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注意すべき「やりがい搾取」。立場別に注意すべきこととは?

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こんにちは、アクシス社会保険労務士事務所の大山です。

働き方改革関連法案の重要法案のひとつ「高度プロフェッショナル制度」は、年収1,075万円以上のいわゆる「専門家」に対しての限定された制度であることが言われていますが、この年収の制限が時間とともに緩和されて、誰に対してもこの制度が適用され、誰もが残業代ゼロで働かされるのではないかと懸念されています。

「やりがい搾取」とは?

一方で、ヒトは報酬の多寡に関係なく、「やりたいこと」なら時間を忘れて没頭できる生き物でもあります。「趣味が高じて仕事になった」とか「フリーマーケットで好きなタイミングで好きな時間だけ店を開く」などのケースでは、「何時間働いても疲れを感じない」と耳にすることもあります。

「やりがい搾取」とは、経営者が人のこの特性を利用し、やりがいを報酬がわりにして、無報酬または低い報酬で仕事をさせることをいいます。

別の言い方をすると、以下の1と2は「やりがい」、3は、「やりがい搾取」です。

  1. 本人が考え、本人が「やりがい」と感じる範囲で自ら行動(仕事)ができる
  2. 他人が考えたことではあるが、本人が「やりがい」と感じる範囲でのみ行動(仕事)ができる
  3. 他人が考えたことを、本人が一部の「やりがい」と一部の「義務」の境界を行ったり来たりしながら行動(仕事)をする

3についての多くのケースでは、経営者は、巧みに「義務」を隠し、あるいは、「義務」に対する文句を言わせない仕掛けを施します。

「やりがい搾取」に関する立場別注意点

これらの「やりがい搾取」について、「求職者」「労働者」「経営者・管理職」という、それぞれの立場ごとにどのような点に注意すべきか見ていきましょう。

(1)求職者が就職・転職活動中に注意すべきこと

就職・転職活動中は、いくら売り手市場と言われていても「行きたい会社」や「やりたいことができそうな会社」であればあるほど、募集要項の甘い言葉に注意をしなければなりません。

やりたいことができるようになるまで自腹で費用を払わされるなど、「憧れの実現」という“エサ”のために、やりがいを搾取されることがあってはなりません。

特に転職活動では、労働条件に「フレックスタイム制で働ける」、「裁量労働制で自分の判断で働ける」、「残業しなくても固定(みなし)残業代が出る」などと書かれているときは、十分な実態確認が必要です。

制度自体が悪なのではありません。運用する側に悪意があれば、制度はかっこうの「やりがい搾取」のツールにされてしまいます。

労働条件通知書にこれらのことが書かれていないのに、職に就いてからこれらの制度の対象であるとわかったというなら、重大な契約違反と言えます。

(2)労働者が人事考課で注意すべきこと

人事考課では一時「成果主義」が台頭しました。業務範囲を超えての成果が出れば出るほど人事考課の点数が上がる方式で、このために同僚を出し抜いたり、サービス残業が増えたりするなどの弊害が出ました。

これは「高評価」というエサで社員の連帯意識と時間を搾取していたにほかなりません。

日本のほとんどの企業では、社員の募集時も、人事異動時も、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)で仕事の範囲と目標を示さないので、その時々で経営者や上司の都合が優先されます。

明確な職務記述書はないにしても、次の人事考課時までにすべき自分の職務は何なのか、目標は何なのかを記述し、上司の確認を取っておきましょう。

(3)経営者・管理職が人事上、注意すべきこと

「やりがい搾取」は、長い目で見れば会社のためになりません。

最近では、人事考課をする管理職が、「人事評価スキルの向上」や同僚同士あるいは部下が上司の評価をする「360度評価」に取り組むケースも増えてきてはいるものの、まだまだ途上です。人事権をもって評価する経営者や管理職は、「やりがい搾取」をしていないか、常に謙虚に自問する必要があります。

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