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「残業するな」はハラスメント?時短ハラスメントにならないための労働時間管理

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こんにちは。社会保険労務士の吉田です。2019年から順次施行されている「働き方改革関連法」。2023年には時間外労働の割増賃金率の見直しを控えており、労使ともに「時間外労働」への注目が集まっています。

一方、「残業するな」「早く帰れ」など、実際の業務進捗などを顧みない上司からの呼びかけが問題になっているケースもあるようです。

今回は実際に起っているケースを基に、その問題点と本来の残業削減の目的を果たすためにはどうするべきかについて解説します。

時短ハラスメント(ジタハラ)とは

最近は多様なハラスメントが存在し、世の中「ハラハラ」であふれていますが、時短ハラスメント(ジタハラ)なるものも存在するようです。

ジタハラとは、残業を削減するための具体的な対策もないままに、社員に「残業をするな」「定時で帰れ」などと強要するハラスメントのことです。

残業削減の具体的な対策が講じられていないことで、業務の遅延や持ち帰り残業などが増え、その積み重ねにより従業員のモチベーションの低下を引き起こします。

働き方改革関連法の労働時間の見直しについて

近年、日本は「少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少」、「育児や介護との両立など、働く人のニーズの多様化」といった状況に直面しています。

そうしたなか、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが重要な課題になっています。

「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く人の置かれた個々の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現を目指しています。そして、一人ひとりがよりよい将来の展望をもてるように、2019年4月からさまざまな関連法が施行されています。

残業についても、「働き過ぎ」を防ぎながら、ワークライフバランスと多様で柔軟な働き方を実現する目的のため、「労働基準法」の施行から実に70年ぶりに初めて法改正され、定められた上限を超える残業は禁止になりました。

時短ハラスメントによる悪影響

先に述べましたとおり、残業規制の本来の目的は、労働者のワークライフバランスの改善と柔軟な働き方を実現するためです。しかし「時短ハラスメント」は本質的な対策がないまま、うわべのみで残業の削減を強要することで、次のような悪影響を引き起こします。

サービス残業や持ち帰り業務の温床

「時短ハラスメント」で残業が強制的に禁止された場合でも、業務量が今までと変わらない場合、やむなくサービス残業をしたり、自宅に仕事をもち帰る従業員も出てくるでしょう。結果、実質的な労働時間に対して賃金は目減りしますので、従業員のモチベーションの低下や、離職率の増加につながります。また会社としても、サービス残業やもち帰り残業などで実質的に発生した業務に対する残業代未払いの罪に問われるリスクもあります。

業務進捗の遅延や品質の低下にともなう信用失墜

業務に必要な時間を十分にかけられないことで、納期に間に合わなかったり、また納期に追われ必要な工程を省略することで品質が低下したりする問題も引き起こします。

結果、取引先の信用失墜やブランド力の低下につながるリスクも、時短ハラスメントの悪影響の一つです。

中間管理職の負担増

残業規制の対象となる一般従業員を定時で帰宅させ、残った業務を上司である現場マネージャーなどの中間管理職が肩代わりするケースもあります。

とくに責任感の強い上司にその傾向が見られるようです。

結果、中間管理職の負担増につながり、心身の不調などを招いてしまう恐れがあります。

時短ハラスメントに陥らないための

では「時短ハラスメント」に陥らないために取るべき、残業削減の本質的な対策について考えてみましょう。

業務量の見直し

同じ仕事内容であっても、従業員ごとに、そのパフォーマンスは異なります。従業員ごとに仕事内容、能力や適性などを把握し、適切な業務量を見直してみましょう。

また特定の従業員に仕事が偏りすぎている場合は、その割り振りの見直しも必要です。業務を見直してもなお、定時での業務終了が不可能な場合は、新たな労働力の確保の検討も必要です。

業務プロセスの見直し

効率よく仕事をすすめるためには、業務の優先順位を明確にすることが不可欠です。部署やチーム単位で業務内容の優先順位を検討し、優先順位の低い業務に時間をかけすぎないようにします。

また、パフォーマンスの高い従業員の仕事のやり方をマニュアル化するなどして共有し、効率的な仕事の進め方を標準化することも有効です。

社員教育

時短ハラスメントを防ぐために、管理者への教育も重要です。

どのような行為がハラスメントにあたるのかを具体的な例を挙げて注意喚起するとともに、適切に残業時間を削減するにはどうするべきなのか、についてしっかりと社員教育に取り組みましょう。

まとめ

日本の企業が残業時間の削減に頭を痛めている一方、海外の大手企業が従業員に対して「長時間猛烈に働くか、もしくは退職するか」を迫ったことが話題となりました。

正直、どちらが正解なのかは私にはわかりません。

ただ、「働き方改革」の本来の目的は、数字上の残業時間の削減ではなく、無駄の多いダラダラ残業をなくしたり、効率化を促進して労働生産性を高めることにあります。また、早く帰れることで家族と過ごす時間を増やしたり、趣味に当てたりすることで、より人間らしい生活を取り戻すことであることを常に念頭において、業務改善と意識改善を同時に進めることが重要です。

※掲載内容は公開当時のものです。

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