健康保険証廃止の影響は?マイナ保険証切り替えで求められる企業の対応
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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。
2024年12月2日に従来の健康保険証の新規発行が停止され、マイナンバーカードで保険証を利用する仕組みに移行されます。移行直前の今、企業の人事・労務担当者が確認しておきたいことを解説いたします。
「マイナ保険証」とは?
マイナ保険証とは、マイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組みのことで、2021年10月からスタートしています。
いよいよマイナ保険証へ切り替わる移行期間となりますが、スケジュールは下記のとおりです。これまでの保険証は2024年12月2日以降新たに発行されず、発行済みの保険証の有効期限は最長2025年12月1日までとなります。
▼保険証からマイナ保険証への移行スケジュール
デジタル庁のデータによると、2024年9月末時点でのマイナンバー保有率は国民の75.2%、そのうち保険証利用登録が81.2%という状況です。また、厚生労働省の資料より、2024年9月のマイナ保険証の利用率は13.87%と低水準であり、マイナ保険証への移行を懸念する声もあります。
マイナ保険証のメリット・デメリット
マイナ保険証に移行すると、医療分野のデジタル化が進みます。考えられるメリット・デメリットは以下のとおりです。
従業員のメリット
従業員がマイナ保険証を利用することで、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。
(1)就職・転職・引越しをしても健康保険証として継続して使える
就職・転職・引越しなどで健康保険の資格を取得・喪失しても、そのままマイナ保険証が使えます。被保険者資格の登録状況の確認は、マイナポータルの「申込状況を確認」から確認できます。
(2)特定健診情報や診療・薬剤情報・医療費がチェック可能に
医療機関・薬局を変更しても、本人が同意すれば、マイナポータルで診療、薬剤情報、医療費、特定検診情報など過去の情報が閲覧できます。医療情報を用紙に記入したり、口頭で説明したりする必要もなくなり、正確な情報が伝わることで適切な医療を受けられます。
(3)確定申告の医療費控除が簡単に
2021年分の確定申告の医療費控除手続きで、2021年9月分以降から医療費通知情報の自動入力が可能となりました。マイナポータルからe-Taxに連携することで、確定申告が簡単になります。
(4)窓口への書類の持参が不要
限度額以上の医療費の一時的な自己負担や、限度額適用認定証、高額療養費の手続きが不要になります。
(5)窓口負担が割引に
2022年10月から、マイナ保険証の方が現行の保険証よりも患者の窓口負担が少し割引になる優遇策が始まっています。
人事・労務担当者のメリット
健康保険資格取得など、手続きを実施している人事・労務担当者にとっても、いくつかのメリットが生まれそうです。
(1)入退社時などの工数削減
入社時に、人事・労務担当者が健康保険資格の取得手続きを実施し、日本年金機構に「資格取得届」等が到着してから約3~5営業日で、協会けんぽにおいて登録が完了し、情報が反映されれば、従業員はすぐにマイナ保険証を利用できます。
担当者は手続き完了したことを従業員に通知すればよいだけで、保険証を各従業員へ送る手間もありません。これまで、資格取得後から健康保険証が届くまでに医療機関を利用したいときには、健康保険被保険者資格証明書の交付手続きを実施していましたが、今後は必要ありません。
また、退社時は健康保険証の回収、紛失などへの対応や、限度額適用認定証の交付、高額療養費の手続きも必要ありません。これらの手続きや従業員への案内がなくなるため、担当者の工数が削減され、業務を効率化できます。
(2)対象者に健康保険証を渡すタイムラグ減少
現状、保険者から郵送された保険証が事業所に到着するまで、事業所に到着した健康保険証を本人に渡すまでタイムラグが発生します。マイナ保険証ではこのタイムラグもありません。郵送にかかるコストも削減できます。
このようにマイナ保険証への切り替えで工数やコスト削減も期待できます。これを機に、人事・労務領域のさらなる工数削減に取り組んでみてはいかがでしょうか?
ヒントを以下の資料にまとめましたので、ぜひご活用ください。
従業員のデメリット
従業員にとってメリットも多いマイナ保険証ですが、デメリットもあるようです。
(1)受診時には毎回提示が必要
健康保険証は多くの医療機関、薬局で毎月初回の診療時にのみ提示が必要でした。しかし、マイナ保険証は特定健診等情報や診療・薬剤情報、薬剤情報の閲覧のため、受診の際に同意をする必要があり、通院時に毎回提示しなければなりません。ただ、マイナ保険証は顔認証や暗証番号で本人確認できることから、従来の健康保険証紛失に伴う悪用などのリスクが回避できます。
(2)マイナンバーカード紛失時
マイナンバーカード紛失時には、機能停止の手続きや警察に遺失届・盗難届を出します。現在、マイナンバーカードの再発行には1〜2か月かかりますが、政府は今後、マイナ保険証の再発行は最短5日程度に短縮する予定としています。
(3)一部の医療機関でマイナ保険証が利用できないことも
2023年4月から医療機関などに必要なシステム導入が原則義務化されており、 今では多くの医療機関でマイナ保険証が利用できる状況です。しかし、カードリーダーがない医療機関や故障中などでカードリーダーが使えない場合は、マイナ保険証と事業所経由で届いた「資格情報のお知らせ」などを提示したり、従来の保険証を利用したりすることで受診できます。
人事・労務担当者のデメリット
工数削減など、人事・労務担当者にとってメリットのあるマイナ保険証ですが、デメリットもあるようです。
(1)導入時の対応が必要
マイナ保険証について最新の情報を入手し、入退社時や被扶養者(異動)届などの手続きフローの見直しを含め、自社に合った対応が必要です。
(2)従業員のマイナンバーカードの取得・利活用を促進させるのが大変
マイナンバーカードが普及しない理由の1つとして、個人情報の漏えいを懸念する声があります。しかし政府は、「マイナンバーカードは写真付きなので、対面での悪用はできない」としています。また、マイナンバーだけでは個人情報を取得できない仕様になっており、芋づる式に個人情報が漏えいすることはないと発表しています。
とはいえ、企業が従業員に情報を伝え、マイナンバーカード取得やマイナ保険証の申し込みを促すのは労力がかかると予想されます。
健康保険証廃止(マイナ保険証統一)による主な変更点
手続きの様式や記載の変更、保険証の郵送などが不要となることで、人事・労務担当者の業務フローが変化します。
(1)内定者への連絡
入社前に内定者や被扶養者となる家族がマイナ保険証を持っているか、資格確認書の発行が必要かなどの情報収集が必要です。
マイナ保険証を持っていない場合、資格確認書が発行されることをお知らせしましょう。なお、資格確認書には有効期限(5年以内で保険者が設定)があるため、資格取得後であってもマイナ保険証を申請・登録するように案内が必要です。
(2)資格確認書の管理
被保険者や被扶養者がマイナ保険証を取得したときなど、人事・労務担当者は資格確認書を回収し、保険者に返却します。また、有効期限が終了し資格確認書を更新するときなど、新しい資格確認書を送るなどの管理が必要になります。なお、有効期限が終了した後は被保険者自身で資格確認書を廃棄しても構いません。
(3)被保険者資格の確認
資格取得後に手続きが完了しているか、被保険者自身がマイナポータルで資格情報を確認できます。
(4)社会保険の手続き
2024年12月2日以降の「被保険者資格取得届」「被扶養者(異動)届」には、資格確認書発行要否の欄が新たに設けられますので、手続き時に新しい様式であるか確認してください。
(5)限度額適用認定証不要の周知
従業員が入院などを予定している場合、マイナ保険証があれば、限度額適用認定証が不要であること、自己負担限度額を超える医療費の立替払いなく窓口負担が軽減されることも周知しましょう。
加入している健保ごとに異なる留意点
加入している健保ごとにマイナ保険証移行の対応が異なりますので、健保からのお知らせを確認しましょう。たとえば、資格確認書は、協会けんぽにおいては健康保険証と同じプラスチックの黄色いカードですが、健保によっては紙で発行されるなど対応はまちまちです。
また、保険証の有効期限を設定している健保については、現在の保険証が有効期限までとなりますので、注意が必要です。
企業・担当者に求められる対応
マイナ保険証への移行にあたり、人事・労務担当者・企業の皆さまには以下の対応が求められています。
(1)従業員へ「資格情報のお知らせ」を配付
2024年9月ごろから事業所に加入者情報が届いていると思います。個人ごとの封筒に入っていますので各被保険者に配付してください。被保険者自身が資格情報とマイナンバーの紐づけがされているか確認できます。マイナンバーが登録されていない場合は、同封の申出書を提出しましょう。
左下の「資格情報のお知らせ」は点線で切り取って、被保険者が大切に保管しておくように伝えます(カードリーダーが使えない場合などの際に提示が必要です)。
(2)資格証明書、従来の健康保険証などの管理
移行期間が終わるまで、場合によってはその後も従業員ごとに健康保険証に関する対応が異なることもあり、管理が煩雑になることが予想されます。
発行済みの健康保険証も2025年12月1日までに退職等で使用できなくなったときは、資格喪失届の手続き時に保険者に返却する必要があります。マイナ保険証があるからといって、従業員が自分の判断で破棄しないように案内しておきましょう。なお、2025年12月2日以降は健康保険証としての利用が終了し、有効期限後は自身で破棄できます。
(3)あらためてマイナ保険証利用の促進
マイナ保険証への移行後、マイナ保険証を持っていない被保険者等に対し、あらためてマイナ保険証利用について案内しておきましょう。厚生労働省では以下の3つのステップを案内しています。
STEP1:マイナンバーカードを申請・作成する
マイナンバーカードを持っていない方については、まず、マイナンバーカードを取得する必要があります。申請にはオンライン申請、郵送での申請、証明写真機からの申請の3つの方法があります。
詳しくは、マイナンバーカード総合サイトの「マイナンバーカードを申請する」から確認してください。
マイナンバーカードの交付申請から市区町村が交付通知書を発送するまで、おおむね1か月かかります。通知書が届いたら、市区町村窓口にマイナンバーカードを受け取りに行く必要がありますので、早めの申請をお勧めします。
STEP2:マイナンバーカードの健康保険証利用を申請・登録する
マイナンバーカードをマイナ保険証として利用するには、事前の申し込みが必要です。スマートフォン、パソコンなどでマイナポータルからのオンライン申し込みや、セブン銀行ATMや一部の病院・薬局などでも申し込めます。登録の際には、マイナンバーカードとマイナンバーカード受け取り時に設定した数字4桁の暗証番号を準備します。
マイナンバーカードの健康保険証利用についての詳細は、マイナポータルの「マイナンバーカードの健康保険証利用」から確認してください。
STEP3:マイナ保険証を医療機関・薬局で利用する
実際に医療機関や薬局でマイナ保険証を利用するときは、マイナンバーカードをカードリーダーに置き、顔認証や暗証番号で本人確認のうえ、過去の診療やお薬、特定検診の情報等の提供に同意します。
最後に
マイナ保険証への移行は手間もかかり大変ですが、企業や従業員の皆さんにもメリットがあることから、従業員の皆さんへ利用促進を進めていただきたいと思います。