どんな調査なの? 「労働基準監督署」の立ち入りと是正勧告
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こんにちは。浅野総合法律事務所 代表弁護士浅野英之です。
昨今の過重労働問題などを受け、労働基準監督署はもちろん、ときに「かとく」が調査に入ることもあるなど、人事労務に関する行政の動きが盛んになっているのは、皆さんもご存じのことと思います。
ところで「労働基準監督署の調査」ではどのようなことが調べられるのか気になる方も多いことと思います。
そもそも労働基準法を遵守することは大前提ですが、管理や準備に抜け漏れがあれば、あらぬ疑いをかけられないとも限りません。
いつ何時やってくるか分からない労働基準監督署の調査に備え、日頃の管理・準備を怠らないことが重要です。
労基署の調査は原則として予告がない
「労働基準監督署の調査」というのは、事前連絡なく突然やって来ます。
事前に予告してしまうと、会社の実情を把握することができないからです。もっとも、事前に電話やFAXで連絡して調査に来るケースや、「出頭要求書」という書類により呼び出しを行うこともあります。
調査内容としては、会社の労務担当者や社員からの聞き取り調査、書類の確認、職場の調査などが挙げられます。
「是正勧告」「指導票」とは?
労働基準監督署が会社を調査した結果、法令違反や改善点があることが判明した場合、是正勧告や指導が行われます。
まず、法令違反とはいえないものの、改善の必要があると判断された場合には「指導票」が交付されます。
一方、法令違反に当たると判断された場合には、違反事項と是正期日を定めた「是正勧告書」というものが交付されます。
なお、「是正勧告書」や「指導票」は、調査当日ではなく、調査後、会社関係者が労働基準監督署に出頭して交付を受けることが通常です。
指摘内容に対する「是正報告書」の提出
「是正勧告書」や「指導票」を交付されたら、指定された期日までに指摘を受けた内容を改善して、「是正報告書」を提出する必要があります。
「是正勧告書」と「指導票」のどちらも、法的拘束力自体はないものなのですが、法令違反している、もしくはそれに近しい状態であることに変わりはなく、是正すべきでしょう。
「是正報告書」は、書式などの決まりはとくにありませんが、違反していた事項の内容と、是正した内容、そして是正完了日などを記載した上で、会社名、住所、代表者名を記入・押印します。
これが労働基準監督署の調査を受けた場合に会社が行うべきことです。
労基署による調査事項
それでは、具体的にどのようなことを調べられるのでしょうか?
調査される主な事項としては、
1. 会社の事業内容や経営内容、労働者の性別や人数等、派遣労働者の有無、請負企業の有無、外国人労働者の有無
2. 労働条件
3. 労働時間
4. 賃金関係
5. 年次有給休暇
6. 安全衛生管理面
7. 健康管理面
などが挙げられます。
調査に備えて常日頃から注意すべきこと
本質としては、「調査に備え免れる」ことではなく、常日頃から法令遵守し、健全な経営を心がけることが大切です。
とはいえ、その前提をもってしても、調査に備える必要が全く無いかといったらそんなことはありません。例えば、労使ともに健全な経営状態であったとしても、不備によって指摘を受けることもあるからです。
備え付けが義務付けられた必要書類とは?
会社には備え付けが義務付けられている書類があります。
下記のような書類が会社になかった、ということだけで法令違反となり、是正対象になってしまうので十分な注意が必要です。
・労働者名簿
・労働条件通知書
・就業規則
・タイムカード・出勤簿
・時間外・休日労働に関する協定書(いわゆる36(サブロク)協定)
・賃金台帳(36協定のために1年分)
・変形労働時間制などに関する協定書等
・定期健康診断個人票
・安全衛生委員会の議事録
資料の改ざんは絶対NG
労働基準監督署の調査を受け、上記必要書類を準備している間に違反事項に気付く、ということも無きにしもあらずでしょう。そのような場合でも、書類の改ざんは決して行ってはいけません。
資料の改ざんを行った場合、悪質なケースとみなされ、是正勧告では済まないからです。
より重い違反であるとして、検察庁に書類送検されてしまうことにもなりかねません。
再訪をお願いできる場合もある
いずれにせよ、健全な経営のもと、確実に備える必要があります。
ただし、労務担当者や責任者がいないなどの状況で、よく分からないまま対応するのは避けましょう。担当者不在の事情を説明すれば再訪に応じてもらえることもあります。
再三ではありますが、法令遵守し健全な労働環境を保つことが大前提です。
それを理解した上で、違法またはそれに近しい状態であるならば、改善すべきですし、労基署の調査の結果、「是正勧告書」または「指導票」を交付されてしまったならば、是正に努めるべきでしょう。
誤魔化すことなく真摯に受け止め、健全な経営を心がけましょう。