従業員を守る!企業がとるべき「カスタマーハラスメント対策」を社労士が解説
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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。
セクハラ、パワハラは法律改正等により広く知られ、マタハラなどさまざまなハラスメントは認知度が上がっています。最近では、コロナ禍でストレスを感じている客が従業員に対する暴言、いやがらせをしたり、マスク着用を拒否したりと、いわゆる「カスタマーハラスメント」が問題となりました。
今回は、2022年2月に厚生労働省が策定した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を紹介し、顧客等からの著しい迷惑行為である「カスタマーハラスメント」における企業に求められる対策についてポイントを解説いたします。
カスタマーハラスメントの状況
マニュアルの中で引用されている「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」(厚生労働省実施)によると、過去3年間に相談があったと回答する企業の割合はパワーハラスメント(48.2%)、セクシャルハラスメント(29.8%)、カスタマーハラスメント(19.5%)という順で、相談件数も増加傾向にあるという結果となりました。
また、同調査において、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験したと回答した労働者の割合は15%で、カスタマーハラスメントに悩む企業や労働者は少なくないといえるでしょう。
受けた行為の内容は、以下の図のように、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム」が52.0%、「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」が46.9%となっています。
カスタマーハラスメントとは?
顧客からのクレームや苦情は、自社の商品・サービスや従業員の接客態度等に対する不平・不満を訴えるものであり、それ自体は問題ではありません。むしろ、企業としては、顧客からのクレームや苦情を真摯に受け止め、自社の商品・サービスの改善、品質やサービスの向上につなげるものとして積極的に対応すべきことだと考えられます。
しかし、クレームや苦情の中には、過剰な要求をしたり、言いがかりをつけたり、不当で悪質なものもあります。お客様という優越的な立場、関係を利用し、強い態度で対応できない従業員に対して悪質なクレームをするのです。
「顧客第一主義」や「お客様は神様」を企業理念に掲げる企業も少なからずあり、そのような企業にとって、クレームとカスタマーハラスメントの違いや境界線はなかなか難しい問題でしょう。
「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、企業や業界により、顧客等への対応方法・基準が異なることが想定されるため、カスタマーハラスメントを明確に定義することはできないと前置きしたうえで、以下のように定義しています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
また、「顧客等の要求が妥当性を欠く場合」や「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの」の例として以下のようなものが想定され、カスタマーハラスメントとして取り扱うとしています。
カスタマーハラスメント対策の必要性・取り組むメリット
マニュアルでは、カスタマーハラスメントは従業員、企業、他の顧客等に対しさまざまな影響を及ぼすと指摘しています。
とくに従業員への影響は看過できません。顧客等の人格や尊厳を侵害する言動により従業員が身体的・精神的に苦痛を与えられ、業務のパフォーマンス低下、健康不良、休職や退職に至るなど、重大な悪影響が生じます。
企業にとっても、対応するための時間的なロスや、従業員の配置転換、休職、退職等による人員確保、金銭的な損失、ブランドイメージの低下などの悪影響があるでしょう。
他の顧客については、利用環境や雰囲気の悪化、クレーム対応による業務の遅れによるサービスの低下などが考えられます。
もとより、企業や事業主には、職場におけるパワーハラスメント防止のため雇用管理上必要な措置を講じることが義務となっており、カスタマーハラスメントも例外ではありません。
そして、安全配慮義務として、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮が事業主に求められています。企業がカスタマーハラスメントに対して適切な対応をしていない場合、被害を受けた従業員から責任を追及される可能性があるのです。
カスタマーハラスメント対策に取り組むことにより、上記のようなマイナスの影響を発生させないばかりでなく、迷惑行為をする顧客等への対応がスムーズになります。また、毅然と対応することにより従業員の就業環境の改善、ブランドイメージの向上というメリットにもつながることでしょう。
企業に求められるカスタマーハラスメント対策
1.基本方針の策定、従業員への周知
業界の特性、企業の顧客に対する方針の違いもあるため、自社のカスタマーハラスメントにおける基本方針の決定が必要です。
基本方針には、以下のような要素を盛り込みます。
「カスタマーハラスメントは重大な問題であり、従業員を守りながら組織として毅然とした対応をする」と明確にすることが、カスタマーハラスメント対策の第一歩となります。
2.社内対応方法のマニュアル策定、フローについて
クレームやカスタマーハラスメントは、現場や顧客窓口における初期対応が重要です。そのため、各社の業務内容、業務形態、対応体制・方針等の状況に合わせて、顧客への謝罪、状況の正確な把握、報告や情報共有などあらかじめ対応方法、手順をマニュアルなどで決めておきます。
カスタマーハラスメントが発生したときの自社での対応フローは、以下の図を参考にしてください。
クレームの域を超えたカスタマーハラスメントについては、顧客対応の状況によっては、顧客等からの犯罪行為等により法的な手続きや、警察や弁護士等との連携が必要になり、現場対応だけでは解決しないケースがあります。
悪質性が高いと思われる場合、録音・録画・対応記録・時間の計測などの証拠を収集し、単独での対応は避けて複数名で対応することになります。現場と本社が情報共有し、指示を仰ぎながら、迅速かつ適切な対応をしましょう。
3.従業員への教育・研修
クレーム対応、カスタマーハラスメントに対応できるように、顧客対応を行う従業員、アルバイト等に対する研修、現場対応の責任者、従業員の相談対応者となる上司向けの研修など、階層別に研修を実施することが効果的です。
顧客等への接客のポイント、自社のカスタマーハラスメント基本方針、対応方法や手順を日ごろから教育しておくことで、突発的に起こるクレーム、カスタマーハラスメントに適切に、毅然とした態度で対応しやすくなります。
4.相談対応体制の整備
カスタマーハラスメントを受けた従業員が気軽に相談できるように相談対応体制を整備しておきます。
カスタマーハラスメント発生時、従業員は上司に相談することが多いため、上司は自社の基本方針、クレームやカスタマーハラスメントへの対応手順、本社等への報告の流れ等を理解していなければなりません。
また、上司は従業員の相談対応者として、相談者へのフォローなどの役割も担います。相談者の話をよく聞き、精神的なダメージを緩和させ、業務のパフォーマンスが低下しないよう丁寧な対応に努めたいものです。
なお、相談者の状況に応じ、必要であれば産業医や産業カウンセラーなどの医療専門家につなぎ、万全なアフターケアが求められます。
5.再発防止
カスタマーハラスメント自体の再発防止は難しいですが、クレームがエスカレートしてカスタマーハラスメントになる場合もあるため、まずクレームを発生させないようにしましょう。
同じようなクレームが発生しないように対策が取られていれば、カスタマーハラスメントの再発防止にもつながります。
その際、これまでに発生したクレームやカスタマーハラスメントについて、個人情報やプライバシーに配慮しつつ、従業員間での情報共有や再教育を行い、再発防止に注力しましょう。
また、カスタマーハラスメント対策は継続的な取組みであり、社会状況や顧客のニーズ、企業のサービス形態の変化等によりクレームの質も変わることから定期的に見直すことをお勧めします。
まとめ
小売業、飲食業、宿泊業をはじめとする顧客と接することの多い業界では、カスタマーハラスメント対策の実施、強化は喫緊の課題です。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を参考にしつつ、自社の方針に合わせて対策を進めていただきたいと思います。