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社労士が解説!HRニュース2022年9月振り返りと2022年10月のポイント

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秋も深まってきましたね。10月は算定基礎届による標準報酬月額の改訂を給与計算に反映させたり、年末調整の準備を本格的に開始したりなど、人事・労務担当者も段々と忙しくなる時期です。

今年の10月は、育児介護休業法などの法改正対応もあり、例年以上に忙しくなりそうです。

2022年9月のトピックの振り返り

(1)最低賃金アップ対応

先月のHRニュースでお伝えしましたとおり、10月1日(一部の都道府県は10月上旬)から、最低賃金がアップします。今年の最低賃金の引き上げは、全国平均で+31円と、過去最大の引き上げ幅になります。自社の従業員で、アップ後の最低賃金に満たない方がいないかの確認および、該当者がいた場合の昇給対応は完了しておりますでしょうか?

最低賃金に達しているかの判定基準は、時給者は時給そのものですが、月給者の場合は、月給を時給換算して確認します。先月のニュースレターでも述べましたが、この時の「月給」からは、通勤手当や割増賃金などは除外されますのでご注意ください。

また、派遣社員の場合は「派遣先」の都道府県の最低賃金が適用されますので、この点も把握しておいてください。

(2)雇用調整助成金の縮小

コロナ特例の雇用調整助成金に関し政府は、10月以降もコロナ特例を継続するものの、助成額を縮小することを8月31日に発表しました。

具体的には、1人あたりの日額上限が、原則的な特例措置の上限が9,000円であったところを8,355円へ引き下げ、地域特例や業況特例に該当する場合の上限が1万5,000円であったところを1万2,000円に引き下げとなります。

一方で、在籍型出向により労働者の雇用を維持する際に、出向元および出向先の事業主を支援する「産業雇用安定助成金」は、支給対象期間を1年から2年へ延長、1企業あたりの対象労働者の上限を撤廃、出向から復帰した労働者の職業訓練に対する助成制度の新設など、10月からの拡充が発表されています。

国全体のコロナ対策としても、自粛を重視する形から、Withコロナを前提に経済活動を促す形に変化してきていますが、雇用の分野に関しても、単なる休業に対しては助成金を縮小し、労働力の移動に貢献した事業主に対しては助成金を手厚くする方向にシフトするスタンスが鮮明になったと思います。

(3)有給休暇5日未取得で書類送検

2019年4月から、労働基準法の改正により、年次有給休暇を10日以上付与された労働者に対し、5日分の有給休暇の取得が義務化されています。

「本当に5日取得させないと罰則の適用を受けるのですか?」という質問を受けることもしばしばあるのですが、年次有給休暇を従業員に5日取得させなかったことに対し、書類送検をされた事件が発生しましたので、この機会に共有します。

福岡・久留米労働基準監督署(古賀薫署長)は、労働基準監督官に対し虚偽の陳述を行ったとして、昭和建設(株)(同県久留米市)と同社の担当課長を労働基準法101条(報告等)違反の疑いで福岡地検久留米支部に書類送検した。同社は年間5日間の年次有給休暇を取得できていない労働者が複数人いるにもかかわらず、「全員取得できている」と虚偽の内容を記載した有給休暇管理簿を提出し、記載内容に基づいて虚偽の陳述を行った疑い。

本件は、実際には年次有給休暇を取得させていなかったにもかかわらず、取得させたかのように虚偽の陳述をしたことが悪質であると判断され、書類送検に至った案件ですが、年次有給休暇を5日取得させなかったこと自体に対しても、下記のように書類送検に至った事件が存在します。

愛知・津島労働基準監督署は、労働者6人に対して年次有給休暇取得の時季指定を怠ったとして、給食管理業の栄屋食品(株)(愛知県あま市)と各事業場の責任者である店長3人を、労働基準法第39条(年次有給休暇)違反の疑いで名古屋区検に書類送検した。平成31年4月以降、年5日の年休取得が義務化されたにもかかわらず、複数の労働者から取得できないとの相談が寄せられていた。

年次有給休暇の取得に関しては、「労働者の権利であるが、会社が取得させるものではない(むしろ取得を控えてくれることがありがたい)」というのが、日本の長年の労働文化でしたが、法改正による義務化以降は、労働基準監督署も、年次有給休暇を正しく取得させていない企業に対し、厳しい姿勢を見せています。自社の従業員の年次有給休暇の取得状況について、今一度ご確認ください。

(4)10月1日付法改正対応

本記事のバックナンバーでも触れてきましたが、10月1日から人事・労務分野で大きな法改正が複数あります。

1つは、「週20時間以上勤務者の社会保険加入」の従業員数100名超の企業への適用拡大です。もう1つは、育児介護休業法の改正で、出生時育児休業(産後パパ育休)や育児休業の2分割取得などが可能になることです。

前者に対しては、適用対象者への案内や、日本年金機構への届出が必要となります。後者に対しては、育児介護休業規程の改訂や労働基準監督署への届出、社内への新制度の周知などが必要となります。

まだ対応がお済みでない企業は、漏れのないように対応をお願いします。

2022年10月のトピック

(1)算定基礎届による標準報酬月額の変更

7月に届出を行った算定基礎届に対する決定通知書は、すでにお手元に届いているかと思います。

算定基礎届による社会保険料の標準報酬月額の変更は、9月分(=10月に支払日がある給与からの控除分)から適用されます。

給与計算ソフトに、新しい標準報酬月額を忘れずに登録し、マスタをアップデートしてください。クラウド型の給与計算ソフトを利用している場合であっても、社保料率の変更とは異なり、標準報酬月額の変更は自動反映されませんので、手動でマスタの変更が必要になります。

また、昨今の副業解禁の動きのなか、2つ以上の事業所で社会保険に加入している方も増えていますが、2つ以上の勤務者の標準報酬決定通知書は、通常勤務の方とは別口で郵送により届きます。そして、保険料の額も特殊な按分計算となり、給与計算ソフトでは、手動で登録や修正が必要になりますので、該当者がいる場合、ご注意ください。

(2)年末調整の準備

早いもので、今年もそろそろ年末調整の準備をはじめる時期になりました。

早ければ10月中旬から、従業員が加入している生命保険や地震保険の保険料控除証明書が届き始めます。その前に、これらの書類が年末調整に必要なものであり、紛失しないよう気をつけて、各種申告書に添付して会社に提出してもらうことになる旨の案内をすることが望ましいです。

年の途中での転職者の方については、前職の源泉徴収票の入手が遅れて年末調整が滞ることが実務上は少なくありません。まだ前職から源泉徴収票を受け取っていない場合には、早めに前職の会社に依頼をするよう人事・労務担当者から声掛けをしましょう。

システム的な観点からの前段取りとしては、今年から人事・労務ソフトを導入し、年末調整をクラウド化する場合には、早めに従業員説明会の開催や説明資料の配布などを行っておきたいものです。

また、給与計算ソフトを年の途中で入れ替えた企業は、今年の1月以降の給与明細のインポートはすでにお済みでしょうか? 1年分の給与明細が給与計算ソフトに登録されていなければ年末調整はできません。給与明細のインポートと年末調整の申告書回収や計算を同時に実施するのは工数的に難しいと思いますので、給与明細のインポートは、是非とも10月中に済ませていただければと思います。

(3)iDeCo(個人型確定拠出年金)への加入要件の緩和

従来、企業型DC(企業型確定年金)に加入している方については、一部の例外を除き、原則としてiDeCoへ加入することができませんでした。

10月1日から、以下3つの要件を満たす場合、企業型確定拠出年金の加入者であっても、iDeCoへも加入できるようになります。

  • (1)掛金(企業型DCの事業主掛金・iDeCo)が、ともに各月拠出であること
  • (2)企業型DCの事業主掛金との合算が基準金額以内であること
    • ※企業型DC+iDeCoで、合計5万5,000円以内(ただし、確定給付型企業年金が別途存在する場合は、合計2万7,500円以内)
  • (3)企業型DCでマッチング拠出をしていないこと

今回の制度変更においては、企業型DCに加入しているものの、事業主側の掛金が少なく、マッチング拠出をしても基準金額の上限に達しないので、さらに掛金を拠出したいと思っていた方が、iDeCoに追加加入することによって、上限に達するまでの掛金を拠出できるようになります。この点が、制度変更によるもっとも大きなメリットといえるでしょう。

確定拠出年金の仕組みは複雑ですので、企業型DCを導入している企業の人事・労務担当者の方は、新ルールの内容をしっかり理解し、従業員の方から質問があった場合に、対応できるようにしておいてください。

人事・労務ホットな小話

有給休暇5日未取得で書類送検のトピックに関連して、今回はネガティブな話題になってしまい恐縮ですが、この機会に、人事・労務担当者の方にぜひ知っておいていただきたいことがあります。

それは、年次有給休暇に限らず、労働基準監督官に虚偽陳述するだけでも書類送検などの刑事罰の対象になるということです。

そして、労基法違反や虚偽陳述があったとき、事業主だけでなく、よほどのことがなければ責任者クラスに限られるものの、人事・労務担当者も書類送検などの刑事処分の対象になるということです。

ですから、人事・労務担当者の皆さまは、決してあってはならないことですが、万一、事業主や上司から虚偽陳述や労基法違反を命じられた際、毅然として断る勇気を持っていただきたいということです。

自分自身が事業主に連帯して刑事責任を問われかねないことはもちろん、組織として誤った方向に進むことを止めるのも人事・労務担当者の使命であると思います。

内部通報などにより社内で自浄作用を働かせることが第一ですが、それが難しい場合は、労働基準監督署や弁護士など外部の力を借りることも視野に入れましょう。

まとめ

足元の最低賃金アップや法改正対応を進めながら、年末調整など、年末に向けての準備も並行して進めていく時期ですので、人事・労務担当者の皆さまも段々と忙しくなってくるのではないかと思います。

しっかりと段取りを整え、オーバーワークにならないよう、スムーズに業務を回していきたいですね。

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