社労士が解説!HRニュース2022年4月振り返りと2022年5月のポイント(新入社員の受け入れ時の注意点や5月病対策、年度更新の準備など)
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4月は新入社員を迎え入れたり、事業年度が改まったりと、忙しい中にも、気持ちを新たに業務に取り組んでいらっしゃる人事労務担当者の方も多いと思います。
4月は節目の月ですので、取りこぼしがないように振り返りつつ、併せて、GW明けを見据えて、5月に取り組んでいくべきことをご紹介したいと思います。
2022年4月のトピックの振り返り
(1)新入社員の受け入れ
4月1日付で入社した新入社員の受け入れに関する事務等は、漏れなく完了しておりますでしょうか? 特に留意したいのは次の3点です。
1)労働条件の明示
新卒者の場合は、労務慣行上、内定通知書だけでそのまま入社になってしまう場合もありますが、労働条件通知書や就業規則により、労働基準法で定められた主要な労働条件を書面(電子的方法を含む)で明示しましょう。なお労働条件通知書は、当該労働条件に労使が合意したエビデンスとして、「労働条件通知書兼雇用契約書」という形で労使が署名や押印を取り交わしておくことが望ましいです。
労働条件通知書と雇用契約書の関係については、こちらの記事もご覧ください。
2)社会保険・雇用保険の加入
新入社員の皆さんの社会保険・雇用保険の資格取得手続はすでに完了していますでしょうか? 差し当たっては、保険証を確実に本人の手元に届けることが重要です。保険証は原則として会社宛に郵送されて届きます。テレワークを実施中の会社の場合は、人事労務担当者が出社して保険証を受け取り、本人の自宅へ転送するという、ワンクッション置いた対応になりますので、対応漏れがないように、特に留意をしたいものです。
なお、保険証が手元に届く前に病院にかかってしまい、10割負担をした場合であっても、事後的に保険者に申請することにより、7割分の医療費の還付を受けることができますのでご安心ください。
3)扶養控除等(異動)申告書の回収
給与計算を正しく行うためには、扶養控除等(異動)申告書を新入社員の方から回収する必要があります。
年末調整の際に受け取れば良いという考え方もあるかもしれませんが、扶養控除等(異動)申告書の提出を受けていない場合、毎月の給与計算における源泉所得税を月額表の「乙欄」で控除しなければなりません。最終的には年末調整で還付されるとはいえ、従業員に不必要な負担をさせてしまいます。
確かに、法的には扶養控除等(異動)申告書を提出するかしないかは、本人の自己責任ではありますが、新卒者の場合は特に、会社側から案内をしてあげるのが実務上は親切です。
なお、実務上は扶養控除等申告書を受け取らないまま、「甲欄」で源泉所得税を控除している会社もあると思いますが、法的に正しい処置ではありませんのでご注意ください。
(2)キャリアアップ助成金の支給要件厳格化
キャリアアップ助成金はいくつかのコースに分かれていますが、その中でも飛び抜けて申請件数が多いのは「正社員化コース」です。「正社員化コース」は、6か月以上雇用した有期契約社員やパート社員を正社員に転換した場合、1人あたり57万円(生産性要件を満たす場合は72万円)が支給される制度です。
2022年度のキャリアアップ助成金の詳細を説明するパンフレットが3月31日に厚生労働省より公開されましたが、10月1日以降に正社員転換する場合、支給要件が大幅に厳格化されます。
この点、2022年9月30日までは、正社員に転換をして、転換前6か月と転換後6か月を比較して3%以上昇給していれば、他の要件を満たす限り、基本的には支給決定されていました。
ところが、2022年10月1日以降は、転換後に実態として正社員に相応しい労働条件が適用されていることが助成金の支給要件になります。具体的には、「定期賞与または退職金の制度が適用されていること」「定期昇給制度が適用されていること」「正社員転換前と正社員転換後で適用される人事制度(=賃金の額または計算方法)が異なること」が追加要件として必要になりました。
上記のような人事制度がすでに導入済であったり、無理なく導入できるなら良いのですが、もともと定期賞与や定期昇給を予定していなかった会社が、専ら助成金のために無理をして社内制度を歪めるのは望ましいことではないと思っています。一時的に助成金で潤ったとしても、長期的には弊害のほうが大きくなってしまう恐れがあるからです。
10月1日以降もキャリアアップ助成金を利用するかどうかを慎重に検討し、利用継続する場合は、早めに新要件に合った就業規則などを早めに整備しておきたいものです。
2022年5月のトピック
(1)5月病対応
4月入社の新入社員にとって、4月は新しい環境や人間関係に慣れることが大変です。まして新卒者は、初めての社会人生活なので、ストレスをためてしまっている人も少なくありません。
GWでリフレッシュして、連休明けからまた仕事に取り組んでくれれば良いのですが、中には出社が困難になったり、退職を希望する人が出てくる場合があります。
万一、自社の新入社員にそのような5月病の兆候が見られた場合、人事労務担当者は面談を設定して本人からよく話を聞いたり、直属の上長と連携して本人に無理のない働き方をしてもうらうか、いったん休職して心身を休めてもらうかなどの方向性を決めたり、迅速な対応が必要となります。
昨今は、新入社員だけではなく、勤続年数に関わらず5月病になる人は増えているので、人事労務担当者は、この時期、従業員のメンタルには特に気をつけておきたいものです。
(2)年度更新の準備
毎年6月1日から7月10日までの間に、各会社は労働保険の年度更新を行う必要があります。
労災保険と雇用保険を総称して「労働保険」といいますが、年度更新とは、1年間の賃金支払い実績に基づいて、前年度の労働保険料の過不足精算と、当年度の労働保険料を概算で予納する一連の手続を指します。
年度更新には2021年4月~2022年3月の勤務に対して支払われた賃金を集計する必要がありますので、給与データが一元管理されていなかったり、年の途中で給与計算ソフトを変更した会社様は、早めに集計のための給与データ整理をしておくことが望ましいでしょう。
なお、5月中旬~下旬を目途に、労働局から年度更新に必要な書類が入った封筒が届きます。紙で申請する場合はこちらを利用することはもちろんですが、電子申請の場合も、封筒内の用紙に記載されているアクセスコードを利用することで申請の手間を簡略化できるので、封筒を紛失や破棄しないよう気を付けて下さい。
なお、今年は年の途中(10月~)で雇用保険料率が変更になる関係で、2022年度分の概算保険料の計算が複雑になっていますので(4月~9月分と10月~3月分に分けて計算の上、合算する)、この点もご留意ください。
(3)障害者雇用納付金の申告・納付
事業主には、障害者雇用促進法で、障害者の法定雇用率(令和4年現在、民間企業は2.3%)が定められ、法定雇用率を満たす障害者数の雇用が求められています。
この法定雇用率を達成できなかった場合は、刑事罰までは定められていませんが、行政指導の対象になったり、常時雇用する従業員数が100名以上の企業の場合は、障害者雇用納付金という金銭の納付義務が生じます。
この障害者雇用納付金の申告と納付は、毎年4月1日~5月15日までの間に行わなければなりません。
具体的な申告や納付の方法については、本件に関する窓口を担当している、不独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の下記コンテンツをご参照ください。
(参考)障害者雇用納付金の申告・納付、障害者雇用調整金・報奨金・特例給付金等の申請手続き – 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用納付金の申告書類では、月別の常用雇用労働者数や障碍者雇用人数の集計が必要となり、かなりの工数を要しますので、まだ未着手の会社様は、早めの対応をお願いします。
なお、障害者雇用納付金は、不足1名、1か月あたり50,000円ですので、1年通じて障害者雇用者数が不足している場合、50,000円×12か月=600,000円もの納付金が必要となります。
逆に、法定雇用率を上回る障害者雇用を実現している場合は、1名、1か月あたり27,000円を受け取ることができます。
また、障害者の方を雇用した場合等に支給される厚生労働省系の助成金も数多く存在しますので、ぜひ自社に合った形で、障害者の方の雇用を積極的に検討してみてください。
人事・労務ホットな小話
この時期は、人事労務担当者が新入社員の方から質問を受ける機会も多くなると思います。たとえば、下記のような質問が想定されます。
・親の扶養を抜けるためには、誰にどのように連絡すればよいでしょうか?
・厚生年金に加入したので、国民年金を抜けるための手続は何か必要になるのですか?
・学生時代のバイト先から源泉徴収票はもらっておく必要はありますか?
・会社から保険証を受け取る前に、親の保険証で病院に行ってしまったのですが、大丈夫ですか?
法的に言えば、本人が自己責任で対応すべきことかもしれません。しかし、社会人になったばかりでまだ不安もたくさんある新入社員の方に、人事労務担当者がどれだけ寄り添えるかは、今後の労使の信頼関係の醸成や、本稿でも取り上げた5月病の抑止などにもつながると思います。
まとめ
人事労務担当者の方も、年度がかわり忙しい時期だと思います。
とはいえ、現在はクラウドソフトの発展により、新入社員の入社手続はSmartHRなどで電子申請をすれば大幅に工数削減されますし、労働保険の年度更新の賃金総額も、給与計算ソフトで自動集計が可能な時代になっています。
そのような環境があれば、人事労務担当者は、作業系のタスクに追われることなく、新入社員のフォローや、法改正・助成金などの情報収集といった、より重要性の高いタスクに集中できるようになるでしょう。