従業員が逮捕されても懲戒解雇するのはNG? その理由とは
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少し前に、とある出版社の社員が殺人容疑で逮捕されたというニュースがありました。会社側は、社員が無罪を主張していることから、解雇処分はせずに事態の推移を見守っている状況のようです。
しかし、犯罪を犯した者が会社から出たとなると、噂が広まって会社の社会的信用が失墜するという懸念も企業側にはあるでしょう。厳格な処分をする姿勢を見せることで、このような事態を防ぎたいと考える経営者も少なくないと思います。
では、犯罪を犯した社員を解雇処分(懲戒解雇)にすることはできるのでしょうか。できるとして、どのようなタイミングでできるのでしょうか。今回はこの問題について考えていきたいと思います。
罪を犯した社員を懲戒解雇することはできるか?
まず、会社の業務と関係のない私生活上の行為を理由にて会社が懲戒処分できるケースは、判例によれば、処分に客観的な合理性と社会的な相当性がある場合に限られるとされています。
実際に、会社側が住居侵入罪による20万円の罰金刑に処された社員を懲戒解雇した件について、解雇処分が無効であると判断された例もあります。
軽微な犯罪を一度犯して軽い刑事罰を受けたに過ぎない社員を懲戒解雇することは、客観的合理性も社会的相当性も認められないということでしょう。
しかし、犯した犯罪が重大なものであったり、その人の行った内容が会社の業務から考えて到底許容されないような場合(例えば、製薬会社の社員による薬物使用事件や密輸事件など)には、懲戒解雇が認められる可能性があるでしょう。
懲戒解雇処分にできるタイミングは?
懲戒解雇にできるようなケースであっても、拙速な解雇は控えるべきです。一番無難なのは、有罪判決が決まり、その判決が上訴されずに確定した段階です。
逮捕されただけの段階では、まだ、具体的にどんなことをしたという疑いをかけられているのかわかりません。本人がやっていないと主張する場合もあり得ます。これは、逮捕後捜査が進んで起訴された場合も同じです。
無罪判決が下されて確定すれば、懲戒解雇の理由となる事実がなかったことになるのです。懲戒解雇処分が無効となるだけでなく、賃金分の損害賠償や慰謝料の請求を会社が受けることとなってしまいます。
会社としては、内部から犯罪者が出たとなると一刻も早く対応しなければならないと考えがちです。しかし、拙速な処分は却って従業員とのトラブルのもととなり、逆に会社の社会的評価を落とすことにもつながりかねません。
本人や家族からもよく事情を聴いたうえで、有効性が覆らないタイミングで解雇処分を検討することが必要です。