものが分かるんです。だからこれを機に、本当にみんなが働きやすい職場って何だろうかということを、根本から考えることができたのではないかと思っています。

澤田さん:D&Iは面倒そうだし、マジョリティからすると自分たちのポジションが失われてしまう脅威に見えるかもしれません。そんな中でアクセルを踏ませるためには、プラス要因をいっぱい提示することが大事だと思っています。

僕は、マイノリティは何かのスペシャリストだと思っているんです。浜田さんは恐らく女性のスペシャリストだし、僕の息子は全盲なので、目が見えないスペシャリストです。実は今までのビジネスには、そういうスペシャリストの視点が欠けてきた。だからこそコモディティー化が進んで、価格競争に巻き込まれ、倒産するみたいな悲劇に陥ってしまう。多様なスペシャリストの目を取り入れると、独自性の高い商品やサービス提供ができるから、ある意味では競合回避につながります。

芹澤:ありがとうございます。もう1つ、これは時間もないので浜田さんにだけお聞きしようかと思います。「ジェンダー指数が日本は進んでいないとおっしゃっていたと思うんですけれども、日本と海外の違いは何だと思いますか?」というご質問です。

浜田さん:危機感の差だと思います。特にジェンダーギャップ指数の上位、つまり、男女の格差がない国というのは、圧倒的に北欧諸国です。でも実は北欧の諸国も1990年代ぐらいまではそんなに格差の是正が進んでいなかったそうなんです。

しかし人口の少ない中で国の競争力を上げるためには、みんなに働きやすさを提供し、より良いものを作る必要がありました。だから、多様な人種の採用や女性登用、政治における女性議員の増加などに注力しているんですよね。人間は快楽や本能に弱いので、同意されるほうが楽だし、変化を脅威に感じることもあると思うんですよ。でも、それを変える一番のモチベーションは危機感なのです。

日本は長く閉塞感が蔓延し、イノベーションが生まれない状況が続いています。失われた30年と言われていますが、その危機感をどこまで深刻に捉えているのか。変化を起こしていない企業や家庭内、地域には、その実感がないのだと思います。より早く自覚を持ち、ジェンダーギャップの解消に取り組むべきなのです。

芹澤:大変分かりやすい。ありがとうございます。まだまだ話し足りないところではありますが、お時間となりました。最後にお1人ずつ感想などを頂ければと思います。

浜田さん:今日は本当にありがとうございました。いろいろプラスになるお話が聞けて、とても楽しかったです。先ほど澤田さんもおっしゃったように、D&Iって面倒くさいとか、怖いとか、脅威みたいに、どうしても思われがちなのですが、違う世界を知ることができるチャンスだと思います。

そして男性側にとっても「男はこうあるべき」という概念は辛いものなはずです。「一家の大黒柱じゃなくちゃいけない」とか、「強くなきゃいけない」と。そこでマイノリティたちのアナザーワールドに触れることで、肩の力が抜けたりすることもあるでしょう。一緒にD&Iの世界観を進めていけたらいいなと思っています。今日はありがとうございました。

澤田さん:今日は本当に学びが深く、刺激を受けました。昨今は義務としてD&Iに取り組む風潮がありますが、それではD&Iの核にたどり着けないと思っています。自分と違う世界や人を知るって、僕にとってはエンターテイメントに近いんです。だから遊び心を持って、多様な人とどう対話するかを、まずは楽しんで欲しい。その結果引き出しが増えたり、ビジネスに反映されたりするものだと思います。今日はありがとうございました。

芹澤:僕自身もすごく学びがたくさんありました。こういった場を通して、もっと理解を高めていきたいし、この配信をきっかけに多くの人に興味を持っていただき、多様性に関する理解や議論が社会の中でも広まっていくといいのかなとすごく思いました。

ご視聴いただいた皆さま、どうもありがとうございました。

【執筆・まえかわ ゆうか】
エディター / ブランディングプランナー / カレー屋さん。アパレルからビジネス分野まで幅広い分野でクリエイションを提供する。専門分野は食。

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