現場を顧みない「いきなり時短」の強要は「ジタハラ」に繋がりかねない
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政府主導で働き方改革が動き始めているところですが、その影響により新たなハラスメントが生まれようとしています。
それは「ジタハラ」です。ジタハラとは「時短ハラスメント」の略で、相手の状況を考えずに無理な労働時間の削減を強要することです。
「働き方改革実行計画」の中では、
<「働き方」は「暮らし方」そのものであり、働き方改革は、日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革である。>
と記載されており、長時間労働を是正していくことが課題の1つとして挙げられています(*1)。
ですが、これを鵜呑みにして、ただ単に労働時間を削減するだけでは、「ジタハラ」に繋がりかねず、注意が必要です。
そこで今回は、「ジタハラと労働時間の削減」について考えてみたいと思います。
現場を顧みない「時短の強要」は不満を招く
現在は残業時間の規制に違反すると、今までよりも厳しく罰則が課される予定であり、企業も必然的に残業を制限しなければならなくなってきます。
既にコンプライアンスを重視する大企業では、この動きは始まっており、労働時間短縮の一環で「残業時間の削減」を行っています。
ありがちなケースとしては、管理職が部下の残業時間の管理を強いられ、残業が多い部下には「残業するな。早く仕事を終わらせて帰れ!」と強制的に帰らせることでしょう。中には、20時までにオフィスの電気を完全に消すといったこともあるかも知れません。
「早く帰れ」ということ自体は悪いことではありません。無駄な付き合い残業よりよっぽど良いことです。
しかし、早く帰ったとしても仕事が終わっていなくて結果的に業務が滞るのであれば、本末転倒ですよね。
成果目標を減らさずに、いきなり早く帰らせようとしても両立は難しい
例えば製造業の会社で「これまで1日あたり100個製造していたのを、今後は1日あたり80個にするので、残業せずに定時で帰るように」という指示は実現可能だと思います。
しかし、多くの会社では現状の成果目標を減らすことなく、いきなり早く帰らせようとしているわけですから、社員の能力が急激にアップしない限り難しいのは、どなたでも分かると思います。
1人で2人前の仕事を任され、今でさえもギリギリの状態でやっている人に、何の改善も手助けもないのに「早く帰れ!」「残業するな!」と強要するのは、嫌がらせやイジメと受け取られても仕方がないでしょう。
「早く帰れというなら、この仕事をあんたも手伝うか、誰かにやらせろよ!」というのが現場の心の叫びだと思います。
フロー化されている作業的な仕事について時間削減をするには、業務の効率化など「無駄なことをしない」という視点で取り組めば、時間を減らしていけるとは思いますが、クリエイティブな仕事の場合は難しいという点もありますので、注意が必要です。
「いきなり時短」ではなく、現場の実情を理解し建設的な改善を
話を少し変えて「いきなり!ステーキ」という飲食店についてお話ししたいと思います。
東証二部に上場した株式会社ペッパーフードサービスは、従来の「ペッパーランチ」という業態に加えて、「いきなり!ステーキ」という新たな業態を開発して広げていきました。
「いきなり!ステーキ」のこだわりは、「ステーキはいきなり食べるとお肉の旨さがひきたちます。」ということです。
以前は、前菜などの順番を踏んでからメインのステーキを食べるという食事スタイルでしたが、ここから前菜などを抜きにして、いきなりステーキを食べるのが良いという新たな価値観を推奨し、多くの人に受け入れられ、短期間で店舗数を拡大していきました。
「入店するなり、いきなりステーキを食べられたらどんなに幸せか」という、潜在的な顧客ニーズを刺激することに成功したのでしょう。
一方、会社の「労働時間削減」に関しては「いきなり時短」では、なかなか上手くいかないでしょう。
社長や管理部門が、現場の実情も知らずに「時短しろ」と言えば言うほど社員は反発しかねないですし、物事は前に進みません。「ジタハラ」と言われたとしても、無理もないでしょう。例えとして挙げた「いきなり!ステーキ」の成功のように、しっかりと実情を把握した上で進めることが重要です。
ですので、労働時間の削減については、各部門ごとに業務の効率化や業務の見直しなどを行いながら、少しずつ改善していくことが、結果的に会社にとっても社員にとっても良い方向に変わっていくことでしょう。
急いては事を仕損じるのです。
【参照】
*1:働き方改革実行計画 – 働き方改革実現会議決定