寄り添うポイントを考える|Smart相談室のスーパーバイザーと動画で振り返る労務担当者の対応例#1
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4月26日に開催された「Smart相談室のスーパーバイザーと動画で振り返る労務担当者の対応例#1 寄り添うポイントを考える」では、労務担当者がとるべき対応について、動画をもとに考えるケーススタディが行われました。
仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は平成30年は58.0%と、職場の半分以上の方が悩みを抱えているというデータがあります。さらに、令和2年からのコロナ禍によって、メンタル不調を訴える人は増加していると予想されます。そんな時代に人事・労務担当者が目指すべき「寄り添い」を学ぶ機会となりました。この記事では当日の内容を動画とともにお届けします。
オフィスファーロ 代表
2005年より大阪にて若年者就労支援施設、大阪府立高等学校、専門学校、大学学生相談室等で若年者に対するキャリアコンサルティング及び教員及び保護者へのキャリア教育の啓発、教材開発に携わるほか、企業領域において勤労者を対象としたメンタルヘルスとキャリア開発支援のカウンセリングを行う。2016年より都内にキャリアコンサルティングオフィスを開設。キャリア(生き方・働き方)の支援を行うほか、国家資格キャリアコンサルタント及び産業カウンセラー等資格保有者の養成および育成にも携わる。一般社団法人キャリアコンサルタント支援協会理事。一級キャリアコンサルティング技能士。2021年よりSmart相談室スーパーバイザーとして活動中。
相談の事例動画から対応策を学ぶ
労務担当者の対応例を見ながら、寄り添うポイントを考えるシリーズがスタートいたしました。実際に労務担当者の方が面談をしているイメージ動画をご用意したので、応答を書き起こした逐語記録を使って振り返っていきたいと思います。
逐語記録はカウンセラーの応答を文字に起こしたもので、カウンセラーのトレーニングに使用します。このトレーニングは面談全体の流れを確認し、「相談者がなぜ一人でうまく解決できず、カウンセラーのところへ来ることになったのか」「相談者の問題が長引いている要因」「相談者の真実の問題は何か」を検討します。
カウンセラーは事実をもとに相談者さんを理解し、問題の支援方法を考えます。相談者さんがどのような状況で気持ちを語っているか、聴きもらしがないか、聴きもらした場合は、なぜ聴きもらしたのかを振り返ります。また、カウンセラーが勝手に話題を変えたりせず、相談者の発言に即した応答をしているかも振り返っています。
出演者はSmart相談室の関係者かつ、すべて架空の事例で、以下のとおりです。
- 労務担当者:ロウムさん
- 相談者:世田谷花子さん(仮名)
- 32歳・女性
- 人材会社の法人営業
- 現在は夫と別居中。夫は岩手県で農業を営む
- 世田谷さんは東京都在住
- ご実家は東京都郊外
- 両親は健在。
- 父親:会社役員
- 母親:専業主婦
- 兄:都内で家庭を持ってる
- 家族仲がよい家庭環境で育った
相談者さんの情報は、あらかじめロウムさんに伝わっています。
それでは、12分の動画を見ていきましょう。
ロウムさんは非常に親身になって聴いてくださっていましたね。通常のカウンセリングは、相談者さんがお話しされて、それに対してカウンセラーが応答する形で進んでいきます。カウンセラーが質問して相談者さんが答えるという形では、本当に話したいことを話せなかったり、ご自身で気づくことも少なくなったりしてしまうからです。
※相談者さんの発言(相談者1)に対して、聴き手の発言(ロウム1)と表記。カッコ内は非言語情報
相談者の「非言語情報」にも注意を払う
「相談者1」では、少しためらうような感じで、辛さをこらえるような表情をしたり、話の内容と反する笑顔の表情をつくられていましたね。また、相談者さんは最初からプライベートな話をしてくださいました。ロウムさんは、相談者さんがどのような思いで相談に来てくれたのかを考えていたように見えます。
言葉と心のなかの乖離にも着眼する
「相談者1」の「逐語記録」を見てください。語られている情報を色わけしました。まず、オレンジ色の「突然言われて、切り出されて」「1年間、話し合ってきた」「子供が出来たっていうことがわかって」「自分が折れて、別れることになった」とあるのは、今の自分の状態になったきっかけですね。ここまでプライベートな話をできるということは、ロウムさんへの安心感や普段からの信頼があると見て取れます。
「別れることになったんですね」の後、確認するようにうなずいていました。この非言語の情報は、自分が折れて別れることになったことを思い出して確認しているのか、自分を納得させようとしているのか、何かしらの心の動きが表現されていると考えられます。
次は赤色の「子供が欲しかったんですよ、ずっと」という部分です。カウンセラーは、自分も子どもが欲しかった「のに」という気持ちが推察できます。
そして緑色の少し笑顔を向けていた部分です。どういう笑顔なのかを考えます。もしかしたら「これを言ってしまうと精神が崩れてしまうようなこと」なのか、後におっしゃっているように、「憎い気持ちを語ることをためらっている」のか、そのネガティブな思いを打ち消そう、振り払おうと笑顔を向けていたのかもしれません。心のなかと表情が違う可能性にも、通常、私たちカウンセラーは着眼しています。
気持ちを受け止め、相談者の状態を理解する
では、ロウムさんの対応を見てみます。「ロウム1」にあるように、「辛かったでしょう」と、気持ちを受け止めたり、「安心してまずお話しいただければと思います」「何でも結構なので、気が済むまで、ゆっくりとお話しし合うという風な時間にさしてもらえばと思います」と、この場が安全な場であると伝えています。
そして、オレンジ色の部分です。「会社の労務担当者としてお話を伺いします」「具体的に何か会社とかお仕事とか、ご自身の体調とかで変化とか困ったこととかあるんですか?」と、労務担当者としての目線で、相談者さんの状態を詳しく理解しようとする姿勢が見えます。
思いを吐き出してもらう姿勢も重要
「相談者2」では現状を詳しく教えてくださいました。「本当に何をやってもなぁ」と、脱力感、虚しさのようなものに襲われている気持ちを語っています。また仕事の成績が上がらず、実家の援助を受けられるものの、噂になってしまうことや気を遣わせてしまうのではないかと、実家へ帰ることをためらっていると教えてくださいました。
ロウムさんはそれに対し、「私でよければ、いろんなお話聞かせてもらうので」(オレンジ色部分)と、思いを吐き出してもらおうとしていることがわかります。そして「特に一番困っていること、気になっていることがありますか?」と訊いていますね。相談者から発せられた複数の話題のうち、何を聴くべきかを知ろうとしたのだと考えられます。
「相談者3」です。先ほどロウムさんは、一番聴くべき話を知ろうとしたのですが、ご本人としてはいろいろなことが混ざってしまっていて、「とくに」を定めることが難しかったようです。このように聴き手の思いと話し手の思いが多少ずれることがあっても、微調整していけばよいと思います。
相談者さんは、「達成できないと収入が減ってしまうかもしれない。それは怖い」「どうして自分ばかり」「すごく悲しい」という気持ちを吐露されています。
一番つらいのは、「私も本当に子どもが欲しかった。不妊治療を提案したが夫は拒否。しぶしぶ納得していた」という部分と推察されます。自然に湧いてくる3人への憎い気持ちと、そう感じてしまう自分への嫌悪感で、胸のなかがぐちゃぐちゃになっていると教えてくださいました。
共感の姿勢を示し「ひとりぼっちではない」ことを伝える
続いて「ロウム3」です。まずは「凄くお気持ちわかります」と受け止めています。相談者さんが「憎んでしまう」と言ったときも、否定するのではなく、共感的な姿勢が見えたと思います。そして、「心配してます」「どんどんサポートしていきたい」「緩衝要因として使ってほしい」と伝えています。「相談者1」で見えた非言語情報の矛盾もふまえて、まずは吐き出してもらおうという姿勢が見えるので、相談者さんはうれしかったのではないかと思います。
さらにロウムさんは、「自分を責めず自然に消化できるように、早期解決にはならないかもしれないがサポートします」と伝えています。ひとりぼっちではないことが、相談者さんに少しずつ沁みていっていると思います。最後に「その他お話ししたいことございますか?」と、「もっとお話ししてもよいですよ」という気持ちを表しています。
「ロウム4」を見ていきます。ロウムさんは、「今日は、これでお約束させていただいたお時間が終わってしまいますけども」と、枠組みを守りながらも、「いつでもお声がけいただいて結構ですし、どんなことを話して頂いても構いません」と伝えています。相談者さんをひとりにしたくないし、力になりたいとも伝えています。
そして「ロウムさんに相談したことが、相談者さんの不利益になるようなことはない」とはっきりお伝えしていました。
温かくケアしたロウムさんの対応まとめ
ロウムさんの対応全般を振り返ってみましょう。
全体的に温かい雰囲気で受け止めようとする姿勢があったと思います。同時に枠組みを守るという基本的なことも守られていました。
労務担当者の方も別のお仕事があるので、面談の時間はしっかり決めるとよいと思います。「労務担当者として聴きます」と、友達ではなく「あくまで労務担当である」ことを明白にするのも、相談の枠組みを守ることにつながります。
相談者の気持ちを受け止め、楽な気持ちになってもらう
全体をとおして「吐き出してください」というアプローチをしているのは、聴くことの効果にもつながります。ひとりぼっちにせず、吐き出してもらうと、楽になってもらえるのです。
また、「体調の変化はどうですか?」と、気力が落ちている相談者さんの身体状態の確認をしていました。これはストレス反応を確認しているのだと思います。
パートナーや、出産に対する希望を失ったという大きな喪失に対してのケアもしていました。「どうして自分ばかり」「憎い」と語っている相談者さんの気持ちをそのまま受け止めています。
気力が落ちて成績が上がらず、収入減の不安への対応については、あまりキャッチアップしていませんでしたね。ここは労務担当者として、所属部署との連携で解決できるかもしれないので、触れてもよかったかもしれません。
「主訴の確認」を忘れずに
最後のまとめです。ロウムさんは「いろいろなことを受け止めます」という姿勢で、さまざまな内容を聞き出せました。重要なのは、「相談者さんが相談に来た目的は何だったのかをしっかり押さえておくこと」です。
- つらい気持ちを吐き出して受け止めてもらいたかったのか
- 気力が上がるように支援してもらいたかったのか
- 子どもまで憎いと思ってしまう自分を変えたかったのか
- あるいは怒りをコントロールできるようになりたかったのか
- どうしたら以前のように営業ができるかアドバイスが欲しかったのか
- 成績が悪くなって収入が減ることについて相談したかったのか
それがわからないまま「なんでも話してよい」と進んでしまった感じはありますね。
もちろん、なんでも話してもらって構わないのですが、「最終的に今日はどのような目的で相談しているのか」をどこかで確認しましょう。寄り添うポイントは、聴き手が勝手に決めるのではなく、相手の主訴にもとづくべきです。「この面談で、私は何をお手伝いしたらよいですか?」と相談の主訴を確認しましょう。
たとえば気持ちを吐き出すことや喪失のケアについては事業場外産業保健スタッフを活用していただいて、ロウムさんは労務担当者の立場でしか寄り添えないポイントに優先順位をつけておくとよいと思います。
ご本人がただ話したいのであれば、話したいことを話してもらうのがよいでしょう。はじめに「本人が個人的な話をしたいのか」「仕事の話をしたいのか」を確認するとよいですね。
Smart相談室について
Smart相談室は、従業員のモヤモヤを解消し、個人の成長と組織開発を促すEAP(従業員支援プログラム)サービスです。
メンタル不調はもちろん、業務内容、プライベートなこと、ハラスメントの訴えまで、さまざまな相談にオンラインで対応します。メンタル不調になる前に対応することで離職を防止します。
【執筆:まえかわ ゆうか】
質疑応答
Q1. 相談者さんが時間をオーバーして、話が堂々巡りして続く場合があるのですが、その場合どのようにしたらよいでしょうか。なるべく寄り添いたいと思いつつ、業務のバランスもあるため、なかなか悩ましいです。
時間を区切るのは難しいですよね。Smart相談室も30分の面談なので、たくさん話したい人からすると短いかもしれません。
しかし自分の思いをお話しした後に話したことを自分で考えたり、聴き手が伝え返したことを反芻する時間も大事な時間です。相談の冒頭で一度時間の枠組みについて確認をしたり、「もし話し足りなければ、また改めて」という言葉をかけることも効果的だと思います。
Q2. 守秘について質問です。今回の事例は、相談者さんと相談員の二人だけで共有しますと伝えていますが、見立てに迷いがあった場合、相談員はスーパーバイザーや他の相談員に意見を聞くことはないのでしょうか。
労務担当としての相談窓口として聴くのであれば、上長や他の相談窓口担当の方に共有をしたほうがよいことも多いと思います。あくまでも部署として、部署の業務として聴いているというスタンスですね。
カウンセラーなど、専門の相談員の場合は見立てに迷いがある場合は、スーパーバイザーに相談していただきたいです。カウンセリングの場合は、相談に入る前に守秘についての事項について同意を得ておくことがデフォルトで、「(1)守秘は守られること」「(2)ただし生命にかかわることや犯罪に巻き込まれるなどの場合は例外」「(3)質の担保のためスーパーバイザーにスーパービジョンを受ける場合はあるが、個人が特定されることはない」といったことは事前に同意を得ます。Q3. 突発的な電話相談などで、時間が事前に決まっていない場合は、どのように終話すればよいでしょうか。
なるべく受付時間や曜日を決めておいたほうがよいと思います。電話がかかってきてしまった場合は、「今から30分です」と伝えるのもよいかもしれませんね。
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