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職業安定法改正に伴う「NG求人例」5つ

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こんにちは、特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

平成30年1月1日より職業安定法が改正され、公正な採用活動が行われるよう、求人に関するルールが厳しくなっています。

現在、行っている採用活動の中で、今回の改正内容に抵触している点はありませんでしょうか?

本稿では、法改正のポイントを踏まえ、NGとなる求人の例を5つ紹介します。

(1)「試用期間」が明示されていない

今回の法改正で、試用期間がある場合は、その旨を明示することが義務付けられました。試用期間の「長さ」についても、「1ヶ月」とか「3ヶ月」といったように具体的に示すことが求められています。

また、試用期間の有無だけでなく、試用期間中の労働条件が本採用後と異なる場合は、試用期間の労働条件についても明示が必要です。

試用期間が明示されておらず、入社時から求人票の労働条件が適用されると思ったのに、「試用期間が3ヶ月あって、試用期間が終わるまでは基本給は1万円マイナスになります」などと内定直前や内定後に言われたら、求職者にとっては不意打ちです。

このような不意打ちから求職者を守るため、試用期間の有無や要件の明示が必須とされたのです。

(2)裁量労働制の「みなし時間数」が明示されていない

裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」がありますが、いずれも「実労働時間数に関わらず、みなされた労働時間数に基づいて賃金が支払われる」という制度です。

今回の法改正では、裁量労働制が適用される場合は、「みなし労働時間」の長さまで含め、具体的な明示が必要とされました。

ですから、裁量労働制であること自体を隠すのはもちろんNGですが、1日のみなし労働時間数が何時間かが不明な求人もNGとされることになったのです。

実際に入社してみたら、毎日10時間以上働かざるを得ない状況なのに、みなし労働時間数が8時間とされていたとしたら、「はじめから知ってれば入社しなかったのに……」と、少なからずの人が思うはずです。

企業が“長時間労働の隠れ蓑”として裁量労働制を使うことを防ぎ、また、違法ではなくとも、なかば「だまし討ち」のような裁量労働制から働く人を守るため、裁量労働制が適用される求人の場合、「みなし時間数」を含めた明示が義務付けられたのです。

(3)「固定残業代」が明示されていない

今回の法改正で、固定残業代を支給している場合は、

  1. 「固定残業代の金額」
  2. 「手当が時間外労働何時間相当のものか」
  3. 「2.の時間数を超える時間外労働分の割増賃金を追加で支給する旨」

が、3点セットでの明示を求められることとなりました。

従来、求人段階で基本給を高く見せるために、「基本給30万円」などと求人を出し、雇用契約を結ぶ段階になって「実は、基本給には10万円分の残業代が含まれていてね……」ということを初めて切り出すような、不適切な採用を行っている会社が散見されていました。

あるいは、そこまで不適切ではなくとも、固定残業代の金額ないし時間数の片方だけが示されていて、その計算根拠が曖昧であったりとか、固定残業代を超えた場合の割増賃金が支払われるのかが不明確であったりとか、そういったことに関するトラブルも発生していました。

そこで、今回の法改正で、固定残業代に関し、上記の3点を明示していない求人はNGとなったのです。

(4)「募集者の表示」が不適切である

今回の法改正では、求人の「募集者」を明示することが義務付けられました。

とはいえ、募集者が不明な求人は怪しくて敬遠されますから、従来も募集者が全く不明である求人というのはほとんどなかったと思います。

しかしながら、求人者が「株式会社○○」と書かれていたので、株式会社ならば社会保険にも加入させてもらえるはずだと安心して求人に応募したところ、「会社はダミーなので、個人事業主として雇用契約を結びたい」言われ社会保険に入れなかったとか、親会社名の求人だったが実際には子会社に入社させられた、というような募集者の「すり替え」が行なわれることがしばしばありました。

そのような「すり替え」を禁止するためということも含め、今回の法改正では、誰がその求人の募集者なのかをはっきりと明示することが義務付けられました。

(5)「派遣労働者」であることが明示されていない

今回の法改正では、採用した労働者が派遣労働者として他企業へ派遣される予定の場合、「派遣労働者であること」を明示した上で求人を行わなければならないことが義務付けられました。

派遣労働者であっても、派遣元の会社と雇用関係が成立するのは通常の労働者と同様ですが、派遣労働者は、働く場所や指揮命令を受けるのは別の会社ということになりますので、採用後に突然それを言われたら、「話が違うよ!」となってしまいます。

通勤時間などのライフスタイルに関しても、大きな不利益を受けてしまうかもしれません。

そこで、募集元の会社で働くつもりであった労働者が、採用後に突然「あなたの勤務先は○○社なので、当社ではなく○○社に出勤して下さい」言われるようなことが起こらないよう、派遣労働者として採用される予定の求人には、その旨を明示することが必要となったのです。

まとめ

今回の職業安定法の改正は、「労働条件を実態よりもよく見せて、求職者が誤解をしてしまうような求人を出すのは禁止します」という政府の強いメッセージを感じます。

「だまし討ち」のような求人を出すのはそもそも不誠実ですが、求人の際の労働条件と採用時の労働条件が異なっていたら労働トラブルの火種になり、採用された人もモチベーションが上がらず、エンゲージメントにも支障をきたし、「頑張って働こう、結果を出そう」という意欲を削いでしまうでしょう。

ですから、働きやすい会社をつくり、労働トラブルを防止するためにも、今回の法改正の内容や意図を認識し、法律に則った公正な採用活動を心がけたいですね。

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