2024年年末調整業務の注意点。定額減税の計算方法と2025年適用の内容も解説
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この記事でわかること
年末調整業務は人事・労務ご担当者にとって、もっとも重要な業務の1つといえるでしょう。この記事では、令和6年度の年末調整に関する以下の内容について紹介します。
- 令和6年の年末調整業務に影響する内容
- 年調減税の対象者と計算方法
- 令和7年度以降の年末調整業務に影響する内容
目次
こんにちは。SmartHRドメインエキスパートの中島です。クラウド型人事労務システム「SmartHR」の年末調整機能の開発に携わっています。
2024年4月に、国税庁から令和6年度の「令和6年 源泉所得税の改正のあらまし」が発表されました。発表されたあらましの内容は、今年の最重要ポイントである「定額減税」のほかにも、令和6年の年末調整に影響する内容がいくつか含まれています。
本稿では「令和6年 源泉所得税の改正のあらまし」と、昨年末に発表された「令和6年度税制改正大綱」の内容を中心に、前年の税制改正の内容もふまえながら年末調整業務への影響を解説していきます。
令和6年度税制改正のポイント
令和6年度税制改正は主に定額減税中心ですが、それ以外にも来年以降の大きな変更を予定している内容がいくつか盛り込まれています。
令和6年度の年末調整から影響する令和5年以前の税制改正の内容もふまえ、令和6年と翌年以降のポイントを整理すると、変更点は予定している内容も含め下記の9点があげられます。
令和6年度の年末調整に関連するポイント
- 定額減税
- 「扶養控除等申告書」の提出簡略化
- 国外居住親族への「送金関係書類」の提出書類範囲追加
- 「保険料控除申告書」 記載事項の簡素化
- 住宅ローン控除適用に係る手続きの変更
令和6年度以降の年末調整に関連するポイント
- 住宅ローン控除の拡充
- 扶養控除の見直し
- ひとり親控除の拡充
- 子育て世帯等の生命保険料控除の拡充
令和6年税制改正大綱の重大トピック:定額減税
令和6年税制改正の重要トピックスといえば、世間を賑わせている「定額減税」です。
令和6年6月1日の基準日をもとに、定額減税事務手続きが開始されるかと思いますが、本記事では定額減税の概要部分と年末調整の際の減税事務手続きを中心に解説します。
定額減税に特化した内容については以下の記事がありますので、ぜひあわせてご参照ください。
定額減税の概要
- 背景
- 令和6年税制改正大綱に盛り込まれた「デフレ完全脱却のための総合経済対策」のひとつ
- 内容
- 令和6年分の所得税・令和6年度分の個人住民税について、納税者および配偶者を含めた扶養親族1人につき、所得税3万円、個人住民税1万円を控除する
- 対象者
- 納税者本人
- 国内居住者であること
- 合計所得金額が1,805万円以下(給与収入2,000万円以下)であること
- 甲欄適用者であること
- 同一生計配偶者、扶養親族(16歳未満も含む)
- 国内居住者であること
- 合計所得金額が48万円以下(給与収入103万円以下)であること
- 納税者本人
- 定額減税額
- 所得税
- 本人:3万円
- 同一生計配偶者及び扶養親族:1人につき3万円
- 住民税
- 本人:1万円
- 同一生計配偶者及び扶養親族:1人につき1万円
- 所得税
- 減税の実施方法(所得税)
- 扶養控除等申告書を提出している給与所得者に対して、給与等を支払う際に源泉徴収税額から定額減税額を控除する
- 事務手続きは以下2つ
- (1)月次減税事務
- 令和6年6月1日以後に支払う給与等に対する源泉徴収税額から、その時点の定額減税額を控除する
- (2)年調減税事務
- 年末調整の際に、年末調整時点の定額減税額にもとづき精算する
- (1)月次減税事務
- 減税の実施方法(住民税)
- 令和6年6月の給与支給時には特別徴収(給与控除)せず、特別控除の額を控除した後の個人住民税額の11分の1の額を、令和6年7月から令和7年5月までそれぞれ給与を支給する際に毎月徴収する
年調減税の対象者と計算方法
年調減税では、年末調整の際に年末時点での定額減税の対象人数を算出し、その減税額にもとづいて年間の所得税額を精算します。以下に具体的な手続きの手順と計算方法を紹介します。
年調減税の対象者
年調減税での対象者は以下です。
- 令和6年12月31日時点で国内に居住している
- 申告者の合計所得金額1,805万円(給与収入2,000万円)以下
- 扶養控除等申告書を提出して甲欄適用されている
したがって、月次減税を受けていたとしても、給与収入2,000万円超で年末調整対象外の方は、年調減税もあわせて対象外になるため、確定申告で精算することとなります。
減税額の計算方法
月次減税と同様、12月31日時点で居住者である同一生計配偶者の有無および扶養親族の人数を確認します。
扶養親族については扶養控除等申告書で対象者の確認ができますが、源泉控除対象ではない同一生計配偶者(従業員本人の合計所得金額が900万円超、かつ配偶者の合計所得金額が48万円以下の場合)がいる場合の配偶者については、今年国税庁が用意している「給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書(同一生計配偶者に係る申告)」への記載が必要になるため注意が必要です。
定額減税では、同一生計配偶者の定義が源泉控除対象配偶者とは異なるため、漏れなく申告書に記載して提出するようにしましょう。
SmartHRの基本機能では、上記の登録ができるように配偶者の税法上扶養区分として新たに「扶養しない(同一生計配偶者)」を追加しております。
年調減税額の控除
年調減税額を算出したあとは、年調所得税額の算出と年調減税額を控除します。
今年の年末調整については、定額減税手続きを漏れなく正確にするために、制度の事前の周知とともに扶養状況の変更の有無を例年よりも早めにしていただくことをおすすめします。
令和6年の年末調整業務に影響する内容
影響(1):「扶養控除等申告書」の提出簡略化
令和7年1月1日以後に支払いを受けるべき給与等について提出する「給与所得者の扶養控除申告書等申告書」について、前年の申告内容から記載すべき事項に変更がない場合は、変更がない旨の記載のみで提出できるようになります。
令和6年6月上旬頃に「簡易な給与所得者の扶養控除等申告書等に関するFAQ(源泉所得税関係)」が国税庁ホームページに掲載されるようなので、漏れなく確認しておきましょう。
影響(2):国外居住親族への「送金関係書類」の提出書類範囲追加
国外居住親族に係る扶養控除等の適用を受ける際は、「送金関係書類」の提出が必要です。令和6年から、送金関係書類に電子決済手段(法定通貨の価値と連動等するステーブルコイン)の移転による支払いを証明する一定の書類が追加されました。
具体的には、今まで定められていた2種類の「送金関係書類」に加え、電子決済手段が加わりました。
1.金融機関が発行した書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引により、あなたから非居住者である親族に支払をしたことを明らかにする書類
2.いわゆるクレジットカード発行会社が発行した書類又はその写しで、非居住者である親族がそのクレジットカード発行会社が交付したカードを利用して商品の購入や役務提供を受けたことに対する支払をしたことにより、その代金に相当する額の金銭をあなたから受領し、又は受領することとなることを明らかにする書類
3.電子決済手段等取引業者(電子決済手段を発行する一定の銀行等又は資金移動業者を含みます。)の書類又はその写しで、その電子決済手段等取引業者が行う電子決済手段の移転によりあなたから非居住者である親族に支払をしたことを明らかにする書類
影響(3):「保険料控除申告書」 記載事項の簡素化
令和6年10月1日以後に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」について、以下の記載事項の簡素化(記載不要)が予定されています。
- 申告者が生計を一にする配偶者とその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合のこれらの者の申告者との続柄
- 生命保険料控除の対象となる支払保険料等に係る保険金等の受取人の申告者との続柄
主に申告者との続柄の記載が不要になることから、申告書の様式変更が予想されます。おそらく今年も7月頃に様式案が発出されると思われるので、こちらも漏れなく確認しておきましょう。
影響(4):住宅ローン控除適用に係る手続きの変更
令和4年の税制改正により、令和5年1月1日以降に取得した住宅については、従来の金融機関から発行される年末残高証明書を用いた「証明書方式」から、年末残高調書を用いる「調書方式」へ変更されました。
- 証明書方式
- 金融機関から交付された年末残高証明書を、年末調整の際に勤務先に提出する方式
- 調書方式
- 金融機関が税務署に「住宅取得資金に係る借入金等の年末残高等調書」を提出し、国税局から住宅ローンの「年末残高情報」を提供する方法
しかし、この改正に対応するために、金融機関側でシステム改修などへの対応が困難な場合は「経過措置」が設けられており、従来の証明書方式での手続きが可能となっています。
多くの金融機関が経過措置を利用して、従来の証明書方式での手続きになると予想されます。
どの金融機関がいつから調書方式へ切り替わるのかは不透明な状態でありますが、改正の内容と状況については理解しておくとよいかと思われます。
参考:住宅ローン控除の適用に係る手続(年末残高調書を用いた方式)について|国税庁
令和7年度以降の年末調整業務に影響する内容
令和6年度の年末調整で対応すべきことは、前項で説明したとおりです。しかし、来年以降も大きな変更点が予定されているため、下記の対応について注意しましょう。
確定している内容:住宅ローン控除の拡充
変更点(1):特例対象個人の控除借入限度額の上乗せ
特例対象個人(夫婦のいずれかが40歳未満の世帯または19歳未満の扶養親族を有する世帯)が、認定住宅等の取得をして令和6年1月1日〜12月31日までに入居した場合、控除対象借入限度額が以下のように拡充されます。
- 認定住宅:4,500万円→5,000万円
- ZEH水準省エネ住宅:3,500万円→4,500万円
- 省エネ基準適用住宅:3,000万円→4,000万円
入居時期 | |||||
2022年(令和4年) 2023年(令和5年) | 2024年(令和6年) | 2025年(令和7年) | |||
控除対象借入限度額 | 新築・買取再販 | 認定住宅(※1) | 5,000万円 |
| 4,500万円 |
ZEH水準省エネ住宅(※2) | 4,500万円 |
| 3,500万円 | ||
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 |
| 3,000万円 | ||
一般住宅 | 3,000万円 |
| |||
中古 | 認定住宅・省エネ基準適合住宅・ZEH水準省エネ住宅 | 3,000万円 | |||
一般住宅 | 2,000万円 | ||||
控除率 | 0.7% | ||||
控除期間 | 新築・買取再販 | 13年 ※一般住宅で2024年(令和6年)以降の入居の場合は10年 | |||
中古 | 10年 | ||||
所得要件(適用対象者の適用を受ける年分) | 合計所得金額が2,000万円以下 |
- (※1)「認定長期優良住宅」および「認定低炭素住宅」のことを指す
- (※2)ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、高断熱外皮(壁紙・窓など)で、LEDなど省エネ設備を使用し消費エネルギーを減少させ、太陽光発電によりエネルギーを創ることで、エネルギーの収支をゼロにしようとするもの
- (※3)2023年末までに建築確認を受けている場合は、借入限度額2,000万円・控除率0.7%・控除期間10年
変更点(2):新築住宅床面積40平方メートル以上の住宅の要件
令和5年12月31日までとされていた、新築住宅床面積40平方メートル以上の住宅の要件緩和措置が、令和6年12月31日までに建築確認を受けた住宅の取得においても適用されました。
合計所得金額が1,000万円以下という所得制限も変わらないため、注意が必要です。
結論が先送りにされた内容(1):扶養控除の見直し
2024年10月から開始される児童手当の拡充を踏まえて、高校生相当の扶養控除の縮小が検討されています。具体的には以下2点がポイントです。
- 16歳以上19歳未満(高校生相当)については現行の所得税38万円、住民税33万円の控除を廃止
- 高校実質無償化(平成22年度改正)の際に廃止した特定扶養親族に対する控除の上乗せ部分の所得税25万円、住民税12万円を復元
0〜2歳 | 3〜15歳 | 16〜18歳 | 19〜22歳 | |
児童手当 |
※所得制限撤廃 |
※所得制限撤廃 |
※所得制限なし | なし |
扶養控除 | なし | なし |
|
|
上記により、高校生年代に支給される児童手当と合わせて、すべての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充しながら、所得階層間の支援の平準化を図っていくようです。
こちらの変更は令和7年度改正で決定、令和8年度所得税と令和9年度住民税より適用を予定されています。
結論が先送りにされた内容(2):ひとり親控除の拡充
ひとり親の自立支援を進める観点から、ひとり親控除の所得要件の緩和と、控除額の引き上げが以下のように予定されています。
- 所得要件を合計所得金額500万円以下から1,000万円以下に緩和
- 合計所得1,000万円以下の場合の控除額を所得税35万円から38万円、住民税30万円から33万円へ引き上げ
改正前 | 改正後 | |
適用対象 | 合計所得金額500万円以下 | 合計所得金額1,000万円以下 |
控除額 |
|
|
こちらの変更も扶養控除の見直しと同じく、令和7年度改正で決定、令和8年所得税と令和9年度住民税より適用を予定されています。
結論が先送りにされた内容(3):子育て世帯等の生命保険料控除の拡充
「扶養控除の見直し」と同じく、子育て世帯への支援拡充の一環として、生命保険料控除の拡充が予定されています。
- 新生命保険料(平成24年以降契約)に係る一般生命保険料について、23歳未満の扶養親族がいる場合は、現行の上限額4万円から6万円へ引き上げ
- 一般生命保険料、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除の合計適用限度額は、現行の12万円から変更しない
- 一時払生命保険については対象外
区分 | 限度額(現行) | 限度額(改正後) |
(1)一般生命保険料 |
|
|
(2)介護医療保険料控除 |
| |
(3)個人年金保険料控除 | ||
合計(1)+(2)+(3) |
|
|
(※)税制改正大綱に住民税の記載はないため、令和7年度改正で確認が必要
こちらの変更は令和7年度改正で決定を予定されていますが、適用時期は未定のようです。
年度更新との並行でタイトなスケジュールに。
まずは定額減税の理解を深めましょう!
令和6年度の税制改正のポイントは、やはり定額減税ですね。
6月1日の基準日をもとに開始される月次減税事務について、労務担当者の皆さまは多く混乱されていることかと思われます。
また、同時期に労働保険の年度更新と住民税の年度更新作業も重なっているため、例年以上にタイトなスケジュールかと予想されます。
令和7年度以降についても、扶養控除の見直しやひとり親控除の拡充など、労務担当者としては気になるポイントが複数あるかと思います。まずは今年、労務担当者の頭を悩ませる定額減税の理解を深めて、万全の体制で月次減税と年調減税両方の対応を乗り切りましょう!
お役立ち資料
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