年末調整の電子化におけるシステムの選び方【社労士が解説】
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コロナ禍の影響を大きく受けた数年ですが、その影響もありさまざまな業務のデジタル化が従来までのスピードを一気に加速させ進行してきました。
その中で、毎年年末の人事労務担当者の悩みの種である年末調整の電子化もここ数年で顕著な進展をみせています。
クラウドシステムに代表されるオンライン化だけでなく、政府の電子化の進展により、今まで紙が積みあがっていた年末調整の作業もウェブ化による効率化が著しく進んでいます。今年度の年末調整からオンラインでという会社は多いかと思いますが、年末調整業務をより効率化できる手法について、1つずつ考えていきたいと思います。
知っておきたいクラウド型・オンプレミス型の違い
まず、前提である会社側の視点で考えていきます。
扶養控除申告書などを紙で配布し、従業員に記載のうえ提出してもらうという作業はすでに過去のものです。ウェブ化は必然の時代になってきています。
その中で、どのシステム、ソフトを使っていくかというのが、まず最初に検討していく課題になるかと思います。
現状ではWeb対応できるシステムとして、クラウド型とオンプレミス型の大きく2つの種類に分けられます。双方のメリット、デメリットをみていきましょう。
<クラウド型・オンプレミス型の比較表>
クラウド型 | オンプレミス型 | |
導入 | 数名からでも容易にすぐ導入可能 | ERPシステムの場合、導入の設定やコストがかかる場合も |
コスト | 初期費用は低いが、人数課金が主なので規模が拡大するとコスト増になる | 初期費用は高いが、保守費用以外は定期的なコストがかからない場合が多い |
運用・カスタマイズ | 基本機能は設定済なので、運用は開始しやすい。ただしカスタマイズはほぼできない | 初期設定などが必要なものが多いが、会社独自の設定が可能なものも |
セキュリティ | Web上に個人情報が保存されるので、操作ミスや保守管理で漏洩の危険性もある | インストール型だと特定のデバイスで管理されるので情報漏洩の危険性は低い |
障害リスク | クラウド本体のサーバーがダウンすると全ての作業ができなくなる可能性も | インストールPCの物損などがあった場合、保存データが復元できないケースも |
クラウド型の特徴
freee、マネーフォワード、SmartHRなどに代表されるインターネット上で稼働するシステムです。会社側の管理はもちろん、従業員側もインターネットの接続さえあれば使用でき、手軽に導入でき、申告書の作成、提出などもインターネット上で可能になります。
クラウド型のメリットは、導入に際して、多数の会社が使っているものになり、必要最低限の機能は揃っているので、気軽に導入でき、すぐに使用できることです。
反対に、多数の会社が使うことが前提のため、企業独自の機能を追加することはできません。企業独自の福利厚生制度などがある場合の申請など、イレギュラーなものは対応できないこともあります。
またインターネット上に個人情報を載せることのセキュリティ上の懸念を考慮する会社もあります。インターネットの回線の問題や、サーバーのダウンなどで業務ができない期間が発生するなどのリスクもあります。
コスト面では、人数ベースで料金が加算されるので、規模が拡大している会社ではコストが増えていく懸念もあります。
オンプレミス型の特徴
奉行シリーズ、弥生給与などに代表される、ソフトをインストールのうえ使用するシステムです。基本となるソフトは会社の事務担当側でインストールのうえ、さまざまな設定などを実施します。一部、企業ごとのカスタマイズなども可能なシステムもあります。
最大のメリットはセキュリティの部分かと思います。基幹ソフト部分がインストール型ですと、セキュリティ上の懸念は薄らぎます。ただ、年末調整申告書の作成・回収はクラウド型と併用するシステムも多いため、効率化を考える場合、デメリットにもなりえる部分です。
メリット・デメリットを考慮し、方針を決めることがポイント
以上のことから、クラウド、オンプレミス型のメリット、デメリットを考慮しつつ、会社の方針を決めていくのが良いでしょう。なお、次の考察の中で記載させていただく政府の電子化のシステムとの連携がどこまでできるか、どう発展していくかというのは日進月歩で変わりますので、アップデート情報は随時確認が必要です。
加えて、年末調整の業務は、給与計算、会計システムとのつながりも意識し、年末調整後、税務署申告である支払調書、各市区町村提出の給与支払報告書の作成まで視野に入れてシステムの構成を考えていく必要があります。
なお、クラウド型は無料使用期間があったりますので、各システムを人事担当者などで一度試してみて比較してみることをお勧めします。
マイナポータルや国が提供しているシステムの状況も把握しましょう
次に従業員側の視点から見ていきます。
会社のほうのウェブ化による方向性とは別に、従業員側のほうでの年末調整での作業の変化が1つあります。今まで各個人が郵便などの書面で受け取っていた生命保険料控除などの証明書がマイナポータルで受け取れるようになっていることです。また、国が提供したシステム上で年末調整書類を作成し、そのデータを会社に渡すこともできるようになっています。
ただ、この仕組みは現状発展途上といえます。全ての生命保険会社が使用できる状況ではなく、また使用の前提となるマイナンバーカードの普及率は41.8%(2022年2月現在、総務省HP)、マイナポータルの使用率は3.2%(2021年2月現在、予算委員会にてIT担当大臣が公表)となっており、普及率は高いとはいえません。
保険会社でも対応できていない会社もありますので、全面的に導入するというのはまだこれからかもしれません。
また、個人で国が提供したツールをインストールし、ウェブ上で作成したとして、会社のシステムがその受け取りに対応していない場合、絵に描いた餅状態で結局会社のシステムで申請し直す必要があります。
また、申告の一部(例えばiDeCoなど)が電子化できていないものの場合、結局は証明書を別途出さないとならないなど、非効率であることが考えられます。
とはいえ、日進月歩で新しい機能が追加されたり、住宅ローン控除申請のように証明書類が不要になったりと、これからの全体的な電子化の進捗によりこの対応も頭に入れておく必要があるかと思います。
まとめ
以上のことから、現状で対応を進める場合、会社の規模に応じて、小規模の会社であればクラウド型のシステムを導入しオンライン対応を進めることが現状では最善の方向性かと思います。
また、中規模以上の会社ですと、会計システムなどの連携を考慮のうえ、バックオフィスの一体化を前提にシステムを検討のうえ、年末調整のウェブ化に対応できる機能を追加していくという方向性になるかと思います。
そのうえで、国や保険会社、税務署などの電子政府化の進捗を見ながら、より効率化できる総合的なパッケージが導入できる段階を見据えて、新しい方向性を判断していく流れになるかと思います。
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