労務担当者が対応に戸惑いそうな困難事例から学ぶ〜面談時に怒りをぶつけてくる管理職Aさんの事例|怒りの感情への対応【Smart相談室】Vol.1 セミナーレポート

2022.12.13 ライター: 廣嶋祐治

2022年10月19日、オンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」を提供する、株式会社Smart相談室主催のオンラインセミナー『労務担当者が対応に戸惑いそうな困難事例から学ぶ#01 面談時に怒りをぶつけてくる管理職Aさんの事例』では、Smart相談室スーパーバイザーの鵜飼 柔美 氏をお迎えし、怒りの感情への対応についてをお話しいただきました。支援側の心の持ち方や状況を冷静に整理するためのさまざまなノウハウを、ぜひお役立てください。

<セミナー講師> オフィスファーロ 代表 鵜飼 柔美 氏

<進行> 株式会社Smart相談室 CEO 藤田 康男 氏

話を聴いてもらうと楽になる

鵜飼さん:Smart相談室のスーパーバイザーをさせていただいております鵜飼柔美と申します。今回からの新シリーズ「労務担当者が対応に戸惑いそうな困難事例から学ぶ」ですが、特定の事例ではなく、複数の事例を統合した架空の事例を引き合いに出させていただきます。

本題に入る前に、前シリーズの第3回「なぜ聴いてもらうと楽になるのか。実例から考える」のおさらいをしようと思います。

相談に来られた方は、心の壺の中に不満やモヤモヤや苦しみを抱えています。まずはあふれる想いを受け取り、少し楽になってもらってからでなくては、話は始まりません。世界に一人でも自分を理解してくれる人がいることは、心を落ち着かせ安心することにつながるのです。また、話すことで自分の言葉を自身の耳で聞くと、客観視のきっかけにもなります。問題から一歩離れることが、解決策を考えるための最初のステップなのです。

今日お話しするような事例を目の当たりにすると、「早くなんとかしたい」「この人をどうにかしたい」と思ってしまいがちですが、まずは相談者さんを楽にしてあげることを意識しましょう。

「自分ばかりが責められている」という相談者の事例

Aさんの事例の詳細

40代女性・管理職Aさんの場合

今回の事例は、面談時に怒りをぶつけてくる管理職Aさんの事例です。社会性があれば、会社では怒りをあらわにしないように気をつけるものですが、相談の場では抑えきれない場合があります。怒りの感情をどのように扱うか、事例を通してご紹介していきましょう。

今回の登場人物は2名。Aさんは40代女性管理職で、聞き手は労務担当者のBさんです。スライドは面談の内容を記録した物です。カウンセラーは、相談者さんがおっしゃったことを、そのまま書くようにしています。「()」のなかは非言語の表現です。たとえば(涙ながらに)(腕を組みながら)など、印象に残ったときに書いています。また、相談を受ける側の人が応答をされた場合には、「<>」で発言内容を記録します。この記録は、カウンセリング初心者が担当したケースについて、カウンセリング専門家や指導者に指導をお願いする「スーパービジョン」を受けたときなどに、自分自身の対応がどうだったかを振り返るのにも活用します。

自分ばかりが責められる理由がわからない

主訴は「なぜ自分ばかり責められるのかわからない」。実際はこれよりも長い面談なので、後半部分は省略しています。

読んでいただくと、Bさんは怒りのとばっちりを受けていますね。Aさんに対する怒りや不安、恐怖心が生まれてしまうこともあると思います。そうなってしまうと、あふれる思いを受け止める壺になれず、Aさんが抱える孤独感の払拭もできません。

まずはAさんのお話を読んで、皆さんがどのように感じられたかを聞いてみたいと思います。藤田さんはいかがですか?

藤田:正直、Aさんは感情的になっていると思います。まずはフラットに事実を見て、Aさんに寄り添ってあげるべきなのでしょうが、僕には難しいかもしれません。

鵜飼さん:Bさんに対してはいかがですか?

藤田:Aさんの発言を受けると、Bさんはバイアスを抱いてしまいそうですよね。Aさんの言っていることを信じたいけど、信じられないという気持ち。自分をフラットに保つのが非常に難しいのではないかと感じました。

鵜飼さん:労務担当者であるBさんも、自分が怒られてしまうことで落ち込んでしまったり、食欲がなくなってしまうかもしれませんね。

藤田:セミナーに参加していただいている方からコメントをいただきました。「私はAさんに近いポジションなので、Aさんが可哀想だなと思ってしまいました」。ご自身の立場から感じたことですね。

鵜飼さん:AさんにはAさんの言い分がありますよね。「そもそも“ホウ・レン・ソウ”ができていなかった」「更年期のせいにされた」というのは、とてもつらいことだと思います。

藤田:自分がどちらのポジションに近いかによって、感じ方は異なるでしょうね。次のコメントです。「Aさんは上司としての自覚が足りないと思います。Bさんも表面上だけでも、もう少しAさんに寄り添ってもよいかも。自分はBさんに近い立場です」。

もうひとつコメントがあります。「Bさんの最後の質問『誰が言っていたのか』と疑う質問をしがちだが、怒りを助長してしまうかも」とのことです。

鵜飼さん:よい感覚ですね。事実を確認したいので、つい「あなたの思い込みなのではないですか?」と聞いてしまいがちです。しかし孤独を感じているAさんにそれを言ってしまうと、怒りを助長してしまうこともあります。

Aさんにまったく落ち度がないわけでもないし、自分自身に怒りをぶつけてきている以上、「自覚を促したい」「気づいてほしい」と思ってしまうのは仕方ないことだと思います。それをうまくAさんに伝えるための相談対応のステップをお話しします。

相談者に寄り添う3つのステップ

相談対応のステップ

最初のステップは、相談者の世界で、相談者を理解することです。まず相談者に寄り添い理解することで関係性をつくります。

2つ目のステップは、問題の本質を理解すること。今回は怒りが収まったとしても、同じ部下や別の人との間で似たようなトラブルが起こってしまう可能性があるからです。エピソードが複数あったならば、地下水脈でつながっている水源を見つけるように、共通する本質を導きます。

今回の場合では、目先のトラブルを解消するだけではなく、コミュニケーションのやり方を変えていくことで、Aさんの成長にもなるわけですね。私たちカウンセラーは、人間には自己成長力があるという前提を持っています。そして、相談者と支援する側の信頼関係ができていないと、意識の変容は起こりません。また、相談者自身が納得しないと行動の変容は起こらないという前提も持っています。

関係性をつくり、信頼関係ができたうえで、3つ目のステップです。解決のために取り組んでいくことを一緒に考えます。

では、この3つのステップを踏まえて、今回の事例を見ていきましょう。

ステップ1|相談者を理解する

相談者を理解するための3つの観点

「相談者を理解する」という1つ目のステップでのコツは、身体的な症状の「Bio」、心理・感情の「Psycho」、環境面の「Social」の3つの観点でAさんの語りを整理していくことです。

情報を整理する際に、私はおでん鍋を想像します。おでん鍋の仕切ったエリアを埋めるように、身体的な症状、心理や感情、置かれている環境などの情報をまとめます。聞いたことを自分の感覚で「こうなんだな」と決めつけてしまうと、脳はそれにとらわれてしまうもの。だからこそ情報の整理が必要です。

Aさんの事例の注目点(赤字部分)

Aさんの言葉のなかで注目すべき部分を赤字で示しました。「私のせいになっている」「そのストレスで体調を崩した」という部分では、自分が原因になっていると言っています。

次に、「そもそも“ホウ・レン・ソウ”ができていないのに」と部下の非を挙げて、自分の正当性を訴えています。

また、「私だけが一方的に悪い感じになっている」と、今の状況について話していますね。

そして「お怒りのご様子ですね」「怒りますよ! 言ったもん勝ちになっているんですから!」と声を荒立てている。「言ったもん勝ち」と言っているところから、Aさんは負け側だと受け取っているんだなと推測できますね。

「積極的に自分から仕事のことを訊いてきたりしなかった」「指示したことしかしない。気が利かない」と、その部下のことについて言っています。ここでも自分の正当性を訴えています。

この部下の感覚とAさんの感覚の違いは、年齢的なものかもしれないですし、育ってきた環境のせいかもしれません。

「いきなり朝に資料の確認をお願いします、とか言ってくる」「嫌がらせで夕方まで資料を放置していたと言っているらしい」という部分は、部下の行動をAさんが理不尽に思っていることを表現しています。

また、「状況が変われば指示が変わることもあるのに」と、自分の事情をわかって欲しそうにも言っています。

「二転三転するとわからないと口答えをしてくる」からは、対立関係にあることも伝わってきます。

「私も大きな声になってしまう」という状況を教えてくれています。また、「陰で人のことを更年期だとか言っているらしい」と言われたと話してくれています。女性としては決して気持ちよくない言われ方をしていて、つらそうですね。「私の話を信用できないって思っているんですか!」と、ここでも感情を露わにしています。

Aさんの状況を「Bio」「Psycho」「Social」別に分類

これらの赤字部分を、先ほどの「Bio」「Psycho」「Social」に分類してみましょう。

身体的な症状の「Bio」の推察

身体的な症状の「Bio」は、「大きな声になってしまう」という部分ですね。「職場」というオフィシャルな場面とは思えないような状況。Aさん自身もコントロールできないぐらい、身体が興奮状態にあるのだと推察されます。

心理・感情の「Psycho」の推察

心理・感情の部分である「Psycho」には、上記の8つが当てはまります。部下の非を言いたい気持ちがわかりますね。そして少なくとも、Aさんと部下との価値観、社会人としての常識が異なることも見て取れます。食い違いに困惑し、受け入れられない気持ちであることが推察できます。

最後の「私の話を信用できないと思っているんですか!」は、Bさんの対応に対して反発して、怒っているんだと伝わってきますね。

置かれている環境の「Social」の推察

「Social」では、どのような環境に置かれているかを理解します。部下の休職は、Aさんによるストレスが原因になっているようです。周囲から嘲笑われたり、信用してくれる人がいないという状況に置かれているんですね。多勢に無勢な状況、どんどん悪い方へ流れていくことへの焦りを感じていると推察できます。

このように整理すると、少しAさんの話を聴けそうな感じになってくるかもしれません。藤田さん、いかがですか?

藤田:聴けそうな気にはなりますが、かなり意識しないと難しいかもしれません。トレーニングが必要だと思いました。

鵜飼さん:24時間365日、人を受け入れるのは無理な話なので、カウンセリングの枠組みで守られたこの時間だけは、この人を一生懸命理解しようと努めていただけるとよいと思います。

ステップ2|真の問題を探る

感情の奥にある心情の推察と仮説

ここから先は、ステップ2の「問題の本質を理解する」です。ステップ1でAさんの状況を理解し、言い分を聴けるための準備ができました。ここからは、あくまでもここまでの情報をもとに支援の方向を考えるということです。

問題の本質を理解するためには、さらに深い信頼関係をつくり、「パーソナリティや考え方」「この人らしさ」「感情の奥にある心情」を知る必要があります。そして、相談者さんに「不足している知識や方法」「活用できていない、または見落としているリソース」がないかを、相談者さんが語る言語、非言語の情報を根拠に推察していきます。

Aさんは価値観の相違に困惑し、コントロールできないぐらいの興奮状態になっており、このまま悪い方へ流れていくことへの焦りがあるようだと推察しました。Aさんは今、孤立感、孤独感という心情を抱えています。

相談者の特性の推察と仮説

さらに、Aさんのパーソナリティや認知など、特性を知る必要があります。やりとりから、感情のコントロールや、違う価値観を受容することが苦手なのかもしれないとも考えられます。怒りの感情をコントロールするアンガーマネジメントの知識が不足しているのかもしれません。

また、「今時の若い人はそういうこともあるよね」「“ホウ・レン・ソウ”を習っていないのかな」と受け止めず、ルールや規律を守らせようとする意識が強い方のようにも考えられます。今の相談者さんが得られるとよいものがわかれば、解決の方法が少し見えてくるわけです。

ステップ3|仮説を立てて解決方法を一緒に考える

立案した仮説に対する解決方法の検討

ステップ3は「解決の方法を一緒に考える」です。先ほどの仮説に対する解決方法や提案を相談者さんと一緒に考えていきます。

「訳がわからないまま、孤立感や孤独感が増しているのかもしれない」と見立てたとするならば、今の孤立感、孤独感を吐き出してもらうことが、解決のために重要な方法になるでしょう。

また、お話のなかで、Aさん自身から「私は、いつも感情のコントロールがうまくいかないんですよね」「自分とは違う考え方の人に会ったりすると、『何で!?』と思ってしまうんです」という発言があった場合、自己理解を深めていけるきっかけをつくれます。

アンガーマネジメントの方法や、自分とは違う価値観の受け容れ方を身につける方法を一緒に考えるのも有効だと考えられます。

たとえば研修を受けに行く、本を読むなどですね。エゴグラムで、違う価値観の受け容れ方を理解するのもよいでしょう。

他者を受け容れられるようになると、Aさん自身も楽になりますし、同じような問題の最初を防げます。

怒りをぶつけられたときにカウンセリングを成功させるには?

鵜飼さん:面談中に理不尽な怒りをぶつけられたときの対応のポイントをお話しします。

怒りへ対応する6つのポイント

(1)怒りは弱い感情と認識する

1つ目は、「怒りは第2次感情である」と覚えておくこと。怒りの奥には、悲しみや不安、心配、寂しさ、苛立ち、羞恥心、残念さという弱い感情があります。それが怒りとなって現れていると考えると、怒っている人を見たときにも、それほど怖いと感じなくなると思います。

私は以前、不動産の営業事務の仕事で、クレームの電話対応をしていたことがあります。

お客さまから怒られているときに、その怒りの奥には「困っている」「つらかった」「悔しかった」という思いがあると上司から教えてもらっていたので、私が感情的になることはありませんでした。

(2)怒りに巻き込まれないようにする

2つ目は、「相手の怒りと支援者自身は、基本的に無関係な者同士」と理解することです。Aさんに寄り添って理解してあげる必要はありますが、自他の区別をつけ、巻き込まれないようにしましょう。Aさんの感情は、言わば「他人ごと」でしかありません。

怒りをぶつけられたときに自分自身が揺れてしまう場合は、自己分析をしましょう。「こういう話になると巻き込まれがちだな」「フラットになれないな」と知っていれば、コントロールできるようになると思います。支援者自身が吐き出す場を持つのも、自己を保っていくのに重要です。

(3)怒りの元の感情を理解する

3つ目は、怒りの元になる感情を理解しておくことです。先ほど説明したように、「このように怒るのも仕方ない」と思えて、寄り添いやすくなるでしょう。

(4)相手の環境も含めて理解する

4つ目は、相手が置かれている環境も含めて理解することです。より多くの角度からその人を理解できます。

(5)独りではないと伝わるように対応する

5つ目は、「独りではない」と伝わる対応をすることです。スーパービジョンでは「このように言いたかったわけではないのに、とっさにこう言ってしまった」という振り返りがあったりします。訓練するしかありませんが、温かいストロークを意識して対応するとよいでしょう。

(6)気持ちが落ち着いた後でアドバイスする

そして、なにか指導的なことが頭に浮かんでも、アドバイスや提案は相談者さんの気持ちが落ち着いてからです。

怒りに巻き込まれ、関係性ができていないうちに指導をしてしまうことがあります。まずは、壺からあふれる思いを受け止めて、気持ちを理解して、独りではないと理解してもらいましょう。そのなかで、相談者さん自身が自分を見つめていけるようになるはずです。

質疑応答

Q:ラポール(信頼関係)形成のために、どれぐらいの時間をかけて対応するべき?

鵜飼さん:カウンセラーの基本的態度として、「一致」「受容」「共感的理解」があります。ラポール形成は、相談者が聴き手を信用できると判断したときに形成されるので、こちら側が意図的にできることではありません。

人は、初対面の人にどこまで話すか、少しずつ様子を見ながら、自分の心の奥を出していきます。わからなくても一生懸命話を聞いてくれる姿勢に、「この人は信頼できる」と思ってもらえるのです。ですから、かける時間の問題ではないと考えていただければと思います。

Q:Aさんの苦しみは、組織として価値観が示されていないことなのに、Aさんをチューニングするのが正解なのか?

鵜飼さん:労務担当者として、Aさんのお話を聴くときの支援なので、それは、また違う問題ですよね。たとえば、Aさんのような人が組織に多くいるとしたら、組織として研修などを考えた方がよいでしょう。

Q:関係性が薄い方しかヒアリング担当にアサインできないときの定石はある?

鵜飼さん:私自身は、話を聴く前から関係性があると逆に話しにくいと感じます。いつも明るい自分を見せている相手には、暗い一面や凹んだ顔を見せにくいと思うかもしれません。ケースバイケースではありますが、元から関係性があるよりも、ゼロのほうがよいと思います。

 

※記事で紹介した他にも多くの質問に回答いたしました。ご興味があればぜひ次回のセミナーにご参加ください。

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【執筆:まえかわ ゆうか】

株式会社SmartHR コンテンツマーケティングユニット所属。雑誌編集者、クリエイティブディレクターを経験したのち、2022年3月より「SmartHR Mag.」「SmartHR ガイド」の編集に携わっています。
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