2020年6月1日「パワハラ防止措置」義務化へ。人事労務担当者が取り組むべき対策とは
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こんにちは。弁護士法人ALG&Associatesの弁護士の長田弘樹です。
2020年6月1日から、通称「パワハラ防止法」と呼ばれる、改正版の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(改正労働施策総合推進法)」が施行されます。
それに伴い、パワハラに対して、雇用管理上の措置義務が事業主に課せられるようになります(中小企業主については、2022年3月31日までは努力義務)。
今回は、パワハラ防止法の概要を説明するとともに、パワハラの定義と類型、企業の人事労務担当者が取るべき対策について紹介します。
パワハラ防止法の改正によって何が変わるのか?
パワハラ防止法の改正によって、事業主に対してはパワハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられました。
これに伴い、パワハラに関する紛争が生じた場合、調停等の個別紛争解決援助の申出を行えるようになります。
事業主がパワハラ防止のために雇用管理上必要な措置を怠った場合には、厚生労働大臣がパワハラ防止措置の実施状況について指導または勧告することができ、かつ、これに従わなかった場合、その旨が公表されることがあります(改正労働施策総合推進法第33条1、2項)。
また、厚生労働大臣は、パワハラ防止措置の実施状況について事業主に対して報告を求めることができ(同法第36条1項)、事業主がその報告をせず、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料が課される可能性があります(同法第41条)。
したがって、企業の人事労務担当者としては、今回の改正法を踏まえて十分な措置を講じる必要があります。
パワハラの定義と6つの類型
まず、いかなる行為がパワハラに当たるのでしょうか。
パワハラ防止法が対象とするパワハラとは、以下の3つの要素をすべて満たすものであると定義されています。
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
対象となる行為がパワハラに当たるかは、これら1〜3の要素に当てはまるか否かを個別的に判断されることになりますが、ここでは代表的な6類型をあげます。
類型1.身体的な攻撃
殴打したり、物をぶつけること等といった暴行行為など
類型2.精神的な攻撃
人格を否定するような言動、長時間に渡る厳しい叱責等といった脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言など
類型3.人間関係からの切り離し
仕事を外し、別室への長時間の隔離等の隔離行為・仲間外し・無視など
類型4.過大な要求
業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせるといった業務上不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害など
類型5:過小な要求
管理職に対して、誰でも遂行可能な業務を行わせること等といった能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことなど
類型6.個の侵害
職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする等、私的なことに過度に立ち入ることなど
上記に当てはまるような行動がパワハラに値します。ぜひとも理解しておきましょう。
パワハラ防止措置における人事労務担当者の対応
次に、人事労務担当者が行うべき事業主としての対応をご紹介します。
大きくは以下の4点の対応が必要です。
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
- 相談者・行為者等へのプライバシー保護と相談者への不利益取扱いの禁止
それぞれを簡単にご説明します。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
就業規則や社内報、パンフレット、社内ホームページ等や研修、講習等において、パワハラの定義、内容およびその発生の原因や背景並びに職場におけるパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する義務があります。
また、パワハラを行った者に対して厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発しなければなりません。
(2) 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
パワハラ相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、従業員に周知しなくてはなりません。なお、窓口については、外部機関への委託も可能です。
パワハラの相談に対し、相談担当窓口は、その内容や状況に応じて適切に対応する必要があります。これは、現実的にパワハラが起きている場合だけではなく、パワハラが生じるおそれがある場合や境界事例の場合にも、広く相談に応じ、適切に対応すべきです。
(3) 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
事前の対応だけではなく、パワハラが起こってしまった後の事後対応も適切に行わなければなりません。
まず、パワハラに係る相談の申出があった場合には、相談者に配慮しながら、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。また、相談者及び行為者の言い分が食い違う等、事実確認が困難な場合には、調停や第三者機関を用いることもできます。
事実関係を確認しパワハラが実際に行われたことが確認できた場合は、速やかに被害者に十分配慮した措置をとらなければなりません。具体的には、行為者に謝罪させるなど当事者の関係改善をサポートしたり、行為者と被害者の距離を置くなどが考えられます。
それにあわせて、就業規則で定められたパワハラに関する規定に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講じます。
さらに、改めて職場におけるパワハラ防止に向けた方針を周知・啓発し、再発防止措置を講じる必要があります。
(4)相談者・行為者等へのプライバシー保護と不利益取り扱いの禁止
相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応することや、相談窓口の担当者に必要な研修を行う等の措置を講じる必要があります。
あわせて、相談窓口担当者に研修を受講してもらう、社内報等で周知・啓発することなどが考えられます。
また、就業規則・社内報等において、パワハラの相談等を理由として、相談者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、周知・啓発をすることも必要です。
おわりに
以上のように、事業主には各種のパワハラ防止措置が義務付けられており、事業主にとって適切な制度設計は急務となります。
現代のコンプライアンス重視の風潮や、SNS等による個人の発信力を考えれば、パワハラを軽視することは、企業にとって想定をはるかに超えたインパクトをもたらす可能性があります。一度のパワハラが、従業員の離職や株主からの信頼低下などを引き起こすトリガーになりかねません。
これを機に、従業員と会社を守るために、しっかりとパワハラ防止措置の体制整備に取り掛かりましょう。