日々の企業理念の落とし込みがブランドになる。スープストックトーキョーに聞く、ブランドを体現する人材開発

2021.10.07 ライター: 富士 雅子

企業ブランデイングは従来の手段だけでは不十分であり、中で働く人にこそ体現してもらう必要があります。しかし近年、理念・カルチャーの浸透を課題と感じる企業は多く、なかなか実現できているケースは多くありません。

スープストックトーキョー様は「世の中の体温をあげる」という企業理念を大切にされ、悩んだときはそこに立ち返り、理念にもとづく社員・パートナーの行動を後押しされています。

SmartHRでは、従業員がnoteなどで自発的に発信するカルチャーを大切にしており、共感する気持ちを言葉にすることで社外へのコミュニケーションを活性化させています。

メンバー一人ひとりがブランドを体現していく会社をつくるために、どのようなコミュニケーション・制度・人材育成などを実践されているのか。スープストックトーキョー江澤さん、SmartHR薮田にお話を伺いました。

聞き手はSmartHR Mag.編集部の富士が務めます。

■江澤 身和 氏

株式会社スープストックトーキョー 取締役副社⻑ 兼 人材開発部⻑

短大卒業後、フリーターを経て2005年にパートナー(アルバイト)として入社。1年後に社員登用されて複数店舗の店長を歴任し、法人営業グループへ異動。現在は、株式会社スープストックトーキョーの取締役副社長兼人材開発部長として新たな採用・育成の仕組みづくりに取り組む。「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2018」では個人部門・チェンジメーカー賞を受賞した。

■薮田 孝仁

株式会社SmartHR 執行役員 / VP of Human Resource(人事責任者)

2006年より株式会社ECナビ(株式会社VOYAGE GROUP)にてWebディレクターとして従事。2008年に株式会社ライブドアに入社し、2011年より人事を担当。2013年LINE株式会社に商号変更を経て、2013年4月より採用、育成、組織活性化を担当する人材支援室の立上げに従事。2018年12月、SmartHRに入社し、2019年1月より現職。採用、人材育成、評価制度、組織改善の分野を担当。

「ブランド力は人がつくる」とは?

薮田:SmartHRの薮田です。本日はよろしくお願いします! 江澤さんは以前、SmartHR Next 2021にも登壇いただきましたよね、ありがとうございます。

-- 「ブランド力は人がつくる」という考え方で分社化されたとお聞きしました。具体的にどのような考え方なのでしょうか?

江澤さん:私自身がアルバイトとして入社をしてその後パートナーとして2店舗を経験した中で、日々スープストックを利用してくださるお客さまにとっては、「お店で接した人たち」がブランドイメージになると考えて店舗に立っていました。

その後は正社員になっていろいろなお店で働くなかで、一人ひとりがブランドの顔であり、ブランド力は人がつくっていくことをお店のメンバーにもずっと話していました。どんなにいいことを言っていても、最後はお客さまにしっかり想いを伝えたり居心地の良い空間を提供したりできないと、違うよね……となってしまうのでそこはしっかりやろうと。

そういった話をすると、自覚がそこまでなかった方もしっくりくるというか、きちんと理解していい意味で緊張感のようなものが生まれることが多いです。

-- ありがとうございます。そもそもどのようなきっかけで生まれた考え方なのでしょうか?

江澤さん:もともとスマイルズという会社の一事業としてスープストックトーキョーがあったのですが、分社のタイミングはちょうどスマイルズで新しい事業が続々と走り出していたときだったんですね。

会社ではスープストックトーキョーが一番歴史が長く、働いているメンバーも多くなってきたなかで、正直メンバーの元気がないように感じていました。やはり新しいことに光が当たりがちだったので、実直にやっているメンバーが自分の仕事に自信を持てなくなっているようでした。

現在の社長である松尾がそういった現状を見て、一つのブランド、一つの会社としてより「人」を磨いていく必要があると考え、分社化を切り出したのがきっかけです。

共感の集合体がブランドに表れる

-- 「ブランド力は人がつくる」ことに共感してくださる方を迎え入れているのでしょうか。

江澤さん:そうですね。創業者である遠山が、創業当時から大事にしていることなんですが、「共感」をすごく大事にしています。理念や考え方だけでなく、商品のおいしさや空間が好きとか、何かしらの共感があるメンバーが集まっています。

なので、それぞれの想いの実現方法は違うかもしれませんが「ブランド力は人がつくる」ことに関しての理解はすごく早いなと感じていますね。

薮田:共感を大切にするのはSmartHRも共通していますね。

SmartHRでは、社員が会社やプロダクトについていろいろな情報を発信しているのですが、強制ではなく自発的にやってくれるんですね。会社やプロダクトが好きだから、共感しているからオススメしたい、そういった集合体がブランドになっているんだと考えています。スープストックトーキョーさんはいかがでしょうか?

社員向け社内報をnote上に公開している「オープン社内報」、部署別マガジンにも社員が執筆した多くのnoteを掲載

江澤さん:年に一度、全社員にアンケートをとっているんですけど、その中で「商品を自分の友人や知人に紹介したいですか」という項目に関してはほぼ100%に近いくらい、ほとんどの方が自信を持って勧められると答えてくださっているんですね。

本社の近くに店舗があって「社食かな?」と思うくらい会社のメンバーがいたり、自分用や贈り物に冷凍スープを買っていくメンバーもいたり、商品そのものや提供している空間やサービスにすごく愛着を持ってくださっている方が多いです。

企業理念の体現とお客さまに届いた想い

-- 素敵ですね。それだけ通うのは本当に好きということですよね。ではブランドをつくる手前の部分として、ミッションやビジョンをどのように捉えていますか?

江澤さん:はい。スープストックの企業理念は「世の中の体温をあげる」です。

もともとスマイルズは創業者の遠山が「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、スープストック以外にもアパレルやコンサルなど生活価値の拡充のためにさまざまな事業を展開してきました。その説明文は、“自分たちの仕事を通じて、世の中の体温を上げることができたら”という言葉で締めくくられているんですね。

分社のタイミングで改めて、その遠山の言葉を借りて「世の中の体温をあげる」を企業理念にしたんです。人の心や体を温めることに一番重きを置きたいと、店舗の仕事だけでなく人事の制度なども全部この理念をベースに決めていますね。

スープストックトーキョーHPより

-- 「世の中の体温をあげる」というのは具体的にどのような状態や体験をしてもらいたいと考えてますか?

江澤さん:スープって、それ自体が熱いものなので、必然的に少しゆっくり食べるものだと思うんですよね。なのでスープを食べながら、ちょっと気持ちを落ち着かせたり、ゆっくりする時間をつくって欲しいなというのがあります。

あとは具体的なエピソードをお話しすると、とあるお客さまから賞賛のメールが届いたことがありました。

そのお客さまは仕事でうまくいかずにイライラしていて、店員さんに横柄な態度をとってしまったらしいんですね。店員はそれを察したのか「お仕事、頑張ってくださいね」と笑顔で対応してくれたそうで、「ちょっと泣きそうになりました。また元気がない時や元気をもらいたいときにスープストックトーキョーに行きたいと思います」って、メールをお送りくださったんです。自分たちのやっていることがちゃんとお客さまに伝わっているんだなって、嬉しくて社内に共有しました。

こういったお声がけは会社が強制していることではなくて、どこかのお店で誰かが考えてやったものがジワジワ広がって、文化になってきているんです。たとえば「いらっしゃいませ」じゃなくて「おはようございます」「こんにちは」のように返事ができるような挨拶にすることや、ご提供する時に「おいしく召し上がれますように」とか、おかえりの際には「今日も良い1日をお過ごしください」と声をかけたりしています。

少し一言声を掛けたりすることで、我に返ったり、気持ちの整理がついたり、背中を押してもらえたり。そんな時間になったらいいなという想いでやっていますね。

-- 感動的なエピソードですね。それを自然とできているメンバーの皆さんも素晴らしいです。

江澤さん:いい意味でも悪い意味でも「世の中の体温を上げる」って抽象的なんですよね。明確な正解がないがゆえに苦労する部分もあると思うんですけど、だからこそ自分たちで考えて行動ができると思います。パートナー含め約1,600人いるなかで、スープストックトーキョーの理念を全員が答えられるぐらいに、すごく浸透しているというか、日常的に使われている言葉だと感じます。

-- 実際に従業員に理念を体現してもらうために、心がけている事や工夫などはありますか?

江澤さん:大切にしているのは、より具体的なシーンを描くことですね。イベントをするときも、新商品を出すときも、これを通じてどんな風に食べてくれて、どんなシーンを描きたいのかという“シーンの共有”を必ずするようにしてます。

あとは店舗だけではなくて、人事制度などを考える上でも理念が起点となります。温度をあげたい相手は一緒に働いている従業員なので、困っている社員がいたらその人を救うためにどんな制度があったらいいかなって、必ず誰かを浮かべながら制度を考えたりしています。

スープストックトーキョーHPより

-- なるほど。理念が抽象的だからこそ、具体的なシーンを共有することは大切かもしれないですね。

理念浸透のために評価指標に理念を入れる

-- 理念の浸透について何か工夫されていることはありますか?

江澤さん:人事の観点だと、共感があるかどうかを採用基準のひとつにしています。たとえば面接や入社のタイミングで「理念」や「誰のためにやっているのか」を共有するようにしていますね。あとは、店舗の接客でも人事制度でも、常に企業理念を起点に物事を考えたり共有したりフィードバックしたりするなど、とにかく各所で大切な判断軸になっています。

難しい点は、たとえば店舗ではパートナーさんとチームで仕事をするなかで、週5で働いている方と週1〜2で働く方だとどうしても共感度や理解度に差が生まれやすいんです。その対策のひとつとして、社員やパートナーさんが全員見られる社内SNS「Smash」を活用しています。「Smash」では、社長からのメッセージはもちろん、社員やパートナーさんの投稿に対して所属店舗に関係なくリアクションできるようになっています。

薮田:なるほど。やはり全従業員への浸透や行動を促すという点では難しいところもありますよね。SmartHRでは面接の段階で価値観マッチを見ているほか、価値観(バリュー)にマッチした行動をしているかどうかを評価制度にも組み込むことで、業務上の成果だけでなく価値観を体現しているかどうかを評価しています。

具体的には年に2回の評価とその途中で行われる中間評価の合計4回、しっかりとバリューと向き合う時間があります。

江澤さん:中間評価って素敵ですね。

薮田:進め方としては、“自律駆動”や“早いほうがカッコイイ”などの7つのバリューそれぞれに対し、評価者と被評価者で「現時点でこれができていて、これができていないよ」と認識を合わせています。

江澤さん:なるほど、中間評価があると、評価査定のタイミングで意識のギャップも少なくなりそうですね。社員のモチベーションを保つ上でも、すごく大事だと思います。

トップ自らの発信と自然と浸透する仕掛けが大切

-- ありがとうございます。それでは最後に、どんな風に理念を浸透させていったら良いか、悩んでいる会社さんにメッセージをぜひお願いします。

江澤さん:そうですね。人事や役職者だけが理念を口にするのではなくて、会社のトップが強く発信し続けるのが大きいかなと思います。

あとは、人事制度にせよ商品にせよお店の空間にせよ、何かアクションするものすべてにおいて「この取り組みは誰かの体温が上がるものになっているのか」と、しっかり理念をリンクさせながら考え、意思決定していくことが大切です。そして、それを成果や評価と連動させる設計をつくるのも大事だなと感じますね。

薮田:ありがとうございます。やはりトップが言い続けるのは大切ですよね。

あとは社員に強制せずに自然と浸透していくための工夫も必要かなと思います。たとえば経営陣やマネージャーが自然と口にしていたり、そもそもバリュー自体を使いやすい言葉にしたり、自然に浸透しやすい仕掛けも重要だと感じました。

江澤さん:そうですね。自然体でできる仕掛けって大事ですね。

薮田:ありがとうございます。ちなみに余談なんですけど今日スープストックさん食べました(笑)。美味しかったです!

江澤さん:本当ですか! ありがとうございます。

薮田:では改めて江澤さん、本日はありがとうございました。すべてのアクションを理念にリンクさせていくこと、すごく心に残りました。

江澤さん:ありがとうございました!

【執筆:宮川 典子】

SmartHR Mag.編集部員。専門家メディアの編集者、人事労務系SaaSのマーケティング担当などを経て、2021年SmartHRに入社。オウンドメディア、ebook、動画など広くコンテンツ制作に携わる。三度の飯よりゲーム好き。
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