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フィードバックを求める相談者への対応。必要な「提案」とは?

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目次

労務に対して、従業員から「フィードバックが欲しい」という相談を持ちかけられることがあります。主訴を正しく理解し、適切なフィードバックをするにはどのような対応が必要でしょうか。

「Smart相談室のスーパーバイザーと動画で振り返る労務担当者の対応例 #4フィードバックを求められた相談の対応」では、労務担当者がとるべき対応について、動画をもとに考えるケーススタディが行われました。

セミナーでは、産業カウンセラーの養成に長く携わり、企業でのカウンセリング経験も豊富なスーパーバイザーの視点から、企業の労務担当者がとるべき対応を学びました。本稿では当日の内容を模擬面談の動画とともにお届けします。

セミナー講師鵜飼 柔美 氏

オフィスファーロ 代表

2005年より大阪にて若年者就労支援施設、大阪府立高等学校、専門学校、大学学生相談室等で若年者に対するキャリアコンサルティング及び教員及び保護者へのキャリア教育の啓発、教材開発に携わるほか、企業領域において勤労者を対象としたメンタルヘルスとキャリア開発支援のカウンセリングを行う。2016年より都内にキャリアコンサルティングオフィスを開設。キャリア(生き方・働き方)の支援を行うほか、国家資格キャリアコンサルタント及び産業カウンセラー等資格保有者の養成および育成にも携わる。一般社団法人キャリアコンサルタント支援協会理事。一級キャリアコンサルティング技能士。2021年よりSmart相談室スーパーバイザーとして活動中。

チームマネジメントに悩む相談者の事例

前回のセミナーに引き続き、労務担当者の方が面談をしているイメージ動画をご用意しました。今回は「マネジメントに悩むチームリーダーポジションの従業員から、自身のマネジメントについてフィードバックを求められた相談の対応」をテーマにした模擬面談です。事例は架空のもので、Smart相談室の関係者が演じています。

まずは動画をご覧いただき、逐語記録をもとに振り返りましょう。逐語記録を振り返ることは、目先の問題を引き起こした要因や、問題が長引いている要因(真実の問題)を見いだすことに役立ちます。

相談者の生きやすさやキャリア形成の支援に繋がっているかに着目しながら、イメージ動画を見ていきましょう。

本日の登場人物の設定です。

  • 労務担当者:ロウムさん
  • 相談者:練馬太郎さん
    • 34歳・男性
    • 専門商社営業部のリーダー

まずは、相談対応の姿勢についてアドバイスします。ご視聴いただいた動画では、ロウムさんを写すカメラが少し低い位置にあったようです。クライアントさんの感じ方によっては見下ろされているという印象を与えてしまう可能性があります。これはオンライン面談特有の問題です。目線が同じになるようにカメラの位置を工夫できるとよいですね。

では、逐語記録を見ながら対応を振り返っていきましょう。

※以後、相談者の発言は「練馬1」、聴き手の発言は「ロウム1」と表記。カッコ内は非言語情報。

相談者が適切なフィードバックを得られるための対応を学ぶ

逐語記録。動画内の発言を文字起こしており、その内容を補足している。重要な発言については、本文中で解説している。

緑字や赤字は発言のまとめ、青字は練馬さんの発言からの推察を表しています。

「練馬1」で、練馬さんが他者への気遣いや感謝を表現できる方であることがわかります。カウンセリング時には、発言だけでなく相談者さんの社会性などの情報をインプットすることも大切です。

話してもらうための、リラックスできる雰囲気作り

「ロウム1」の逐語記録にある丸カッコは、ロウムさんの非言語アクションです。笑顔で相槌を打っていましたね。「聴いていますよ」という姿勢を、練馬さんにわかるように伝えている点がよかったと思います。

「ロウム2」でも、練馬さんになるべくリラックスしてもらえるよう、笑顔でお迎えしています。

逐語記録。

「練馬3」では今回の面談の主訴と言える部分を話してくれています。ロウムさんの聴く姿勢が練馬さんに伝わり、話し始めやすかったのではないかと思います。主訴は面談全体のベースになるので、大事に聴き取り面談を進めていきましょう。主訴と関係のない内容について話が及んでしまったら、なるべく元の内容に戻ってくるよう促すとよいですね。

相手の言葉・気持ちを受け取り、心理的安全性を高める

練馬さんは「いただければ嬉しいかな、というふうに思っている感じなんです」という表現を使っていますね。要求をストレートに言わないコミュニケーションをする方なのか、ロウムさんに遠慮があり心を完全に開いていない状態なのか。あるいは最初はやわらかい表現を使い、面談が進むにつれて少しずつ自分の本題を語っていくタイプなのか、いろいろな可能性が推察されます。

最初からオープンに何でも話す方はあまりいません。「ここでこの人に話して大丈夫かな」と考えながら話すので、まずは心理的安全性を高め、安心・安全な場であると理解していただくことが大事です。

相談を受けるときに大切なのは、対話のなかで相談者さんの発言を理解していくことです。練馬さんは言葉を継ぎ足したり修正したりしながら話をしています。「伝えよう」という気持ちを受け取りながら、話の内容理解に努めます。

「練馬3」では、イライラや迷いを感じていることや、「最年少取締役ぐらいのところまで上り詰めたい」という野心を話してくださっています。本音を吐露できるほどの安心感が生まれたのではないかと思います。

「ロウム3」では「営業3課ってすごく忙しくて有名なところですよね?」と話題に対する関心を伝えています。カウンセラーは「〇〇なのですね」と相談者のお話の内容を伝え返すことが多いのですが、話に乗りながら、練馬さんのいる課について関心を伝えているのはよい応答ですね。練馬さんもさらに話しやすくなったと思います。

状況を客観的に聴き出す

「練馬4」の「あんまり『忙しい』って思ってはないですけど、割とみんなから言われてて、」という発言から、部署の忙しさについて、練馬さんと他のメンバーとの認識にギャップがありそうだと推察できます。

「ロウム4」の「営業3課はみなさん疲弊しているって耳に入ってくるんで、(中略)お仕事の方は大丈夫だけど、マネージメントの方が大変っていうことでしょうか」という発言は、練馬さんの発言を否定せず、客観的な視点から部署の状況と練馬さんの訴えを確認する上手な返し方でした。「練馬5」では「ロウム4」で確認したことについて同意し、「ロウム5」では練馬さんの話を詳しく聴こうとしています。

「練馬6」では、部下からの反応を見て「自分が嫌われているのではないか」「コミュニケーションを取れていない」と感じていることを教えてくれました。

逐語記録。

「ロウム6」と「ロウム7」では、「練馬6」で語られた孤立状況を、さらに詳しく具体的に、正しく理解しようと質問して聴いています。「練馬8」では、部下5人ともコミュニケーションを取れていないことがわかりました。この時点で、練馬さんは自身の心の奥のことを話せるほどに関係性ができていますね。

傾聴によって、練馬さんの状況や心情を正しく共有できます。同時に、練馬さんも自分の状況や気持ちを客観視できます。冒頭に語られた「チームマネジメントに課題感がある」という言葉だけですべてをわかった気にならず、もう少し具体的に詳しく知ろうという姿勢で聴き出せていますね。

「ロウム8」では、ロウムさんは労務担当者として組織のことをわかっているので、この問題を解決するために使えるリソースを探しています。カウンセラーであれば、「練馬8」で語られた感情を伝え返したいところです。

相談者の言葉に宿る軽微なニュアンスも見逃さない

「練馬9」では、事実として、信頼する上司には相談済みであることがわかりました。「ロウム8」で上司の話を出しており、よい呼び水になっています。練馬さんは上司のフィードバックに関して「改善しないとなという感じ『は』ある」とおっしゃっています。私たちカウンセラーは『は』の一文字に注目します。納得と感謝、改善意欲はあるものの、具体的な行動がつかめていないのでしょう。そこでロウムさんにフィードバックを求めてきたと推察できます。

「ロウム9」の発言の真意はわかりません。ただ、「練馬9」で語られた、フィードバックをもらったのにスッキリしていないという状況を、もう少し詳しく聴こうとしているのだと思います。

逐語記録。

「練馬10」では、相談した上司のやり方を実践してもうまくいかなかったため、メンバーに対して1on1や挨拶を増やすなどの努力をしているものの、結果に繋がらず辛いと語っています。

無理に提案や答えを返すよりも、主訴に沿った対応を

カウンセラーであれば、ここで練馬さんの辛さに共感的理解を示したいところですが、「ロウム10」では上田さんとの対話を提案しています。

「練馬11」では提案に躊躇しつつも、「それでよくなるのであれば」と藁にもすがる思いがあるようです。ロウムさんは上司を含めた面談で何かしらのヒントが得られると思っていると考えられます。しかし、信頼関係ができている二者の対話にロウムさんが入り、どのような役割をしようとしているのかがわかりません。

逐語記録。

「練馬12」で練馬さんは賛同していますが、ためらいも感じられます。「大丈夫」という言葉は正しく受け取るのが難しいですね。「OK」と「NO」の両方が含まれているように感じます。

ロウムさんは練馬さんのためらいを感じとり、「ロウム12」では「大きな問題にならないようにします」と気づかう言葉をかけています。ここで「2週間後」の理由を伝えるとよりよかったでしょう。家に帰ってもモヤモヤする状態で2週間放置されることは辛いと思います。

ここで面談は終わりますが、最後に主訴とのすり合わせができればさらによいですね。

練馬さんは労務からのフィードバックを求めて相談に来られましたが、ロウムさんからの提案はあらためて上司の上田さんにアドバイスを求めるという内容でした。練馬さんと上田さんはすでに話を終えているので、躊躇が見られました。「フィードバックはこれで満足だったか」「さらに別のフィードバックが欲しかったか」というすり合わせがあると、よりよかったと思います。

ロウムさんの対応まとめ

ロウムさんの対応についてまとめた図。同内容を本文中にも記載。

相談の間、ロウムさんは練馬さんを否定せず、批判せず、終始誠実で受容的な態度でした。八方ふさがりの状況にいた練馬さんに対し尊重する姿勢がうなずきや相槌から伝わってきて、非常に温かい対応だったと思います。

その姿勢が練馬さんにも伝わり、野心まで共有できるほどの関係性ができていました。

一方で、「練馬さんが相談した上司と3人で話し合う」という解決方法を提案したことによって、主訴がぼんやりしてしまった点は残念でした。再度同じ上司と話し合うより、ロウムさんが知っている他にアドバイスをくれそうな方と話す機会を設けるほうが、練馬さんの悩みの解決策を得られた可能性があります。 

また、カウンセラーの仕事かもしれませんが、練馬さんの孤立感を軽減させるためには、本人が吐露したネガティブな感情を受け止めることが有効です。

直接的なフィードバックよりも、一緒に考える姿勢が大切

フィードバックを求められた面談の関わり方のポイントをまとめた図。本文中にも同じ内容を記載。

フィードバックを求められた面談の関わり方のポイントをまとめます。

(1)安心して話ができる関係性をつくり、事情や気持ちをしっかり理解する

早まって相手のことを理解しきらないうちにフィードバックすると、満足してもらえないことが多いです。また、相談者は今回の練馬さんのように、万策尽きてから労務担当者に相談しに来ていることが多いので、これまでの事情や気持ちをしっかり理解しましょう。そして、「よくある話」として聴いてしまわず、「目の前にいる方の話」として聴くことが大切です。

(2)事実や状況の確認をする

今回のロウムさんは、練馬さんの孤立感の度合いを知るために「部下って5名くらい?」という質問や、上司からのフィードバックが期待と違っていた可能性を確認する質問もしていました。表現された気持ちを伝え返すだけではなく、話全体から相談者の気持ちを理解しようと努めていらっしゃったと思います。

(3)相談者が適切なフィードバックが得られる方法を一緒に考える

相談者はひとりで考えられることや行動できうることはやり尽くしているケースが多いため、焦ってフィードバックしないほうがよいでしょう。私がカウンセラーを指導するとき、「作戦会議を一緒にするとよいですよ」とお伝えします。今回の場合は、「同じ世代のマネージャーはいないかな」「上司とは違うタイプのマネジメントをする人いないかな」などの可能性を検討できればよりよいと思います。ロウムさんと練馬さんが一緒に考えて両者の間でアイデアが出るようになれば効果的です。

今回は、労務担当者がフィードバックを求められた場合の対応をお話ししました。相談者の目的や主訴、事実、状況を確認しながら、適切なフィードバックを得られる方法を一緒に考えられるとよいですね。

質疑応答

  1. Q1. 今回の面談のなかで、会社としては、最年少の取締役になるためのフィードバックもすべきでしょうか。

    今回の面談目的は、「今のチームのマネジメントについてフィードバックが欲しい」だったので、「最年少の取締役になるためのフィードバック」は主訴とは違います。相談者の主訴に沿って対応しましょう。

  2. Q2. 面談の時間が十分にある場合、どのような話をより聴くとよいでしょうか。

    今回、練馬さんは「上司の上田さんには相談した」と言っていましたが、他にやったことがあれば質問してみたいところです。

  3. Q3. 今回のロウムさんがキャリアコンサルタントや産業カウンセラーだった場合、改善すべき対応はありますか。

    練馬さんが吐露された感情の受け止めです。共感的に理解していてもクライアントさんに伝わらないと効果はありません。「わかってもらえた」と思ってもらうために、気持ちを伝え返すとよいと思います。

  4. Q4. 相談を聴くロウムさんの表情が硬いと感じましたが、いかがでしたか。

    私はちょうどよかったと思いました。冒頭はやわらかい表情で始まり、途中から真顔になっていたことも、練馬さんの相談の深刻さに合っていました。

  5. Q5. 初回面談の段階で「孤独を感じている」という具体的な事象や内容をさらに掘り下げてもよいのでしょうか。

    「孤独を聴いてもらいたい」が来談目的だった場合は、ぜひ聴いていただきたいですが、今回の練馬さんの目的は「チームをどうにかしたい」なので、あまり深堀りしないほうがよいと思います。

  6. Q6. 労務担当でも気持ちへの共感はしたほうがよいのでしょうか。そこには踏み込み過ぎないほうがよいのでしょうか。

    表現された範囲はしっかり受け止めましょう。しかし、話していない部分まで踏み込むと、主訴からずれやすくなります。また、本人が話すつもりのなかった内容まで話してしまったことで「相談しなければよかった」といった後悔が生まれる危険があります。

【執筆:まえかわ ゆうか】

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