会社は従業員のミスに対して損害倍書請求をすることはできるのか?
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仕事をする誰しもに、業務においてミスをする可能性があります。ただし、そうしたミスにおいて数十万円〜数百万円の過失を犯してしまうケースがあり、こうした場合はどうなってしまうのでしょうか。
引っ越し業者の例として、従業員が業務中に車両破損をしてしまい、勤め先から400万円を請求されていた労働問題が話題に上りました。
今回はこのような場合において、「従業員は企業からの損害倍書請求に応じなければならないのか」という問題についてを解説いたします。
従業員は賠償責任をすべて負うわけではない
従業員が業務上のミスにより会社に損害を与えた場合、労働契約の債務不履行となります。本来の契約上の考え方であれば、会社は従業員に損害の全額を損害賠償請求できることになります。
しかし、この原則をそのまま適用し、使用者に比べて経済力に乏しい労働者にミスした場合も損害まで負わせることは、不公平かつ酷な事態を生じさせます。なぜなら、事業者は従業員の労務提供により、給与以上の事業上の利益を得ているからです。
事業者が労務提供により利益を得ている以上、事業上のリスクも事業者が負うべきであるという危険責任・報償責任の原則も考慮する必要があります。
そこで一般に、実務上は信義則などを根拠として、使用者から労働者に対する損害賠償請求に制約を加えることが多いです。
したがって、労働者のミスにより会社に損害が生じた場合であっても、従業員が無条件に全額の損害賠償をしなければならないわけでありません。
悪意・重過失が前提
当事者間の公平や報償責任の考え方から、従業員の業務上のミスによる損害において、従業員の重大な過失または故意によるものでない場合には損害賠償請求自体が制限されます。
従業員が損害賠償の責任を負う場合でも、
・従業員の過失の程度
・会社の関与・帰責性
・過失を防止するための会社の対策の有無
等の事情を総合考慮して、相当な範囲内の賠償に限られます。
事前の賠償の取決めや相殺はできない
従業員のミスがあった場合の損害賠償額について、事前に取り決めをしておくこともできません。
労働基準法16条では、労働契約の不履行について違約金を定めること、損害賠償額の予定をする契約を締結することを、それぞれ禁止しています。これは、労働者の退職の自由が制約されること、違約金を定めることにより労働者を拘束することを、それぞれ防ぐためのものです。
また、給料は全額支払わなければならないという全額払いの原則が労働基準法上定められていますので、未払給料から一方的に控除して天引きすることも違法です。
相殺が許されると、ミスによる損害賠償の範囲について、従業員側が争う前に、給与の天引きにより、会社が一方的に賠償を強制することを許すことになるからです。
賠償責任を負わされたら労基署や弁護士に相談を
労働者側の権利は、労働基準法で厚く保護されています。事業者から不当な賠償責任を負わされた場合、早めに労基署や弁護士などの専門家に対策を相談することをお勧めします。
また、会社側は軽々に賃金などと相殺することは控えた方が無難です。刑事罰の対象となる違法行為もあるので、気を付けれなければなりません。