社労士が解説!今月のHRニュース2021年2月編(保険料率改定、同一労働・同一賃金、36協定届の押印不要化など)
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こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。
2021年もあっという間に2ヶ月が過ぎ、3月を迎えようとしています。
3月は多くの会社で事業年度の締めくくりであり、新入社員の迎え入れの準備などもあるため、人事労務部門は慌ただしい時期なのではないでしょうか。加えて、毎年4月1日は、法改正が施行されることの多いタイミングですので、情報収集のアンテナも張っておかなければなりません。
今回は、そんな慌ただしい3月に、人事労務担当者が対応すべきことや、抑えておきたい法改正情報をまとめてお届けします。
※本稿に書かれている情報は2021年2月22日時点でのものです。最新情報については厚生労働省のWebサイトなどを参考にしてください。
2021年2月のトピックの振り返り
(1)雇用調整助成金の動向
先月の記事では、雇用調整助成金の緊急対応期間が3月まで延長されることになった旨をお伝えしました。最新情報としては、11都府県に発令していた緊急事態宣言が、栃木県を除いて3月7日まで延長されたことを受けて4月末までの再延長が決定されました。
「緊急事態宣言が全国で解除された月の翌月末」までが特例期間の延長期限とされています。現時点でのメインシナリオとしては、3月中に緊急事態宣言が解除され、5月から特例措置が段階的に縮小される見通しです。
なお、「小学校休業等対応支援金」や「標準報酬月額の特例改定」の再延長があるかどうかについては、2月22日時点では情報が出ていません。
(2)社会保険料の納付猶予特例の終了
先月の記事で、「コロナ禍による社会保険料の納付猶予特例が、2021年2月1月までに納期が到来する保険料分までで終了となる」とお伝えしました。こちらについての進捗ですが、納付猶予特例を利用した企業宛に、所轄年金事務所から「今後の納付をどのようにしていくか」についての書類が順次届いているようです。
本来であれば、一括または分割して、猶予された保険料を順次納付していかなければなりませんが、年金事務所もコロナ禍が継続していることは認識をしています。
実務上の温度感としては、納付の再猶予にも柔軟に対応してくれているようですので、年金事務所からの書類を受け取ったら、無視をせずに今後の納付予定について年金事務所へ連絡するようにしてください。
2021年3月のトピック
(1)中小企業の同一労働・同一賃金
2021年4月1日より、いよいよ中小企業にも同一労働・同一賃金が適用開始となります(大企業には2020年4月1日に適用済)。皆様の会社では対応済みでしょうか?
筆者は、「同一労働・同一賃金へ対応しなければならないのは分かっているが、具体的に何をすればいいのかがわからない」という質問をいただくことがしばしばあります。
こちらについて解説すると、以下の2つが事業主の義務となります。
1.パート社員・契約社員と正社員の間に不合理な待遇差を設けてはならないこと
2.パート社員・契約社員から求められた場合、正社員との待遇差の内容および理由を説明しなければならないこと
これらの義務に対し、まだ準備が整っていない企業は、3月中に早急に対応をしなければなりません。
上記「1.」に関しては、まずは、「昔からの慣習でパート社員には通勤手当を支払っていなかった」、「契約社員にも正社員と同じ仕事をしてもらっているが、賞与支給の対象外だった」、「正社員にしか昼食補助を与えていなかった」というように、自社内で不合理だと思われる待遇差をリストアップしてください。
何が不合理な待遇差に当たるのかについては、厚生労働省の「同一労働・同一賃金ガイドライン」を参考にし、ご判断いただければと思います。
次に、リストアップされた不合理な待遇差を、就業規則や賃金規程の改定、雇用契約書の結び直し等により解消させてください。
とはいえ、現実的には追加発生する人件費の原資の問題や、突然長年の社内ルールを変更することへの抵抗感などもあるでしょうから、4月1日時点で完全に不合理な待遇差の解消が難しい企業も少なくはないでしょう。
万が一対応が難しい場合、同一労働・同一賃金違反に対して罰則は定められておりませんので、罰金や懲役などの刑事罰を受けるリスクを懸念する必要はありません。しかし、行政指導を受けたり、民事上の損害賠償を受けたりするリスクはありますので、可能な限り早い段階で不合理な待遇差を解消すべきでしょう。
なお、「1.」の不合理な待遇差が解消されれば、それ以外の待遇差は「責任の度合いの違い」や、「キャリアプランの違い」などで説明できるはずですので、「2.」の説明義務への対応準備もおのずと整うことになります。
(2)中途採用率の公表義務化
労働施策総合推進法の改正により、2021年4月1日から従業員301人以上の大企業を対象として「中途採用比率」の公表が義務付けられます。
「中途採用比率」とは、厚生労働省の資料によると「正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合」とされています。
どの時点の数字を使うのかなどの詳細についてはこれから厚生労働省令などで具体化されていくと思いますが、いずれにせよ、対象となる事業主は中途採用比率を公表できるように準備を進めておかなければなりません。
採用情報が社内でバラバラに存在していたり、適切に管理をされていなかったりしたら、必要な数字の算出ができなかったり、算出のために膨大な手間と工数を要してしまう恐れがあります。
中途採用比率の公表を迅速に対応するためには、SmartHRなどのクラウドソフトに社員情報を一元化させ、データベースを整備しておくとよいでしょう。
(3)各種公的保険料率の改定
健康保険や介護保険、雇用保険など、公的保険の保険料率の改定については、毎年2月から3月のタイミングで公表されます。
2021年度については、次の通りとなっております。
・健康保険料(協会けんぽ): 2021年3月分から改定(改定は各都道府県毎)
・介護保険料: 2021年3月分から改定(1.79%⇒1.80%に引上げ)
・厚生年金保険料: 改定無し(法改正が無い限り改定は行われない)
・雇用保険料: 改定無し
保険料の改定は、給与計算に影響を与えますので、自社の給与ソフトの設定をチェックしましょう。
クラウド型の給与計算ソフトの場合は自動的に保険料率がアップデートされますので、ユーザー側での対応は基本的には必要ありません。
インストール型の給与計算ソフトの場合は、ユーザー側での保険料率のアップデート作業が必要となります。アップデート作業を忘れないことと、アップデート作業のタイミングにも気を付けてください。
2021年度は健康保険料と介護保険料が3月分から変更されますが、3月分の保険料は4月に支払日のある給与から控除するのが法律上のルールです。ですから、保険料率は4月支払分の給与計算のタイミングでアップデートすることになります。フライングをして3月支払分の給与計算時にアップデートしないよう気をつけてください。
(4)脱退一時金の支給上限が3年から5年へ
脱退一時金とは、国民年金や厚生年金に加入をしていた外国人が、日本での年金受給資格(保険料納付期間10年以上)を得ることなく帰国する場合に受け取れる一時金です。
日本に短期的に在住する外国人も、旅行や出張などの場合を除き、日本の公的年金制度に加入しなければなりません。しかし、年金受給資格を得られなければ、納付した保険料がすべて無意味になり本人にとっても酷なことになります。そのため、脱退一時金として納付した保険料の一部を帰国の際に返還しています。
この脱退一時金は、保険料を納めた月数に比例して段階的に返還額が増えるのですが、その上限は36か月となっていました。すなわち、保険料の納付期間が3年以上10年未満の場合は、脱退一時金は一律に同額となっていたのです。
この点の不公平感を軽減するため、今回の法改正により、2021年4月1日から、脱退一時金の計算に使う月数を60ヶ月(5年)にまで拡大したのです。
昨今は外国人の方を雇用されている企業も増えていると思いますので、この点の法改正もぜひ把握しておいてください。
(5)36協定届の押印不要化
事業年度に合わせ、4月を36協定の更新のタイミングにしている企業は多いのではないでしょうか。
4月1日より、労働基準法施行規則の改正により、36協定届に押印が不要となり、36協定の法定様式も変更となります。実務上の対応に悩んでいる人事労務担当者の方が少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
この点、厚生労働省からの案内によると、届出日ベースで、「3月31日までは旧書式、新書式のどちらを使っても構わない」「4月1日からは新書式に一本化される」という扱いになっています。
「2021年4月~36協定届が新しくなります」(厚生労働省)
4月1日から適用となる36協定は、通常は3月中に提出しますので、旧書式、新書式どちらを用いても構いません。
なお、法的に正式に押印が不要となるのは4月1日からですが、コロナ禍の緊急対応により、3月中に提出する場合であっても、旧書式での提出・新書式での提出含め押印の省略が可能です。
押印の要否は「36協定届」と「36協定書」の違いに注意
なお、1点注意をしていただきたいのは、36協定で押印が不要となるのは、あくまでも労基署に提出する「36協定届」であり、労使の合意内容である「36協定書」には、労使の合意を証する意味での押印等の証拠が必要です。
実務上は、「36協定届」が「36協定書」を兼ねていることが多いので、「36協定書」の意味での押印は、4月1日以降も引き続き必要となります。
ただし、「36協定書」の意味での押印は、必ずしも物理的な紙に朱肉で押印をする必要はありません。e-文書法およびこれにもとづく厚生労働省の通達により、電子契約書ソフトなどで合意を形成することも法的に問題ないのです。
そして、電子的に締結された「36協定書兼36協定届」を、そのまま電子申請することももちろん可能です。
「36協定届」の押印には、物理的な押印が必須とされていましたので、今回の労働基準法施行規則の改正による押印不要化されたことは、36協定の締結から届出までが完全にオンライン化が可能となったという点で重要な意味を持ちます。
人事労務ホットな小話
今月のトピックの1つに、36協定届の押印不要化のテーマを挙げました。コロナ禍でテレワークが進んでいる中、36協定の更新が完全にオンライン化できるのは、人事労務担当者にとっても従業員にとっても非常にメリットのある話です。
36協定だけでなく、「1年単位の変形労働時間制」や「裁量労働制」など、労基署に提出する他の労使協定についても、今回の法改正で完全オンライン化が可能となっています。
また、労使協定の締結当事者となる労働者代表の選出についても、民主的な選出方法であれば法的に特段の制限は無いので、電子的な方法でも構いません。たとえば、Googleフォームを使って投票をするとか、チャットワークで「〇〇さんの労働者代表選任」というグループを作って各従業員が「賛成」とコメントするといったように、さまざまな電子的な選出方法が考えられます。
皆様の会社でも、今年は、労使協定締結プロセスのオンライン化に取り組んでみてはいかがでしょうか?
おわりに
3月は人事労務部門の繁忙期です。かつ、今年はコロナ禍への対応も業務に上乗せされます。効率的に情報収集や実務推進を行い、無事に乗り越えて、4月からの新年度に備えてください。